BATTLE ROYALE  投稿者:PELSONA



――1



 折原浩平は耳からイヤホンを抜き取ると、其れまで視線を向けていた窓から車内へと視線を移動させた。
ここはバスの中。座っているのは車掌席のすぐ後ろ。休みを利用してどこかに旅行でも――ということになって申し込んだこのパック旅行。やたら安いと言うことで手当たり次第に誘った結果、大半、と言うより全員かが。身内と言う事になってしまった。まぁ、其れも良い。少数精鋭の修学旅行だ。
 左の耳につけたままになっているイヤホンからはプリンスが「パープルレイン」と何度も繰り返している。パープルレイン、パープルレイン。紫の雨ってなんだ?などとたわいも無いことを考えながら自分の肩に持たれるように眠りこけている奴の顔を見つめた。
「俺の顔に何かついてるのか?」
すやすやと、そんな擬音が聞こえそうな表情の住井が、目を閉じたまま言う。やれやれ、狸寝入りか。等と思いつつ、
「起きてるんなら何時までも持たれているんじゃない」
と、口を挟む。
「あぁ、悪いな。ちょうどいい角度だったしな」
などと訳のわからないいい訳そしている住井にため息で返事をすると、ちょうど通路を挟んだ向かい側の席にいた二人が、くすくす笑いながら話しかけてきた。
「相変わらず、仲が良いね」
「そうでもないぞ。実は三代前からの敵だ」
其れを聞いて更に楽しそうに笑うのは一つ上の『川名みさき』。その隣には同じように笑みを浮かべた『深山雪見』がいる。
「本当、仲良いわよね。ちょっと妖しかったりして」
さも、楽しそうに言う雪見に、
「それはそっちもだろ?みんなの噂になってるの知らないのか?」
と冗談めいて返す。
「えっ?えっ?浩平君、其れ、本当?」
一人本気にしてうろたえているみさき先輩を深山先輩と一緒に笑いながら、何気なく車内全体を見渡した。
 みさきと、雪見の前の席。親友の佐織と一緒に談笑している瑞佳。その二人の会話に加わりながらも、時折悲鳴を上げる七瀬。七瀬に悲鳴を上げさせているのは繭が髪の毛を引っ張っているからだろう。ここからだと良くは見えないが。
楽しそうに茜と話している詩子。これは詩子が茜に一方的に話しかけているようにしか見えない、が、いつもより穏やかに見える茜の表情からすると楽しんでいるのだろう。茜と、詩子の向かい側にはちらちらと茜の顔を盗み見ている南。そして其れをからかっているのは青い髪の毛の少女。元気印のポニーテールが良く似合っている。
 後ろの方の席では一人、窓の外を見ている中崎や、取り巻きどもと話している広瀬。そういえば、何故、あいつらも一緒にいるのだろう――内輪だけの旅行が、気がついたら大人数になっていたことで気付かなかったが――などと思いながら、みんなに挨拶をしようとスケッチブックを片手に、右往左往している澪が視界にはいる。
 まぁ、みんな楽しそうにやってるみたいだな、と。一人でうんうんとうなづくと、再びイヤホンを耳に当てた。曲はもう次の曲、やたらとポップなメロディーの中に聞こえる「LOVESEXY」の掛声。悪くない気分だ。そして目を閉じると、メロディーに身を任せた。
 聞こえてくる心地よい、テンポの良い音楽と共に訪れる眠気。オーケイ、悪くない気分だ。まどろみに身を任せ、夢と、現実の境目をゆらゆらと流れていると、がくん、と大きく縦に揺れるバス。おいおい、目が覚めちゃったじゃないか、もう少し安全運転を頼むぜ。微かに眉間にしわを寄せ、不快感をちょっぴり、示す。誰に示しているのかはわからないが、兎に角、示した。
「おい、折原、起きろ」
俺の示した不快感に反応してか、其れとも話し相手でも欲しくなったか。左肩をゆすりながら声をかけてくる。おいおい、オマエまで俺の眠りを妨げるのか。オーケイ、目覚めの時は来た。もったいぶる様にまぶたをぴくぴく動かす様に、瞳を開く。オープン、ユア、アイズ。おっと、この場合はマイ、アイズか。
 瞳を開くと、目の前に――正確にはバスの中央、正面側だが――に男が立っていた。おやおや、ずいぶんと遅いバスガイドだ。ご大層にもったいぶって、バスが走り出して1時間ほど立って登場したガイド――しかも男――はマイクに唾を飛ばしながら言った。

「コレから、貴様らに殺し合いをしてもらう」



――2



 その、バスガイド――尤も、白衣を着て、厭らしい笑みを浮かべた男だが――は言った。
「コレから、貴様らに殺し合いをしてもらう」
 高らかに宣言された言葉。一瞬、静まり返るバス。そしてしばらくの間の後どっ、と笑い声が起きる。殺し合いだってよー、こわーい。おっさん、そのギャグ笑えねえよ。エトセトラ、エトセトラ。
「うるさい、愚民ども」
 短く一声。同時にパン、と、やたら乾いた―其れでいて,馴染みのない音が耳を裂く。其れが、奴の手に持っているもの――拳銃――だとわかるのに、一呼吸するだけの時間がかかった。同じように、水を打ったように静まり返る車内。そして、ざわめき。其れを同じように、一喝すると、男は続けた。
「コレから、貴様らには我々FARGOの実験台になってもらう。何、簡単なことだ。コレからつれていく場所で殺し合いをしてもらうだけだ。簡単だろう?」
 こともなげに、言い放つ男。ああ、殺し合いですか。そんな簡単なことをする実験?OKOK、やりましょう。なんて思えるわけないってば。ねぇ?
「まぁ、いきなりこんなのに巻き込まれて戸惑うのはわかる。わかるが、な?生き残った一人――あぁ、言い忘れていたが生き残るのは一人だけだ――はFARGOの教団員として雇ってやるから文句はいらんだろう?まぁ、兎に角、だ。これから我々が持つ島へとつれていくから、其処で殺し合いをやってくれ。いないと思うが、質問がある奴、いるか?」
 おいおいおいおい、マジかよ?勘弁してくれよ、本当。っていうか、本当にコレ、現実なわけ?錯乱した頭で考えている浩平。夢であることを祈りつつ、隣の住井を見るが、同じように固まっている。そりゃそうだ。
だいたい、こんな事態に対処しろと言うほうがオカシイ。皆、同じように黙っている。正確には、黙らざるを得ない、のかもしれないが。
「質問は、無しだな。じゃあ、島に着くまでの数時間は好きに過ごして良いぞ。お友達とのお喋りも、最後だろうからな」
そういってさも楽しそうに笑う男を横目に、重たい沈黙がバスを包みこむ。イヤホンから聞こえる歌声が、やけに白々しく鼓膜を振るわせた。



――3



 バスに揺られ、その、バスが載ったフェリーにも揺られ、例の男が言った島に着いたのは腕につけた時計の針が新しい日付を知らせた頃。つまり、深夜だった。最初は皆、緊張した面持ちで――緊張しないほうがオカシイ、なにせ、拳銃付きのバスガイドの案内だ――固まっていたが、数時間、立つにつれてその直立不動の姿勢――いや、座っているから直立ではないか――も少しはマシに成り、数人は寝息を立てている。こんな状態で良く眠れるよな、と最初は思ったものだが、気がつけば自分も寝ていた。失敗、失敗。
 「降りろ」との指示に、拳銃にびくつきながら従うと大きな建物――シルエットからして、病院か学校だ――の中へと案内された。ご丁寧に人数分の椅子と、机。机の上にはディバッグが一つづつ。コレは皆に配られるのだろうか、などと、ほんの少しでもこの以上自体に順応している自分に苦笑。ざわめきながら、仲の良いものと話し出しているヤツラを視界に捉え、再び苦笑。ああ、結局みなさん、順応しているわけだ。
 その、規則正しく並べられた椅子と机に座って良いものか、考えあぐねているところにさっきのバスガイド――拳銃を持ったお兄さん――がやってきて言った。
「良し、貴様ら、好きな席につけ」
 一呼吸間を置いて、
「この席の取り方で、生き残る確率がずいぶんとアップするからな。慎重に選べよ」
 と続け、下品な笑いを浮かべた。互いに顔を見合わせる俺達。そりゃそうだ。ヒトと同じように行動するのが、我らが日本人。右へ習え精神バンザイだ。走行している内に中央の席へと歩き出した一つの影。七瀬留美だ。彼女は無言で一つの席を選ぶと――わざとらしいほど静かに、座った。続く様に、ぞろぞろと席を選ぶ俺達。結局、皆が席についたのは10分後だった。
「よーし、みんな、席についたな。それじゃぁ、簡単に説明する。」
 そう、前置きを置いてから、
「貴様らが選んだ机。その上にある鞄にはランダムに、武器と、食料、水が入っている。其れは――まぁ、好きに使ってくれ。使用方法は一つしかないと思うがな。――で、おまえらの中で一人が生き残るまで、さっき言ったように、殺し合いをしてもらう。24時間以内に誰も死ななかった場合、ランダムで一人、殺すからな。気をつけるように――って、気をつけようもないか」
 そして、がはははは、と、下品な笑い声を立てる。
「それと、島のあちこちには我が教団のものがいて、脱走者が居ない陽に見張っているからな。もし、逃げようとした奴は――」
 そう云うと、片手を水平に挙げ、軽く引き金を引いた。お客さん、玉は5発ですよ。しっかり狙ってくださいね――。パンと、乾いた音を立てて、教室の一番後ろ、右端に居た少女のすぐ真上を打ちぬく。
「――殺されるからな。おおっと、お嬢ちゃん、真上を鉛の玉が通ったのに相変わらず済ましてるなんて、相当度胸があるねぇ。叫び声をあげなかったのは、立派だ」
 尤も、その少女――上月澪――は、声を上げたくてもあげることができなかったのだが、そんなことは彼の知る由ではなかった。ふっ、と。煙の上がる重厚を西部劇宜しく、気取った様で吹くと続ける。
「えーっと、何処まで話したかな?まぁ、良い。貴様らは逃げることはできないから、せいぜい頑張って生き残ってくれよ。ぎゃははははっ。ああ、それとこの建物はすぐ、立ち入り禁止になるからな。入ってきても、ゲーム、オーバー。じゃ、そんなところだ。――っと、ちょうど良い時間だな。じゃ、今からその、一番前のはしに座っている奴――オマエから、出て行け。2分間ごとに一人づつ。出た瞬間から、ゲーム開始。おおっと、6時間ごとにこの高槻様――、ああ、言っていなかったな。俺は高槻だ。高槻様と呼んでくれ――が、生存者の放送をしてやるからな。はげむよーに。」
 そして再び、たのしそうに笑うと、
「おい、其処のオマエ、さっさと出て行けよ」
 急に冷たい目になって言う。その矛先となっているのは―――柚木詩子。彼女は高槻をきっ、と睨むと立ちあがった。
「その目。なかなか反抗的で宜しい」
そして、パンッ、と、高槻の持つ銃口が火を吹く。ひっ、と。誰かの息を呑む声が聞こえたが、柚木詩子の関心は別のところに合った。其れは、今さっき打たれた足の痛み。つーっと、熱い液体が股から下へ流れ、少しずつ靴下をぬらしていくのがわかる。畜生、この詩子さんのあしを撃つなんて。しかもコレじゃまるで生理ってことを忘れてた間抜けな女のこみたいだ。詩子はそう、腸が煮え繰り返る陽に思ったが、冷静な判断ができる、非常に、計算高い処があったので、
「あははっ、ごめんなさいっ。それじゃ、いってきまーすっ」
 などと、即座に笑顔を作ると足早に、その場所を後にした。尤も、扉を閉めた直後、唇は青ざめるほどかみ締めていたが。
「フン、じゃ、今から2分数えるからな。せいぜい今のうちに作戦でも立てておけよ――」
高槻がそう宣言したが、聞いて居るものは居なかった。また、作戦を立てて居るものも居なかったに違いない。みんな、仲良しグループなんだぜ?ちょっと恥ずかしい言い方だけどな。と、浩平は思った。まぁ、全員が同じ考えかと聞かれると、そうでもなかったが。





こんにちわっ。
ぺるそなんですっ。
コレは、前に書いた「そして誰もいなくなった」ってSS。
アレの長編バージョンの、予定ですー。
装いも新たに、頑張って書ける、と良いなぁ…(遠い目)

それから。

感想を下さったかた、ありがとう御座いましたっ。
本当、嬉しいんですよ。
わたしは、書けてないけど(滝汗)
では、またおあいしませう〜


http://www.grn.mmtr.or.jp/~pelsona/