七瀬トップ記念SSその2 投稿者: 11番目の猫
----- 注意書 -----
じんましんが出るかもしれません。
作者はそれほどヘンではありません。

「幻想」:どうぞ「ふぁんたじぃ」とお読みください。
「微笑んで」:どうぞ「えんで」とお読みください。
----- 注意書おわり -----

楽しいことが次に待つときには、そういうものなんだ。

------ エピローグ・「幻想」 ------

「ねえ君、魔法使いは幸福だと思うかい?」
「え?僕は誰かって?」
「僕は…誰なんだろうね」
「それじゃあ、また後で」

あたしと折原は不思議な建物の前に立っていた。
七瀬 「ちょ、ちょっと折原…これ何よ」
浩平 「ダンスフロアだ」
七瀬 「こんなところにこんな建物あったっけ?」
七瀬 「あたし、この街に来てから一年以上経つけどこんな建物見たことないよ」
浩平 「自分の目を信じるんだ」
あたしは自分のほっぺたをつねってみた。
う、痛い…

お城だった。
目をつぶってまた開けてみる。
やっぱりお城だった。
あっ、お城っていっても日本のじゃないよ。西洋風のやつ。
シンデレラが見たら大喜びしそうなやつ。

浩平 「さ、入るぞ」
七瀬 「入るって…本当に?折原とあたしが?」
浩平 「他に誰がいるんだ」
七瀬 「うっ…」
七瀬 「でも、こんな格好で…」
さっきはああ思ったけどいざ入ろうとすると結構気になるものだ。
浩平 「きれいだよ。お姫様」
勝手に折原の頭に向かっていこうとする手をひっこめる。
乙女の夢、乙女の夢…
あぁぁぁ…やっぱとても恥ずかしい…
折原、こんなこと真顔で言えたんだね…

らせん階段の先の大きな扉。
すこし恥ずかしそうに。
でもとても嬉しそうに。
二人は扉をくぐるんだ。

扉の先には大広間。
ここがダンスフロアなんだね。
とっても豪華なダンスフロア。

あちこちでペアが踊っている。
うーん、見知った顔はないな…
あったら恥ずかしいよね。すごく。
まあお互い様か。

音楽が流れている。
どこかで聞いたような曲。
だけど決して思い出せない曲。
でも、誰でもステップが踏める曲。
あれ…どうしてあたしこう思ったんだろ?

浩平 「踊るか、七瀬」
すこしぼーっとしていたあたしにあいつが声をかけてくれた。
大きく肯く。
ステップを踏み出す。

くるくる…くるくる…
光の輪が流れる。
あたしもあいつもとってもステップが上手。
二人で練習したもんね。
去年…あ、一昨年か…
クリスマスに公園でこうやって…
踊って…そして…キスしてくれたっけ…
そう…こうやって…
一年ぶりのキスはとても甘かった。
とても甘かったんだ。

あれ?…これって…うれし涙ってやつ?
二人はそのまま黙って踊りつづける。
体を寄せ合って。ゆっくりと。

「やあ、また会ったね」
「僕は今、お城で暮らしているんだ」
「…彼女と一緒にね」

曲が終わる。
次の曲がかかるまでの間の小休止。
浩平 「七瀬、ベランダにでないか」
七瀬 「…うん」
なんか、あいつの顔まともに見れないよ…

音が聞こえそうなくらいきれいな月。
…なんかあたしヘンかもしれない。
だけど。
あたしのとなりにあいつがいる。
とても幸福な現実。
浩平 「長く待たせちゃったな…」
そっと首を横に振って。
あいつの唇に指を伸ばす。
微笑んであげる…微笑んであげるよ。

テラスに二人並んで夜の街を眺める。
あいつが口を開く。
浩平 「なあ、七瀬」
七瀬 「なに?」
浩平 「シンデレラにでてくる魔法使いって幸せだったと思うか?」
七瀬 「ええ!?…」
なにか悪いものでも食べたの?と聞きそうになる口を閉じる。
あいつ、悲しそうな目してた…
七瀬 「えーっと、きっと幸せだったと思うよ」
浩平 「…」
七瀬 「少なくともシンデレラは幸せになったんだから」
七瀬 「望んだ人が幸せになるのを見れたんだから」
浩平 「そうか…そうだな…」
七瀬 「でも、折原って意外とロマンチストなんだね」
浩平 「七瀬ほどじゃないさ」
あいつ、笑ってる。
でも…何言おうとしたのかな…さっき…

浩平 「よーし、もう一踊りするか」
七瀬 「うん」
大広間では次の曲がすでに始まっていた。

「彼女はお姫様なんだ」
「そして僕は吟遊詩人」
「だけど本当はもう一人ここにいるべき人がいるんだ」
「いや…いたんだ…」
「ここにいたんだ」

大広間の奥。
入口の扉の正面に。
きらびやかな玉座がある。
だれも座っていない玉座。

もう一度、踊り出す。
この前とは違うステップで。
違う曲には違うステップ。
だけど二人とも間違えないよ。
王子様とお姫様なんだから。

楽しい時間って過ぎるのが早いんだね。
…知ってたけどさ。
だけど…多分あたしの今までの一生で一番輝いていた時間だったよ。
だから。すっごく損した気分。
七瀬 「ねえ、このダンスフロアの閉館時間って何時?」
浩平 「12時」
七瀬 「シンデレラね。本当に」

そういえば…
12時になるとどうなるんだっけ?
シンデレラって。
たしか…魔法が解けて…
ドレスがぼろ服に変わって…馬車がカボチャに戻って…
ふふふ。
このドレスはあいつからのプレゼント。
馬車は最初っから自転車。
私には簡単に解けるような魔法はない。
このダンスホール?
もし無くなったって…惜しいなあ。すごく。

でも…あった。
一つだけあった。
今日起こった魔法が。
絶対解けて欲しくない…解けちゃいけない魔法が。

七瀬 「折原!このまま12時になったら何が起こるの?」
浩平 「閉館時間だ。追い出されるに決まってる」
ふう…人の気も知らないで。
本気で心配したんだからね。
浩平 「そして…」
え?
浩平 「魔法が解けるんだよ」
そう言って。あいつはあたしを強く抱きしめた。
ちょっと…それって…
壁にかかった大時計を見る。
12時5分前!?
あいつの手をとる。
逃げなきゃ…ここから…
あいつを…絶対…

ドアを開く。
片手であいつの手を引っ張って。
もう一方の手でドレスのすそを持ち上げて。
一気に階段をかけ降りる。
このヒール走りにくい!
ヒールを脱ぎ捨てる。
安物だからいいのよ。
ドレスには合ってたんだけどなあ…
二人は手を繋いだままで。
おとぎの城から逃げ出した!

12時の鐘が後ろで鳴る。
やった…あたし…やったよ…
あいつを…
あれ?
手…繋いで…ない…?
いつほどけたんだろ?
七瀬 「折原?」
返事はない。
七瀬 「お・り・は・ら・ー!」
やっぱり返事はない。
こわい…振り向くのがこわいよ…
あたしだって女の子なんだよ。
返事してよ…折原…お願いだから…

浩平 「忘れ物だぞ。ほら」
えっ…
それでもおそるおそる振り返る。
そこにはあいつが立っていた。
両手にあたしが脱ぎ捨てたヒールを持って。
だけど。
あのお城は。
まるで最初から存在しなかったかのように。
その姿を消していた。

「ここに王子様はいないんだ」
「王子様はもう一人のお姫様を選んだんだ」
「最後まで選択肢は存在していたけどね」

そっと。あいつがあたしに靴をはかせてくれる。
シンデレラは幸福の中でその舞台を降りる。
すべてはあたしの望んだ物語。
あいつ、最後まで演じてくれた。

いつから本気になったんだろう。
あいつをあいつとして好きになったんだろう。
シンデレラの物語は終わったけど。
この気持ちは永遠に変わらない…多分。
ううん、多分じゃなくて絶対。

腕を組んで。静かに歩き出す。
七瀬 「もう2度といなくなったりしないよね?」
浩平 「ああ。約束する」
あいつははっきりと答えてくれた。
七瀬 「ねえ、折原…魔法って本当にあるのかな?」
浩平 「多分…な」

空の向こうにある世界。
この世界のどこか。
水晶でできた城がある。
その城の大広間。
その大広間のさらに奥。
きらびやかな玉座に。
お姫様は座っている。
ころころ…ころころ…
お姫様の手のひらから聞こえる音。
薬指から。
くだけたリングが床に落ちる。
壊れた盟約。
もう、この城を王子様が訪れることはない。
お姫様は笑わない。

風が吹く。
「きたよ…風…」
お姫様が寂しく笑う。
側に控えていた吟遊詩人が。
竪琴を手に歌い出す。
風は歌を乗せて。
世界の果てまで旅をする。

「僕は君のためにずっと歌っていたんだ」
「君は絆を選んだようだね」
「だからこれからは僕は彼女のために歌うよ」
「僕に与えられた時間を彼女のために使うよ」

ひとつの物語が終わり。
また次の物語が始まる。

「物語はいくつも存在するんだ」
「そのひとつひとつが現実なんだよ」
「人はみな物語の中で生きているんだよ」

fin.
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「王子様を強奪するシンデレラ」七瀬のお話です。
またいなくなったらやだよね。すごく。

シュンとみさおについてはあまり気にしないでください。

電波が…宇宙からの司令が…SSを書かせるんだ…(縛)