エピローグ 「Another」 投稿者: 11番目の猫
---------- 注意書 ----------
「透」:茜の幼なじみの名前
Another :もう一人の
One Another :お互いに
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茜 「…帰ってきてくれたから」
詩子 「ああっ!」
詩子 「やっぱりねぇ」
詩子 「あいつは噂をすれば現れるようなタイプだと思っていたのよ」
声 「ただいま」
茜 「おかえりなさい、こ…」
あれ…この声…
違います…
茜 「透…」

One Another?
No.
Another One.

------ エピローグ 「Another」 ------

帰ってきたのは、あなただった。

茜 「どうして…」

あのあと、わたしと詩子、透は3人で一緒に商店街を歩き回った。
昔のように。
幼なじみの3人がいつも一緒にいたあの頃のように。
とても楽しかった。
とても嬉しかった。
それはべつにいいのだ。
だけど。
別れ際に私たちはこんなやりとりをした。
してしまった。
透 「ずっと待たせちゃったな…」
茜 「帰って来てくれたから…いいです」
透 「また一緒にいような」
茜 「…はい」

わたしは誰を待っていたんだろう。
誰の側にいたいのだろう。
どうして重ねてしまったのだろう。
茜 「浩平、あなたも帰ってきますよね…」

透 「あの、茜…」
茜 「なんですか?」
透 「昨日は確か蜂蜜だったような…」
茜 「…はい」
透 「ご飯に練乳かけたのっておいしいのかい?」
茜 「…はい、とっても」
詩子 「ああっ!またこんな所で一緒にお弁当食べてるーっ!」
透 「…でたな」
茜 「…詩子」
詩子 「わたしも一緒に食べるーっ!」
茜 「そうしましょう」
パタパタ。
透 「ところで…一体いつからそんな食べ方をするようになったんだ?」
茜 「…昔誰かさんがわたしのご飯に蜂蜜をかけてからです」
(二人の視線)じーっ。
透 「もしかして…その誰かって…僕?」
茜 「…はい」
詩子 「犯罪発覚ーっ!」
透 「人聞きが悪いな…」
詩子 「これは透に責任を取ってもらわなきゃねぇ」
透 「責任って…」
詩子 「茜をこんな体にした、せ、き、に、ん」
茜 「別に困っていませんが…」
透 「…」
詩子 「と、ゆうわけで今度わたしと茜に夕飯おごってね」
透 「なんで詩子の分まで…」
詩子 「聞こえない聞こえなーい」
透 「はあ…わかったよ」
詩子 「けってーい」
茜 「そういえばあの時もう一人の誰かさんが蜂蜜の上にさらに練乳を…」
透 「…詩子、やっぱりお前は割り勘決定」
詩子 「ぶーぶー」

旅立ちの季節。
私たち3人は同じ短大へ進んだ。
気が付けば。
わたしの隣には透がいる事が多くなった。
暖かな晴れの日。
透と笑いあって。
詩子とじゃれあって。
浩平の事を忘れる事が多くなった。
冷たい雨の日。
ほのかな幸せさえ流されて。
今はもう無い空き地を思って。
その空き地で別れた二人目の人を想って。
だけど。
そんな日にも隣には透がいた。

わたしはどうして笑っているのだろう。
誰を想っているのだろう。
どうしてあなたはあなたなのだろう。
茜 「浩平、早く帰ってきてください…」

詩子 「一番、柚木詩子脱ぎまーす!」
透 「あ、あの…詩子さん?」
茜 「…酔ってます」
詩子 「透ちゃ〜ん、顔真っ赤だよ〜」
透 「わ、わ、それ以上はホントにまずいって!」
茜 「今の詩子には何を言っても無駄です」
透 「そ、そんな…」
詩子 「うふふ、ふにゃふにゃ〜」

透 「あの…詩子さん?」
詩子 「すーすー」
茜 「…どうやらオちたようです」
透 「詩子は…いつもこんなに酒癖悪いのかい?」
茜 「…実は」
透 「この前のコンパではまともそうだったんだけどな…」
茜 「人前では飲まないことにしているそうです」
透 「僕は勘定の内に入っていないのかな…嬉しいような悲しいような」
茜 「多分、嬉しいはずです…」
透 「はは…こいつも寝てると可愛いからな」
茜 「…この格好で寝かせておくとですか」
透 「(真っ赤になって)あわわ、ごめん!僕ちょっと出かけてくるから!」

茜 「詩子…こんな格好じゃ風邪をひきますよ」
詩子 「うふふ…透ちゃ〜ん」
茜 「詩子…」

光り溢れる季節。
すべてが命に輝いて。
その中で透はなおさら輝いて。
はしゃぐ詩子も輝いて。
わたしも…輝いていたのだろう。
たぶん…
雨が降っている日でさえ時々忘れるようになった。
こんな日に消えたもう一人の人を。
3人で出かけた海。
そこで。
わたしは透とキスをした。
まるでそれが当たり前であるかのように。
微笑んでキスをした。

わたしはどこまで想えるのだろう。
誰を愛したらいいのだろう。
どうして微笑みながら泣いているのだろう。
茜 「浩平、あなたがいないとわたし…」

詩子 「あーあ」
茜 「詩子、どうしたんですか?」
詩子 「茜、正直に答えてね」
茜 「…?」
詩子 「わたしって魅力ないのかな?」
茜 「…魅力的です」
詩子 「どこが?」
茜 「どこにでも現れて何の遠慮もなく行動するところがです」
詩子 「…それって魅力なの?」
茜 「少なくてもわたしは…とても励まされます」
詩子 「そう…そうだよね…」
茜 「はい」
詩子 「あはは、なんか悩んでたのが馬鹿らしくなってきちゃった」
茜 「…その方が詩子らしいです」
詩子 「…ねぇ、やっぱり何か偏見入ってない?」

声 「わたしたちずっと一緒にいようね」
それはとおい昔の記憶。
誰もが聞いた事のある言葉。

空高く心震える季節。
すべてが風に流されて。
わたしの心も流されて。
その中で。
透はわたしを優しく捕まえていてくれた。
詩子は心なしか元気が無い。
ある日。
わたしは透の家に誘われた。
それだけだった。
ただそれだけのことだった。

わたしは何を拒んでいるのだろう。
誰を望んでいるのだろう。
どうして心は重ならないのだろう。
茜 「浩平…」

詩子 「ねえ、明日の日曜二人で茜の高校にいかない?」
茜 「…詩子、また何か企んでいませんか?」
詩子 「あのねぇ…澪ちゃんよ、澪ちゃん」
茜 「澪ちゃんが何か企んでいるんですか?」
詩子 「…」
茜 「…冗談です」
詩子 「澪ちゃんが主演の劇がコンクールで優秀賞を取ったんですって」
茜 「…すごいです」
詩子 「でね、その劇を高校の体育館で再上演するんですって」
茜 「いきます」
詩子 「でね、主演女優の心得を聞き出すのよ」
茜 「…」
詩子 「それこそが真のヒロインの道よ」
茜 「…詩子、だんだん七瀬さんに似てきました」
詩子 「…作者のせいよ」
茜 「…そうですね」

通いなれた道を詩子と歩く。
去年まで毎日歩いた道。
ふと、立ち止まる。
今日は晴れているんだけど…
茜 「この空き地…」
詩子 「どうかしたの?」
茜 「…たしか家が建ったはずです」
詩子 「長引く不況と作者の都合で空き地に戻したんですって」
茜 「…」
詩子 「そこの看板に書いてあるわ」
茜 「…」

理由なんかはどうでもいい事だった。
重要なのはそこに空き地が存在しているという事だ。
あとは…

すべてが凍る季節。
最初は雨。いつしか雪。
そして再び雨。
涙も笑顔も凍らせて。
そんなわたし透は暖かく包んでくれた。
詩子は元気。いつでもどこでも力をくれる。
思えばわたしがこの一年を笑って過ごせたのは二人のおかげだった。
かけがえのない存在に感謝しながら。
わたしはわたしのあるべき所へ帰る。

季節外れの嵐だった。
ピンクの傘は壊れてしまった。
それでもわたしは待っている。
ずっと待っている。
…あの日からわたしの心はずっとここにいたんだ。
そして今もここにいるんだ。
透 「茜…」
いつのまにか透がわたしの側に立っていた。
自分が濡れる事も構わず傘を差し出す。
茜 「透…」
透 「…誰を待っているんだ」
茜 「ここで別れた人を…待っています」
透 「僕じゃ…無いのか」
そっと目を伏せて。
だけどはっきりと答える。
茜 「はい」
茜 「ここで別れた…もう一人の人です」
透 「そうか…」
茜 「…はい」
透 「君は…ふられたんだ」
あの人と同じ言葉。
あの時わたしを救ってくれた言葉。
だけど、今度は…

茜 「…いいんです」
微笑んで。
心から微笑んで。
あなたに伝えよう。
茜 「…それでもわたしは…待ちたい人を待つ事に決めたんです」
茜 「会えなくても…また会えるかどうかわからなくても…」
茜 「それでも想い続けることに決めたんです」
偽る事のできない気持ちを。

(そしてあなたにも…待っている人がいます)
(あなたが帰るべき人がいます)

透 「そうか…」
そう言うと透はわたしを抱きしめた。
わたしがよく知っている透の温もりだった。
そのまま額に、軽くキスをする。
透 「僕は…その言葉が聞きたかったんだ」
透 「その言葉が僕を望んで紡がれる事を願ってたんだ…」
透 「ずっと願っていたんだ…」
あの時にはもう、わたしの中には浩平がいました…

透 「…振られたのは僕の方だったんだね」
わたしではなく、あなた。
Another.

茜 「ごめんなさい、透…」
贖罪。
わたし、寂しかったから…
自分の気持ちを偽っていたから…
わたしが今あなたに贈れるのはこの言葉しかない。
透 「いいんだ…これでいいんだ…」
透は泣いていた。
もう何年も見た事の無い涙だった。
わたしも、泣いていた。
かつて私が感じていた痛みを感じながら。
またいつか私が感じるかもしれない痛みを感じながら。
茜 「でももし…あなたが許してくれるなら…」
茜 「わたし…あなたに…ありがとうって…言いたいです…」
茜 「わたし…あなたに…たくさんのもの…貰いましたから…」
茜 「わたし…あなたに…今日までずっと…救われ続けていましたから…」
茜 「だから…」
あなたへの感謝の言葉なんて独り善がりでしかない。
だけどわたしはそう伝えずにはいられなかった。
涙と雨に濡れて、こう言わずにはいられなかった。

茜 「ありがとう、透」
透 「ありがとう、茜」
…そしてさようなら、わたしが初めて想った人。
…そしてさようなら、僕の最愛の人。

One Another?
No.
Another One.

声 「ただいま」
茜 「おかえりなさい、浩平」

これは帰らなかったあなたに贈るもう一つの物語…
Another 『One』 story for you.

Fin. …?




















茜 「…ここから先は読まなくてもいいのかもしれません」
茜 「…少なくともわたしにはよく解りませんでした」
茜 「…永遠に解らないのかもしれません」
茜 「…わたしには」





強烈な照明が舞台を照らし出す。
かすかなざわめきの中、ゆっくりと幕が上がる。

詩子 「澪ちゃーん!」
茜 「…詩子、みんなに迷惑です」

第13回高校演劇コンクール特別優秀賞受賞作品「Another」。
開演の瞬間。

声「わたしたちずっと一緒にいようね」

あなたは今
『舞台裏を知らないこと』
一番多くの時を
Another
ずっと一緒にいようね
…と…が
創立記念日
足りなかった
学校はいつも
主演女優の心得は
わたしは誰を
誰とどこにいるの
盟約の言葉を
ピースの欠けたパズルは

茜 「…詩子、この劇解りますか?」
詩子 「なんとなく…解らないことも無いような気がしないでもないわ」
茜 「…それは解らないと同じです」
詩子 「あはは…なんとなく、よ」

共有していたのに
待てばいいのですか
絆はほんの少し
脚本家でさえ
彼が最後に求めたのは
One is
二人ではなく三人だった
幼なじみは
交わしていたとしたら
わたしたち
彼女ではなかった
いつまでもそのまま
手をつないで
忘れているの

茜 「詩子…」
詩子 「え…?」
茜 「泣いてます…詩子」
詩子 「どうしてなのかな…勝手に涙が流れるのよ」
茜 「そうですか…」

みさお
とおる
しいこ
みずか
あかね
こうへい

声 「これからはわたしがずっとそばにいてあげるよ」

Another…
Another…
Another…

茜 「わたしにはやっぱり難し過ぎます…」
詩子 「…そういう風に出来ているのよ」

澪 『物語の終わりはいつも突然なの』

Fin.
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……
……
由依 「ふぇええん、何かおっしゃってくださいよ〜」
エピローグ第六話。
トリを勤めたのは茜です。
半分は詩子だったりする。
幼なじみの名前は誰かのSSから拝借しました。
作者の方、怒らないでください。
…Tacticsのゲーム中の人名ってセンスいいですよね。
透って名前も。
それに比べて猫の名前なんて…

最後の部分ですか…単にやってみたかっただけです。
二つ一組で意味不明な文ができますが
完璧に繋げようとしても時間のムダです。
茜が聞いてはいけない言葉があるからです。
(決して作者が適当なわけではありません)
もし透が誰かと盟約を交わしていたとしたら?
詩子の存在理由とは?
すべてはAnother.
お好きなように想像してください。
茜 「…わたしは誰を待てばいいのですか」
…いや、これマジで書くと「ありがとう」が霞んじゃうのよ。
すでに霞んでるって。

感想なのじゃ。
>いちごう様
「身の程をよくわきまえている二人」でニヤッ。

>WILYOU様
さすがは住井。
ファーストキスだけでももらってやろうというところが「男の意地」。
入れ替わった浩平の行動がとても気になります。

>雫様
そこだ、詩子!もう一押し!…って何言ってんだか。
茜様、無敵入ってます。

>スライム様
ダイエット中ですか…だめですよ永遠をそんなに軽く扱っては。

>akanebon様、mizuka様
浩平…というかゲームに怨み持ってませんか?

>いけだもの様
こうきたら当然誰か一人は巫女さんスタイルですな。
浩平は論外としてみさき先輩と深山先輩のどちらがお勧めでしょう。
…なにが当然なんだか。

>T.Kame様
ついに駅名コンビのSS登場!
彼らもこれで報われる…かもしれない。

>GOMIMUSI様
やっぱねえ。澪とみさおってのは主人公からみるとかなり近い気がしますよね。
茜は何を企んでいるのでしょう。

>もうちゃん@様
ついにギロチンまで持ち出しましたか…
相変わらずの暴走ぶりです。

>KOH様
猫好きです。
お話してる繭が可愛いの。

…最近、感想が多いですね。
ふう。

エピローグは6人分全部書いちゃったし…
ま、ネタが浮かんだらまたきますわ。
んじゃ。