Everlasting Days 〜終わりなき日常〜 投稿者: Sasho
第2回 入学式・1

ジリリリリリリッ!
目覚ましが鳴っている音。
条件反射的に目覚ましを止めると、体を起こしカーテンを開ける。
カシャアッ!
カーテンが引かれる音。同時にまばゆい陽光が瞼の裏を刺す。
「う〜ん、今日もいい天気だね」
誰に言うでもなくそんなことを言い、制服に着替える。
(今日からこの制服を着て、学校に行くんだ…。何だか、新鮮だな)
新しく入学する学校への思いを馳せながら階下へ向かう。
「にゃ〜ん」
そこへ私を待っていたのは私の家で飼っている8匹のネコたちだった。
「おはよう。今日も早起きだね」
私の姿を見つけたネコたちは、私の足にじゃれついてくる。
これが私の家のネコたちのごはんのおねだりをするときの行動なんだ。
「わかってるって」
と言い、冷蔵庫から缶詰を取り出す。
ちなみに、朝のネコの世話は私の仕事なんだ。
「今すぐに用意するから待っててね〜」
手際よく皿に缶詰の中身を盛ってやると、一斉に食べ出した。
(まるでどっかのCMを見てるみたいだな…)
そんなことを考えながら今度はトイレの砂換えをする。
前日の砂をゴミ袋に入れ、新しい砂を入れてやる。
「よしっ、こんなもんかな」
「あらっ、今日は早いわね。そう言えば、入学式だったものね」
背後で声がする。多分、お母さんだ。
「そういえば、折原君も同じ高校へ入学したのよね。中学の時みたいに一緒のクラスになれると良いわね」
「そうだね」
そう言うと、お母さんは台所へ向かっていった。
「朝ご飯、何がいい?」
「簡単なものでいいよ」
「じゃあ、目玉焼き作るわね」
「うん」
いつもの他愛ない会話。でも、今日は何だか新鮮な気がする。
(今日から新しい学校に行くからかな?)
お母さんが料理をしている間に牛乳をコップに入れる。
「はいっ、できたわよ」
「いただきます」
早速、今出されたばかりの目玉焼きにしょうゆをかける。
(やっぱり、目玉焼きにはしょうゆよね…)
(でも、浩平は『ソースの方が断然いい』って言ってたけど、私にはさっぱりしたしょうゆの方が会ってるんだよね)
朝食を済まし歯を磨いた後、玄関に向かう。
「それじゃ、お母さん、いってきます」
「はい。いってらっしゃい」

通学路を歩きながら腕時計を見る。
7時45分。
(これなら余裕だよね。…浩平がちゃんと起きてくれれば………)
浩平の家の前に着くと、浩平の叔母さんの由紀子さんが玄関から出てきたところだった。
「おはようございます」
「おはよう、瑞佳ちゃん。いつも悪いわね。あの子、まだ寝てるみたいだから起こしてやって頂戴」
「わかりました。お仕事、頑張ってください」
「うん、瑞佳ちゃんも、ね」
そう言って由紀子さんは車に乗って仕事に行った。

浩平の部屋の前でとりあえずノックをする。
コンコン…。
何の反応も返ってこない…。
(やっぱりまだ寝てるみたいね…。ちゃんと起きてくれるといいんだけど…)
ドアを開け、中に入る。
浩平の寝息が聞こえる。
(まったく、しょうがないなぁ)
カシャアッ!
カーテンを開けると、外の暖かな光が部屋の中に入ってくる。
そして、いつものように声をかけてやる。
「ほらぁ、起きなさいよーっ!」
そして、いつものように浩平を起こすために布団を剥ぐ。
がばぁっ!
布団を剥がれて、一瞬浩平の体が反応したが、すぐにまた眠ってしまった。
「ほらっ、起きてってば浩平」
そう言って、浩平の体を揺すってやった。
が、
ずるっ。
ごん。
「あぁ〜」
(ちょっと強くやりすぎちゃったかな…。浩平、大丈夫かな…)
浩平は体を起こして、さっきまで寝てたとは思えないほどのハイテンションで私に怒鳴ってきた。
「ばかっ、何てことをするんだ!」
「だって、浩平が全然起きないんだもん。不可抗力だよっ!」
「うるさい!わざとだろっ、言い訳するな!」
「わざとじゃないもん」
「いや、わざとだ。だいたいだな、おまえは…」
「そんなこと言うなら、浩平こそ…」
そんなやりとりをしていると、かなり時間が経ってしまった。
「って、時間!」
「ん? 今日はまだ春休みじゃないのか?」
「春休みは昨日までだよ、浩平。 それで今日は入学式だよっ」
「ぐあっ、そういえば…。 で、時間は?」
「はいっ」
といいながら、腕時計を浩平に見せてやる。
8時20分。
「いつもながら、芳しくない時間だな」
「とにかくっ、浩平、早く着替えてよ」
「わかったわかった」
そう言ってやると、やっと浩平は制服を着始める。
(そういえば、浩平の高校の制服姿ってまだ見てないんだよね)
そう思い、浩平の方を見ると中学の頃の制服を着ようとしている所だった。
「浩平、それ中学の時の制服」
「長森……。 実はオレ、中学を留年したんだ。だから今日から長森は先輩だけど、今まで通り接してくれるよな……」
浩平のいつもの冗談だ。まったく、遅刻しそうなのに…。
ため息をついて、あきれた顔をしながら
「わかったから、早くこっちの制服に着替えて」
と言いながら浩平に高校の制服を渡してやる。
中途半端な冗談をこれ以上続ける気もないらしく、今度は素直に制服を着てくれる。
「じゃあ、行こうか」
「うん」

高校への道を走りながら浩平と話をする。もう、中学の時からの登校時の日課のようになっている。
「まったく、こんなんじゃこれからの高校生活が思いやれるぞ、長森」
「そんなっ、浩平がちゃんと起きてくれれば余裕で間に合う時間に来たんだよ」
「そんなこといって、またオレを悪者にするつもりか?」
「そうは言ってないもん」
「いや、同じようなものだ」
「解ったから、明日からはもうちょっと寝起きをよくしてね」
「……努力はしてみる」
「うん」
そして浩平は高校の校門への直線をラストスパートをかけて走り抜けていってしまった。
「まってよ〜。浩平〜」
そう言って全力で浩平を追いかける。

校門をくぐり抜けて、ようやく体育館前にいる浩平に追いつくと
「おい、長森。 体育館ってどこだ?」
と、言ってきた。
(また、ふざけているのかなぁ?)
そう思いつつ、答えてやる。
「……浩平の目の前だよ」
「おおっ、こんな近くにあったとは…。 『灯台もと暗し』とはこの事だな」
「っていうか、浩平が鈍感なだけだよ」
「今のは聞き捨てならないぞ、長森。 オレはこう見えても敏感な男ともっぱらの噂だ」
「誰が言うんだよ、そんなこと」
(少なくとも、中学の時はそんな噂を聞いたことはなかったけど…)
「オレだ!」
「はぁっ……」
(……そんなことだろうと思った…)
「ところでもうすぐ入学式が始まるんじゃないか?」
浩平がそう言っているそばからチャイムが鳴る。
キーンコーンカーン……
「わぁっ、チャイムが鳴ってるよ、浩平」
私が浩平にそう言っていたときにはすでに体育館に向けて走っていた。
(……薄情)
そう思った。
しかたないので私も遅れて体育館に走っていく。

体育館の中に入るとまだ入学式は始まる前だった。
周りを見るとまだ2、3年生が並んでいる。
「なんとか間に合ったな。長森」
「勝手に走って言っちゃう何てひどいよ」
思いっきり頬を膨らませて言ってみる。
「いいじゃないか、間に合ったんだから。 それにしても、入学式に遅刻しそうになるのって俺たちくらいかな?」
「そうかもね」
(まっ、いいか…)
そこに、私たちの後ろの方から何か声が聞こえる。
(あれっ、何か今後ろの方で声が…)
そう思って、振り返ろうとした瞬間、浩平が
「あぶない、長森」
と言って私の影に隠れてしまった。
「えっ、ちょっ、こ、浩平〜」
状況が理解できない。
ふと、後ろの方から気配を感じ、振り返った。
そこには猛スピードで走ってくる少年が目の前にいた。
ドンッ!
そして、その少年にぶつかった。
……痛い。
数秒後、気を取り戻す浩平が手を合わしなにやらお経のようなものを唱えていた。
「長森、身を呈してオレを守ってくれてありがとう」
(……………)
「う〜っ、私を盾にするなんてひどいよ、浩平」
恨みを込めて言ってやる。すると、浩平は驚いてこう言った。
「うわっ、長森が生き返った」
「勝手に殺さないでよ…」
「すまん。 でもオレは『あぶない、長森』って言ったぞ」
「確かにそうだけど……」
「ところで、何が起こったんだ?」
「確か、男の子がものすごい勢いでぶつかってきたんだよ」
「うっ…」
どうやら、気を取り戻したみたいね。
「大丈夫?」
「ああ…。 あんたらも新入生か?」
「そうだ。おまえは?」
浩平がそう言った瞬間、ステージ上で教頭先生らしい人が、
「これより第64回入学式を始めます。一同、起立」
と言っていた。
「話は後だ。とにかく空いている席へ行くぞ」
と浩平が言い、私たちは新入生らしい人たちのいる一番後ろの席に先生たちにばれないように進んでいった。

無事、先生たちにばれることもなく席に着くことができた。
「ふうっ、何とか間に合ったな」
浩平がくつろいでいると、さっきの男の子が話しかけてくる。
「オレは『住井 護』って言うんだ。よろしく」
「私は『長森 瑞佳』。で、こっちが『折原 浩平』」
「こっちとは何だ、長森」
「いいじゃない、別に」
「良くない。だいたいだな、いつもおまえはオレに迷惑をかけるくせにだな、すぐ自分のことを棚に上げて文句を言う」
「それは浩平じゃない」
「何っ? オレはこう見えても気がきく男で世間に通っているんだぞ」
いつものように言い争っていると、住井君が
「おい、周りの注目を浴びてるぞ」
と言ってきた。
(………入学式から、こんなことになるなんて。私の高校生活、どうなるんだろう…)
ちょっとブルーになっていると、住井君がさっきより小声で話しかけてくる。
「それにしても、仲がいいな。二人とも」
「うん。幼なじみなんだ」
「腐れ縁ってやつだ」
「へえっ…。 そうだ、今日は俺たち3人の出会いを祝してカラオケにも行かないか?」
「でも…」
「昨日は大勝ちしたからな、金のことなら気にするな」
(一体、何に大勝ちしたんだろ?)
私が質問しようとすると浩平が
「おしっ。その話、乗った。長森も当然行くよな」
と言ってきた。仕方なく、それに返事をした。
「浩平がそう言うんだったらつき合うよ」
「よしっ、じゃあ放課後に校門前に待ち合わせな」
「ああ」
ふと、辺りを見回してみると、会場は静まり返りみんながこっちに注目している。
(………はぁ)
「ちょっと、また周りの注目を浴びてるよ」
「仕方ない、静かにしてようぜ。初日から教師に目を付けられるのは得策ではない」
「そうだな…」
そうして、ようやく普通に入学式が受けれるようになった。

つづく。(のか?)

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この話は、Everlasting Days 〜終わりなき日常〜 第1回 入学式・1
の瑞佳視点のバージョンです。
前回投稿したのと併せて読み比べてくれると良いと思います。
奇数回で浩平視点、偶数回で瑞佳視点と言う形で連載していきたいと思います。

前回はタイトルが間違っていました。
今回のが正式タイトルです。

それでは、また。