乙女の秋・遊園地編(2)  投稿者:Percomboy


 このお話は、北一色さんの「乙女の秋」をもとに、その続編とし
て書いております。
 なお、この話の掲載を許可してくださった北一色さんに、この場
をお借りして感謝を申し上げます。ありがとうございますm(__)m

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 遊園地に来ている浩平と留美。彼らを監視する3人組。
 今はお昼時です。

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「ほら、持ってきたぞ」

 二人分のハンバーガーやら飲み物やらを持ってきた浩平。

「あ、あたしの分を持つわ」
「いや、いいって…あっ!」

 浩平に近づこうとしたところで、つまづいてしまった留美。
 食べ物を片手に持ち、もう片腕で、留美を抱き留めた浩平。

「あっ…」

 おもわず、お互いが見つめ合ってしまう。
 しばらくして、二人は、あわてて離れた。

「ご、ごめんなさい」
「いや、まあ、良いけど。気を付けろよ」

 二人は、真っ赤になってうつむきながら、ぎこちない感じで昼食
をとり始めた。

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「うぐぐぐ、折原のヤツ、七瀬さんに抱きつくとわぁ!」
「許せませんな、アレは」

 物陰から浩平と留美を見ている南森・中崎の二人。その横で、我
関せずといった感じでハンバーガーを食べている広瀬。

「良いんじゃないの。あの二人、好きあっているみたいだし」
「折原には、長森さんがいたはずだ!だから、我々は、あの二人を
 認めないのだ!」
「そうだそうだ!」

 広瀬の言葉に、抗議する二人。

「男のやきもちは、見苦しいわよ」

 ぐっさぁ!
 二人の心に突き刺さる、クールな一言。
 その場に崩れ落ちる、男ども二人であった。

「あ、あの二人、移動しはじめたわ。行くわよ!」

 こうして、3人は(男二人は、広瀬に引きずられながら)、カップ
ルの後を追ったのであった。

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「きゃあっ!」

 暗い場所で、びっくりして、思わず浩平に抱きつく留美。
 ここは、お化け屋敷である。
 無我夢中で抱きついた留美。浩平は、そのやわらかい感触に、ど
きどきする感覚を覚えていた。

(やっぱ、こいつも女の子なんだな)

 ふと、我に返る留美。自分がやっていることがわかって、あわて
て浩平から離れる。

「ご、ごめんなさい。その…」
「良いって事よ。しかし、お前も、かわいいところあるんだな」

 からかい半分で返した浩平。しかし、留美には、「かわいい」と
いう部分しか聞こえてない感じであった。

「そ、そうかしら…」

 なんだか恥ずかしくなって照れる留美。つられて浩平も。
 周りでは、彼らを驚かそうと襲いかかる感じで出てくるお化けた
ちであったが、この二人に割って入ることは、もうできなさそうで
あった。

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「うわぁ!」
「た、たすけてぇ、あねごぉ!」

 お化けたちの襲来に、広瀬の陰に隠れるようにしておびえる男二
人。

「姉御、はやめてよ。だいたい、こんなの作り物じゃないの。何が
 怖いの?」
「そんなこと言ったって、やっぱり怖いよぉ!」

 とことんまで情けない奴らであった。すでに、浩平と留美の様子
に文句を言う余裕すら無いらしい。

「ほら、ぼぉっとしていると、あの二人を見失うわよ。さ、とっと
 と進むの!」

 というわけで、3人組は、カップルの後を追いかけていった。

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 時は、既に夕方である。
 浩平と留美は、観覧車に乗って、向かい合わせに座っていた。

「折原…今日はありがとう」
「ん?どうしたんだ、あらたまって」

 留美が何かを切り出せずにいるのが、浩平にはわかった。何か言
いにくいことなのだろうか。

「あのね…折原。今度、あたし、また引っ越すんだ」
「そう、なのか…」

 沈黙が、二人を包む。

「それでね、この街での思い出が欲しかったの。今日は、とても楽
 しかったわ」
「そうか。でも、寂しくなるな」
「そう言ってくれて、うれしいわ」
「それで、今度は、どこに行くんだ?」
「北の方よ」
「そうか…寒いんだろうな」
「ええ、もう、雪が降り始めているらしいわ」
「そうか…こっちでは、めったに雪は降らないからな…」

 また、雰囲気が暗くなる。
 留美が、一転して明るく取り繕って、切り出した。

「何暗くなってんのよ。楽しい思い出を作るために、あたしはここ
 に来たのよ。もう少し明るくしてよ」
「それもそうだな。何も、もう二度と会えないというわけじゃない
 んだからな」
「そうよそうよ」

 二人は、わざとらしい笑顔を作ってみせた。

「それで…今日の最後のお願い…」

 留美が、浩平の隣に座った。
 そして、近づいてきた。

「いきなりで図々しいことはわかっているわ。でも…」
「いや、オレは良いんだが…良いのか?」
「誰でも良いわけじゃないわ。折原だから…その、あたしのはじめ
 ての…」
「わかった」

 そして、二人は、唇を重ねたのであった。

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「あの二人も、なかなかやるわね」
「ううっ、七瀬さ〜ん!」

 あの二人の、すぐ後ろのかごに、3人組は居た。
 ちょうど浩平と留美のキスシーンを目撃する形になったわけで。
 涙を流して悔しがる男二人と、感心した様子で見ている広瀬。

「まあまあ、別に女は七瀬さんだけじゃないのよ。元気を出しなさ
 いって!」
「ううっ、ぞんなごどいっだっでぇ!」

 こうして、日は暮れていった。

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 遊園地の出口。

「ありがとう。本当に楽しい一日だったわ」
「なあ、住所とか教えてくれ。手紙を書くから」
「わかったわ」

 互いの別れを惜しむ浩平と留美。

「今は無理だけど…大学は、また、こっちのを受けるから。そう
 なったら、また会えるよね」
「ああ。だけど、きちんと合格しないといけないぞ」
「大丈夫よ。恋する乙女は、無敵なんだから!」
「ははは、それでこそ、いつもの七瀬だ」
「何よ、それ」

 お互いの笑い声が、響きあった。

「それじゃ」
「ああ。とりあえずは、また明日、学校で」
「そうね。バイバイ」

 留美は、こうして去っていった。

 そして。

「さて、そろそろ出てきたらどうだ、3人とも」
「あら、バレてた?」
「当たり前だ。そんな怪しい格好で後をつけられて気が付かないの
 は、七瀬ぐらいのものだ」
「あはは、やっぱりぃ?」
「バカにするな。そこの男ども。いつまでも泣いているんじゃな
 い!」
「ううっ、七瀬さ〜んっ!」
「転校しちゃうんですかぁ!」
「まあ、そういうことだ。オレたちも帰るぞ」

 こうして、この一日は終わっていったのであった。

(終わり)