一方その頃…広瀬(第13投稿) 投稿者: WTTS
毎度のことですが、聞き慣れない名前の女子4名は広瀬の友人、
すなわち本編で折原が言うところの「取り巻き」ということで
お願いいたします。(礼)
今回で、「第4話」という形になります。


***********************************************************************


<12月1日>

(後編)


昼休み。

細田「真希ー、お弁当食べよ〜」
広瀬「ごめん。私今日は学食なのよ。 麻実は?」
細田「今日は彼と一緒に食べるんだってさ」
広瀬「あ、そう……。 二人は?」
加山「私達も学食よ」
山本「真希、一緒に行こうよ」
広瀬「もちろんよ。 じゃあね、佳恵。 一人で黙々と食べてなさい」
細田「しくしく」

「『しくしく』ってキャラかっ!」というツッコミを喉の奥に押し込み、
私達三人は教室を出た。

ちなみに今日も七瀬さんは男子たちに囲まれている。
それに混じってまた折原くんが彼女に何やらちょっかいをかけていて、
そのまま見ていても何か面白くなりそうだったけど
さすがにそんなことで昼食をフイにしたくはない。
淳子、佳奈と一緒に学食へと急いだ。




放課後。

加山「じゃあね、真希。 また明日」
稲川「さよなら、真希」
広瀬「うん、じゃあね、みんな」

淳子は部活だし、佳奈はバイト。 佳恵と麻実は、私とは帰る方向が
まるで違う。 今日みたいに何の寄り道の予定も無い日には、
私達五人は教室で解散となる。

(さて、私もさっさと帰ろうかな……)

折原「…どうせ帰るんだろ? なら一緒に帰ろう」
七瀬「お生憎様。 あたしには用があんのよ」

(折原くんもそろそろ、嫉妬に狂った男子たちからの報復を
警戒してもいい頃なのにねぇ…)

…とはいえ、そんな「報復」を実行に移したりする男子なんかいないのよね。
そんなところもまた、このクラスの良さなのよ。 もちろん女子も…ね。

髭「んあ〜、広瀬」
広瀬「はい、何ですか」
髭「明日は日直だな。早目に登校するんだぞ」
広瀬「ええ、わかってますけど」
髭「んあ…それですまないんだが、ちょっとやってもらいたい仕事がある。
普段の日直よりも早い時間に来てくれ」
広瀬「…はい」

帰り支度を済ませて廊下に出る。
クラスを一つまたいだ向こう側に例の二人…折原くんと七瀬さんがいた。

(あら、また何か七瀬さんに怒鳴られているのかしら)

私は自分でも不思議に思えるくらい反射的に物陰に隠れ、
聞き耳を立てた。 ひょっとして私は知らぬ間にあの二人の
夫婦漫才の虜になってしまったのかしら?
それにしても……

(この広瀬真希ともあろう女が昨日に引き続き盗み聞きとはね……。
私もいい趣味してるわ、まったく)

自分に対して苦笑する。

(さあ、今度はどんなドツキ漫才を見せてくれるの…?)

二人の会話がかろうじて聞こえるくらいの距離を保ち、
物陰から物陰へと移るようにして後をつけた。

(見るからに妖しいわよね、私…。比較的人通りの少ない廊下を
歩いてくれて助かるわ)

折原「相変わらず、可愛い女の子のフリしてんのか?」

(それは…昨日私が抱いた……抱いてしまった疑惑…)

七瀬「それじゃまるであたしが男みたいじゃない」
折原「近いもんだろ。 本性があんな凶暴なんだからな」
七瀬「あんたにだけよっ」

(やっぱり、折原くんに対する七瀬さんの方が地の……本当の七瀬さん
の姿だというわけなの……?)

昨日、「猫を被っている」という考えを必死に振り払ったつもりだったけど、
やはり心のどこかでまだ七瀬さんを疑っていたのかも知れない。

折原「そんなにモテたいのかよ」

(…!!!!!)

七瀬「あんたには永遠わからないわよ、この女心は」
折原「ムリしてるだけにしか見えないけどな」

(な…「モテたい」……!? モテたいってどういうこと!?)

七瀬「で、どこまでついてくる気よ」

(だったら七瀬さんは、ただ男子たちからチヤホヤされたいためだけに
「可愛い女の子のフリ」をしているとでもいうの!?)

七瀬「あたしは今から茶道部の見学に行くの。だから暇人の相手を
してられるのもこれまでなの」

(そんな…そんなことは有り得ないわ!……いや、あってはならないのよ!!)

いくら何でもそんなのデタラメ過ぎる。
自分がモテたいためだけに 自分を偽り、その「嘘の自分」で男子を魅了する
だなんて あまりにふざけているわ。
第一、もしそれが本当だとしたら……

(「可愛い七瀬さん」に既に恋心を持ち始めている男子、そして、七瀬さんと友達
になりたくても男子に囲まれているせいでなかなか話しかけるきっかけを作れない
でいる女子…言ってしまえば、クラスそのものを裏切っていることになるのよ!!
わかってるの!? 七瀬さん!……)

七瀬「もう、ほっといてッ!!」

広瀬「はっ……」

七瀬さんの怒鳴り声で我に返った。
小さく声をあげてしまったけど、気づかれてはいないみたいだった。

(七瀬さん………)

七瀬「一回死ね、アホッ!」

バンッ!

(…そうね。あれはきっと折原くんの出まかせに決まっているわ。
ふふっ、私らしくもない…。 つい取り乱しちゃったわね)

茶道部部室の前の廊下では折原くんがぽつんと一人取り残されている。

(今日はもう……帰ろう)

別にまた変な疑いをかけてしまった七瀬さんに後ろめたくなったり、
尾行していることそのものに罪悪感を感じたわけじゃないけど
今日はこれで帰ることにした。

折原くんに気づかれないよう足音を忍ばせて、来た道を戻る。

下駄箱へと続く曲がり角のところで後ろを振り向いてみると、
部室から出てきたらしい七瀬さんと折原くんが何やら話をしている。

(勝手に疑ったりして、ごめんね。 七瀬さん……)

私は七瀬さんの方を向き、ほんのわずかに頭を下げた。
そして次に、

(あんたが妙なこと口走るからよ、バカ!)

とりあえず折原くんを睨んでおいた。




帰り道、ふと空を見上げてみる。

広瀬「もうこんなに暗いんだ…。 いよいよ冬ね」

空が暗い理由はもう一つあった。

広瀬「あ……」

月はもちろん、星すらも一つも見えない。

広瀬「これじゃあ明日の朝は早起きの上に雨ね…。 ふぅ…ついてないわ」



〔<12月2日>に続く〕


***********************************************************************



>まてつやさん

んがっ! これぞ「広瀬シナリオ」っ!!
立場上(笑)、早急な感想が必要だと思いますので
近いうちにメールで贈らせていただきますっ!(敬礼)


>ひささん

う…くっ…うくぅっ……感動したでありますっ!!
SSはまだこれで4つですが、替え歌作りに対しても
通ずるお言葉! 自分は感激の涙を止められないでありますっ!(敬礼)


さて、「中崎町」を煮詰めないとな・・・。