SA・YO・NA・RA 投稿者: PELSONA
――五日目


「それで、その変な贈り物はまだ続いてるの?」
 茜は詩子と電話で話をしていた。詩子はこうしてよく電話をしたり、直接家を訪れたりしてくれるのだが、今回の電話は有り難かった。と言うのも正体不明の留守番電話や、花束など、少し気が滅入っていたからだ。
「でもさぁ。電話の方は全然判らないんだけど、毎回贈られてくる花って言うのも怖いよね。花の種類も違うんでしょ?茜の好きな花とかじゃなくて」
「はい・・・見当もつきません・・・」
 確かに、茜の好きな花を贈ってくるのであれば気をひこうとしていることが判る。と言うことならば、花を贈ってくるのが留守番電話の人物だと言うことも特定できるだろう。だが、贈られてくる花に共通性は見られない。それが返って混乱させるのだ。
「あ、もしかしたら花言葉とかじゃないのかな?赤い薔薇は情熱的な愛・・・だっけ?兎に角、そう言うのってあるんでしょ?」
「花言葉・・・」
 そうだ。何故今まで気付かなかったのだろう。恋愛物のドラマなどでは花言葉の意味を考えて花を贈っているではないか。花を贈るという行為よりもむしろ、そっちの花言葉を伝えたいのが本来の目的だという可能性もある。調べてみる価値があるかもしれない。
「でも茜も大変だよね。変質者に狙われるなんてさ。」
 詩子が何か言っているようだったが、茜の耳には入らなかった。この、訳の分からない物――花束や、留守番電話のメッセージ――を何とかしないことには。それに、浩平に知られてしまって余計な心配もかけたくない。・・・もう、忘れたはずの幼なじみの問題だとしたらなおさらだ。
 茜は、『幼なじみの問題』と言う点で思いつくことがあった。最初の電話にあった小さい頃の約束。小さい頃という物は得てして仲の良い異性とそのような話をしているはずだ。つまり、司と。仮に司がこの世界に戻ってきているとしたら浩平の時のように詩子もその存在を思い出しているはずだ。茜は、一種の賭のような気持ちで聴いてみることにした。
 「・・・詩子。」
 ある種の期待感と、不安な気持ちの入り交じった声。それでも一気にまくし立てる。
 「小さいころ仲の良かった幼なじみを――司を――覚えてますか?」
 電話の向こうでしばし沈黙。やはり、勘違いだったのか――司は、戻ってきてはいないのだ。そう、安堵の息をつこうとしたとき、声が聞こえた。
 「司でしょ?うん、覚えてるよ。確かこの前、どこかの飲み屋か何かで折原君と一緒だった気がするけど・・・」
 茜は目の前が真っ暗になるような気がした。司は帰ってきている。そして、何より浩平と一緒だった?それはどういうこと?私のことで話しでも?それとも、別の何か?頭の中で疑問符と、厭な考えだけがぐるぐると回る。筋道だった考えが出来ない。不安は、破壊されてしまったダムの水のように次々と押し寄せてきた。
 「茜?ちょっと、聴いてるの茜っ!」
 電話の向こうで何か感ずいたのか、心配そうな詩子の声が聞こえてくる。ああ・・・幼なじみとは電話の向こうでも私の状態が判るのか・・・司も、そうなの?茜はその後、何とか表面上落ち着きを取り戻し、電話を切ることで精一杯だった。その時だ、花屋であろう男の「お届け物です」と言う声が聞こえたのは。
 茜は、再び目の前が真っ暗になっていく気がした。


――六日目


 冷静さを取り戻した茜は――もっとも、表面上そう見えるだけであったが――植物辞典とか言う物を開いていた。昨日届いた花を併せた花の『花言葉』を調べてみようと思ったのだ。初めに届いた花は、白いチューリップ。この季節にチューリップは確かに合うが、何故白なのだろうか。普通、赤ではないのか?何を基準に普通と言っているのかは判らないが。
 その項目を探し出す。どうやら、同じ花でも色によって花言葉は変わってきたりするらしい。そして、白いチューリップは『失恋』だった。続けて、ラッパスイセン。これもどの季節の花かは判らないがあまり見たことがない花だ。『貴方を待つ』。クリスマスローズ――今は春だというのに――は『思い出を懐かしむ』。そして昨日届いた花――わすれな草――は、見なくても判る『私を忘れないで』だ。
 花言葉を順に並べると『失恋、貴方を待つ、思い出を懐かしむ、私を忘れないで』。最初の失恋を除けばどれも過去のことにこだわっている気がする。待つというのは思い出すのを待つと言うことだろうか。そう考えてみるとやはり、電話の人物と花を贈っている人物は同じなのかもしれない。何とかしなければ・・・でも、どうやって?
 対抗策も、打開策も何も思いつきそうにない。一人、頭を悩ませているとき電話のベルが鳴った。
 ――また、あの電話だろうか。深呼吸をした後、電話の方へ歩く。手がふるえているのが判る。受話器を取りたくないと体中が訴え、上手く歩けない。それでも、何とかたどり着くともう一度深呼吸をして、電話を取った。
 「茜?俺だよ、俺」
 浩平からだ――耳に聞こえてきた声は紛れもなく浩平の物だった。自分の愛する人の声を、どうしようもなく不安になっているときに聴いたからだろうか、安堵のあまり涙が出そうになる。自分はこんなに涙もろくはないはずだが、情緒不安定なのだろうか。
 「あのさ、今日、会社の同僚を――と言っても一人だけどな――連れて行くから、食事の用意をしててくれないか?」
 感激していたのに、電話の内容はそう大したことではなかった。ちょっと落胆はしたが、話してもいないのに、花や、電話のことで浩平が電話をしてくるはずがない。そう思い直すと「わかりました」とだけ返事をしておいた。後であわてて「とびっきりのごちそうを」と付け加えておいたが。
 そしてその夜、予告通り浩平が会社の同僚とやらを連れてやってきた。そう、城島司を。


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PELSONA:あうあう、なんかどんどん訳が分からなくなっていく・・・
どっぺる詩子:花言葉とか、無理矢理だしねぇ・・・
PELSONA:司と浩平が友達だしねぇ・・・
どっぺる詩子:駄目駄目だね
PELSONA:駄目駄目だな。
どっぺる詩子:自分で言ってたら駄目な気がする・・・
PELSONA:そうそう、これは次で追われると良いなぁ・・・って感じです。もうしばらく、おつきあいをば・・・

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