door. 投稿者: PELSONA
ヒトの記憶なんて言うモノは意外と曖昧かつ不確かなモノで

   一端閉ざされた記憶の扉が開くと言うことは意外と難しかったりします



彼は一週間ほど前に初めて私の前に姿を現しました。
親しげな感じで私の名前を呼び捨てにしてきた彼。
私にはその顔に全然心当たりはなかったけれど、彼は私のことを知っていたようです。

私に話しかけてくる人というのは結構、少なかったりします。
そのごく一部の人たちの中でも、私の名前を呼び捨てにするヒトはあまり居ません。
両親と、幼なじみの詩子ぐらいでしょうか。
そんな私ですから、いきなり呼び捨てにされたときは戸惑いました。
知らない男のヒトが、ファーストネームを呼んできたのですから。

戸惑った私が「誰?」と尋ねたとき、彼は笑ってこう言いました。
「クラスメイトの名前ぐらい覚えておけ」・・・と。
でも、私のクラスにこんな顔の男のヒトは居ないはずです。
同じクラスどころか、学校内で見た覚えもありません。
正直、混乱しました。
私には全く思い当たる節が無いというのに、彼は私のことをよく知っているみたいですから。

彼は言いました。
「茜。待たせちゃってごめんな」・・・と。
一体、何を待たせたというのでしょう。
私は、彼と待ち合わせをした覚えなんてありません。
初対面の彼がそう言うこと自体、おかしいのです。

相変わらず戸惑った顔をしている私に、彼は戸惑いを覚えたようでした。
今まで、何処か照れくさそうに微笑んでいたその顔には今や疑念の色が浮き出ています。
彼はそんな表情を隠すようにこう言いました。
「本当に・・・俺のこと覚えていないのか?」

どうやら、本当に忘れてしまっているのは私のようです。
彼の表情は哀しげで、ただの人間違いと言うことではないみたいでしたから。
私は一生懸命、彼のことを思い出そうとしました。
しかし、最初から知らないヒトのことなど、思い出せるはずもありません。
私はそのことを深い謝罪の言葉と共に告げました。
真剣な彼には悪いと思いましたが、全くと言って良いほど心当たりがないのですから。

それを聞いた彼は一瞬、本当に哀しそうな顔をしましたが、すぐにぎこちない笑みを作って言いました。
「・・・悪い。どうやら本当に人間違いみたいだ」
私は、ソレが嘘だと思いましたが、何も言うことは出来ません。
駆けてやる言葉も思いつきませんし、どう対処すればいいのか判らなかったからです。
「本当、馬鹿みたいだな。最後まで気付かないなんて」
彼は自嘲的な笑みを共に言葉を紡ぎます。
それは自分自身に言っているようでもあり、私に言っているようでもありました。

最後に彼はもう一度、謝罪の言葉を残し、私の前から消えました。
もう二度と会うはずのない彼でしたが、不思議と印象に残っています。
でも、何故でしょう。

彼のことを思い出すと、涙が止まらなくなってしまうのは。
初対面の彼が、心の広い部分を占めているのは。

沢山の疑問符と、後悔の念と共に1週間がすぎました。
でも、彼に再び会うことはありません。
なぜなら、彼は知らないヒトですから。




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なんか、30分ぐらいで書き上げてしまいました。
何が書きたかったのかは想像にお任せします(笑)
でも、個人的にはお気に入り(笑)

http://www.grn.mmtr.or.jp/~pelsona/