はぐれ三匹【恋愛編】
乙女チックごーいんぐまいうぇい!〜その1〜
「七瀬さん」
「詩子さん」
2人はファーストフード店で向かい合って座っていた。
「いよいよ計画の発動は明日ね」
「上手いことあの2人にも気付かれなかったし」
そこで顔を合わせて、にたり、と笑う。
「南くんはわたしの下僕になるのね」
「南森はわたしのものになるのね」
うららかな午後、静かに計画はスタートしていた。
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今日は日曜日である、が、俺にとっての休日、いや高校三年生にとっては休日ではないはずだった。
確か……今日は何とか模試があったはずだ。ちなみに俺はさぼりだ。当然ながら。
だからといって勉強にやる気がないわけではない。さぼったのにはちゃんとした理由があるからだ。
俺は家の前に立ち止まるとインターホンも鳴らさず玄関から堂々と入る。
階段を上がり二階に、そしてドアを開ける。部屋の中では住井が長森さんを押し倒して…………。
「うおっ!」
「きゃっ!」
「…………」
順に住井、長森さん、俺である。二人は慌てて離れてどもりながら住井が話しかけてくる。
「よぉっ、南森っ、どうしたんだ?」
「真っ昼間から愛を確かめ合うのは勝手だが………ここは俺の部屋だぞ」
ちなみに呼び出したのは俺だが。
「男女の愛は場所を選ばないんだ」
一瞬、目の前が暗黒に包まれたのは気のせいや立ちくらみではなかっただろう。
「ま、とりあえず用件を言うぞ。簡単に言うと頼みたいことがあるんだ」
「例の件か? それについては手を打っておいたぞ」
「はやいな……。じゃあすでに話は付いていると?」
「それについてはもう少しかかる」
「ではこいつは依頼料だ。とりあえず前金だ」
俺は封筒を取り出すと住井に渡した。
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「ねえ、住井くん……」
「なに? 長森さん」
俺と長森さんは手をつないで帰路についていた。
「南森くんに、あの事教えなくてよかったの?」
「……教えるわけにはいかないと思うけど」
「う……ん。でも、いいのかな?」
「大丈夫だって。報酬も破格だしな」
「うーん、ま、いいよね」
きゅっ、とつないだ手に力がこもる。俺、住井護はいま人生の幸福の絶頂にあった。
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「南森……俺とつきあってくれ。明日だけでもいいんだ」
「…………は?」
突然の南の言葉に俺は硬直した。時間は昼休み、昼食をとっている生徒の姿も見られなかった。
「頼む! OKだと言ってくれっ!」
「…………」
南は俺の両手を握りしめ懇願する。
南は里村さんにぞっこんだと言っていたから油断していた。まさか、まさか南が……。
「えええい、離せ離せぇ!」
俺は南の手をふりほどく。
「俺は同性愛は認めるがそんな趣味はないっ! 俺のことはすっぱりあきらめてくれっ!」
「…………おい、何言ってるんだ……南森」
南はいい加減このパターンはあきたらしい。呆れた顔をしていた。
「うーん。宇宙人はちょっと……」
「誰も一緒にチャネリングしようとも言っていない」
「霊関係もいやなんだけど……」
「こっくりさんでもないっ!」
…………ネタが尽きてしまった。
「じゃあ……なんなんだ?」
「最近、柚木がおかしいんだ」
俺は他校生のくせに俺達の教室に頻繁に現れる柚木の顔を思い浮かべる。
「そういえばお前に最近くっついてるよな」
「そうなんだ。なんか突然……というか長森さんを救出に行ったとき以来そうなんだ」
「俺も七瀬さんに最近からまれてなぁ。俺もあのとき以来なんだ」
別に因縁つけられたりしているわけではない、念のため。
「南森……お前七瀬さんに見初められたなっ!」
「南……柚木はお前ををMに仕立て上げようとしているとか……」
間違いなく柚木にはSの気がある。はっきり言ってあれは真性だ。俺の少ない人生経験でも判断できる。
そう言われ南の顔が引きつる。ついでに頬を汗が伝う。
「ま、まさか……」
「心当たりはないか?」
「…………少し……あるんだ。いまさっきの言葉も関係しているんだ」
南はぽつりぽつりと話し始める。
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『今度の土曜だな』
『ああ、南達には気の毒だが……俺の人生の礎となってもらおう』
『なんてったって、報酬がいいもんな』
『ターゲットは南と南森だ』
『先を越されないように気をつけないとまずいよなー』
学食で南は幾人かの生徒がこのようなことを話しているのを聞いたらしい。
「って、俺もかいっ!」
「明日は土曜だろ? 冗談ならいいが、もしも、もしも、何かが水面下で進んでいたら」
「危険だな……」
場合によっては学校中の人間からハントにあうわけである。逃げ切れるものとは思えない。
「だから自衛の手段をとるために、お前と一緒に帰ろうと思ったんだが……」
「南……多分これは住井あたりの悪ふざけだろ? 気にする必要なんて…………」
ぎぃっ……。
そのとき屋上の扉が開き、俺はなんとなくそちらを見やる。そこには一人の黒髪の女性がいた。
「私服だな」
「この学校の生徒じゃないと思うが……なんか見たことあるんだよな」
何となく目の焦点が合ってないように見えるのは気のせいだろうか? いや、この人は……。
「川名みさき!」
「え?」
「元演劇部で卒業生の川名先輩だろ?」
「うん、そうだよ」
「演劇部の手伝いに行ったとき見かけたんだ。先輩、何しに来たんですか?」
「うーんと……」
先輩はなにやら思案顔になりながら一枚の紙を取り出す。
「この人を捜しているんだけど……3年生だとおもうけど」
渡され俺達ははその紙をのぞき込む。どうも手配書のようだ。
「……………………」
『きたる土曜日の放課後に大ハント大会を開催いたします。獲物は三年の南に南森! 重傷を負わせなければ』
「負わせなければどんな手段を用いてもOK……武器、薬品の類の使用もOK……賞金にはなんと一人あたり10万円……」
「主催者……七瀬留美……柚木詩子……」
「ねえ、この2人のこと知らないかな?」
川名先輩が尋ねる。俺達は顔を見合わせるとうなずきあう。
「ほら明義、確かあいつら入院しているんじゃなかったか?」
「そうそう、なんか交通事故にあったって聞いたよな!」
「じゃ先輩! 俺たち次の授業があるんで、失礼します!」
何か言おうとする先輩を振り返らずに俺達はダッシュで屋上を後にした。
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あれ、七瀬さんは? 彼女が座っているはずの席は誰もいなかった。柚木もいつの間にか帰っていた。
「長森さん、七瀬さんは?」
「頭痛で早引きしたよ」
「ありがと」
俺は席に戻った。明日、土曜日が危険ならさぼればいいんだし、とプラス思考でものを考えようと努力する。
次の授業の準備をしようと机に突っ込んだ俺の手にいつもと違う感触が伝わる。
「…………手紙?」
かわいらしい封筒に入ったそれを取り出し読んでみる。
『南森へ 明日学校に来なかったら………もちろん覚悟はいいわね? 七瀬より』
「ぐあ……」
俺は南を見ると俺と似たような顔をしていた。どうやら俺と同じような手紙を受け取ったらしい。
「南森」
「住井、なんか用か?」
「話は付けておいた。七瀬と一緒に帰っていたのはお前からの誘いじゃない、ってことはしっかり説明しておいた」
「七瀬親衛隊は怖いからな……すまんな」
そう言うと住井は自分の席に戻ろうとする。と、何かを思いだしたらしく振り返る。
「南森、明日はがんばれよ。獲物の役なんか志願する人間、ここんとこいなかったしな」
「…………住井、お前まさか……」
「10万円は大きいからな。ついでに言うが七瀬親衛隊の面々も参加するらしいぞ」
「………………あう……」
楽しそうに笑う住井の横で俺は心の中で涙した。
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−端書き−
YOSHI「さぁっ!新作ッ!」
友人S「センターが悪くて開き直ったYOSHIがお送りします!」
Y「……国公立に行かなくても人生が決まる訳じゃないや…………」
S「すでに予備校のパンフもって言うことか?」
Y「受験の話はこれくらいにして」
S「まずは反省!」
Y「前回までの住井の場合……どーもまずかった」
S「話が分かりづらいって奴だな」
Y「ああ、自分でもだめだなーって思ったし。今度の目標はわかりやすさ!」
S「ついでに言うなら誤変換だ」
Y「瑞香=>瑞佳は純粋にミス。指摘ありがとうございました」
S「で、今後の予定は?」
Y「はぐれ三匹【FARGO編】!」
S「まだこの話も終わっていないうちから……」
Y「いやね……住井の場合はこいつへの伏線だし。はやめにな」
S「まいいや。では時間もあまりありませんし」
Y「チャットで見かけてたら、声をかけてもらえるとありがたいです」
S「IDたぬぽんSD、でインターQチャット等にごくまれに出没」
Y「しかも夕方……かな?」
S「では、次回にまたお会いしましょう」
Y&S「さよおならーー(^_^)/~~」
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