心の法則  投稿者:PELSONA


 鮮やかに彩られたクリスマスツリーも、ポップなクリスマスソングも。私には関係ない。


 今日は、クリスマスイブ。特に予定もない冬休み。私は今日も同じように、ゆっくりと眠るはずだった。

だが、目覚めたのは9:30。学校がある日なら遅刻だが、そんなにゆっくりと眠った、ということにはな

らないだろう。少なくとも、私の数少ない友人たちの場合はそう。ぼんやりとした頭で、詩子も浩平も休

みの日は昼間では寝ている、と言っていたのを思い出す。脳が正常に働いている所為か、気がついた

ときには長針は9を指していた。たっぷりと15分はそんなことを考えていたらしい。朝は苦手だ。
 
 ゆっくりと体を起こすと、これから何をするか考えることにした。まず、着替えよう。そう決めるとベッド

を出、着ていたピンクのパジャマを脱ぐ。上だけ脱ぐと白のカッターシャツに手を伸ばした。右手から左

手と、腕をすべり込ませ、第二ボタンから順にボタンを掛ける。最後に一段目。そこまでやってきてから

気がついた。今日は制服に着替える必要なんてないじゃないか。冬休みに入ってから3日目。毎日同

じことを繰り返し得いる。矢張り、朝は頭がしっかりと働いていない。朝は―――寝起きは、駄目だ。


 ためいきを一つついてから、せっかくきたシャツを脱ぎ始めた。脱ぎ終わってからも一つ、ためいき。


 学生たちのいない通学路は、凄惨としている。何時もなら馬鹿騒ぎをする学生たち。少し遅れて遅刻

をしない為走っている者、と、音の絶えることのないこの道も平日の午前中ともなると聞こえるのは風

の音だけ。学生たちが我が物顔で闊歩するこの場所は、今は風のためだけの通り道になっている。少

し冷たい風がほら、通っている。何となく、道の中央を歩いてはいけない気がして端に寄った。そんなこ

と、あるわけがないに決まってるのに。角を曲がると、あの空き地。

 何時も、何時も。私が一人、佇んでいたあの空き地。人を寄せ付けないはずの其処には子供が二人

いた。すっかり草も枯れてしまったこの空き地で、キャッチボールをして、遊んでいる。ボールを投げて、

受け取って、また、投げる。よく、会話のことを言葉のキャッチボール、なんて言う人がいるけど本当、そ

う思う。相手のことを考えず、力一杯投げたボールは、相手の手元へは入らず、遠くに飛んでいく。目の

前で繰り広げられているキャッチボールも、同じ。力任せに投げたボールが、ぜんぜん見当違いのほう

に飛んでいく。自分本意な台詞が、ほら、飛んでいく。止めていた足を、再び動かす。ここを通りぬける

と、商店街だ。

 赤や、緑のクリスマスカラーに彩られた町は煩わしい。皆、何がそんなに面白いのかが解らない。解

りたくもない。大体、クリスマスはキリスト教のはずだ。それにクリスマスにこんなに騒ぐのは異教徒で

あると言う日本人だけ、と聞いたことが在る。―――馬鹿馬鹿しい。小さくそう、呟いた。

「――よおっ、茜」

ポン、と肩を叩かれた。

続いて 「相変わらず不機嫌そうだな」

その声に当てはまる人物は一人しかいない。浩平だ。どちらかと言うと、今日は一人でいたい気分だっ

たので、浩平に見つかったのは厭だった。普段、学校で付き纏われるのは厭じゃない。彼の明るさは

私にとって救いになることも多かったし、どんどんネガティヴになっていく自分には彼が必要だと思う。

でも、今日はクリスマスイブなのだ。こんな日に男といる所を見られたら誤解されるに決まっている。浩

平には悪いが、それが私の正直な気持ちだった。不機嫌なときの私は、自分以外の人間を嫌う。

振り向くと同時に言う。 「何か用ですか?」 

不機嫌そうに言うことを、OK、忘れていない。

彼の台詞はいつも通りだった 「いや、特に用はないけど」

「用がないのなら話し掛けないでください」

「いや、全くないと言うわけでもないんだ」

「なら、何ですか?」 そう言ってためいきをつく。

彼は何時もこうだ。もったいぶるかのように台詞の前にワン・クッションを置く。こうやって会話を長引か

せているのはわざとだろうか。いらいらしている自分に気づく。

「その……なんだ…」

口篭もる浩平。

「用があるんだったら、早く言ってください」

ますます不機嫌そうに、私は言う。元々、機嫌が悪かったのが災いしてか、キレそうだ。全く、何故、どう

して、道の真中で立ち止まらないといけないのだろう。クラスメイトに見られるかもしれないのに。マイナ

ス方向の感情が鬱積していく。浩平に軽い嫌悪感を覚える。早くその続きを言って欲しかった。出来る

だけ、早く。

「その……今日、暇か?」

「忙しいです」 私は即答する。彼が何を言いたいのかわからない。

「クリスマスだろ? 一緒にパーティでもしようかと思って」

「―――――えっ?」

「あ、勿論、二人っきり、ってわけじゃないんだ。柚木とか、澪とか誘ってみても良いし――」

「………」

「でも出来れば、その、二人のほうが良いかな、って…。 ああ、別に無理だったら良いんだ」

彼が何を言おうとするのか理解するのに、たっぷり、10秒はかかった。

「それで、その……どうだ?」

慌てて取り繕うとしている浩平。柄にもなく、彼の顔が赤い。恐らく、私の頬も同じだろう。顔が赤くなっ

ているのが解った。悟られないように俯いてはいたけれど。

「……」 私は何も答えない。

否、咄嗟に答えることが出来なかった。目を閉じると、一度、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。そ

してそのときには返事はもう、決まっていた。

「……茜? 」

返事をしない私を見て、不安になったのだろう。浩平が語尾を上げる用にして声を出す。私は浩平の横

を通りすぎると、ゆっくりと振り向いて、言う。

「行かないんですか? 置いていきますよ?」

再び、正面を向いて歩き出す。不思議なことにさっきまでのブルーな気持ちは何処かへ行ってしまって

いた。町を彩るイルミネーションも、クリスマスソングも、心地よい。浩平が駆けて来る音が聞こえる。

クリスマスも、悪いものじゃない。そう、思った。不思議なことに、心の其処から。

 「メリー・クリスマス」 自分だけに聞こえるように呟いてみる。うん、悪くはない。

冷たい風もなぜか、心地よかった。浩平が隣に並び、歩調を合わせる。もう一度、私は呟く。


「メリー……クリスマス」

私の今日は、今から始まる。そんな、予感がした。
  


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ちょっと早い、クリスマスネタ。
最初はもっと、ダークなものだったんだけど変わってしまったのは、何故?
シーケンシャルな書き方ばかりする私は所詮こんなレベルです。
精進せねば……
後、感想くれる方、何時もありがとうございます。
何時か、感想を返したいです^^;
では……
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