悔恨への帰還 7  投稿者:Percomboy


<7日目> I shall return !

 朝早く。オレは、珍しく目覚ましも長森の声も無しで一人で起き
た。
 オレを起こそうと入ってきた長森が既に身支度を始めているオレ
を見て、心底驚いていた。

 二人で朝食。長森が口を開く。

「浩平は、今日、帰っちゃうんだよね…」
「ああ。元々その予定だったからな」

 オレは、そう応えた。
 そして、沈黙が続く…。

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 駅のホーム。結局、出発は昼過ぎとなった。
 これで、しばらくはこの街ともお別れ。そう考えると、感慨深い
ものもあった。

「あ、あの、浩平…」

 長森が、何か言いにくそうな感じで言ってきた。

「何だ、長森?」
「そ、その…また、帰ってきてくれるよね」

 オレが言葉を促すと、うつむき加減に、長森はそう続けた。

「ああ。来年になるか、10年後になるかはわからんが…」

 長森を見ながら、オレはさらに続ける。

「次に帰ってくるときは、お前のためということだな」

 長森は、うつむいたまま、赤くなっていた。
 せめて、気持ちの整理がつくまでは、この街にまた来ることはで
きないだろう。
 でも、次に帰ってきた時には、その時は…。

「はい、これ」

 オレが、そう物思いに耽っていると、ふいに、長森がオレに何か
を手渡してきた。

「何だ、こりゃ?」
「目覚まし時計。浩平がきちんと朝起きられるように、ね」

 オレの疑問に、長森が、笑顔で応えた。

「こんなモノ無くても、目覚ましの一つや二つぐらい、オレだっ
 て…」
「良いの。これを使って欲しいんだもん」

 長森がオレの文句を遮ってそう言うので、とりあえず受け取るこ
とにした。

「しかし、何だっていうんだ? 何の変哲も無い目覚ましに見える
 が…」
「ああ、ダメ、ここで鳴らさないで!」

 中から目覚まし時計本体をとりだし文句を言いながら鳴らそうと
するオレと、それを見てオレを止めようとする長森。
 しかし、長森の制止の努力もむなしく、あたりにその目覚まし時
計の音が鳴り響く。

『ほらぁっ!、浩平、起きなさいよぉっ!』

 オレは、しばらく無言で、長森を見ている。

「あははっ、これで、わたしのことを忘れないようにっていうか、
 その…」

 ばつの悪い感じで、うつむく長森。
 半分呆れた様子で、オレは、その目覚ましを荷物の中にしまい込
んだ。

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 やがて、列車が発車の時を迎えた。
 オレは、窓側の席に座り、ホームを眺めていた。
 走り出す列車。オレに向かってくるように、長森が走り出してく
る。
 そして、列車は、ホームの端を越えて、さらに走っていった。
 長森が、そこで叫んでいた。

「浩平、きっと、帰ってきてねぇ!」

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 列車は、俺を乗せて走り続ける。
 懐かしの中崎町は、だんだん小さくなる。
 長森の姿も、もうとっくに見えなくなった。

 オレは、鞄の中から、二つのモノを取り出す。
 一つは、あの羽根飾りのアクセサリ。今は、何故オレが中崎町に
帰る気になったのか、理解できるような気がする。7年前に放り出
したままの「忘れ物」に気が付き、それを取りに行った、そういう
ことなのだろう。
 そして、もう一つは、長森にもらった目覚まし時計。オレに安ら
ぎを与えてくれる、絆の象徴。少なくとも、あの街には、オレの帰
る場所は残っているらしい。

 だったら、オレは誓う。
 オレの過去と未来が存在する中崎町。
 オレは、かならず、そこに帰ってくると。

(終劇)