はぐれ三匹【恋愛編】 投稿者: YOSHI
住井の場合〜その4〜



「君は何で気づいたんだい?」
彼の質問。
「たいしたことじゃない」
俺は答えて彼の隣に立ってみる、風が心地よい。
「住井があんなお粗末なことをするわけもないし、中崎にそれだけの知恵はなかった。
そして住井があれを持っていることを知る者はごく少数だったはずだからな………」
「でも、言っただろ? 君は僕をどうすることもできないんだ」
「その通りだよ」
俺はあっさり肯定する。
彼は一瞬だけ驚いた表情になる。
「別にあんたをどうにかしようだとか、どうにかできるとも思わない。あんたはハウンドのリーダーだ」
「じゃあなんで? 何もできないのにわざわざ僕に文句を言いにき…………」
「俺は住井と違う」
彼の言葉をさえぎる。
「知ってて無視できるほど利口でもないし、あんたほどの力もない。だけど………」
「悔しかったんだろ? 何もできないのが、僕に対して。違うかい?」
「違う」
否定の言葉。
「ただ俺はあんたが哀れだったんだ」
「僕は居場所を手に入れたついでに、彼女と彼を巻き込んだだけなんだよ」
「わかっている。でも一人、不幸な人間を作りだした」
茜色の空は暮色へとうつる。
「あんたは、ドミノを止められなかった。シナリオは幾つか造ってあったはずだ。あんたは目的を達成していたのに、
ドミノを止められなかった。黙ってみているしかなかったんだ。創造主が止められないなんて、それが哀れなんだよ」
彼は悲しそうだった。でも、涙は流れない。
「あのとき、住井にもう時間がないことを知ったとき。中崎がS・S・Nの乗っ取りを考えていることを知ったとき。
僕はドミノを止めようと努力したんだよ、でももう止められなかった。遅いか早いかだけで結果は変わらなかったんだ」
雲は紫へ、空は藍へと。
「これから、S・S・Nをどうするんだ?」
「僕は一生、S・S・Nを存続させるだろう。それが彼から奪ったことに対する罪滅ぼしになると、思いたいから」
月白色の光が射し込む。彼は俺に背を向け歩き出す。
「罪を犯せば、例えば永遠に天を支えたりもすることになるそうだ。天の代わりにS・S・Nを、僕は支えていく」
そこで、彼は一度だけ振り返る。
「そうだな、神話の………アトラスみたいに、な」
罪の十字架は背負わなくちゃならない、きっとそうだ。



最後の扉を開け小さなホールに出たとき、すでに住井達の姿があった。
「遅いぞおまえら」
「15分も待ったわよ」
住井と柚木は平然として言った。
「お前らのところには何か来なかったか?」
「来たわよ。情報までおしえてくれたしね♪」
住井が横でなにやら渋い顔をしているが気にしない。しかし、…………。
「南達が来ていないじゃないか…………」
「先に行くわけないしね」
俺と七瀬さん。それを受けて柚木と住井が口を開く。
「捕まったとか…………?」
「里村がごねて南とは一緒に行かないと言い張ってまだ屋敷にも入ってきてないとか」
ナイスだ住井、確かにそれはあり得る。心の中で拍手を送っていたときだった。
猛烈に嫌な予感がして俺は七瀬さんを押し倒す。

ばかっ。

足下の床が開き、暗い穴が現れる。当然落とし穴だ。
「はやくどきなさいよ!」
七瀬さんが言うのを聞き、俺は慌てて俺は身を引く。そして住井も柚木も身構え、七瀬さんは木刀を構える。
そして階段の上から覆面をした黒衣の男が現れる。
「住井さん、久しぶりです」
「…………森、俺を止めに来たのか?」
どうやら住井の知り合いのようである。
「俺が受けた指令は住井さん以外の人間の足止めです。急いで行ってください。中崎さんが奥にいます」
「長森さんはどうした?」
「急いでくださいと言っています」
その言葉を聞き、住井は振り向きもせずにダッシュをかけ階段を駆け上がる。それを俺達が追うよりはやく、男の人数が増える。
1,2,………6人か。均等にやっても2対1になるわけか。
「気合い入れていかなくちゃね、柚木さん、南森くん」
「住井にいい所持っていかれたくないしね」
「真面目にやるか」
森といった男、それ以外の5人が階段を下りてくる。一様に黒でまとめられた服に怪しい覆面。
そして、仕掛けたのは男達が先だった。

五分後。

男達は全員床に這いつくばっていた。残すは森と言いう男だけだ。
俺と七瀬さんは沢口を指差す。
「残りはあんただけよ」
「雑魚の相手は面倒だからな」
「三下じゃ相手にならないし、ね」
柚木はなぜか倒れている男をぐりぐりと踏みつけながら言う。
森はいとも簡単に階段の上から飛び降り、音もなく着地する。3メートルはあるような気がするのだが。
「さて、と。3対1でもかまわない」
ひけらかすでもなく当然といった口調で穏やかに言う。自信があるのかただの馬鹿か。
当然、前者のはずだ。俺達は強い圧迫感を感じていた。柚木でさえ、笑みが消えている。
「じゃあ、始めようか」
森が、動く。



春、桜咲く入学式の日。
「わたし長森瑞香、よろしくね住井くん」
最初見たときはたいして何も特別な感情は抱かなかった。結構かわいい娘だなとは思った。

梅雨、うっとおしい雨の続く季節。
長森さんは段ボール箱に入った捨て猫を拾っていた。優しい横顔だった。

夏、日差しの熱い季節。
佐織や南、長森さんと一緒に遊んだ。笑った顔もかわいかった。

秋、紅葉がきれいな季節。
南と俺で恋の話に盛り上がり、共同戦線を結んだ。学校に猫が来て、長森さんがまた連れて帰る。

冬、寒いだけの布団から起きあがれない季節。
長森さんが風邪をひき心配だった。でも「だいじょうだよ」と強がっていっているのがわかった。

「君は死ぬつもりなのかい?」

「お前がやめたらどうなるかも、わかっているんだな?」

「力は遺伝する。1代目は例外なく短命だ」

「JCP862は未完成だ、欠陥があるんだ」

「俺にはこれしかないのかもな…………」

「後半年、もてばいいと思う」

あっという間の、2年間だった。

住井は何とか目を開ける。まぶしさを痛いと感じる。頭痛がおさまらない。
再び座り込む。消えてしまいそうな意識を必死にかき集める。長森さんのことだけを考える。
頭痛がおさまってきたような感じがする。ふらつきながら立ち上がり扉に向かう。
「俺には………時間がないんだ」
住井は独りつぶやく。まさか発作がおそってくるとは思っていなかった。
単なる副作用、代償。言い方は何でもいい。ノブをひねり扉を開ける。
大きめの部屋。そこには一人の男、南が立っていた。
「……南。どいてくれ…………」
「無理だ。里村さんがさらわれたんだ」
南は苦い顔をする。里村がどうなっても、とか脅されたのだろう。
「俺は何もできなかったんだ。里村さんがさらわれたとき…………」
「お前のせいじゃない、が。邪魔するんだな、お前も…………」
南の目を正面から見つめる住井。南の顔が驚愕にゆがむ。
「住井、おまえ、目が…………」
金色にかがやく瞳。
「俺は長森さんを助ける。俺には……時間が……ないんだ。力ずくでも、どいてもらう」
住井は気力を振り絞り、目には見えない力が渦を巻く。

それを人は言う『不可視の力』と。




ここは………どこなのだろう。たぶん暗いことは間違いない。頭が痛いのはどこかでぶつけたせいだろう。
どうにかこうにか体を起こしてみるが頭が割れるようにいたい。
「……起きましたか?」
誰かがいるようだ。それも、女のようだ。
「だれ?」
「里村です。里村茜」
「里村さん?」
…………確かに里村さんだ。でも何でここにいるんだろう?
「わたしも捕まったんです。落とし穴に落ちて」
「ここはどこ?」
「………住井くんがS・S・N小島町支部だと言っていました」
「S・S・Nおじまちょうしぶ?」
「………長森さん、順を追って説明します」

かくかくしかじかこれこれうんぬん。

………わたしは何とか気をしかり持つように自分を叱咤激励する。聞いた話が嘘みたいにしか思えない。
「本当です」
「それって冗談じゃ…………」
どうやら事実みたいだった。何となく周りを見渡す。簡易トイレに裸電球。目の前には鉄の重そうな扉、そして里村さんとわたし。
「…………誰か来ます」
確かに足音がする。何人かの足音。何かが倒れる音。そして扉の鍵が開き、ゆっくりと開かれる。
「長森瑞香さんに里村茜さんだよね?」
「は、はいっ」
「…………はい」
いきなり声をかけられる。そこには一人の男の人がいた。
「僕は氷上シュン。君たちを住井の所に連れていくために来たんだ」



森は一瞬で間を詰める。
「はぁっ!」
「えいっ!」
「おらぁ!」
対して俺達は微妙にタイミングをずらし、森を迎え撃つべく攻撃を繰り出す。
森はスピードを殺さず突っ込んでくる。

ボキッ!

木刀が折られ、続く動作で七瀬の鳩尾を森の拳が貫く。そしてあっさりと柚木の背後に回り手刀で首をたたき昏倒させる。
森はそこで動きを止める。
「残りはお前だけだ」
森は床に転がった七瀬さんと柚木を一瞥する。
「お前一人じゃ何もできないだろう。あきらめて降参でもしたらどうだ?」
「お前は倒せる」
森の表情が冷たくなる。
「気でもふれたか?」
俺は正常だ。狂ってなんかいない。
「本気、出さなくちゃだめだな」
俺は答えを返さない。森の顔に怒りが浮かぶ。
「貴様、本気でやっていなかったのか」
「雑魚相手に本気を出して戦うわけもないだろう」
軽く拳を握り、かまえる。
「S・S・N警備隊長、森だ。お前の名を、教えろ」
森の頬に汗が流れる。
「俺は元S・S・Nハウンド零番隊隊長、南森だ」


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〜今夜はクリスマス。恒例にしたい後書き〜

YOSHI「今回もようやく書き終えました!」
友人S「初登場のSです。こいつの作品をアップしています」
Y「それにしても話がまとまらないや」
S「混乱を極めているな。陰陽師に影響されとるし。それから、はぐれ三匹の世界観を書いておかんと(今更だけど(^_^;))」
Y「最初に書いておくべきだったが……。とりあえず茜エンドに向かう途中の話なんですわ」
S「季節は作中(住井の場合)では初夏ぐらいだな」
Y「ところで、この話は後1話から2話で終わらせようと思う」
S「年内か?」
Y「文章打ってもSの家に持っていけないし、来年には必ず」
S「1月16,17日にセンター試験♪」
Y「くっ、仕事をについてるから余裕だな」
S「そうそう、感想は書くといってましたが4月まで凍結します」
Y「国立の後期が三月まであるから」
S「大学に行ったなら合否の報告をします」
Y「えいり様、お互い受験生、がんばりましょう!」
S「感想をくれたか方々へ」
Y「レスを返せなくてすいません。もうしばらく(三ヶ月、かな?)したらちゃんと返せるようにしますんでm(_ _)m」
S「感想もうれしく読ませてもらっています」
Y「ではYOSHIのSSはいかがだったでしょうか?」
S「忙しさに筆乱れる日々! 読みにくくなる文章(^_^)」
Y「笑い事じゃない! 若輩者の稚拙な文章ですが」
S「楽しんでいただければ光栄です」
Y&S「ではまた今度。さよおならーーー(^^)/」

98,12,24