innocent world  【episode \】 投稿者: PELSONA
シュンに浩平を連れてくるように命令した後、FARGO総帥である彼は準備に取りかかっていた。
其れは、彼の野望を叶えるための儀式の準備。
彼は今までに手に入れてきた十種の神宝を見、満足げに頷いた。




『日本書紀』にはこう記されている

 遙かなる太古、天津神の名を受けてニギハヤヒ尊は、雨磐舟と言う飛行船により、河内の国に下った。
 その天降りに対して、皇祖アマテラスは十種の神宝を授け、其れを用いる鎮魂の法を伝えたという。


『旧事本紀』によると

 ニギハヤヒ尊は、その子である、可美真手命に、十種の神宝並びに鎮魂の法を伝えたと言う。
 その十種の神宝とその行法は、物部氏が司る大和国山辺郡布留の高庭の石上神宮に後に伝えられたとされている。
  

この二つに共通する点は十種の神宝をもちいった鎮魂の方が伝えられていると言うこと。
そして、『旧事本紀』にはこうも記されている。


  天津祖神おしえのりごちてのたまわく
  もし痛むとこあらばこの十種の宝をして
  ひと ふた みよ いつ むゆ ななや ここのたり
  といひて ふるへ ゆらゆらとふるへ
  かくせば 死れる人も生き返りなむ
  これすなわちいわゆる ふるへのことのもとなり


これはつまり、この十種の神宝を用いれば死んだ人も甦るということ。
十種の神宝には鎮魂と、死者復活という二つの古の力があると言うことを記している。



FARGO教主が、正当な継承者である物部氏の末裔の手から十種の神宝を奪った理由。
それは浩平の願いという強いエネルギーが具現化した「みずか」と言う存在を鎮め、不可視の力によって懐柔すること。
そして未だエネルギー体としてだけでしか存在しないそれを強い影響力を持つ折原浩平の肉体へと還元し、現実の存在へと昇華することであった。



何故、そのようなことをするのか。
それは

【現実に存在する物で在れば、永遠の世界も現実の物となる】

という、内面だけの存在をより、具体的な物にしようとする考え。
いわゆる理想郷を創造しようとする物だった。



「儀式を始める。今よりこの扉の中に何人たりとも入ることは許さぬ」


護衛のため待機していた教団員にそう言い残し、教主は前教主の間……力を持つ物しか入ることを許されない扉の中へと消えた。




教主が扉の中へ消える数分前。
教主の間の前で郁美達と、シュンが睨み合っていた。


「悪いね。今はここを通すことは出来ない」


シュンが表情を変えずに言う。


「そう……」


郁未は何を言っても無駄だと悟ったのか、隣にいる晴香に目配せした。
従来通り、晴香が押さえつけ、郁未が仕留める。
相手が不可視の力を使うとしても、このパターンなら勝てるはずだった。
しかし……


「無駄だよ。君たちでは僕には勝てない」


晴香も、郁未も。
同時に力を開放しているのにシュンは眉一つ変えることはなかった。


「……!?」


声を発することなく、再び力を開放する。
その一本一本まで力に満ちた金色の髪はざわめくように動き、輝く瞳は相手を刺すように輝いている。
手を、足を、胴体を、首を、頭を、吹き飛びイメージを念じ、相手にぶつける。
内蔵がえぐれ、脳が吹き飛び、鮮血を浴びる様を思い描きながらただ「壊れろ」というコトだけを考える。
イメージは力となり、その力はそれを現実の物へと変えるはずだった。
だが、現実は違った。


「無駄っていってるのに。少しぐらい痛い目に遭わないとわからないみたいだね」


実際に腕が吹き飛んだのは郁未。
足の付け根が在らぬ方へと曲がり、地に膝を突いたのは晴香の方だった。


「…………」


もとより死を覚悟していた二人は悲鳴を上げることも、混乱することもなく憎悪のこもった目でシュンを見上げる。
相手に自分の力は通じないと言う絶対的な真実。
それだけを受け止めているが故、無言なのだ。


「どうしてかわからないって顔をしてるね」
「…………」
「せっかくだし、時間まで話してあげるよ」
「そう。それは助かるわ」


悔し紛れにいう郁未を無視し、シュンは語り始めた。


「僕はね、正確に言うと人間じゃないんだ。君たちの中にいる物と、人間のハーフってコトになる。
 君たちが不可視の力を得たってコトは、彼と交わったってことだろ?その時に偶然出来た子供。それが僕だったんだよ。
 僕の母親となった人物はロスト体でね、消去される所だった。でもそれなりの自我はあったみたいでね、自分を消されるのを恐れてか、何とか教団から逃げ出したんだ。逃亡生活の最中に僕を出産した。
 ……まぁ、それで死んじゃったんだけどね。その後、僕は施設に引き取られ、普通に生活していた。」


昔を懐かしむように、シュンは上を見上げる。


「まぁ、今から思うとそれなりに楽しかったんだけど、当時の僕は毎日がつまらなかった。自分が他人とは違うってのを薄々感じてはいたし、同じコトだけを繰り返す毎日に嫌気がさしていたんだ。
 発作……今から思えばそれは力に目覚めかけていることで不安定なだけだと思うけど、当時はそれが原因で学校にも行かなくなった。部屋に閉じこもっている生活はさらに毎日をつまらなくしたよ。それで僕は永遠を求めるようになったんだ」


「永遠?」


郁未が聞く。
彼が、あの少年の息子だと言うことに戸惑いながらも。


「そう、永遠。
 気まぐれに学校に行ったときにあった、僕と同じ瞳をした少年。折原君はそれを現実の物としたけどね。
 でも僕には出来なかった。運命という物が僕の邪魔をしていたんだよ。
 力が呼び合ったのか、僕はここの教主に呼ばれた。そこで取引を持ちかけられたんだ。
 そこで僕は戸籍上は彼の息子となることを承諾し、それと引き替えに条件を出した。」


シュンはそこで話を切ると戸惑いを抱く郁未、少年の血を引いていることから、より憎しみを露わにした晴香を見て言う。


「そろそろ時間だ。君たちは好きにするといい。もっとも、すぐに合うことになるとは思うけど」


シュンはそう言い、道をあける。
郁未の眼前には教主の間と書かれたドア。


「晴香、行くわよ」


晴香が頷くのを認めると、ゆっくりをその部屋の前へと近づいた。
深呼吸をし、一度、胸の辺り……少年の分身を感じるところをさすり、扉を開け放つ。
開け放った扉の向こうには……





豪華な作りの机と、椅子がその持ち主を待ちわびるように佇んでいた。
そしてその直後。
不可視の力を生み出す少年の分身が、何か大きな力を持つ物が少し離れたところに現れたことを告げていた。



ここ意外に思いつく場所といえば――



郁未は身を翻すと前教主を葬った場所。
壁の向こうにある隠し部屋へと突き進んでいた。



」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」


……ども、PELSONAです。
かなーり、間が空いちゃいましたが、何とか九回目です。
もうぐちゃぐちゃです。説明しまくり、確信突きまくり(笑)
読みにくいトコ、わかりにくいトコはばんばんつっこんでくださいませ。
多いと、書き直しますので、ハイ(爆)
次回でラスト、あと、エピローグの予定。
……実力不足を結構感じる、今日この頃(笑)

http://www.grn.mmtr.or.jp/~pelsona/