こ・う・へ・い 2  投稿者:Percomboy


 みんなから忘れられた浩平は、「えいえん」には旅立たず、小さ
くなって由起子さんの家にやってきた。「みずか」を連れて。

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 1月11日、月曜日の朝。
 月曜日といえば、高校生にとっては、学校である。
 しかし、浩平は、まだベッドの中で寝ていた。
 時刻は、8時過ぎ。浩平の枕元に、みずかが立っていた。いい加
減に起きてくれないと、学校に遅刻する…。
 みずかは、息を吸い込み、そして、目一杯の大きな声で叫んだ。

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第2話「登校危機一髪!」


 ほぼ同時刻。
 浩平の家の前に、一人の少女が立ちつくしていた。
 彼女の名前は、長森瑞佳。見た目は…「みずか」をそのまま大き
く、そして高校生ぐらいに成長した、そういう感じである。
(実のところは逆なのだが、それは別のお話)

 瑞佳は、思案していた。何故、自分はここにいるのか。何となく
ここまで来てみたが、何故ここに来たのかがわからない。確かに、
ここの家の由起子とは顔見知りではあるが、この時刻には既に仕事
に行って家にいないことも知っている。
 と、そう思い悩んでいると、家の中から、大きな声が聞こえてき
た。

「ほらぁ〜っ、起きなさいよぉ〜!!」

 どこかで聞いたことのあるようなセリフである。
 その声に、あわてて家に入っていった。鍵はかかっていたが、
瑞佳は合い鍵を持っていたのだ。

 声の発生源であると思われる、2階の部屋。そこには、一人の、
見た目は小学生ぐらいに見える男の子(浩平)が寝ていた。そして、
そのそばには、小人(こびと)と呼んで差し支えの無いような小さな
女の子(みずか)が、浩平を起こそうと、体を揺すっていた。浩平は
「う〜ん、あと5cm…」等と、わけのわからないことを口にしてい
た。

「あ、お願い、浩平を起こすのを手伝って」

 その女の子が、瑞佳を見て、そう頼んできた。

「いいよ。こういう時はねぇ…こうするのっ!」

 そう言って、瑞佳は、勢い良く、掛け布団をはぎ取った。

「ううん…寒い…」

 浩平は、体を丸めて、寒さに耐えようとした。

「ほらぁ、いい加減に起きたらっ!!」

 瑞佳は、そう言って、浩平を、無理矢理座らせるような姿勢にし
た。
 と、浩平が、瑞佳に向かって倒れ込んできた。ちょうど、浩平の
顔が瑞佳の胸のあたりに埋もれる、そんな感じである。

「う…う〜ん、気持ち良い…」
「えっ?えっ?ええーっ!」

 思わずあわてる瑞佳。
 と、その時、殺気が…。

「浩平のばかっ!」

 どんっ!!!
 枕が、浩平の側頭部に直撃し、首がずれるように、その枕によっ
て動かされていた。そして、崩れ落ちる浩平。
 枕の飛んできた方には、怒りで紅潮しているみずかがいた。

「わっ、わっ、こうへいく〜ん!」
「ふんっだ!」

 意識の無い浩平をあわてて起こそうとする瑞佳と、完全にむくれ
ているみずかだった。

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 瑞佳と浩平は、学校に向かって走っていた。瑞佳は全力で走って
いた。浩平も、それに着いてきていた。
 浩平の右肩には、相変わらずみずかが乗っていた。ただ、まだ怒
りはおさまってない、そんな感じだったが。

「なんだか、頭がものすごく痛いような気がするのだが…」
「ふんっ、知らないもんっ!」
「まあまあ、浩平君」

 おもわず仲裁役に回る瑞佳であった。
 ふとそこで、瑞佳は疑問に思った。

「ところで、浩平君の学校は、こっちで良いの?」
「おう、間違って無いぞ」
「でも、このままだと、学校に間に合わないよ」

 そういって、みずかが浩平に、身につけていた赤いポシェットか
ら取り出した、自分よりも一回り大きい目覚まし時計を見せた。
 なお、ポシェットよりも目覚まし時計の方が大きいのではないか
等ということについては、深く考えないように。

「そうだなぁ…おっ、そうだ!」

 公園の前にたどり着いた頃、浩平に名案が浮かんだらしい。

「裏山越えだ!」

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 ばりばりばりばり!
 浩平が、ものすごい勢いで、土を掻き出している。
 みずかのポシェットから取り出した「緊急穴掘りセット」を手に
着けて、穴を掘りながらその中を進んでいるのだった。右手にシャ
ベル、左手にはドリル。みずかは、相変わらず浩平の肩の上に乗っ
て、目から光を放っている。
 ちなみに、「緊急穴掘りセット」は、みずかのポシェットより大
きいように見えるが、その辺は気にしないように。

「ねぇ、こんな穴を掘らなくても、ふつうに山を越えても良かった
 んじゃないの?」

 瑞佳が、ついに、その疑問を口に出す。

「わははは、山を登るよりは、こっちの方が早いのだ!」
「そうよそうよ。浩平君の穴掘りの実力を、知らないの?」
「そんなこと言ったって…」

 狭い穴の中で、制服やらなにやらがすっかり土まみれの瑞佳。

「え〜ん、せっかくクリーニングしたてだったんだよぉ!」
「ええい、がたがたさわぐな!」

 と、その直後…。

「わぁっ、ミミズ!」
「わぁっ、モグラ!」
「わぁっ、フェレットの死体!」

 すっかり騒ぎまくりの瑞佳であった。

「ミミズやモグラやフェレットの死体ぐらいで騒ぐな!地中では、
 その程度で驚いていてはいかんのじゃよ」

 そう言って、ミミズやモグラを朝食代わりに口にくわえながら、
さらに前進する浩平であった。

「わぁっ!」
「今度は何じゃいっ!」

 いい加減騒ぎまくる瑞佳に対して、怒りを抑えられなくなった
浩平。振り返ると、瑞佳が、頭をおさえて座り込んでいた。

「いった〜い!」

 天井から、金属の固まりが出ている。どうやらこれで、瑞佳は
頭を打ったらしい。

「いったい何だよ、これ?」

 それが何なのかを知らないまま、その金属の物体にぶつけた頭を
おさえながら文句を言う瑞佳。

「なんだこりゃ?」
「なんだろう?」

 みずかは、ポシェットから何か機械を取り出して、その金属を調
べはじめたようだ。

 しばらくして…。

「どうだ?」
「中には、火薬が詰まってるみたいね。毒ガスは無いようだけど」
「ということは、これは…」
「うん、不発弾。爆弾だよ」

 分析結果を、浩平に伝えるみずか。
 そして、二人が青ざめる。
 ここで爆発されたら、爆発の衝撃に耐えられたとしても、生き埋
めになるのは確実だと思われる。

「やっかいなモノだな」
「やっかいなモノだよ」

 冷や汗たらたらで、そのブツを見つめる浩平とみずか。

「ん、何? どったの? どったの?」

 いったい何故二人が青ざめた表情をしているのかを理解していな
い、瑞佳であった。

「いや、その物体のことで、ちょっと、な…」

 浩平が答えはじめた。

「え、何? 何?」

 相変わらず、事態を理解していない瑞佳。

「それな。不発弾なんだ」
「え、不発弾って?」
「爆弾だ」
「それって…」
「ここで爆発しようものなら、オレたちは生き埋めだ」
「え? え? ええ〜っ!」

 驚きで、思わず叫ぶ瑞佳。
 声の衝撃で、わずかにずり落ちはじめる不発弾。

「わっわっわっ!」

 あわてて、その不発弾が落ちないように支える浩平。

「うかつに騒ぐな! 衝撃を与えて爆発したりしたら、どうするん
 だ!」
「だ、だって…」
「とりあえず、安全に処理をしなきゃな」
「そうそう、そこで見てなさいよ」

 みずかがそう言って、またポシェットから、いろんなものを取り
出した。その道具で、何とかするらしい。
 浩平は、さっきから、不発弾を支えたまま。

 ふと、ぼこぼこという音が。
 周りを見ると、モグラが多数出現している。
 そして、浩平を確認すると、かみついてきた。

「わっ、わっ、何なんだこいつらは!」
「浩平、どうやら、さっき食べたモグラの仲間らしいよ」
「何だってこんな時に…」
「食べられた仲間の仕返しじゃないかな?」
「うわぁ〜っ、やめてくれぇ!」

 力が入らなくなり、手を不発弾から離す浩平。
 問題の不発弾が、天井からずり落ちてくる。
 そして…。

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 どぉ〜ん!
 大きな爆発音が、裏山の方から聞こえてきた。
 窓の外では、ハデな爆発シーンが展開されていた。
 そして、あたりは土煙でいっぱい。

「んぁ〜?」

 いったんそっちを振り向いた渡辺教諭(通称:髭)だったが、それ
以上には気にすることなく、また授業を再開した。

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 裏山の山中。
 爆発で、山肌が一部えぐれている。
 と、そのえぐれて土が見えているところに、ぼこぼこという感じ
で、膨らみが出てきた。

「ぶはぁ…も、もう、ダメ…」

 そして、地上に顔を出した浩平。
 みずかが爆発の瞬間に取り出した簡易バリアに包まれて、瑞佳と
みずかは浩平に地上まで引っ張ってきてもらった。
 当の浩平は、爆発の衝撃が大きすぎたらしく、一応バリアの効果
はあったものの、全身ボロボロで、地上に出た時に力尽きた。

「浩平君! 浩平く〜ん!」
「まあまあ、まだ生きているみたいだし、大丈夫だよ」
「そ、そう?」

 みずかにそう言われて、落ち着いた瑞佳であった。

「で、今、何時なのかな?」

 ふと、そう思った瑞佳。

「今日の夕焼けは、65点ってところかな」

 西の空の、夕焼けを見ながらそんなことをつぶやいたみずかで
あった。