<6日目> Everything becomes just a memory. 朝、目が覚めると、オレは、自分の部屋で、布団の中にいた。 目を横に向けると、長森が、座った状態のような感じで、上半身 をうつぶせにしてオレの布団の上に乗せて寝ていた。ちょうど、夜 通しでの病人の看病に疲れて眠りこけてしまったかのごとく…。 しばらく眺めていると、長森が目を覚ました、 「…ん…あ、浩平…」 長森は、まだ寝ぼけているようだ。 「…あ、ごめん、寝ちゃってたんだ!」 ようやく、完全に目を覚ましたようである。 「おはよう、長森」 オレは、優しく声をかけた。 「でも、オレは、二度とここに来るなって言ったよなぁ」 オレは、意地悪な感じで、そんな風に続けた。長森があわてる。 「ご、ごめんなさい! でも、わたし、浩平のことが心配で、それ で…」 「良いって。別に怒っているわけじゃないよ。むしろ感謝してい る。ありがとう、長森」 オレの素直な感謝の言葉に、びっくりしたような表情を浮かべた 長森。 オレは、さらに続ける。 「オレは、あの時、それこそ気が狂いそうだった。長森が来てくれ なかったら、それこそどうなっていたかもわからない」 「で、でも、あれは、わたしの勝手なお節介だし、お礼を言われる なんて思ってなかったし、浩平が夕飯の時になっても帰ってこな いし…」 なんだか、妙にあわてた感じで、意味不明なことを口走っている 長森。 「心配してくれるってのが、こんなにうれしいと思ったことは無い よ。もう一度言わせてもらうよ、本当にありがとう、長森」 オレの感謝の言葉に、どういう表情をして良いのかわからないと いう感じで、赤くなってうつむく長森。 「でも、何でお前は、オレなんかのために、こんなにいろいろか まってくれるんだ?」 ふと、オレは、そう訊いてみた。 しばらく、沈黙が続く。 そして、意を決したような感じで、ついに長森が、口を開く。 「それはね、わたしが、浩平のことを好きだからだよ」 「そうか…」 ある意味においては予想通り、ある意味では全く予想していな かったその言葉。とりあえず、そう応えただけだった。 間をおいて、オレは、長森に言う。 「正直言って、うれしいよ。オレのことをそう思ってくれて」 長森が、また、赤くなってうつむく。 オレが続ける。 「でも、ごめん…今すぐは、その気持ちを受け入れられそうにな い」 長森の表情が沈む。 「もし、オレの気持ちの整理が付くまで待っていてくれるなら、そ の時は…」 「待つよ。いつまでも。わたしにも望みがあるんだね」 オレの言葉に、長森が、そう応えた。終わりの方には、涙を流し ていた。 --- オレと長森は、みさきの家を訪ねた。 話によると、昨日は、みさきの7回忌ということだった。 オレたちは、みさきが眠る墓地を目指した。 墓地の入り口で、長森には待っていてもらうことにした。オレは 一人で、墓参りに来たかったから。 みさきの墓の前には、まだ新しい花が供えられていた。深山先輩 あたりだろう。聞いたところによると、深山先輩は、結構頻繁にこ こに来て掃除とかしているらしい。 オレは、墓の前で手をあわせる。 「オレは、今まで、みさきのことから逃げ出していた。オレに勇気 が無かったから。ごめん、ほんとうにごめんな…」 オレは、泣いていた。そして、改めて、みさきの死を現実のもの として認識した。 オレにできることは、そのくらいだった。 --- 夜、オレは一人、布団の中で、あの羽根飾りのアクセサリを眺め ながら考え事をしていた。昨日、みさきの背中に見た、あの翼の羽 根に良く似たモノのアクセサリ。 この何日間は、ただの幻だったのかも知れない。だが、確かに、 オレはみさきと一緒の時間を過ごした。 みさきはこの世にはもういないかも知れないが、オレの思い出の 中では永遠に生き続けてくれる、そんなことを考えていた。アクセ サリのタグに書かれたMisakiの文字を眺めながら…。