エピローグ「盟約」 投稿者: 11番目の猫
--------- 注意書 ---------
「Moon.」入ってます。
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(長森エンディング)
「うん、いいよ…」

------ エピローグ「盟約」 ------

「瑞……ま……覚…………すか…?」
「…母………ま…慌…………」
「で…………5日……よ……日…」

…何か遠くで声が聞こえる。
でも、あまり気にならない。
浩平が帰ってきたんだ。
だから、いい。
他には何も要らない。
また幸せのかけらを集めるんだ。
二人で。ずっと。

浩平 「よーし、今日は瑞佳デーにしよう」
長森 「ミズカデー?何それ?ブランデーの親戚?」
浩平 「ばか…お前のために一日付き合ってやるって事だ」
浩平…顔赤いよ。
わたしも…やっぱり赤いんだろうな。浩平よりもっと。
長森 「あ…うん…でも学校は?」
浩平 「サボる」
長森 「えぇーっ!?みんな浩平と会うの楽しみにしてるよ…だめだよ、そんなの」
浩平 「誰が何と言おうとサボる」
長森 「卒業できないよ」
浩平 「う…一日ぐらい関係ない。髭とはちゃんと話をつけてある」
長森 「はぁ…」
浩平 「どうしてもダメか?」
嬉しいけど…うんと嬉しいけど…でも…
長森 「ダ…」
浩平 「長森と一緒にいたいんだ」
えっと…ど、どうしよう…
浩平 「頼むよ、大好きな瑞佳」
長森 「う、うん…わかったよ」
はぁ…どうして断れないんだろ。
でも、いいか。
だって…嬉しいんだもん。

浩平 「よーし、午前中は商店街。午後は遊園地だ」
長森 「うん!」
浩平 「じゃ、いくぞ」
長森 「あ…でもこの格好で行くの?制服だよ?」
浩平 「大丈夫だ。この時期の高校なんて休みのようなものだ」
確かに進路の決まった人達にとってはそうだ。
長森 「…うん」
……
浩平 「長森はどの店に行きたい?」
長森 「浩平と一緒ならどこでもいいよ」
浩平 「今日は瑞佳デーだからな」
長森 「うーんと、じゃあ洋服。…あとは浩平に任せるよ」
浩平 「それだけでいいのか?」
長森 「うん」
浩平の事を見ているだけで楽しいもん。
一緒に歩いているだけで嬉しいもん。

世界が回る。
長森 「ん…」
一面の黄色。
花の匂い。
長森 「ここ…どこ?」
見渡す限りの菜の花。
長森 「こう…」
あれ?わたし今誰を呼ぼうとしたんだっけ?
大好きな…ずっと側にいたい…
なんだか頭が重い。

「にゃ〜」
後ろで物音がした。
振り返ると黄色い小猫が一匹。
長森 「おいで…」
しゃがんで手招きしてみる。
なかなかやって来ない。
……
長森 「いい子だね…」
なでなで。
柔らかくて暖かい。
そっと抱き上げてみる。
「ふぎゃぁ!」
長森 「痛っ!」
手の甲に滲み出す血の線。
朱。
黄色い世界にひと筋の朱。
…痛い…痛いよ…
…こう…へ…い…

浩平 「よーし、次は…お好み焼きでも食べるか」
長森 「あ…う、うん。」
あれ?
長森 「猫…」
やれやれ、といった表情の浩平。
浩平 「いくらお好みだからと言っても猫は選べないぞ」
手の甲を見る。
傷など無い。
浩平 「あ…すまん、冗談だからな」
ま…いいか。
小猫の事は忘れて楽しもう。
長森 「駅前のお好み焼き屋さん?」
そっか…あの時約束したもんね。
浩平 「当然だ」
何度も二人で歩いた商店街。
あの店。この店。
浩平との思い出がいっぱい。
わたしが一人で行く場所なんか…ない。
わたしが一人でいられる場所なんか…ない。

目の前を黄色い物体が通り過ぎた。
…いない…ここには…
…あなたは…いない…
私はまたここにいる。
一面の菜の花畑。
ただ一人。
どこまでも独り。
手の甲がうずく。
朱い線。

遠くから声が聞こえる。
「瑞佳………意識…閉ざ……………」
「…?」
「………彼女………無意識…目覚め…………拒否………………す」
「どう………?」
嫌。
とにかく嫌。
よくわからないけど嫌。
こんな言葉聞きたくない。
わたしは声に背を向けて。
小猫が走っていった方向へ歩き出す。
どこまで行っても菜の花畑。
誰もいない。
だけど。
この先に誰かがいる気がした。
知っていたのかもしれない。

浩平 「よーし、ついたぞ」
長森 「え…」
浩平 「たしかこの店だったよな」
長森 「う…うん、そうだよ」
わたし、何考えてるんだろ。
せっかく浩平といるのに。
もう一度お好み焼き食べられるっていうのに。
お昼前の駅前。
人ごみの喧燥もいつもと同じ。
目の前には「お好み焼き」の看板。
扉を開ける。
浩平 「よーし、食うぞ」

長森 「あれ…?」
ぬいぐるみ。
右も左もぬいぐるみ。
…あの猫かわいいな。
じゃ、なくて。
私たち、お好み焼き屋にはいったんじゃなかったっけ?
あわてて振り返る。
浩平はいない。
お店間違えたのかな?
店を出ようとして立ち止まる。
視界の片隅に写ったもの。
ピンクのうさちゃん。
あはは。「オイら!喋るぴょん」だって。
浩平ったら…
こんなところで買ってきたんだね、あの子。
一匹手に取ってみる。
「うっす!おれ、バニ山バニ夫!」
あれ?
「…以上、バニ山バニ夫が贈る、叱咤激励の言葉でした!」
「さらばピョン!」
どうしてわたしは泣いているんだろう。
こんなところで。

花霞。
…またわたしはこんな場所にいる。
片手にはうさぎのぬいぐるみ。
後ろから声が追ってくる。
「めったに無い症例なのですが」
「精神的にひどく追いつめられて意識を閉ざし眠りつづけたケースが報告されています」
「瑞佳がそうだと言うんですか…?」
うるさい。
どうして聞こえるのよ。
長森 「お願いだからほっといてよ!」
自分の声に驚く。
長森 「浩平と一緒にいたいのに…それだけなのに…」

そうだった。
浩平は…いないんだ。
すべては幻。
わたしが望んだ夢。

わたしはどれほど歩いてきたのだろう。
これからどこまで歩いて行くのだろう。
この世界を。
目印など無かった。
果てなど無かった。
…はずなのに。
わたしはそこに来ていた。

特異点。
世界の色が変わる。
青。
見渡す限り広がる海。
そこでわたしは「彼女」と出会った。

少女 「…こんにちは」
長森 「あ…こんにちは」
わたしより少し幼い感じの少女が立っている。
右手にはカメレオンのおもちゃ…かな?
わたしの知らない少女。
少女 「…みさお…みずか…みさお…みずか」
みさおって誰?
どうしてわたしの名前を知っているの?
少女 「…いやな女(ひと)」
針。
少女 「…どうして彼を所有しようとするの」
痛すぎる言葉。

(CGモノトーン指定)
わたしは知っている。
浩平に告白されてしばらく経ったころ。
広瀬さん達が噂してた事。
広瀬 「最近長森さんってなんか舞い上がってない?」
とりまきA 「あっ広瀬お姉様もそう思います〜?」
とりまきB 「ちょっと人気があって告白されたからってね〜」
広瀬 「ま、わたしはあれ程度の男なんぞ興味無いけどね」
とりまきC 「そうですよね〜」
とりまきD 「幼なじみだか何だか知らないけどいつも一緒ですもんね〜」
広瀬 「ま、お似合いってところかしら?」
とりまきA 「昨日なんかもなんかしつこく付いていこうとして逃げられたみたいですよ〜」
とりまきB 「やな女ね〜」
とりまきC 「あれで別れたりしたら笑い者ですよね〜」
広瀬 「ふふふ…」

聞こえないふりをしていた。
浩平がわたしから逃げているなんて…
あの日。
夜の教室で。
浩平以外の男の姿を見るまでは。

少女 「…それでもまだ追いかけるんだね」
わたしは…
少女 「…それとも痛みを忘れたの」
そんなわけない。

少女 「…ずっと見ていたね」
え?
少女 「…昔から。彼のことを」
長森 「……」

(CGモノトーン指定)
小学生の頃。
浩平を学校の玄関で待っていて。
同じ組のみっちゃんが浩平の下駄箱に手紙を入れるのを見て。
なんだかモヤモヤして。
手紙を破って捨てた。

声が変わる。
わたしのよく知っている声。
わたしに似過ぎている声。
わたしの…声。
少女 「浩平にはしっかりした人が必要だよ」
少女 「…嘘だよ」
そう、嘘。
少女 「ただ側にいたかっただけなんだよ」
長森 「……」
あの時はまだ気付いていなかっただけ。
自分の気持ちに。

少女 「…どうして忘れられたんだろうね」
え…
少女 「あなたを待っていたんだよ」
少女 「…公園で何時間も待ってたのにね」
少女 「雨が降り出しても待ってたんだよ」
わたしにもわからない。
どうしてあの時浩平の事を忘れていたのだろう。
少女 「あなたが必要だった…」
少女 「あなたがいつも一番近くにいたんだよ」
少女 「最後まで彼の存在を覚えていたのはあなただった…」
少女 「彼にはどうしてもあなたが必要だったんだよ」
あ…
少女 「…どうしてすれ違わなかったんだろうね」
少女 「交差点ですれ違えばよかったんだよ」
そう…だったんだ…
わたしが忘れたと思ったから…
長森 「…」

少女 「…どうして何も言わないの」
少女 「…黙っていないでよ」
少女 「答えて…お願い…」
糾。
長森 「それでも…側にいたかったんだもん!」
長森 「ずっと側にいてほしかったんだもん!」
長森 「わたしは浩平じゃなきゃだめなんだもん!」
叫。
長森 「忘れても…すぐに思い出すもん…」
長森 「悲しくても…忘れられないんだもん…」
長森 「何度でも…捕まえるもん…」
長森 「抱きしめて…あげたいんだもん…」
長森 「それだけしか…できないんだもん…」
長森 「そこにしか…いられないんだもん…」
うっ…ぐすん…

少女 「…でもまだ忘れているんだね」
少女 「一番大事な事を忘れているんだよ」
え…
少女 「だから…思い出させてあげるよ」

どこかで見た風景。
今はもうないあの空き地。
白いワンピースの女の子。
泣き虫の男の子。
みずか 「えいえんはあるよ」
どこかで聞いた言葉。
みずか 「これからはわたしがずっとそばにいてあげるよ」
…ア…
幼い二人のキス。
…ワタシ…?
…ワタシ…ナンダ…

白いワンピースの女の子は「彼女」へと変わる。
泣き虫の男の子は浩平へと変わって…消えた。
みさお 「永遠の盟約だよ」
みずか 「永遠の盟約だよ」
永遠の盟約。
あの日、幼いわたしが紡いだ言葉。
あの日、わたしが置き忘れた半身。
わたしは今。
それと向き合っているのだ。

こんなところにいたんだね…浩平。
ごめんね…。
長森 「浩平…姿を見せてよ…」
少女 「…」
長森 「わたしはここにいるよ…」
少女 「…無駄だよ」
え…
少女 「…もう…いないのよ」
そんな…

少女 「どうして…許せるのよ…」
わたしが悪いから。
少女 「どうして…それでも求められるのよ…」
どうしても側にいたいから。

うさピョンがしゃべりだす。
「そして、そのバカがいないときでも笑っていろよな、長森!」
「引きつりそうな限界の笑顔で、笑ってろよな!」
「じゃないと、あいつが戻ってきたときに、寂しい思いをするからな!」

少女 「どうして…あなたが…選ばれるのよ…」
浩平も同じだから。
長森 「浩平は…『側にいたい』って言ってくれた…もん…」

少女が後ろを向く。
少女 「だったら…どうしてあなたはここにいるのよ…」
小刻みに震える肩。
少女 「とっとと帰ってよ…早く帰りなさいよ…」
涙の混ざった声。
少女 「彼は…帰ったのよ…もう…いないのよ…」
わたしはそっと彼女を抱きしめる。

長森 「あなたも望んでいたんだね…ずっと…」
答えはない。
長森 「…ありがとう、わたしの半身」
そっと腕をほどいて。
わたしは歩き出す。
帰ろう。
わたしのいるべき所へ。
浩平は帰ってくるんだ。

男 「長森瑞佳さんの病室はどちらですか?」
看護婦 「…お見舞いの方ですか?」
男 「はい」
看護婦 「…家族かお友達ですか?」
男 「いいえ」
看護婦 「…不審な方に病室を教える事はできません」
男 「恋人です」
看護婦 「…」
男 「病室は?」
看護婦 「…323号室です」
男 「どうも。じゃ」
看護婦 「…ヘンな真似はしないでください」
男 「…」
看護婦 (…うらやましいです)

花風。
黄色い花びらを舞わせて。
私の隣を通り過ぎてゆくものたち。
「…ありがとう…お兄ちゃん…」
風に混じって。
彼女の声。
あの風はどこまで声を運ぶのだろう。
あの声は誰に贈られた言葉なのだろう。
誰がこの世界の果てで待っているのだろう。

医師 「おや、誰だね、君は」
男 「…」
長森の母 「あら、しばらくぶりね…」

みんなの声が聞こえてくる。
お母さん、心配かけちゃってごめんね。
もう一度前を向いて強く生きるんだ。
浩平のためにも。
彼女のためにも。

浩平 「おっす、長森」

目を覚ますと。
そこに君がいた。

抱きしめられる感触。
抱きしめている感触。
長森 「浩平、浩平…ずっと待ってたんだよ…ぐすん…」
浩平 「よしよし…帰ってきたんだから笑って出迎えろ」

1st.
10年前。
幼い二人の盟約は少年の涙を止めた。
永遠の始まり。

2nd.
夜の中庭。
二人は互いの想いと絆の深さを確かめ合った。
別れの前奏曲。

3rd.
そして今。
すべては在るべき処にかえる。
二人は流れゆく季節の中で一緒に歩むことを選んだ。
再開。

盟約。
それは誓いの言葉。
破られる事のない約束。

長森 「これからもずっと浩平の側にいてあげるよ…居たいよ」
浩平 「ああ、俺も長森の側にいるよ…居たいからな」

祝福。
看護婦 「…お幸せに」

Fin.

(CGモノトーン指定…ダレカカイテクレ)
(誰もいない砂浜)
(うさぎのぬいぐるみとカメレオンのおもちゃが並んで転がっている)
(そのままスタッフロールへ)

----- あとがき -----

「モア・エピローグ」三部作完結編!
真打・瑞佳登場!。
…そうかこれはシリーズものだったのか。

何も知らないままでいられるのは幸福なこと。
だけど盟約の片親として長森にはそこに行く資格があるはず。
すべての決着をつける(ついたのか?)というSSです。
個人的にはメインヒロインですから。

みさお=ドッペルみずかというのは結構難しかった。
みさおが他人を責めるところ…想像できない。
みさおとドッペルみずかが交互にしゃべってる部分はわかりにくいかな。
MINMESとELPODを合わせたようになってしまった(泣)

看護婦はなぜか茜です。
それもピンクのナース。(縛)
どうして茜だけがこんなによく似合うんだ?

以下感想にゃ。
最近掲示板の回転が速くて…仕事中に読むのは大変なのじゃ。

>しーどりーふ様
「雨」の歌詞か…いい感じっす。
挑戦してみようかな…

>偽善者Z様
ハムスターの視点ですか…凝ってますね〜。
浩平犯科長も続きがすごく楽しみです。

>OZ様
ちっ先を越されたか…
割と長森の盟約SSって書かれてないですよね。

>GOMIMUSI様
…ONE映画化決定。
あとは任せます。

>藤井勇気様
ももたろさんですね〜。
長森と七瀬がいい味だしてます。
…やっぱ猿は七瀬しか適役がおもいうかびませんね。

>WIL YOU様
やってくれますね。住井。
次はだれが犠牲になるのか。
次は何をつくってくれるのか。
とても楽しみです。