――4 「じゃあ、次の奴―」 高槻の声と共に、浩平は鞄を持って席を立った。すぐに「頑張れよ」などとありがたいのだか、ありがたくないのだかわからない言葉を高槻が掛けてくる。――余計なお世話だ。だが、ここで機嫌を損ね、柚木と同じ様に足でも撃たれたら其れこそ馬鹿だ――浩平は頭だけ下げて挨拶をすると何気なく――そう見える様にだ――教室を見渡す。残っているのは、数名。もう殆どの人は教室を出てしまった。すでに、ゲームの最中だということだ。 後ろに座っていた瑞佳と視線が交錯する。数秒――本当は、1秒にもみたかなったと思うが――見詰め合った後、入り口に向かって、足を踏み出した。本当は合図を送り、瑞佳と合流したかったのだが、高槻の視線が其れを許さなかったのだ。兎に角、浩平は思う。ゲームに乗るにしても、乗らないにしても。信用できる奴を探さないと。すでにゲームに乗ることを前提に考えてしまっている自分が、滑稽だった。 ――5 建物の出口に近付く。ぽっかりと、黒く口を開けた扉が浩平を待っている。時計を見ると、一時三十分。何時もならちょうど寝ようと、ベッドへともぐりこむ時間だ。鞄のベルトを片方だけ掛け、一気に走り抜ける。まだ、校内の光が届く範囲から、光とどかぬ闇へと。その光と闇の調度中間。薄暗い其処に、うつぶせに倒れている何か、が目に入った。おいおい、マジかよ。突如として現れた現実に意表を衝かれる。――誰か確認するべきか、しないべきか。する、と、しない。ぐるぐると思考は堂堂巡りし、結果、浩平は其れを横目に、走り抜けた。 ――6 浩平が走り抜けてしまったのを確認するかのように、その倒れふしていた陰はゆっくりと体を持ち上げた。目には涙を浮かべながら、顔の部分をごしごしとこすっている。大きなリボンが特徴の少女、上月澪だった。澪は両の手で涙をぬぐうと、今度は服についた汚れを払おうと立ち上がる。実のところ、澪はただ転んでしまっただけだった。ただ、転んだその姿勢のまま、何故こんなことに巻き込まれてしまったのか等と考えてはいたが。転んでしまった自分の間抜けさ加減と、急に襲ってきた非現実。それに翻弄されていることで涙があふれてきたのだ。自分が狙われていると言う危機感はどこかへといってしまっていた。そんなことを考える余裕が無かったと言うほうが正しいが。 取り敢えず、落ち着こう。澪はそう判断するとごそごそと鞄のなかを漁り出した。ペットボトルに入っている水を取り出すと、蓋を開く。喉を鳴らしながら一口、二口と冷たい瑞が胃に流れ落ちるとごとに、少しずつ冷静さが戻ってきた。まずは――ここから抜け出すことが、先決だ。 ――7 やっぱり死んだ振りだったか。危ないところだった。少し離れた物陰から其れが立ちあがるところをのぞいていた中崎は胸をなでおろした。着ていた上等の服の上には似つかわしくない、ミリタリーもののチョッキがある。中崎に支給された武器とは銃弾を防ぐことの出来る其れ――防弾チョッキだった。 中崎は、裕福な家庭に育った。親はこの地域では名の知れた代議士だったし、賢明で人望もあった。そんな親のことを中崎は尊敬していたし、自分も跡をついでそうなると思っていた。事実、勉強においては学年でトップクラスを維持していたし、運動も出来るほうだった。彼は、俺はその辺りにいる愚民とは違うと言うプライドがあった。自分は、ヒトを従わせて生きて行くと言う未来が見えていた。自分はこんなところで死ぬ存在ではない。其れが、彼がゲームに乗った理由だった。当然だ。自分は死ぬべき人間では無いのだから。 中崎はその、およそファッションセンスの無い服を見ながら思う。大体、こんなものがあるってことは武器に銃があるってことじゃないか。満足な武器も無い俺に、こんなものが役立つのか? 其れが、彼を苛立たせた。――武器。武器が必要だ。そして、中崎は今まで倒れていた陰に目をやる。ちょうどその影は喉を鳴らして水を飲んでいるところだった。そう、無防備に両手を使って。鞄は、下においてある。――チャンスだ。 中崎は人影まで一気に走り抜けると、目の前で水を飲んでいる人影――澪――に向かってこぶしを振り上げた。一瞬、大きく見開かれた瞳と目があって、軽く澪が吹っ飛ぶ。地面に倒れ伏した処でその顔を、腹を、激しく蹴り上げる。 「死ね、死ね、死ね、死ねっ!!!!!」 自分でも冷静さを欠いているな、とは頭の片隅で思いながらも、言葉は欲望の侭、口走っている。しばらくして、口から吐き出された血で汚れた靴を見て舌打ちをすると、澪のチャームポイントであるリボンへと手を掛ける。其の時、建物の光に、影が差した。――誰か来る。中崎はそう判断すると、手ごろな茂みへと隠れた。 ――8 浩平が出て行ってからちょうど2分後。高槻の言う「次」の言葉で、瑞佳は立ち上がった。この扉を抜けた其処から、本当に彼の言う『ゲーム』が始まってしまうのかと思うと、この重苦しい空気に支配された教室でさえ離れがたい、が。瑞佳はちらりと高槻を見る。同じ――何処にいようと、同じだ。もう日常ではない。瑞佳は鞄を持つとゆっくり――ゆっくりとしか進めないのだ。足が震えてしまっているから――歩みを進めた。 建物を出ると、最初に人影が目に入った。人影が、と言うよりも人らしきものが、倒れている。――あれ―アレは――何だろう? ヒト? 人が倒れている? どうして? 襲われた―― 襲われたって、誰に? ――ゲームは始まっている? 次の犠牲者? 私? 私が―殺される? 思考は安定してはいなかったが、瑞佳は正常に働いてくれない脳の影響下で尤も妥当な案を出した。早く逃げなければ成らない。次の瞬間。瑞佳は建物沿いに――倒れていた人と、反対側へ――走り出した。瑞佳が走り去ったのを確認すると、少し離れた位置にある茂みから中崎が現れた。 ――9 中崎はゆっくりと周りを見渡し、他に人がいないことを確認すると再び、澪のリボンに手を掛ける。しゅるり、と音がしてリボンが外れると、そのリボンで自分の靴についた澪の血をふき取った。なんてことだ、俺のフェラガモの口がこんな小娘の血で汚れてしまったじゃないか。苛立ちながら澪を見ると、微かに息がある。もう、コレ以上血が落ちないということを悟ると、そのリボンを澪の首へと掛けた。そして其のまま、思いっきり締め上げる。ひゅー、ひゅーと、苦しげに息を吐いていた口からは嗚咽が漏れる。手が、何かをつかもうと力なげに中をさ迷う。構わず、渾身の力で締め上げる。柔らかそうな首に、其れまで自分の髪を飾っていたリボンが食い込んでいるのがなんとも滑稽だ。顔の色がピンクに、ピンクから血の毛の引いた青に変わるのにそう時間はかからなかった。その後もしばらく、締めつづけると完全に澪の動きが止まった。 中崎はリボンを緩めると、なんとなく思いついて其のまま髪につけていたように、首に巻きつける。なんとなく、お笑いだ。髪を飾っていたリボンが、今は首を飾っている。とんだ死装束だ。そして少し離れた位置に落ちてあった澪の鞄を開くと、中身を確認した。食料、地図、そして――銃と、銃弾。やったぜ、コレで野蛮なことはせずに、スマートに銃で戦えるって訳だ。うれしそうに其れを取り出すと、早速弾を込める。そして試し撃ちとばかりに、澪に向かって一発撃つ。パン、と乾いた音がして、倒れたままの澪の体が衝撃で一度動く。――やはり、銃は良い。すべての荷物を自分の鞄に入れなおし、銃を手に持つと、中崎はその場を後にした。 駄作量産マシーンのぺるそなんです。 試験中です。 こんなの書いて良いのか、俺(笑) 試験中や、試験前に限って創作意欲が沸く私はダメダメでしょうか? 取り敢えず。 文章力が欲しいなぁ、と思う今日この頃。 戦闘シーンが激苦手なくせにこんなの書くなよ、俺。 では。 感想をくれたすべての方に感謝を。 それと。 HPも宜しく(笑) では、また〜。 http://www.grn.mmtr.or.jp/~pelsona/