innocent world 【episode V】 投稿者: PELSONA
郁未がシュンにあった時間から1時間ほど前。
折原浩平は放課後の喧噪に包まれた教室の中、一人物思いに耽っていた。

折原浩平がこの世界に戻ってきたからすでに3ヶ月が経過した。

自分のことを忘れなかった唯一の存在であり恋人の『里村茜』
悪態をつきながらも世話を焼いてくれる『長森瑞佳』
留年した現在のクラスメートであり、妹のような存在の『上月澪』

そんな人たちに囲まれた幸せな日常。
浩平はそんな日々に感謝をしながら、穏やかに過ごしている。

『永遠』を知ったからこそ、かけがえのない一瞬の連続に幸せを感じているのだ。

だが、浩平は思う。


『アレは結局なんだったのか』


何故、自分はこの世界から消えてしまったのか。
あのとき、浩平がこの世界から忘れ去られる前。
茜と過ごす穏やかで幸せな時間。
そんな日々が幸せであるが故、それが失われるのが怖かった。
幼い頃に、幸せはいつか壊れる物だと思い知らされたからだ。
だから、それ――茜と過ごす幸せな日常――が壊れる前に自分が消えたのかもしれない。

予想可能


何故、小さい頃の瑞佳が現れたのか。
あのとき、浩平がこの世界から忘れ去られる前。
確かに聞こえた「えいえんはあるよ」という言葉。
それは彼女が――記憶の中で混じり合ったみさおと幼い頃の瑞佳――言ったのだろう。
幼い頃、彼女が自分を救ってくれる、ずっと一緒にいてくれる存在に思えたから。
そしてその象徴とも言えるべき存在は、心の中の存在はそのままの姿で残っているだろうから。

予想可能


永遠の世界とはいったい何なのか。
あのとき、浩平がこの世界から忘れ去られる前。
自分が想像した永遠の世界。
そして、自分が行った永遠の世界。
アレはいったい何で、何処にあるのだろう。
自分の内部の存在なのか、外部の存在なのか。
内部の物なら外部の物である他人に影響を及ぼすはずはない。
外部の物なら結局アレは何処に存在するのか。

予想不可能


永遠の世界とは誰でも行ける、共通の物なのか。
あのとき、浩平がこの世界から忘れ去られる前。
それまでに永遠の世界を求めた――この世界から忘れられた――存在は2人。
茜の幼なじみ『城島司』
直前に知り合った親友『氷上シュン』
彼らが求めた世界と自分の求めた世界は同一の物なのか。
自分が居た世界――この世界から消えた時にいた世界――に彼らも同時にいたのか。
あの世界で彼らに会うことはできるのだろうか

予想不可能


結局、問題は解決していない。
また、なにかのきっかけで自分があちらの世界に行ってしまうかもしれない。
そんな考えが浩平を苦しめていた。
と、急に机に影が映る。

『一緒に帰るの』

影の主は満面の笑みを浮かべスケッチブックをかざしてくる。
どうやら、また考え込んでいたみたいだ。

「あ・・・ああ。それより今日は部活無いのか?」

考え込んでいたことを悟られないよう、いつも通りに応対する。
澪はそんな素振りに気付かずに、スケッチブックにペンを走らせる。

『今日から部活はお休みなの』

そういえば、テスト前だとかで部活が休みになると担任が言っていた気がする。
浩平はそれを思い出すと、鞄を取り出して言う。

「そっか。なら商店街にでも行ってみるか?」

浩平がそういうと、澪は両手をあげ、全身で喜びを表現する。
いつも思うことだが、本当に無邪気な笑顔だ。

「それならついでに山葉堂のワッフルでもおごってやるよ。
 今日は確か茜が働いてるはずだし」

ますます顔を輝かせる澪を引き連れ、浩平は教室を出る。
途中、数名のクラスメートに挨拶をし、校門を出る。
そこで、浩平は思いも寄らぬ人物に出会うことになった。

「久しぶりだね」
「・・・ああ。まさか生きていたとはな」
「ま、書類の上では死んだことになっているんだけどね」

そう笑顔を見せながら彼は――シュンはそう言った。

その笑顔を見ながら浩平は澪になんと言って約束をキャンセルしようか考えていた。
だが、突然のシュンの来訪で混乱している浩平は言葉が出てこない。

「悪いけど彼を借りていっても良いかな?大切な話があるんだ」

沈黙を破ったのはシュンだった。
そして、浩平も同じように澪に断りを入れる。
少し不満げな表情を見せた澪だったが浩平の「大事な用なんだ」という言葉に渋々承知する。

『明日おごってもらうの』

その文字を見せると澪は大きく手を振り、帰っていった。

「なかなか可愛い女の子だね」
「ああ。妹のような物だ」

そんな世間話をしながらも二人は歩く。
やがて、茜がいつも佇んでいた空き地に着いたとき、シュンは口を開いた。

「たしか、キミはここで消えたんだったね」
「ああ」
「でも、戻ってこられた。それは絆が見つかったからと解釈して良いのかな?」
「まあ、そんなところだ」
「僕のしたことも無駄じゃなかったみたいだね」

シュンはそこで一端会話を切ると、浩平の方に向き直る。
そして相変わらず警戒した様子の浩平に向かって口を開いた。

「なにか聴きたいことがありそうだね」

それを聴いた浩平は何となくため息をつく。
そして空を見上げながら言った。

「結局、お前は何なんだ?」
「ずいぶんと漠然とした質問だね。」

シュンは言う。

「僕自身が何なのかについて聴いているのであれば、答えることができない。
 でも、今までどうしてたかぐらいは答えることができる。
 結局、僕自身も判ってないことが多すぎるからね。」

それを聴いた浩平は再びため息。
そして再び口を開く。

「俺が聴きたいのはそんな難しい事じゃない。
 お前は永遠の世界に行く前に死んだはずじゃなかったのかと聴いているんだ。」
「ああ、そのことか」

シュンはなんて事はない・・・といった感じで答える。

「僕はキミと同じように永遠を求めた・・・といってもそれは手に入らなかったけどね。
 思いもよらない絆ができてしまったから。
 で、その絆が関係して、戸籍上死んだことになってしまったんだ」

相変わらず訳が分からないと言った感じの浩平。
シュンはそれを見ると言った。

「わかりやすく言うと、死んだことにさせられたって事だよ。
 それと、永遠の世界には行けなかった。
 これで判ったかな?」

浩平はまだ難しい顔をしているが、口を開く。

「まあ、だいたいはな。
 結局お前は永遠の世界には行けなかったし、死んではいない。そういうことだろ?」
「そういうこと。」
「じゃあもう一つ質問。永遠の世界って何だ?」

元々、浩平が聴きたかったのはこの事だ。
永遠の世界。そんな曖昧な物の正体を見極めたかったのだ。
二度と、あんな事――茜をまた一人にしてこの世界から消えること――にならない為にも。

「それは僕には判らない。行ったこともないしね。
 それより、キミをあの世界に呼んだのは誰だったんだい?」

折原みさお。
浩平の脳裏にあのころのままの笑顔で微笑むみさおが浮かび上がる。

「前にお前が言ってた大病を患って死んでしまった俺の妹だ」
「そう・・・キミの場合、その妹が呼んだんだ」

俺の場合は・・・だと?
ということは他の人――シュンや茜の幼なじみ――は違うというのか?

「それを聴いて安心した。やっぱり甦らせるのは彼女で良さそうだ。」

シュンが言った。
だが、浩平にはその甦らせるという意味が分からない。

「どういう・・・事だ?」
「純粋な意志は方向性を持ったエネルギーとなる。
 実在の有無に関わらずね。
 そしてそれを固定させるには器が居るだろう?」
「みさおを・・・いや、みさおに何かするのか?」

浩平はそう聴くが、シュンは答えない。
そしてそのまま腕時計に目をやるとシュンは沈黙を破った。

「ごめん、そろそろ僕は行かないと。
 もう一人、会わなきゃならないヒトが居るんだ」
「おい、もうちょっと聴きたいことが・・・」
「もう少しの辛抱だよ」

シュンは唐突に会話を切ると、後ろを振り替えずに歩き去る。

「おい!勝手に話を終わらせるな!」

浩平はそう叫ぶと後を追うために走ろうとする。
が、足が動かない。
正確には、足を何者かに捕まれているように地面に張り付いているのだ。

くそっ!何で動かないんだよ!!

舌打ちをするが足は未だ、動かない。
結局、その足が見えざる手から開放されたのは完全にシュンが視界から消えてからだった。

「結局・・・何だったんだ?」

浩平はそう、疑問を紡ぐ。
だが、その答えは返ることはなかった。


」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

PELSONA:うーし、これで前回、中途半端で放棄したこの作品よりは進展しました〜
どっぺる詩子:もうほとんど別物だけどね。
PELSONA:うん。今回は結構変なところが多いけどその辺は力不足って事で
どっぺる詩子:まあ、あんまり読み直さないかた当然だけどね
PELSONA:実はこの作品、中盤と後半がぺらぺらなので結構これでも序盤じゃなかったりします。
どっぺる詩子:まあ、安直な考え出しね
PELSONA:でも楽しみにしていただけると、うれしいです
どっぺる詩子:そんな奇特なヒト、いないと思うけどね
PELSONA:・・・ヲイ。いつからお前はつっこみ詩子になった?
どっぺる詩子:さっきから・・・かな。
PELSONA:・・・・・どうでもいいし。
どっぺる詩子:自分から聴いて置いてそれはちょっとひどいんじゃ・・・
PELSONA:どうでもいいし。

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