ラスト リグレット  投稿者:PELSONA


 雨は涙。嬉しかったことも、悲しかったことも、みんな平等に流してしまう、あの雨。冷たい雨。暖かい雨。

空は、私の代わりに泣いている。

 ある日、突然彼が消えてしまった。失踪したわけでもなく、死んだわけでもなく、本当に『消えて』しまった

のだ。消える、というのはその人物は勿論、皆の記憶の中からも無くなってしまったと言うこと。折原浩平、

と言う人格が、まるで消しゴムで消してしまったノートの落書きのように、無くなってしまったのだ。私は、他

にも同じように消えたヒトを知っている。でも、そのヒトは戻ってくることは無かった。どんなに待っていても、

どんなに信じていても、どんなに辛い思いをしても、戻ってこなかった。其れが結果であり、すべてだ。

 折原浩平は戻ってこない。

 それが、私の経験が導き出した結果だ。流した涙の量と、待ちつづけた時間と、積み重なった思いだけが

其れをますます強固にさせた。只、対象が変わってしまっただけということで、待ちつづけるという事象は同

じなのだから、きっと今度もそうなのだろう。安易な希望を持つな、と私の理性は言っている。希望は、強く

抱けば強く抱いただけ、絶望を大きくさせる。かなわない、と言う恐怖心を増大させ、不安感を煽る。不安感

に負けないようにさらに強い希望を抱く。こう言うのを悪循環、と言うのだろう。


 
 静かな雨音が 心地よく弾んで

 口ずさめば町に 君を思うよ

 嗚呼 何時もの道は傘に揺れる

 色とりどりに華やいで 嗚呼

 逢いも変わらず僕は 山済みの問題を

 抱え込んだままで駆け回ってるよ

 ふと 立ち止まって見上げた空は

 嗚呼 一つ一つ雫が煌いて

 何時までも降り続け 心へ

 君の好きだった雨に 優しく包まれて

 素敵な歌は今でも流れてくよ

 I'm just singin' in the rain... with you



 雨が降る中、一人、空き地に佇んでもう2時間ほどになる。普段の私を知っているヒトであれば、信じられ

ないだろう。私自身、驚いているのだ。何かに思いを寄せている時は時の流れを忘れる。忘却は、自分を守

るための手段。手段は用意されている。要は其れを使うか、使わないか。意識をするか、しないかの問題。

常に用意されている解決策は、時には残酷かもしれないけれど、其れも優しさかもしれない。理路騒然、と

は行かないが、そう感じた。感じることは、考えると言うことよりもはるかに強い。其れはある意味、絆、と呼

ばれるものかもしれない。

 繋ぎ止めるか、振りほどくか。私は、振りほどくほうを選んだのだ。そして茜は、繋ぎ止めることを選んだ。

 あるところに、同じ道を歩いてきたはずの二人がいました。あるとき、二人の前に分かれ道が現れます。

今まで同じ選択をしてきた二人は、始めて違う選択をしました。一人は忘れようと勤め、もう一人は忘れまい

と勤めたのです。

 忘れた振りなんて、しなければ良かった。其れも二度も。一度目の嘘は、大切な親友の笑顔を奪った。二

度目の嘘は、その親友を失った。三度目は……



 遠回りする度 ためいきついてたね

 そんなやり方しか 出来ないみたいさ

 そう 雨宿りしていたねキミに

 嗚呼 こんな日には時間が甦る

 何時までも降り続け 心へ

 君の好きだった雨に 優しく包まれて

 素敵な歌は今でも流れてくよ

 
 I'm just singin' in the rain... with you



 消えた幼馴染。親友の恋人。そして、大切な親友。これで消えてしまった人達は三人だ。

 「私の、大切なヒトは皆、消えてしまう。」

 昔、茜がそんなことを言ったのを覚えている。私はそのとき、聞こえない振りをしていた。あのときの茜の

表情は棘となり、今も私の胸をちくりと刺激する。

 神様。もし、本当に居るのなら、お願いです。

 私も『消して』下さい。

 司や、折原君や、茜と同じように、この世界から。

 お願いです。出来ることなら、今すぐに。早く、私を消してください。これ以上、優しい思い出に苦しまない

為に。起きない奇跡を願わなくて良い為に。繰り返す日々に絶望をする前に。私を。



 何時までも降り続け 心へ

 君の好きだった雨に 優しく包まれて

 ずっとずっと止まないで 連れ出して居たいよ

 嗚呼 もっともっと止まないで 抱き寄せて居たいよ

 
 心が 枯れない様に
 

 
 ごめんなさい。司。忘れた振りをして。

 ごめんなさい。折原君。本当は覚えていました。

 ごめんなさい。茜。私は、もう、耐えられません。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。

 ごめんなさい。



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ども、PELSONAです。

詩子SSです。茜だとだまされたヒトが居ると、嬉しいです(笑)
挿入されている詩は
ラルク・アン・シエルのアルバム「Heart」より『Singin' in the Rain』です。
あと、これのタイトルのラストリグレットなんですが、
其れに架けて、しばらく投稿することは無いと思います。
って言っても、気がむいたらするんだろうけど。
区切り、と言うことで。
前の作品に感想くれた方、ありがとうございました。
其れでは、また〜
http://www.grn.mmtr.or.jp/~pelsona/mask/index.html