【12】 虹
 投稿者: PELSONA <pelsona@grn.mmtr.or.jp> ( 謎 ) 2000/3/7(火)04:10


『虹』


第1話  Promised land



哀しかった。

悔しかった。

信じられなかった。

信じたくなかった。

受け入れたくなかった。

受け入られなかった。



少しずつ温もりを失っていく妹の手を握り締め、僕は初めて人は死ぬ、ということを実感した。

先生が悲痛そうな面持ちで臨終の時間を告げる。

そんな重苦しい空気の中、看護婦がその時間をカルテに書き込む音だけが響いていた。

無機質な室内が、その空気が、音を立てると言うことを拒んでいるように思えた。

由起子おばさんが僕の体を強く抱きしめている。

おばさんの手はかすかに震えていて、でも、僕を不安にさせまいと抱きしめている腕は暖かい。

その手の暖かさが、僕とみさおの違いを見せ付けているようで厭だった。

こんな時だと言うのに、お母さんは来なかった。

お父さんは、どうなっているのかもわからない。

お母さんが買ってきた「運を呼び寄せる」とか言う派手な壷が、厭に目に付いた。

僕は其れをぼんやりと見つめながら、結局運は呼び寄せなかったな、と思った。

部屋は、静かだ。

先生は此方の反応を待っているのか、終始無言でみさおの顔を見つめていた。

哀しかったんだと思う。

あの時、僕は本当に悲しかった。

大声で泣き喚いて、みさおに縋り付きたかった。

自分自身を壊すように、取り乱したかった。

でも、涙は出なかったんだ。

本当に、どうしようもないぐらい哀しかったのに。

「浩平は強いね」

おばさんが、僕の頭を微かに震える手で撫でながら言った。

僕は其れには答えず、只、黙ってみさおを見つめていた。

髪の毛も無くなって、血の気も無くなった顔だけれど、みさおは眠っているように見えた。

でも、僕は其れが眠っていると言うことではないとはっきりと感じていた。

神様なんて居なかった。

そして。

永遠に続くものなんて無かった。

僕は生まれて初めて、そのことを実感した。

でも。

だからこそ、僕は心の底から永遠を願った。

永遠に続く世界を。



§



カーテンから差し込む光で目が覚めた。

軽く目を擦り、大きく伸びをするとベッドから出る。

思い切りカーテンを開け放つと、朝の柔らかな光が部屋を満たした。

「やれば出来るものだな…」

只、朝に一人で起きたというだけなのに良い気分だ。

だが、其れも起き掛けのほんの僅かな時間だけなのだが。

寝巻き代わりのTシャツを脱ぎながら、

「明日から、朝は来なくて良いから」

そう言ったときの長森の顔を思いだす。

ちょっと驚いたような顔。

俺は自分でそう宣言しながらも、その必要が無いということはわかっていた。

今まで、別に頼んで来てもらっていた訳ではない。

只、朝に滅法弱い幼なじみを遅刻させまい、という義務感からの行動だったのだろう。

たとえ惰性で続いて来ただけの日常でも、悪くはなかった。

偶に鬱陶しく感じることもあったが、それでもこのまま高校の三年間は終わるのだろうと思っていた。

俺がその日常を終わらせたのは状況が変わったからだ。

皆が、俺のことを忘れ始めている。

正確には、この世界での俺の存在が希薄になってきているのだ。

最初に、親しくないクラスメイト。

次に、担任。

そして、昨日の時点ではクラスで最も親しかった住井が、訝しげな目で俺を見るようになっていた。

未だ、長森達と居るときならばそう言うことは無い。

だが一人になった時、個人としてとしての俺は見とめられるだろうか。

自信は無い。

だからこそ、あえて俺は長森を遠ざけることにしたのだ。

どうせ消えるなら、つらい思いはしたくない。

朝、歩いているときに突然俺のことを忘れ、疑問の眼差しで見られるのが怖かったのだ。

正直、之からどうなってしまうのか怖い。

学校に行くのが、怖い。

皆から忘れられるのが、怖い。

俺がココに居ることを疑うのが、怖い。

知らないものを見るあの眼差しが、怖い。

俺が居たという証さえ無くなってしまうのが、怖い。

だが、一番怖いのはこのままココで消えてしまうことだ。

ヒトに逢うのが怖い。

ヒトに逢わないのも怖い。

気が狂いそうだった。

いっそのこと、狂ってしまえば楽かもしれない。

でも。

ケータイのアラーム音が鳴り、学校に行く時刻を知らせる。

でも、俺は、学校に行くと言うぐらいしか購う術を知らない。




」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

はじめましたの方ははじめまして。
そうじゃない方はお久しぶりです。
PELSONAです。
気がついたらデビューから13ヶ月は経ってたみたいです。
なので。
なのでなのでなので。
ココは一発、1年間も良く書いたな俺&読んでくれた方は有難う記念SSでもやってみるか、と。
例によって、完結できたら良いな、ですが(をぃ)
書きながら考えてるのでストーリィ展開は未定ですが、7話で終わらせる予定です。
では、暇つぶしにでもお付き合いくださいませ。


以下は感想。


>みのりふサマ
なつきは人づてでしか聞いたこと無いのであまり知りませんが。
で、PR方法ですか?
年下でメガネでお兄ちゃん、ですよねぇ・・・
ええーーーーーーっとっ。

普段はメイド服がユニフォームの喫茶店でバイトに励んでいるが、
ひとたびお兄ちゃんのピンチとなると掃除機のような形をした念で戦う。

という設定をを追加してはどうでしょう?(殴)


>神凪了サマ
んー、綺麗な世界、ですね。
何かを待ちつづける、と言うのは内部の時間が止まっていることと同義。
之から二人の輝く季節が始まるわけですね〜。
幸せそうな二人に。


>から丸&からすサマ
ええっと……作品の内容じゃないんですが、
タクティクスのSSコーナでは其れを題材としたもの以外は相応しくないのでは?
って、そう言うこと書いちゃだめですかね…


>変身動物ポン太サマ
浩平の布団の大きさはどれくらいか気になって仕方在りません(笑)
と、いうか浩平にもっと不幸を修羅場を(をぃ)


>スライムサマ
澪の描写が可愛いですね〜。
この調子であと11つほど人格を増やして欲しかったり…


少ないですけど、ここまでと言うことで……
では、また逢う日まで。