はぐれ三匹【恋愛編】 投稿者: YOSHI
住井の場合〜その6〜


「思い出したかい? あのときのことを」
「………どういうことですか?」
「知らなくていい」
ぴしゃりと言われ黙ってしまう里村さん。
「たぶん……長森さんのお父さんと同じことが住井に起こるはずだ」
階段の終わりが近づく。
「できることなら、あいつを助けてくれないか」
「…………わたし………」
「君の能力は目覚めているはずなんだ、君が覚えていないだけで。僕にはわかる」
氷上くんが、ふたというか部屋の床を持ち上げる。部屋には男の人と、赤いなにかがあった。男の人、中崎くんがこっちをむく。
「住井っ!!」
「遅かったな……住井は俺が何もするまでもなく死ぬぞ。雑魚が今更来ても遅いんだ」
中崎くんの言葉に慌てて部屋の中を覗く。鼻をつく鉄のようなにおい、目に飛び込む赤いもの。住井くんだ。踊っている。 

踊っている住井くんは真っ赤な住井くん。


ふっ、と別の映像が飛び込む。


あかい、おどっている、みているのは、わたし。


目の前が白に埋め尽くされる。里村さんの声が遠い。 ああ………そうか……。
わたしは同じものをみたことがあるんだ。


世界が白から黒に変わる。沈む。


そう……それは………記憶。


「瑞佳のことを頼む」
「……………………」
大好きなお父さんが玄関にいる。わたしは隠れて様子をうかがっていた。
「あいつも『能力』を受け継いでいる。でも、その事実に瑞佳が負けないように育ててくれ」
「あなた…………」
「たぶん、後1時間ぐらいで力が制御できなくなる。そんな姿を瑞佳に見せたくない」
お母さんが泣きながらうなずく。どうしたんだろう?
「じゃあな。愛しているよ」
お父さんは玄関から出ていく。お母さんは座ったまま泣いている。
わたしは裏口をそうっと開けるとお父さんの後を追ってゆく。ずいぶん長い間歩いて公園に着いた。
お父さんはブランコに座ると前へ後ろへ揺らし始める。泣きそうな顔だった。
そこでお父さんに声をかける。
「おとうさんっ!」
「みず……か?」
走っていってお父さんに抱きつく。お父さんはいつものように頭を撫でてくれる。
「………俺はずるいな…………」
「? どうしたの? おとうさん」
「………なあ、瑞佳……お父さんが、もし、いなくなったら……嫌か?」
「いやだよっ!」
しっかり抱きついて言うわたし。お父さんは笑っていた。
「ありがとう、瑞香。でも、もう遅いんだから家に帰らなくちゃだめだよ」
「おとうさんもいっしょにかえろうよ」
「お父さんはやることがあるから、先に帰ってなさい」
「……うんっ、早く帰ってきてね」
わたしはお父さんから離れると手を振りながら歩き始める。しばらく歩いて気がつく。
「ここ、どこ?」
わたしは公園に引き返す。ブランコから少し離れたそこに、お父さんがいた。
「おと…………」
真っ赤な服。赤い霧。そして、妙なにおい……今なら鉄のにおいだと思っただろう。
「み………」
おとうさんが声を出す。踊っているおとうさんは真っ赤なおとうさん。
わたしは……。

「みず……か」

わたしは………その場所から悲鳴を上げて逃げ出した。その後のことはよく覚えていない。
泣いているお母さん、黒い服、お葬式、真っ白なお父さん、笑っているお父さんの写真。



そして、現在、またあのときの光景が繰り返されている。
「……長森さん」
「わたしは……大丈夫だよ」
里村さんが支えてくれていたみたいでわたしは数秒ぐらい、意識がなかったみたいだ。
目の前で繰り返されるあのときと同じ光景。でも、今度は違う。
「長森さんっ!!」
わたしは逃げ出さない。
「なっ!?」
もう二度と好きな人から逃げたりはしない。失ったりはしない。わたしの、この腕で捕まえて………。
見えない力が体を打つ。わたしは住井くんを正面からぎゅっと捕まえる。まだ言っていない返事がある。

「S・S・Nは俺が支配するんだ、住井は邪魔なんだ!」
「中崎っ! やめろっ!! 力を使うなっ!」

頭の中で光がはじけ、痛みが体をつきさす。

世界が白く、白い世界に変わる。これが死ぬってことなのかな?

わたしは死にたくない!




俺は床に流れている血にふれる。まだ固まってはいない。
「しばらく前にここで何かあったみたいだな」
「南森、何か、ってなんだ?」
「まあ、出血の量から見て死んではいないだろうけど……重傷者がでるくらいのことだろうな」
「と、いうことは住井ね……」
しかし、いまは誰もいないこの部屋。入り口は一つ、しかも入り口の前には南がいた。たぶん、密室のはずだ。
一般に常識と言われていつ範囲では説明できないだろうが………。
「柚木……転移っていう能力のことは聞いたことはあるか?」
「知ってるわよ」
「瞬間移動だろ?」
南が口を挟む。まあ、説明しなくてもいいことだが……。
「転移と瞬間移動は違う。瞬間移動は質量をごまかして高速で移動するだけだ。でも、転移は対象を
いったんバラバラにして離れたところに再構築することなんだ」
「ま、とにかく転移の能力を持つ人間がいた、ってことよね」
「なるほど……それで住井達をどこかに連れていったわけか」
しかし、そうなると困る。人によって能力差はあるものの、転移した先を突き止めることはまず不可能だ。
と、なるとこれからどう動くかだ…………。ややあって沈黙の中、柚木が口を開く。
「…………戻るわよ」
「でも…………」
何か言おうとする南に口を挟ませずに続ける。
「少なくとも長森さんに茜この2人は人質になっているはずよ。でも、救出にいったはずの住井は行方不明。でも、たぶん彼は無事だと仮定すれば人質の救出が最優先のはずよ」
「なら戻って気絶しているやつらを拷問なんかでもをして……」
「監禁場所をはかせるわけだな」
「そ、わたしの出番ね」
なぜか柚木はうれしそうな顔をして言った。南は不思議そうな顔をして柚木を見ている。はっ!謎は全て……。
「はっ! まさか柚木は女王さま!?」
遠慮ない肘が南にきまる。
「…………嘘です、冗談です、言葉のあやですぅ…………」
床に沈む南をさらに踏みつける柚木。その姿……間違いなく女王様だ。放っておけば南がMになりそうだったのでとりあえず止めに入る。
「いい加減にしろよ……お前ら。急ぐぞっ!」
「いいところだったのにぃ…………」
「た、助かった…………」
涙目になっている南に残念そうな柚木、まだ起きない七瀬、俺たちは長森さんと里村さんの救出に向かった。



わたしが目を開いたとき氷上くんに中崎くんがにらみ合い、そして長森さんと住井くんが折り重なるように倒れていた。
わたしは慌て長森さんに駆け寄る。
「長森さんっ!」
「……う……ん……」
死んではいないようだった。住井くんもひどいけがはしているが死んではいないようにみえた。
「里村……さん?」
「長森さん、大丈夫ですか?」
「うん……住井くんは?」
「長森さんの下敷きになっています」
がばっ、と長森さんが身を起こす。
「……長森さん……重かった……」
「ええっ、うそっ!」
「……冗談だって」
人間のものとは思えないような咆吼が響く。
「があああぁぁぁっっ…………!!」
中崎くんだった。わたしにはその姿は人には見えなかった。目、耳、鼻、そして口から血を流していた。
目は赤く染まり人とは思えない叫び声……彼は自分の髪をつかむと引きちぎる。
「………暴走……だ」
長森さんにしがみつかれた住井くんがつぶやく。そのときこちらに走ってくる人影が見えた。



「やられたっ!」
俺は叫ぶときびすを返す南と柚木そして七瀬さんが後に付いてくる。
「そとだっ! 長森さん達はとうに救出されている!」
「どうして外なのよっ!」
「いま人を呼びに来た奴に聞いたッ!」
俺はドアを蹴り開ける、同時に全員で外に飛び出す。
「があああぁぁぁっっ…………!!」
一瞬足を止め声のしたほうを見る。
「いたっ!」
俺達はダッシュで住井達に駆け寄った。
「無事か?」
「無事に見えるか?」
住井はけがをしていたがしっかりと受け答えをする。長森さんに里村さんは無事のようだ。
「里村さんっ!」
「茜っ!」
「…………痛いです」
里村さんに抱きついた柚木を南がうらやましそうに見ていた。といきなり氷上が声を荒下て叫ぶ。
「逃げろっ! 中崎の力に巻き込まれるぞっ!」
言われて中崎を見るとその周りで目に見えるほどの力が渦巻いていた。
「うあああぁぁぁっっ…………!!」
「逃げるぞっ!」
俺達は慌てて走り出した。




俺は制服のネクタイをゆるめると坂を上り始める。蝉の鳴き声がいらだたしい。傾斜のきつい坂を上りきり俺は目的の場所にたどり着く。
自動ドアをくぐり階段を上って一つのドアの前で立ち止まり、俺はノックもせずに中に入る。
「具合はどうだ? 住井」
「まあまあだ。座れよ、南森」
促され椅子に座る。あの事件から2週間がすぎていた。
「それで? 俺をこんなくそ暑い日に呼びだした理由はなんだ?」
「まあ待て。中崎の葬式は済んだんだな?」
「でなけりゃ制服なんかでここに来たりしない」
クーラーのついた快適な個室。俺と住井はしばし黙り込む。…………先に沈黙に耐えられなくなったのは俺だった。
「住井、話があるんじゃなかったのか? ないなら帰るぞ」
「……中崎の検死結果を見たか?」
唐突に聞かれ、俺はいぶかしげな顔をしつつも否定する。
「あいつの脳のCTだの解剖結果から推測できるあいつのIQは60程度だ」
それこそ俺は間抜けな面をしていただろう。一般に言われる人のIQは100程度だ。
「しかし、中崎の態度や言葉は一般人のそれと何も変わったように聞こえなかったぞ」
「違うんだ。別にあいつに障害があったというわけじゃあない。あいつは、一般的にいう痴呆症……つまりボケだったんだ」
「おいおい……あいつはまだ18才になるかならないかぐらいだろ?70過ぎの爺さんには見えなかったし」
「脳味噌までは見えなかっただろ?」
「まあ……それはそうだが」
俺は病室の冷蔵庫から勝手に紅茶を取り出し飲み出す。
「今回のこと……お前もJCP862のことは聞いただろう。ハウンド零番隊隊長」
「JCP862の件には俺も関わっているんだ……知ってるさ」
住井は無言でビデオのリモコンの三角形のボタン、再生のボタンを押す。
「これは…………」
中崎と数人の白衣姿の人間………その中で中崎は何かゴーグルとヘッドホンらしきものをつけられていた。
「……実験だ」
住井の簡潔な言葉……ビデオは続く。中崎は白い拘束服を着、さらにベッドに革のベルトで拘束される。そこで画面はいったん切れる。
やがてリンゴのおかれた机に座った中崎が映し出される。中崎は自在にそれを転移させていた。そこで住井はビデオを止めた。
「………S・S・Nはいま氷上の支配下にある……今回のことで一番得をしたのはあいつだ」
「…………………………」
俺は住井の言葉に一言も発することができなかった。
「あいつが何を考えていたのかはわからない。でも、中崎にはこんなことを考えることもできなかった。それともう一つ決定的な証拠がある」
「なんなんだ」
「中崎にこの実験を受けさせたのは氷上だ」
そう言って一本の8ミリテープを取り出す。画面に現れたのは中崎だ。
『住井……俺は多分……いや間違えなくおかしくなる。そのときのためにこいつを残しておく。いまから言うことを覚えておいてくれ…………』

『俺に実験を受けさせたのは氷上だ。』





沈黙。

ただ死よりも重い沈黙が部屋を支配していた。住井はその中で口を開く。
「………俺は黙っておく……それが正しいとは思わないけどな……」
「……そうだな、お前には守るものがあるもんな。恋人が命の恩人だしな?」
「長森さんの能力……まさか『消去』だったなんてなぁ」
長森さんの能力は住井を助けたときにしか発動していないらしい。わかった理由は単純明快。住井の脳にあったはずの腫瘍、
さらには不可視の力もまったく使えなくなっていたのだ。しかし長森さん自身に力を使ったという自覚もないが。
「毎日見舞いに来てもらって幸せな奴だよなぁ……」
「ああ、しあわせだ」
満面の笑顔で答える住井。まったく………うらやましい。こいつが長森さん親衛隊に恨まれていることは伏せておいてやろう。
「じゃあ、おれ……行くところがあるんでな」
「…………止めないぜ、念のため。でも死んで花実は咲かないからな」
「ああ」
俺は病室を後にして廊下に出た。少し歩いてバスに乗り込む。確証はない……が、そこに行けば会えるような気がしていた。



靴を脱ぎ上履きに履き替える。時間は日も沈む時間帯になろうとしていた。階段を上る。
鉄製の重いドアノブをつかみひねる……鍵はかかっていなかった。

ギィ……。

音を立てて扉が開く。そこにいたのは………氷上だった。氷上はこちらを向くとにっこりと笑う。
「どうしたんだい南森?」
「あんたが糸を引いていたんだな」
氷上はフェンスの外を見やる。
「それで? どうしたいんだい? きみは」
「俺にあんたをどうにかすることはできない」



氷上は一人で薄暗い校舎の中を歩いていた。そのとき突然呼び出し音が鳴り氷上はポケベルを取り出す。
そしてすぐにしまうと靴を履き替え校舎を出て歩きだし、やがて校門で足を止める。
「…………」
そこには一人の背広の男が立っていた。男が車のドアを開けると氷上は無言で乗り込み、ドアが閉められる。
男は車を発進させる。車の中で氷上は一組の男女と向かい合っていた。
「ご苦労様だったね、氷上くん」
「いや、まだだ……」
男の顔が不審の色に変わる。
「あんたを殺すことも仕事なんだ」
「なっ?!」
氷上は一瞬で男の首筋に一本の針を埋める。男はすぐに泡を吹き痙攣し始めた。
「ご苦労様。これで仕事は終わりよ」
「……これが今回のことで得た中崎、住井、長森瑞佳のデータです」
住井はフロッピーを渡す。
「その中でも、セカンドの長森瑞佳は珍しい力の持ち主です」
「そう………是非とも欲しい人材ね」
「組織……のためにですか?」
「そうよ。偉大なる、名を呼ぶことさえおそれ多いあの方のためにね」
女はフロッピーを弄びながら言う。
「JCP862もあの方のために造ったんだから」




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〜闘いの後〜
1月18日…………自己採点が終了すると同時に教室のあちこちから、ため息、悲鳴、鳴き声が響く。
「古文の馬鹿やろーーーーーー!」
「数学なんて嫌いだーーーーーー!」
「いまから365日体制だーーーーーーー!(浪人のこと)」
「国公立現役なんて無理だーーーーーー!」
以上、受験生の叫びをお送りしました。




〜センター完了〜
住井の場合も終わったねぇー。
S「どこが恋愛編なんだ?」

ざくっ!

いや、なんというかこんなはずじゃなかったんだがな。(^^;; ヒヤアセ
S「恋愛編じゃないと言うつっこみは当然だよな」
いや、今回の反省もかねて次回からは住井&長森のカップルをラブラブ♪、にしてやろう。
S「センターも終わったねー」
2週間後に私立の受験だ。
S「…………大変だな……」
風邪もひいちまったんだ。
S「これで点数も悪いし、どうしようもないな」
…………(;_:)。ええい過去にこだわってられるかっ!次回予告にGO!
S「空元気か……」

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次回予告

「住井、お前に頼みたいことがあるんだ」

南森の依頼。

「南くん、逃げちゃだめよ?」

追いつめられる南。

「女の子にそんな恥ずかしいこと言わせるつもり?」

そして全編にわたる、愛! そして、愛!

次回! はぐれ三匹【恋愛編】 乙女ちっくごーいんぐまいうぇい!

をお送りします!乞うご期待!

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