浩平は、一人、部屋の中にいた。 今は、1月8日。結局、誰とも絆を結べず、もはや「最期の時」を 迎えるのを待つだけだった。 そんな浩平の耳に、少女の呼び声が聞こえる。 「えいえんは、あるよ」 「ここにあるよ」 --- 第1話「始まりは、唐突に」 浩平が気が付くと、そこは、住宅街にある空き地。見覚えがある 場所だった。 空は、雲がいくつか見えるが、いわゆる晴れ。周りには、誰もい ないようだった。 そのまま居ても仕方が無いので、浩平は、家へと向かった。もち ろん、それまでを過ごしてきた、叔母の由起子の居る家である。 帰る途中、不思議な感覚を覚えた。曰く、視点が低い。それに、 歩幅が小さい気がする。だが、浩平は、特に気にしようとは思わな かった。 ようやく、目的の家にたどり着いた浩平。玄関からは、偶然、 由起子が出てきた。 由起子が浩平を見ると、寄ってきて、浩平の前にしゃがんで座っ た。ちょうどこの状態で、立っている浩平と、視線が同じ高さに なった。 そして、由起子は、優しい感じで、浩平に対して訊いた。 「坊や、どこから来たのかな?」 「何を言っているんだよ。オレは浩平。ここに住んでいるだろう」 「そうよそうよ。ここの家の浩平君だもん」 二つ目は、浩平の返事。三つ目のは、いつの間にか浩平の右肩に 乗っていた、女の子…身長15センチほどの。茶色がかった長い髪、 一部を後ろに回し、黄色いりぼんを付けている。そして、白いワン ピース。この季節では、ちょっと寒いんじゃないかという気もする が…。 「とにかく、腹が減った。飯をよろしくな」 「よろしくねっ☆」 由起子が何かを言いたそうだったが、それを無視して、家の中に 入っていく二人。 キッチンの方から、声が聞こえる。「はらへった〜!めしはまだ か〜!」 とりあえず何か食べさせて、親にでも来てもらおう、そう思った 由起子は、家の中に入っていった。 --- 家の中に残っていた食べ物を、ものすごい勢いで平らげていく 浩平。その横で、女の子の方は、その体に見合った程度の量の食べ 物を、ちょこちょこと食べていた。 その横で、浩平の持ち物等を調べている由起子。その持ち物の中 に、高校の生徒手帳を見つけた。 (こんなに小さいけど、高校生だったのね…) 手帳を開く由起子。氏名の欄を見て、これが、その「浩平」のも のだとわかった。 住所の欄を見る…次第に、由起子の顔が青ざめる。その住所は、 間違いなく「ここ」であった。そう、由起子が今住んでいる、自分 の家。保護者欄にも「小坂由起子」の名前があった。 「そ、そんなバカな〜!」 思わず、由起子は叫んだ。 「あ、自己紹介が遅れていたんだよ。私はみずか。よろしくね☆」 みずかは、ご飯粒やら食べ物の汁やらを口の周りに付けたまま、 深々とお辞儀をして、由起子に挨拶をした。 これが、浩平・みずか・由起子の3人による、奇妙な生活の始ま りだった。