今は、冬。 彼はそれを思い出す。 10月にしては暖かな日差しの中、彼は歩いていた。 商店街には鯛焼きの屋台は無かった。 もちろん、今までの道のりにも屋台は無い。 だから鯛焼きはおろか、栗饅頭すら買うことは出来なかった。 通りすぎた山葉堂には『臨時休業』の文字。 パタポ屋は、今日は休みだ。 つまり、何も甘いものはない、ということだ。 「………」 隣を歩く少女の、射るような視線が痛い。 其れも其の筈、今日は甘いものをご馳走する、と言う約束だったのだ。 「………」 未だ、視線を感じる。 多分、顔周辺の産毛は逆立っているのだろう。 表向き、ポーカーフェイスを気取っているつもりだが、自信は無かった。 「………」 どうやって言い訳をしようか、考える。 だが、まるで町全体が彼をあざ笑っている様に、ありとあらゆる甘味処は閉まっていた。 良い考えは、浮かばない。 「……あの」 取り敢えず会話でもしようと口を開くが、其処から先は思いつかない。 「好きなだけ甘いものを食べさせるって約束だけどな?」 少女―――茜が、こちらを向く。 表情は、変わらない。 「又今度……ってのは、どうだ?」 「厭です」 即座に、否定される。 此れは、予想された返事だ。 「でもな? 今まで歩いてきたけど、店は何処も開いてなかっただろ?」 「厭です」 「今日は日が悪い…って諦めるしかないと思うんだがな、俺は」 「厭です」 「なにもなかったことにしよう…って訳じゃないんだからさ」 「厭です」 予想通りだが、茜は強情だった。 だが、店が開いていないものは仕方がない。 俺はあらゆる限りの方法で誠意を見せたが、茜の態度は変わらなかった。 終いには、そんな彼女に腹を立てている自分がいた。 そして俺達は、半ば喧嘩別れの様に帰路についた。 翌日。 何時ものように遅刻して教室に入った俺は、机の隅に何か文字が掘られているのに気がついた。 小さくだが、深く、目立たぬ様に掘られている。 『すべてがWになる』 そう、書かれていた。 ……すべてがWになる? どういう意味だろう。 Wで始まる単語を思い浮かべてみる。 what、when、where、who、which…… 又は、wacky、waiver、wall、war…… だが、語弊が貧弱な為か思い浮かばない。 そうこうしている内に、担任の髭が教壇につき、点呼を取り始めた。 「折原…折原は欠席か?」 「あ……ハイ」 考えに没頭していた為か、しばらく送れてから返事をする。 「じゃぁ、次……加藤」 「わっふる」 「川村」 「わっふる」 「斎藤」 「わっふる」 俺は愕然とした。 皆、返事が『わっふる』になっているのだ。 『ハイ』と返事をしたのは俺独りだけ。 「里村」 そして、茜が呼ばれた。 彼女は一瞬、俺のほうを見ると、 「わっふる」 他の皆と同じように、返事をした。 そして、何事もなかったかのように前を向く。 ……すべてがWになる 俺は机に彫られている文字を見ながら、無意識に呟いていた。 WはワッフルのW…… 「謎はすべて解けたぁぁぁっ!!!!!!」 俺はそう叫ぶと、人目も憚らずに立ちあがった。 つまり、このWとは皆の返事が『わっふる』になるということを伝えていたのだ。 そして、何物かが俺に其れを伝え様としていた…… 其れしか考えられない。 「んあ〜、折原。急にどうした?」 「先生!! この机の文字を見てくださいっ!」 そういって俺は先生に文字を見せ様とする。 その時、黒板の文字が眼に入った。 『文化祭出店の屋台』 ワッフル―――――8票 クレープ―――――2票 鯛焼き――――――1票 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」 けっこう久しぶりな感じがするPELSONAです 来週の土曜日でやっと試験が終わるので、溜まってる長編も終わらせる予定。 偶には無責任じゃないって証明したい・・・ こんな私にも感想をくれた方に激感謝です。 後、新しくHPを作ったので興味がある人は来てください。 前からあるとことは別のコンテンツで、文章中心。 前のところはSS専用って感じにしてます。 下から飛んでください。 http://www.grn.mmtr.or.jp/~pelsona/mask/index.html