はぐれ3匹【恋愛編】〜その2〜 「折原浩平、か」 俺は学食のカツカレーを食べつつぶやいていた。 『南を慰める会』の翌日のことである。相変わらず騒がしい学食。焼きそばパンの争奪戦。 順番待ちをしている生徒に学食のおばちゃん。いつも繰り返される光景。しかし、だ。 今日の学食がいつもと違うのはめそめそしている南が目の前にいることだけだった。 「…………茜さん……」 いつもと同じく玉砕してきたところである。三十三連敗。里村さんは中庭に退散したようだ。 南は「俺も中庭に!」と言っていたが、里村の「……絶対に嫌です」×3をうけおそらく瀕死の重傷をうけた。 それでは後々面倒なので回復魔法(なぐさめ)で回復はしてみたが、 「……うっ、うっ、茜さんが冷たい……ううっ……」 この調子だ。いい加減俺も我慢できなくなってくる。 「おい南。昨日住井が言ったこと忘れたのか?」 ぴくっ。南がわずかに反応する。 「『折原浩平』の謎を解く?」 「そうだ。そして昨日住井の言った作戦がおそらくお前にとってのラストチャンスだ」 「題して、『孤独な里村のハートを慰め&南とくっつけれなくてもせめてお友達に大作戦』だ」 「住井、お前髭に呼び出しくらってたんじゃなかったか?」 いつの間にわいてでてきたのか南の後ろには住井が立っていた。 そして片手に持った割り箸をピコピコ振りつつ言う。 「ふふっ、甘いぞワトソン君!真の探偵にはいかなる権力も通用しないのだぁ!」 「………素直に逃げてきたって言えばいいのに……」 やめとけ南。ってもうおそいか。 「そぉぉんあなことを言ってるのはこの口かぁ?うぅん?」 「あげがぎぐげはへっ?」 仕方なしに俺は住井を止めようと−−−するよりも早く一人の女子生徒が住井を横からどつく。 いやっ、違う!こいつは俺らの高校の生徒ではないっ! 「えっと、柚木さん?だったよな」 「そ、柚木詩子さんよ」 そうだった。年に創立記念日が20日以上もある学校の制服を着ているのはこいつしかいない。 「で、何でここにいるんだ?」 「そこにいる住井に呼ばれてきたのよ」 「住井に?」 俺は住井の方を見る。その視線の先で住井がニタリと笑った。そのの笑みは作戦決行を意味していた。 ・ ・ ・ 「『折原浩平』についてわかったことがあるんだ」 住井が俺を屋上に呼びだし開口一番に言った。 「何で南を呼ばなかったんだ?」 「もう帰ってたし、里村追いかけて」 俺の問いに答えると住井は俺に座るように促しパックの牛乳を飲み一息つく。 「何で牛乳?」 「俺のマイラバー瑞香ちゃんの好きなものだから」 よどむことなく答える住井。一瞬周りが氷点下(季節はやがて初夏、念のため)になった気がした。 「…………で、『折原浩平』の何がわかったんだ?」 何とか立ち直り聞く俺に住井はいつになく真剣な眼差しを向ける。 「中崎に頼んで『折原浩平』の戸籍とか学歴、生い立ちなんかを調べてもらったんだ」 「中崎…勉。ああ、あの馬鹿か……」 確か七瀬の制服を100万円で落札しようとした男の中の男。クラス中の男子も認める数少ないヒーローだ。 「それでわかったことがあるんだ」 住井は慣れた手つきで牛乳パックをつぶす。 「『折原浩平』は存在してるが生きていないんだ」 「はぁ?」 俺は全く住井の言う意味が理解できなかった。 「氷上、ってやつに聞いたんだがな。人は自分だけでは生きることできないらしい」 「そんな当たり前のこと…………。氷上って誰だ?」 と聞いたが答えてはもらえなかった。 「お前の思っている意味じゃなくてこの世界にいることができない、ってことらしい。この世界にいるためには自分以外の 何かとのつながりが必要なんだそうだ。絆とも言うかな。 俺たちはそれによって『この世』にある『この世界』にいることができるわけだそうだ」 そういわれても俺は住井の意図が読めずにいた。そしてため息をつきまとめる。 「要するに、だ。大きい『この世』の中に『この世界』があって、そこに俺たちは絆とかでそこにいることができるんだな?」 「正確に言うと、この世界で生きていることになるんだ」 そう言ったのは住井ではなかった。見知らぬ男子生徒である。 「よう、氷上」 住井が手をあげあいさつする。こいつが氷上というらしい。 「初対面で悪いが、今の『生きている』ってどういうことだ?」 俺の問いに氷上は静かに言う。 「『折原浩平』はこの世界で生きていたんだ。でも、彼はこの世界から消えた。つまりこの世界では生きていない。 でも、彼の存在は間違いなくあるんだ。現に写真なんかも残っている。存在していないならそういうものからも姿を消すはずだよ」 「消えたってのどういうことだ」 「風船の糸を切ると当然どうなる?」 「飛んでいくに決まっている………」 答えながら頭の中で何かが一つになる感覚。 「そうか。絆を断ち切ればこの世界にいることができずに離れる、そしてこの世界から消えてしまう。そういうことか」 でも、……信じられるわけがない。俺の常識の範囲では起こり得るはずがないことなのだから。 混乱する俺の前に住井が二つのものを取り出す。 「これが去年クラスで撮った写真だ。それと、折原浩平の在学証明みたいなもんか」 写真にはいつもと同じ顔ぶれ長森さんや七瀬さんに里村さん。南や住井、中崎…………誰だこいつは? 「それが『折原浩平』のはずだ」 そうか、そういうことだったんだ。同じクラスにいたはずなのに知らないクラスメート。 俺とそいつの絆がないならば覚えているはずもない。 じゃあ、何で里村さんが折原浩平のことを覚えていたんだ? 答えを求め住井たちを見る。すると二人同時に答えた。 「愛、だろうな。やっぱり」 「愛ってやつだろうな」 ということは南は間違いなく失恋することになるだろう。成功する、とも思えなかったがこうなるとなぜかかわいそうにも思える。 「じゃあこのことを南に言うのか?」 「いや、『折原浩平』のことを伝えずにあきらめさせるんだ。いろいろと面倒そうだし。ちなみにな方法は、…………」 俺の問いに住井は小声で耳打ちする。俺の顔は蒼白になっていたはずだ。 「それは、いくらなんでもひどいだろ?いくら南でも………」 「いいや違う。南の心の傷を最小限にするためにはこれしかない」 いや余計に心の傷を広げると思うが。夕日が赤く染まってゆく屋上で俺は一人思った。 ・ ・ ・ ここはどこにでもあるようなファーストフードのチェーン店である。 住井に俺、さらに南と柚木でここにきている。むろん制服だ。午後の授業が残っていたが抜けてきた。 さぼったとも言う。俺たちはテーブルに付き、各自注文したものを食べ終えると住井は向かい側の柚木に向かって言う。 「さて、柚木。例のこと話してくれるな?」 なぜに刑事口調かはあえてつっこまないことにしておこう。 それを受けて柚木さんが口を開く。 「茜がおかしくなったのは3月の終わり頃だったかな?突然、『折原浩平』って知っていますか?だもん。びっくりしたよ、あのときは」 そういいつつ一人でうなずく。 「で、私が知らない、って答えたらすごくおちこんでたなぁ、たしか」 「『折原浩平』については?何か言ってたか?」 「なんにも」 南が一瞬安堵した表情になる。が、続けて柚木は言う。 「う・そ。茜が『大事な人です』って言ってたよ。」 ぴきっ。 音を立てて南が硬直する。 「あとこれは私のカンだけど、たぶんその人と茜、一線越えてるよ」 ぱきぱきぃっ。 さらに南に幾つかのヒビがはいる。 「一線というと、男と女の?」 「やめろ住井っ!それ以上は……」 そこでやっと南の様子に気づいた南が柚木の口をふさぐより早く。 「肉体関係に決まってるわよ」 ぴしぱしぱしぃっ。 それが南の決定的なダメージになったようだった。その目から涙があふれる。 「うわぁぁぁぁっーーーーー!!」 南は店に入ってきた若いカップルを蹴散らしものすごいスピードで走ってゆく。 俺たちは店の外で呆然としていた。予定では落ち込む南を俺たちで慰めよう、と言うことになっていたのだが……。 「ショックが大きかったようだな」 冷静な口調で住井が言う。 「あたしも協力してあげたのになぁ」 憮然とした表情で言う柚木。 「作戦ミスじゃないか?住井よぉ」 その後2時間、俺たちの全力の捜索にも関わらず結局南を発見することができなかった。 ・ ・ ・ 南が逃走した翌日のこと。南は髭の出欠の時のも姿を見せなかった。 一時間目が終わっても来なかった。だが、そろそろ俺も焦ってきた2時間目の休み時間。 住井がすごい勢いで俺の手をつかんで教室の外に連れ出した。 「南がいたぞ!」 「どこだ!?」 「中庭だ!」 俺達は一段とばしで階段を下り靴を履き替え中庭にでる。そして木の根本に座り込んでいる南を発見する。 しかし俺はその姿を見て驚かずにはいられなかった。 「南…………」 俺はかける言葉を見つけることができず。ただ、名前だけを呼ぶ。 南は俺たちに背中を向けて座っていた。南は教室に入ることもできずに中庭にいたのだろう。 南はいったいどこをどうさまよったのか制服がぼろぼろであちこち破れていた。 「南…………」 もう一度、今度は住井が名前を呼ぶ。南はのろのろとこちらに顔を向ける。 「………………」 そして悲しげな微笑を浮かべる。その双眸から涙がこぼれる。南は何も言わなかった。 だからこそ余計に、気持ちが伝わる。痛いほどに。ちら、と住井を見るとやりすぎたか。という表情をしていた。 が、そこでいきなり住井はきびすを返すと教室に向かう。 「おいっ、住井!」 「里村を呼んでくる。それまで南を逃がすなよっ!」 住井がダッシュで教室に向かうと同時にその言葉に南が反応し慌てて立ち上がろうとする。 「逃がすかぁ!」 俺は思わず叫ぶと南の腕をつかむ。南はじたばたと抵抗する。 「頼むっ!武士の情けだ、見逃してくれぇっ!」 「本当にそれでいいのか?南。後悔しないのかお前は?何もしないで、おまえの想いを伝えないで」 南の抵抗する力が弱くなったような気がした。しかしそれは気のせいだった。ふっと、体が浮く。 「知ったことかぁーー!」 「ぐあ……っ」 地面にたたきつけられ一瞬息が詰まる。南は俺は乗り越えると走り出した、その先に何かが見えた。 何か長いもの、二つの長く編まれたおさげ、まさか? 「南っ、前を見ろぉっ!」 えっ、と南が顔を上げたところにちょうど里村の顔があった。 どかぁっ! そして見事にぶつかると地面に二人して倒れ込む。ずいぶん見事な音がしたような………。 ・ ・ ・ 俺は悲しかった、茜さんに彼氏がいる……なんて。しかもそいつのことをいつまでも待っているなんて信じたくなかった。 顔を合わせる決心も付かず中庭にいた。そしてまた、逃げだそうとした。この場所から、茜さんから。 どこかに逃げる場所があるわけでないのに。 「南っ、前を見ろぉっ!」 その声にそれまで下げていた顔を上げると、いきなり里村さんの顔が視界に飛び込んできた。 今の俺はトップスピードだ。止まれるわけも、慣性の法則に逆らうこともできずに盛大にぶつかる。 どかぁっ! ぐあ、と声に出さずに呻きどうにか身を起こそうと手をついて立とうとする。 ふにっ。 そのとき俺の頭の中で天使降臨の図が展開される。神の御使いがラッパを吹き鳴らす。光が降り注ぐ。 ハ・レ・ル・ヤ! そして、一瞬遅れて事実が頭に染み渡る。 この感触はぁぁぁっ!!!全国数万人の男達が求めてやまない至高の瞬間っ! ぱしぃぃん。 当然と言えば当然の結果、小気味いい音と同時に頬に衝撃が走る。しかし俺は殴られていながら幸福を感じていた。 この恋やぶれようとも俺の心に何一つ悔いを残すところなしっ!俺は地面に倒れ込みつつ心の中で叫んでいた。 ・ ・ ・ そして、また一つの恋が終わった。しかし、南はどうしてか幸せそうだった。 俺は南が里村に殴られるところしか見ていないが何かあったのは確かだろう。しかし俺が何を聞いても南は結局何も言わなかった。 ただ、その顔に満面の笑みを浮かべていた。大いに不気味だった。 これ以降、南はその存在を里村に長い間無視されるようになるが、それがこたえているようには見えない。 間違いなく失恋のはずだ。南も認めている。しかしできるならせめて、友達の関係にはなりたい。 そういって南は今日も勝ち目のない戦いに挑む。 「里村さん、おはようっ♪」 「………………」 しかし、あいさつは返らない。でも俺はなぜか里村が迷惑そうには見えるが、決して怒っているようには見えなかった。 「ま、里村にとっても悪いことじゃないのかもな」 住井はそういっていたが、ただ単にあきれられてるだけのような気もする。 そして二ヶ月後、南は里村を笑わせることに成功するが、誰も信じなかったを記録しておこう。 完 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− <次回予告> 「なにぃ!住井が長森さんに?!」 そしてS・S・Nが動き出す。住井の抹殺のために。 「畜生っ!誰がやられるかっ!」 数々の戦い。 「S・S・Nを裏切った罪は重い。たとえ創始者であっても………」 背後で動く陰謀。 「何でお前につかなくちゃならないんだ?」 友人の裏切り。 「私なんかで……いいのかな」 そして住井の恋の行方は? 次回 はぐれ3匹【恋愛編】住井の場合〜その1〜 をお送りします。 +++++++++++++++++++++++++++++++++++++ 終わってみればあんまり上手く書けなかったように思える。 修行が足りんなぁ。精進せねば。 他にも予定では南が茜をさらうってのもあったんだけどなぁ。 結局、こんな風になりました。当分「はぐれ3匹」でいきますんでよろしくお願いします。 では恒例にする予定のYOSHIと愉快な仲間達の座談会です。 12/10 これはノンフィクション(^_^;)です。 個人、団体、あるいは事実に非常に近いものです。 後輩S(以降S)「旦那!大変ですぜ!」 YOSHI(以降Y)「どうしたS?」 S「旦那のSSをどうしてか学校のONEのファンクラブが持っていましたぜ!」 Y「本当か?!」 S「う・そ♪」 どかぁ! Yのパンチ力132KGがSに決まる。 S「旦那ぁ。痛いですよ……」 Y「俺の純真な心を傷つけた当然の罰だ」 S「……ところで旦那。次回予告して大丈夫なんですか?受験生なのに」 Y「まあ、今の時期の高3の授業なんてあってないようなもんだし」 S「勉強せずにSS考えてるわけですか……」 Y「大丈夫だ、志望校もそこそこの判定はでている」 S「本当に大丈夫なんですか?」 Y「完璧とはとてもじゃなく言い難いが……。この話題はもうふるな、頼むから」 S「わかりました。それにしてもこのSS構成力がないですねぇ。半紙も破綻しているような……。先輩?」 Y「(バールを構える)」 S「せ、先輩、ちゃんと締めないと、終わりませんよぉ!」 Y「(残念そうにバールをかたづける)」 S「では、おきまりの締めといってみましょう!」 Y「さて、このYOSHIのSSはいかがでしたでしょうか?」 S「若輩者の稚拙な文章ではありますが、感想などいただけると非常にうれしくございます」 (感想をくれたみなさま、感謝です) Y「メアドもとれていませんが(申請中)週に一度はのぞきにこようと思いますので」 S「では、『はぐれ三匹』【恋愛編】住井の場合〜その1〜でお会いしましょう」 Y&S「さよおならぁー」 その後舞台裏でDDTをかけられたSは全治一週間の傷を負い戦線から離脱する。 Y「最近の若い門は軟弱だなぁ。全くおれの中学の頃なんかなぁ……」 以降二十分ほどYの独り言が続く。 98,12,12