エピローグ・「痛み」 投稿者: 11番目の猫
「浩平君、卒業式さぼったらだめだよ…」
「うーん、ちょっと寝過ごしたな」
「…ちょっとどころじゃないよ」
「…ずっと待ってたんだよ…」
「…毎日待ってたんだよ…」
「…それなのに」
「ごめんな…」
「…そうだ…」
「これだけは浩平君の前で言いたかったんだ」
「浩平君、卒業おめでとう」

------ エピローグ・「痛み」 ------

浩平「…ありがとう先輩」
みさき「…」
浩平「…」
ただただ嬉しかった。大切な人がまた側にいてくれることが。
みさき「…ね、公園行こ。デートの続き、しよ」
浩平「…そう…だな」

商店街。
あの日、君が教えてくれた世界。
にぎやかな風。
みさき「ほら、もう一人でも歩けるよ」
みさき「こっちにはコンビニ、あっちにはCD屋さん」
浩平「…すごいな、本当に」
みさき「ね、浩平君お金…持ってる?」
浩平「(ギクッ)先輩のお昼代くらいは…なんとか…多分」
みさき「最後のが少しひっかかるけど、嬉しいよ〜」
浩平「どこにする?」
みさき「ハンバーガーショップは全品制覇しちゃったし…」
浩平「…(本当にしたのか)」
少し遅めのお昼は近くの食堂の定食で過ごした。
浩平(あえて語るまい…)

公園。
あの日まで、望んでも手が届かなかった世界。
あの日、君がいなくなった場所。
桜の匂いはあの日と同じ。
アイスクリーム屋さんは…今日はいないみたいだ。
みさき「…」
浩平「…」
二人とも無口になる。
つないだ手をほどけないようしっかり握る。
あのベンチで。
みさき「一緒に…座ろうよ」
浩平「そう…だな」
(CG切り替え…ってオイ)
みさき「ひざまくら」
浩平「えっ?」
みさき「ひざまくら…」
浩平「もしかして俺がまくらになるのか?」
コクン。
浩平「首が痛くなるぞ」
みさき「大丈夫だよ」
浩平「俺としては逆の方がいいんだが…」
みさき「ダメだよ」
浩平「ウーン…まっいいか」
みさき「…眠ってる間にいなくなったらダメだよ」
浩平「ああ」
……
……
「…先輩…」
「…先輩…風邪ひくぞ…」
なつかしい声。暖かい声。聞きたかった声。
…だけど…
えっ?
…あるよ…
誰…この声?
…永遠はあるよ…
さびしそうな声。
浩平君…そっち行っちゃやだよ。
急に目が覚める。そこは赤い世界。
みさき「浩平…君?」
みさき「そこにいるよ…ね?」
浩平「…起きたのか、先輩。」
みさき「うん…」
気のせいだよ…きっと。
浩平君はここにいる。
約束してくれたもの。
ちゃんと帰ってきてくれたもの。
みさき「夕焼け…かな?」
浩平「うーん、90点」
みさき「いい点だね」
浩平「ああ。俺の今までみたなかじゃ最高点だ」
みさき「ふーん」
ほっとする。
ずっと…こうしていたいな。

桜の匂いをのせて。
少し肌寒い風がふいた。
みさき「…そろそろ帰ろうか」

ふたたび手をつないで。
夕焼けの中を歩き出す。
他愛の無い会話。
幸福を実感する瞬間。

突然彼が立ち止まる。
わたしもつられてたち止まる。
ほどけた指先。
浩平「…先輩…」
みさき「何?」
浩平「ごめんな…ずっと待たせて」
みさき「ううん、帰ってきてくれたんだもの」
浩平「ごめんな…もう待たなくてもいいんだ」
みさき「あやまらないでよ…」
浩平「俺は…俺は…」
みさき「浩平君?」

冷たい風が言葉をさらう。
みさき「きゃっ」
浩平「帰れ…かっ…んだ」
みさき「ごめん…よく聞こえなかった」
みさき「いまなんて言ったの?」

浩平「川名みさき!」
みさき「は、はい!」
浩平「卒業、おめでとう」
…へ?
なにかを手渡される。
…あ、これ…花束だ。
みさき「今日は…君の卒業式だよ」
みさき「わたしのは去年済んだんだよ」
でも…やっぱり今年も二人だけの卒業式だね。
そう思って。微笑む。
浩平「やっぱり先輩は笑顔が一番だ」
みさき「うん…ありがとう」

抱きしめられる。
みさき「ダメだよ…花束、つぶれちゃうよ」
一年前と同じ匂い。
そしてキス。
一年前と同じ味がした。

「俺は…帰れなかったんだ」

消える。
匂いが。ぬくもりが。
抱きしめていたあの人が。
手をのばしても何も触れない。
声をかけても誰も答えない。
「冗談…だよね」
一年前と同じ言葉。
「うそ…」

薄暗い闇の中で。
どのくらい泣けば涙はつきるのだろう。
何度も思ったことがある。
この一年は特に。

「あ…れ…」
「みえる…?どうして…?」
最初にわたしの視界に飛びこんで来たのは白い手だった。
涙にぬれた。わたしの…手。
「ここ…どこ?」
視線をめぐらす。何年ぶりかの感覚。
そこは夕焼けの公園。
桜の花びら舞う赤い公園。
…想像していたのとはかなり違ったみたいだ。

…ダケド…ダケドネ…
…ソコニ…アナタハ…イナイ…

「浩平君…わたし…まだ…君の顔…知らないよ…」

浩平君…浩平君…
「もう、待たなくていいんだ」
「やっぱり先輩は笑顔が一番だ」
そっか…そう…なんだね。
ありがとう。
そしてさようなら。
残酷なほど優しいあなた。
わたしと…あなたの…2度目の卒業式。

そっか…目が見えても…涙はこんなに流れるんだね…
大丈夫…わたし…また笑えるよ…

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はじめまして。
この掲示板には初投稿の11番目の猫です。
しかしこの掲示板すごいっすね。
めったにこんなものは書かないんですけど、
感想とかあったら喜びます。