一方その頃…広瀬(第21投稿) 投稿者: WTTS
今回、今までと比べるとちょっと長いです。


[同日の(その1)と(その2)の大まかな あらすじ]

本来、男子しか知り得ないはずの『女子人気投票』。
しかし各々きっかけは違えど、このイベントの全容を知ってしまった二人の女子…
【七瀬留美】および【広瀬真希】。
とりわけ過剰に関与したがる七瀬を見かねた広瀬は、
何とか彼女(…と折原)に一言注意しようと試みるが、
なかなか上手くいかないんだな、これが。


それでは、今回で「第8話」となります。(礼)


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<12月3日>

(その3)


結局、折原くんに話しかけるチャンスを得られないまま昼休みを迎えてしまった。
昼休みは昼休みで、今度の冬休みにいつもの5人で行くスキー旅行の打ち合わせ
に費やしてしまい、残りはもう5分ちょっとしかない。
…それ以前に折原くんの姿がさっきから見当たらない。(※1)

別に他にこれといってすることも無かったから、私は自分の席で頬杖をついて
窓の外を眺めていた。

住井「よう、どうしたんだ? 浮かないツラして…」

自分の席と私の席の間に位置する南森くん(今日は欠席)の席に座り、
住井くんが話しかけてきた。

広瀬「別に…。それよりどう? 例の投票の方は…」
住井「ああ、予想以上の盛り上がりだ。やはり七瀬さんの出現がきいてるな」
広瀬「ふ〜ん…。で、あんたは誰か応援でもしてんの?」
住井「応援っていうわけじゃないが…長森さんが勝つか、七瀬さんが勝つか、
折原と賭けをしたんだ」
広瀬「もちろん、あんたは長森さんなわけ?」
住井「ふっ、まあな」

ここでちょっと、住井くんをからかってみることにした。

広瀬「それで…賭けをした以上、長森さんが勝つように何か細工でもするの?」
住井「……」

住井くんの表情が一瞬引きつったかと思うと…

住井「おい…広瀬、お前今なんつった?」

一転して険しい顔になった。
全く予想通りの反応ね。

住井「お前、俺がそんなつまらん裏工作をする男だとでも思ってるのか!?」

あ〜恐い恐い。ホント、長森さんが絡むと真剣ねぇ、この男は…。

広瀬「バカね、冗談よ」
住井「冗談にしたってなぁ、お前…言って良いことと悪いことが…」
広瀬「だから ごめんなさいって…。 ただね…」
住井「ただ…何だ?」

彼の口調から、まだ完全には怒りが抜け切っていないことが判る。
まぁ、私が悪いんだけど。

広瀬「ただ…今のあんたの言葉をそっくりそのまま聞かせてやりたい人が
少なくとも2人はいそうってことよ」
住井「ん……何の話だ?」
広瀬「ううん、何でもないわ…」

そう言って私は視線を落とした。

キーーーーンコーーーー…

住井「おっと、時間か…。じゃあな、あまり変なこと言い出すなよな」

その言葉を最後に、住井くんは自分の席へと帰った。





授業中…。

教師「それでは残り時間を使って、漢字の読み書きテストをやる」

教室中(主に男子)からブーイングがあがる中、藁半紙が配られてゆく。

教師「とはいっても、テスト勉強に役立ててもらうためのものだ。
成績には全く関係しない」

その言葉で、騒いでいた人たちも少しは落ちついたようだった。

落ちついたのは私も例外じゃなく、「適当にやればいいかな」と軽く構えた。

教師「しかし、答え合わせをした後で、高得点者を発表してやるからな。
もちろん、その逆もだ」

まったく、どうにも生徒を煽るのが上手い先生ね。
私のすぐ右隣にも、その煽りをまともに受けたらしい男子がいる。

御堂「へっ、俺の実力を知らしめてやるぜ!」

な〜んて、シャーペンを器用にクルクル回しながら呟き、
なおかつその目からは熱い闘志が感じられた。

教師「それじゃあ、始めるぞ」

カッカッと、先生が黒板にチョークを叩きつけてゆく。



問1、暫く

これは一般常識よね。
……『しばらく』


問2、儚い

これも、結構マンガとかに出てくる字だわ。
……『はかない』


問3、微睡み

まだまだ、この辺は余裕よ。
……『まどろみ』


問4、貶す

えっと、これは…? 確か「な」が入ってたような……。
「みなす」…「なおす」……あ、思い出した!
……『こなす』


問5、燻る

簡単簡単♪
……『くすぶる』


問6、誂える

こうだった…はず…。
……『とらえる』



(ふぅ、なかなかのもんね、私も…)

6問目を終えてちょっと余裕が出た私は教室を見渡してみた。

(やっぱり、「成績に関係ない」って言葉がきいてるのね。みんな結構
涼しい顔してるわ。 その中でも特に長森さん…はぁ、流石ね〜…
もう解き終えて見直しに入ってる…。 じゃ、そろそろ続きを………ん?)

ふと、左の方を見た私の目に異様な光景が映った。

まず住井くん…何かニヤニヤしながら解いてるわ。
はっきり言って不気味ね。

そして折原くんと七瀬さん…あれはどう見ても二人で相談しながら解いてる
のよねぇ…。 しかも二人とも目が真剣だわ。

(何もこんなおまけみたいな小テストでそんな頑張ってカンニングすること
ないのに……一体何を考えて…………あっ…!)

さっきの先生と御堂くんの言葉が、不意に私の頭をかすめた。


「高得点者を発表してやるからな」
「俺の実力を知らしめてやるぜ!」


(それじゃあ……まさか、あの二人は…!?)

シャーペンを握る手に力がこもってゆく。

(もし、私の思った通りだとしたら……私は…一人のクラスメートとして……
絶対にあの二人を許さないわ!!)

教師「残り3分だぞ」

(えっ…?)

おっと、いけないいけない。 今はこっちに集中しなきゃ…。



問7、烏滸がましい

この問題は「書き」だったらアウトだわ…。
……『おこがましい』


問8、夥しい

フィーリングフィーリング…っと。
……『まがまがしい』


問9、擽る

どっかで見たような……こうじゃなかったかしら…?
……『はめる』


問10、鯔背

よし! 最後はもらったわ!
……『いなせ』


やれやれ、どうにか終わった…。
ざっと7点はカタいわね。(※2)


教師「では、隣の席に座る者と解答用紙を交換するように」

(隣の席…南森くんは今日いないから、御堂くん、里村さんと3人で交換ね)

さっそく御堂くんに解答用紙を渡そうとすると…

住井「おい、広瀬広瀬っ」

反対側から住井くんに呼ばれた。

広瀬「…何?」
住井「せっかくだから、こっちと交換しようぜ」
広瀬「…?」

何のつもりか知らないけど、別に断る理由も無いから言う通りにした。

こうして、私の答案が折原くんへ、折原くんの答案が住井くんへ、
住井くんの答案が私へと渡った。

教師「解答言っていくからな、採点するように」

私は赤ペンを持って、目の前の答案を確認した。

広瀬「……ぷふっ! くっくっくっくっ…」
教師「おい、どうした、そこ!」
広瀬「す、すみません…なな、何でもありませんっ…!」

みんな何事かと一瞬私の方を見たけど、すぐに前に向き直した。

(はぁ…はぁ…。 あ、危なかった…。 まさか「この答案にウケました」
とは言えないわ…)

すぐに住井くんを方を見てみると、彼は親指を立ててウィンクしてきた。
とりあえず後でゆっくり話を聞くとして、今は採点が先決ね…。



問1、するどく ×

これはまだ全然マシだわ。
それとも本気で答えてコレなのかしら…。


問2、ねむい ×

それは単に授業中のあんたの精神状態でしょうが。


問3、ほほえみ ×

住井くんには、悩みってもんがないのね、きっと。


問4、いなす ×
問5、うけたまわる ×

この辺は…多分いいネタが浮かばなかったんでしょう。


問6、あつらえる ○

0点回避…ってトコかしら。


問7、やがましい ×

字数減ってるわよっ!


問8、びっくりしたらしい ×

これは早いうちに忘れないと……当分思い出し笑いが……うぷっ。


問9、ひきにげする ×

ここまでやられると、もう何も文句言えないわ…。


問10、かつおせ ×

あ、よく見てみたら「まぐろせ」だの「たらせ」だの、いろいろ
消した跡がある…。 こんなことにまで試行錯誤するなんて、
流石というか、バカというか…。


そして答案用紙が回収されていった。





教師「ほう、この難問で満点が一人。 えー……」

教室中がしーんと静まりかえっている。
この教室内の生徒全員(多分)が、先生の次の言葉を待った。

教師「…七瀬留美」

おー…と小さなどよめきが所々であがる。
それに混じって、

「すごいわね〜…」
「う〜ん、かわいいだけじゃなかったんだな…」

なんていう声も聞こえてくる。
ちなみに御堂くんはというと、露骨に悔しがっている。

このテスト結果は間違いなく、例の人気投票に影響するでしょう。
そう考えたら…

(こんな…不正行為をしてまで人気者でいたいというの…!?)

また私の中に、憎悪にも似た感情が湧き上がってきた。

教師「そして0点もひとり、折原浩平」

(えっ…?)

辺りからくすくすと失笑が漏れる。

(それって、どういうこと? じゃあ、満点は七瀬さんの実力…?)





休み時間。

私はさっそく住井くんの所へ行った。

広瀬「やってくれたわね…」
住井「気に入ってくれたようだな」
広瀬「おかげで恥かいちゃったわよっ」

すぐそばから、折原くんと七瀬さんの話し声が聞こえてくる。

七瀬<あたし、感動したわ。みんなで力を合わせれば、何だってなせるものなのね>
折原<不正行為だけどな>

(…やっぱり、そうだったの……!)

住井「いや…折原に見せても、あいつ、こういうことの免疫強そうだから笑って
くれないかな〜なんて思ってな。 ……って、おい広瀬?」

七瀬<いいのよ、この際、体裁なんて>

(そう…よくわかったわ…七瀬さん、あんたの性格が!!)

住井「おい広瀬ってば! もしかして、怒ってるのか?」

今すぐにでも怒鳴ってやりたい気持ちを抑え、
私は歯を食いしばって拳を強く握っていた。

(放課後を楽しみにしていなさい…思う存分糾弾してあげるから…!!)

住井「そんな恐い顔すんなって。 さっきのお前の冗談とおあいこだろ?」

…と、どうやら住井くんを睨みつけている形になっていたようね。

広瀬「ふぅ…。別に怒ってないわ。 むしろ楽しませてもらったわよ」
住井「そうか? いや、それならいいんだがな…」

どうせ住井くんは、さっきのバカな答えを考えるのに夢中で、
この二人が結託していたことになんてまるで気付いてないわよね…。

自分の昼食代がかかっているっていうのに…まったくのん気だこと…。





放課後。

さぁ、今度こそあの二人に引導を渡しに行…

稲川「真〜希っ♪」

…けないかも知れない。

広瀬「…な、な〜に? 麻実…」
稲川「さっそく行こっ」
広瀬「行くって、どこへ…?」

(まさか、あの二人の所…?)

稲川「やだな〜、忘れたの? 今日、買い物に付き合ってくれる約束でしょ?」
広瀬「あ…」

した。確かに一週間前、そんな約束をした。

稲川「…まさか、本当に忘れてたの?」
広瀬「ご、ごめんごめん。 何かこの4日間、いろいろあって……」

そこまで言った瞬間、一つの大きな疑問が突然浮かんだ。
でも…

稲川「じゃあ、今日はもうムリ…?」

今、そんなことを深く考えている余裕は無さそうね…。

広瀬「何言ってんの。 行くわよ、もちろん。 約束は守るわ」
稲川「うん♪ じゃあ早く行こっ」

麻実に手を引っ張られて、私は教室を後にした。





夜、布団に潜りながら、
放課後にふと頭をよぎったある疑問を思い起こしてみた。


『一体どうして私は…こうも七瀬さんを意識しているのかしら…?』


何にしても、今日はもう何も考えたくない。
とにかく疲れたから。

心の中にモヤモヤとしたものを残したまま、
私は眠りについた。




[<12月4日>へ続く]



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(※1)

茜を追って校内を奔走している。
いや、ひょっとしたらもうどこかで一緒にいるかも…。


(※2)

6点である。


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<感想>


→→[YOSHI]様・・・・【がんばれ!南くん〜演劇編〜4】

広瀬にしても七瀬にしても、ちゃんと弁当を作れたんですね。
「たこさんういんなー」とはまた男心を擽るモノを…。
七瀬のナイフ…そんなものを見たくらいで今更広瀬の頬が
引きつるとは思えませんが。(笑)


→→[高砂蓬介]様・・・・【茜色の姉妹 第一章】

茜の双子の妹ですか……随分明るい娘ですね。
詩子の二人でフリートークさせたら楽しそうだ。(笑)
初めは拒絶してたのに、最後のほうではすっかり
「家族の一員」として接してますね。続きが楽しみです♪


→→[変身動物ポン太]様・・・・【雨が上がったあとで】

わざわざ高校まで弁当を持ってきてくれるとは…茜の愛が
ふつふつと感じられます♪ 結局弁当は食えずじまいだった
けど、こんな日だし、ま、いいよね☆(←何がだ)
最後に一つ、みさき先輩は「OB」ではなく「OG」でしょ。(苦笑)


→→[から丸]様・・・・【幻想猫の魔法 「藪の中の記憶」】

ぬぅ、住井と詩子にそんな繋がりがあったとは…。
それはともかく、自転車に乗っているときの二人の
仲良さそうなシーンがとても好きです♪ いいなぁ、こういう描写…。


→→[北一色]様・・・・【BLUE LEAF 4】

実は、今一番楽しみにしているシリーズです。
深山先輩が「そういうこと」をしている人だとしても、
別に違和感は感じられないな〜。(笑)
それにしても「リーダー決め」といい「班行動」といい、
やはり元ネタはアレですか?(笑)


→→[千乃幸]様・・・・【天使のいる風景 第一章】

樋上天子…タダ者じゃないな…。
「ビルの気持ちがわかる?」から始まる、写真の録り方
の講義、思わず聞き入って(読み入って)しまいました。


→→[雀バル雀]様・・・・【苺しぇいく! 4】

こ、この『憎まれ役』のPELさん面白すぎ!!
マジで腹痛い。 「レディ達」じゃねーだろ「レディ達」じゃ。(笑)
え〜と、なになに…?
『小学生の作文レベルで酷い』『イマイチ読み方がよく判らん作家』…
はて、誰のことでしょう?(笑)


→→[Sasho]様・・・・【約束】

おお! 確かにみさき先輩が、澪主役の例の演劇を鑑賞したとしても
不思議ではないですね。 …っていうか、このSSを読んだら
「いや、鑑賞したに違いない!」と思うようになってしまいました。(笑)


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<後書>

ようやく「12月3日」が終わった…。
それにしても、YOSHIさんや北一色さんが描く広瀬と比べると、
俺が描く広瀬だけ やけに浮いている気がしますね…。(笑)

それでは、失礼いたします★


http://cgi-space.to/~sin/bbs4/gagaga/denju.html