一方その頃…広瀬 (第11投稿) 投稿者: WTTS
(補足)

聞き慣れない名前(加山淳子、稲川麻実、細田佳恵、山本佳奈)が出て来ます
が、これらは全て「広瀬の友人」ということでご了承下さい。(礼)


**********************************************************************


<11月30日>

(後編)


私達は自分の席について、髭先生を待つことにした。



一分も経たないうちに先生はやって来た。
すぐ後ろにはもちろん 例の転入生がついて来ている。
さっき佳恵が言っていた通り、確かにとてもかわいい子だ。
男子達はもう既に大騒ぎをしていて、先生の声が聞こえにくくなっている。

髭「んあー、静かにっ、こらっ、男連中、うるさいぞ。 そこそこっ、ウェーブをするなっ」

1年生のときからそうだったけど、このクラスの男子のチームワークは
凄まじい。 このウェーブにしても、誰かが合図をしたわけでもなく、
どこからともなく発生して、しかも綺麗にまとまった、文字どおり『波』
となっている。 確かにこの「結束力」は評価すべきものなんだけど………
それ以前にガキなのよね。

髭「んあー、先週の終わりに話した通り、転校生くんだ。 じゃ、自己紹介どうぞ」

『自己紹介』という言葉に鋭く反応して、男子達は一斉に静かになった。
引き際の統制も見事だわ。

七瀬「七瀬留美です。 えー、急な親の転勤の都合で、こんな時期はずれに
転校することになってしまいました。 すごく不安だったんですけど、
なんかみなさん楽しそうな方ばかりで、ほっとしましたぁっ」

…模範的な自己紹介だわ。
しかも、本人は意識したのかしなかったのか、そのセリフとかわいらしい口調
で男子達はもう手がつけられない喜び方をしている。 そういう私も、社交辞令
だったか本心だったかは断定できないけど、「楽しそうな方ばかり」という部分
は 結構嬉しかった。 そうなのよ、いいこと言うじゃない。 あの子、なかなか
見る目があるわ。 でもね………

髭「静かにしろっ。 ほらそこっ、危ないから机の上で踊るんじゃないっ」

ここまでのレベルになると、私はちょっとついて行けないのよね。

七瀬「それではよろしくお願いします」

最後にもう一度男子達から歓声があがり、転入生…七瀬さんの自己紹介が
締めくくられた。 その後、先生が七瀬さんの席を決めて(折原くんの後ろ)、

髭「では、みんなあまり質問攻めにしないようにな。 以上」

HRが終了した。
その途端、案の定七瀬さんの周りは多数のクラスメートで埋め尽くされた。
彼女を囲んでいるのは男子だけではない。 やはり彼女と話をしてみたい女子
も多いようだ。 現に佳恵と麻実もそっちにいる。

加山「なかなか好感が持てそうな子じゃない」
山本「うん、あれならこのクラスにもすぐに馴染んでくれるかも」
広瀬「そうね。まだ初日だからよくわかんないけど、あの子がどんな存在
になるのか、楽しみにしてみてもいいかもね」

さしずめ今は「クラスのアイドル」といったところか…。
それならそれでいいんだけど。

「あ、勝手に位置変えてるぅー」

長森さんの声だ。 どうやら折原くんが先生の指示に反して、自分の席を
一番後ろに持っていったらしい。 …別に何てことはないわ。
あの男なら当然の行為ね。

山本「ねぇ、私達も七瀬さんのところに行ってみようよ」
広瀬「ムダよ。あんな状態じゃ話しかけるどころか、七瀬さんの顔すらみえないわ」
山本「それはそうだけど……」

程なく一時間目開始のチャイムが鳴り、皆わらわらと席につきはじめた。
その際、折原くんと七瀬さんが何やら少しもめていたようだったけど、
きっと席の入れ替えのことだろうと思い、特に気にしなかった。



一時間目終了のチャイムが鳴った。

先生「今日はここまで」
委員長「起立!」

ガタガタンッ! ゴキィッ! ガタガタガタンッ!

…………何? 今の音。
皆が立ち上がる音に紛れて、はっきりとはわからなかったけど、確かに聞こえたわ。
関節を痛めたような音が。
皆全然気にしてないってことは、聞こえたのは私だけ?
確かに耳にはちょっと自信があるけど。

委員長「礼!」

クラス内が授業終了後の喧燥に包まれている中、私は音のした方を確認してみた。
すると……

七瀬「殺す気かぁっ! このアホぉっ!!」

………!?
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
ついさっきまで いかにも「乙女」みたいな雰囲気だったあの七瀬さんが、
折原くんに対して怒鳴りつけたのだ。
その後も折原くんと七瀬さんの会話が続いていたけど、それはさすがに
聞こえてはこなかった。

細田「真希、何ボーッとしてんの?」
広瀬「ねぇ今、七瀬さんが……」
細田「え? 七瀬さんがどうかしたの?」

どうやら佳恵には聞こえなかったようだ。

男子生徒「ありゃ、七瀬さん、どうしたんだぁ?」

男子達もこんなのんきなことを言っている辺り、やっぱり聞こえた(更に目撃した)
のは私(…と折原くん)だけみたいね。

細田「ねぇ、真希……」
広瀬「ごめん、何でもないの。 それより、トイレ行かない?」
細田「? …い、いいけど」

私はまだ腑に落ちていない様子の佳恵の手を引っ張り、教室を出た。
ふと、こんな考えが頭をよぎる。

(ひょっとしてあの子、 猫被ってるの!?)

いや、いくら相手が詳細不明の転入生とはいえ、それは失礼ね。
私は慌ててその考えを捨てた。 でも……

広瀬「ちょっと面白いかもね。 あの子」
細田「え、何のこと?」
広瀬「ううん、こっちの話よ」
細田「……?」

……教室に戻ると、やっぱり七瀬さんは囲まれていた。(今度は男子だけ)

「こらっ、押すんじゃあないっ!」
「おい、オレが先に話しかけたんだぞっ!」

美少女転入生ってのも、かなり神経を使う身分のようね。
ご苦労さま、七瀬さん。




昼休み、大多数の男子が相変わらず七瀬さんを囲んでいるのをいいことに、
私はあの4人以外にも何人かの同じクラスの女の子に声をかけ、机12台くらい
を隙間なくくっつけて、女十数名のちょっとした「昼食会」を企画した。
予想以上に盛り上がり、途中で佳奈が七瀬さんにも声をかけたんだけど、
男子達に猛反対され、その誘いは叶わなかった。
せっかくだから私も話とかしたかったのに、ちょっと残念だわ。




「イタぁっ!!」

午後の最初の授業中、突然こんな悲鳴が聞こえた。 …七瀬さんだ。

「なんだ…?」
「どうしたどうした」

授業中なだけあって、さすがに今回は皆聞こえたようね。
でも結局原因がはっきりされないまま、授業が再開された。



「きゃああぁッ!!」

再度、七瀬さんの悲鳴がこだました。
たまらず、佳奈(七瀬さんの斜め前の席)が声をかける。

山本「七瀬さん、どうしたのっ?」
七瀬「うぐっ、ううん、なんにもっ…」
山本「先生ーっ、七瀬さん、泣いてますぅーっ!」
先生「おい、どうした、何事だっ!?」
男子生徒「なにぃっ、誰だ泣かせたのはぁっ!」

状況証拠は揃ってるわ。 犯人は折原くんね。
それはともかく、もう授業どころではない雰囲気になっている。

……その後、教室が落ち着きを取り戻すのにしばらくかかり、
今回も悲鳴の原因がうやむやのまま授業が終了した。

稲川「ねぇ、どうしたんだろう? 七瀬さん…」
加山「転校初日で情緒不安定なのかしら」
細田「それは違うって………多分」
広瀬「ま、きっと誰かにイタズラでもされ………あ」

その七瀬さんが折原くんを外に連れ出そうとしている。
これはきっと何かあるわ!
ちょっと不謹慎だけど、盗み聞きさせてもらおうかしらね。

広瀬「ごめん。ちょっと私、ヤボ用!」
加山「あっ、真希……!」




結局、私はさっきの休み時間の2人の会話を一部始終聞いてしまった。
そして確信した。

『ね、一回殴っていい?』『殺人的に面白くないわよッ!』『やっぱ殴るわ…』

(あの子……やっぱり猫を被ってるだけだわ!!)

広瀬「くっ…! 何考えてんのよ私はっ!!」

首を強く横に振った。 自己嫌悪。
こんな発想をしてしまう自分に腹が立った。

(折原くんといえば、このクラスでも屈指の『極悪人』だわ。
転入生とはいえ、つい声を荒げたくなっても別に変じゃないわよね…)

そう思うことで心を落ち着かせた。

「七瀬さん、これから帰るのっ?」
「案内してあげるぜ、校内」
「あは、どうしよっかな〜」

男子達に連れて行かれるようにして、七瀬さんは教室を後にした。

加山「真希」
広瀬「…何?」
稲川「これから5人で山葉堂に行こうってことになったんだけど…」
広瀬「あら、いいじゃない。 もちろん私も付き合うわよ」
加山「ええ、そのつもりで声をかけたの」
広瀬「そうと決まった以上、グズグズしてたら混み出すわ。 みんな、走るわよっ!!」

大げさな話ではなく、本当に走る必要がある。
この時間帯の山葉堂の混雑状況は半端じゃないから。
私達5人は慌ただしく中庭、下駄箱を抜け、校舎を後にした。


〔<12月1日>へ つづく〕


**********************************************************************


え〜、こんにちは。(礼)
ようやく「1日目」が終わりました…。 先は長い………。
至らぬ点も多々ございますが、今後ともよろしくお願いいたします。(深礼)
「中崎町」のウケが意外にもそこそこ良かったので、またアイデアが
ありましたら(感想SSとして)書いてみます。
替え歌もまたひょっこり投稿するつもりでいます。(笑)

それでは、失礼いたします★