一方その頃…広瀬(第16投稿) 投稿者: WTTS
 このSSは、浩平達の教室は【席が横6列】ということにしています。
 ONE本編のテキストより、この最後列の席順は

 [里村] [席A] [席B] [席C] [住井] [折原]

 ……となっていることが伺えますが、このSSでは

 [席A] = 御堂
 [席B] = 広瀬
 [席C] = 南森

 ……ということで進めさせていただきます。(礼)

今回で「第6話」です。


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<12月3日>

(その1)


昨日の朝は日直だったということもあって、髭先生の都合に付き合わされて
とんでもない早起きをするハメになったわけだけど、今日はもちろん普通に登校した。
ホームルームが始まるまでの時間を佳恵とお喋りしながら過ごしている。

キーーーンコーーーー…

チャイムが鳴ってから約二分後…

細田「そういえば、今日はやけに長森さん遅くない?」
広瀬「そうね。いつもなら もう来てもいい頃なのに」
細田「ひょっとして、とうとう遅刻とか? それも幼なじみのせいで」
広瀬「まったく、彼女も大変だわね」

なんて話していたまさにその時、

ガラララッ!

折原「ふぅ、どうにか間に合ったみたいだぞ。三人の力が絶妙に…」


広瀬「『噂をすれば』……ね」
細田「ほ〜んと。 でも何で七瀬さんまで一緒なのかしら?」
広瀬「…さぁ? 案外、七瀬さんを追い掛け回していて時間食っちゃったのかも」
細田「あははっ、それはあるかもね。 あ、先生だ。 じゃあね真希」

そう言って佳恵は、私の左隣の席…今日はまだ来ていない南森くんの席を離れ、
自分の席へ戻った。

髭「んあ〜、席につけ〜。 よし、全員揃ってるな」

もちろん、南森くんがいないことに気づいている人は大勢いたけど、
そんなことを今さら髭先生にツッコむ人は誰もいない。

今日は3時間目に髭先生の授業があるわけだから、出席簿の今日の
南森くんの欄は、

『ホームルームに出席し、1・2時間目を休み、3時間目にまた出席し、
4時間目以降は全部欠席』

なんていう奇妙な状況になる。
このことは他の先生方も黙認していて、このクラスの名物の一つとなっている。

結局、それ以外はいつものように何の問題も無くホームルームが終わり、
間もなくして1時間目が始まった。





授業中…

ペチッ!

広瀬「痛ッ!」

突然私の右頬に何かが飛んできて、はね返って足元に落ちた。
すぐさま拾い上げて調べてみると、それは紙切れを小さくたたんだもので、
誰かが輪ゴムで飛ばしたらしい。

(まったく……誰よ!? 一体…!)

苦虫を噛み潰したような顔で右隣の方を向くと、

「わ…悪ぃ、広瀬…」

まだ輪ゴムを構えたままで、少々蒼ざめながら硬直している
御堂くんの姿がそこにあった。


広瀬<何すんのよっ!>
御堂<すまん! 悪かった! ぶつけといて何だが、頼むからソレを今すぐ返してくれ!>
広瀬<え? ……ってことはこれ、ひょっとして『企画書』?>
御堂<ああそうだ。 しかも今回の企画者は中崎なんだよ。 な? 頼む!
俺、あいつにだけは昼飯をおごりたくないんだよ…。(※1)>
広瀬<…まぁね。 中崎くん、ただでさえお金持ちなんだから確かにシャクよね>
御堂<おおっ!? さすがは広瀬! 話がわかるぜ!>
広瀬<でももう手遅れみたいよ? ……ほら>
御堂<ん? ……ぐぁ>

私が指差した先には、御堂くんに対して勝ち誇ったような笑みを
浮かべている中崎くんの姿があった。

広瀬<ご愁傷様ね>
御堂<くそっ、人生最大の屈辱…!>
広瀬<もちろん、私も近いうちにご馳走してもらうわよ? (※2)>
御堂<わかってるって。 しかしよりによって中崎に…>
広瀬<ま、運が無かったのか、あるいは伝達ルートが悪かったのね>
御堂<南森の奴が休んでさえいなければ こんな方法は取らなかったのに…>
広瀬<いい加減に割り切りなさいって。 中、見るわよ?>
御堂<まぁ仕方ない。 規則だからな>

私は問題の紙切れを広げた。

『我がクラスにおける女子人気投票の旨ご報告いたします。
なお男子のみの投票で、秘密裏に実施。 投票受付締め切り日 明日』

そして一番下に、『企画:中崎 勉 / 幹事:住井 護』 と書いてあった。


広瀬<………何これ>
御堂<いや、見た通りだが…>
広瀬<そうじゃなくて……何でこんな結果が見えていることをやるのよっ>
御堂<ん? というと…?>
広瀬<長森さんが圧勝するに決まってんじゃない!>
御堂<それは わからないぞ>
広瀬<…どういうこと?>
御堂<バレたついでに話すけどな、どうやら中崎のお坊ちゃまが
七瀬さんのことを気に入ってるらしいんだ>
広瀬<へぇ…>
御堂<それであいつ、『彼女の人気がどれほどのものか測りたい』なんて言い出してな>
広瀬<うん>
御堂<住井や南も『面白そうだ』ってんで正式に企画されたんだよ>
広瀬<なるほどね>
御堂<つまり、このクラスの男達に新たに生まれた「七瀬派」の勢力がわかるのさ>
広瀬<確かに七瀬さんはルックスとスタイルだけは抜群だから、そう考えてみると
この人気投票には意義があるのかもね>
御堂<そうか? 俺は七瀬さん、性格も女の子らしくていいと思うぞ>
広瀬<(それがそうでもないのよ…) とにかく私は長森さんに勝ってもらいたいわ>
御堂<実は俺もそう思っているんだ>
広瀬<あら、気が合うわね>
御堂<よし。じゃあせっかくだから今日の放課後、デートしようぜ>
広瀬<嫌よ>
御堂<ぐぁ…そんな即答することないだろ。 まぁそういうわけだから、それ、
住井にまわしといてくれよな>
広瀬<わかったわ>


私は逆隣の方を向き、南森くんの机に手を置いて身を乗り出した。

広瀬<ちょっと住井くん! これ、御堂くんからよ>
住井<お、サンキュ。 …って、御堂の奴しくじったのか。
まあいいか、次の折原で最後だしな>


そうしてその紙は、住井くんから折原くんの手に渡った。

(長森さんと七瀬さんの一騎討ちか…。 ふふっ、面白そうじゃないの。
存分に見届けさせてもらおうかしらね)


広瀬「!?」


七瀬さんの方をチラッと見たときに【それ】は起こった。

(え…? ちょ…ちょっと今…!?)

私の目が確かならば、今、折原くんは【わざと】七瀬さんに例の紙を渡した。

それは言うまでもなく、男子として最もやってはいけない…一線を越えた行為だった。

すぐに私は教室の全男子の反応を確認してみたけど、誰一人として、隣の席の
住井くんでさえ見てはいなかったようだ。

念のために女子…こういうことに関心のある佳恵や麻実、稲木さん達の方も
見てみたけど、やはり気づいた風ではなかった。

目撃したのは……また、私だけのようね。

(ちょっと……どういうつもりなのよ……折原くん…!!)

この人気投票そのものをコケにしたかのような彼の行動に、
私は怒りが込み上げてきた。

(思い切って糾弾するべきかしら…? いえ、さすがに証拠不十分だわ。
しらばっくれられたら それまでじゃないの…)

とても腹立たしいけど、とりあえずこのことは自分だけの胸に
しまっておくことにした。





休み時間…

折原「いや、七瀬の行動が読めたから…」
七瀬「いいから、来なさいって」

案の定、七瀬さんは折原くんから詳しい事情を聞き出すつもりらしい。
私は一昨日と同じようにして、二人の話をこっそり聞かせてもらうことにした。

(折原くん…あなたがやったことは、言ってしまえば『裏切り行為』なのよ…!)

私は無意識のうちに、拳を強く握り締めていた。

(ことと次第によっては……絶対に……許さないわ……!!)




(つづく)



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(※1)

このクラスの男子は4月の中旬あたりから全員で意気投合し、
その頃からこういった「企画」には不自由していなかった。
そんなある時、次のような文面の手紙が コピーされて全男子の
手に配られた。


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男子諸君へ
我々の更なる結束力の強化のため、「授業中の手紙まわし」に
以下のような規律を作った。

1、何らかの失敗で企画が女子に漏れてしまった場合は、
その原因を作った者が企画者に対し向こう一週間のうちに3回、
企画の幹事に対し1回、昼飯をおごらなければならない。

2、おごられる側も、(まさかとは思うが)決して遠慮などしては
ならない。 罪を償わせることもまた友情なのだ。

3、故意に女子にバラした者は極刑に処す。


以上、肝に銘じておいてくれ!


男子代表: 住井 護 / 南 明義

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なお、この内容はあっけなく承認された。



(※2)

3日後、住井の机にこんな内容の手紙が入っていた。

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愛する男子の皆様へ
これ、認めてちょうだいね。

1、女子の有志には、「手紙」をインターセプトする権利が与えられる。

2、インターセプトに成功した各々の女子に対しても1回、
おごらなければならない。

3、その代わり、他の女子に企画内容をバラしたりはしないからね。


そういうわけで、よ・ろ・し・く・ね♪


女子代表: 稲木 佐織 / 広瀬 真希

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直ちに男子数名による緊急会議が開かれ、
その日のうちに「面白れえじゃねえか」と満場一致で承認された。


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<後記>

……覚悟はしてたけど、12月3日は長い…。

次回では終わりませんね、多分…。(砕)

ところで、広瀬って漢字テストで何点くらい取れるのだろうか…?


それでは、失礼いたします★

「刑事版」へのザッピング!!

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