悔恨への帰還 3  投稿者:Percomboy


<3日目> Invisible scene.

「ほらぁっ! 起きなさいよぉっ!!」

 ほとんど昨日の再現のように、カーテンが開かれ、長森の声で起
こされる。
 布団をはぎ取ったところで絶句する長森。脅かしてやろうと、全
裸で寝ていたのだ。昔使った手ではあるが。
 もはや、あわてることもなく、周りにあった服を投げつけられ
る。仕方無くそれを着て、1階のダイニングに降りていった。

 朝食を食べている時に、長森が訊いてくる。

「浩平、今日は、どうするの?」
「ああ、今日か。デートだ」

 えっ…といううめきと共に、なにか信じられないという表情の
長森。

「昨日約束したんだ。今日は、オレの大事な女性と、一日過ごすっ
 てね。邪魔すんなよ」
「そうなんだ。浩平には、そういう人がいたんだ…」

 寂しそうにつぶやく長森。何か、大きなショックを受けたという
ようにも見えた。

「ああ、そうだ。今日は一日、みさきと、楽しく過ごすんだ」

 オレは、調子に乗って、そう続けた。

「え、みさき?」

 出てくるはずの無い名前、そんな感じで長森が訊き返してきた。

「そうだ。川名みさきっていうんだ。知らないのか? オレたちの
 先輩にあたる女性だ。今度紹介してやるよ」

 オレは、意気揚々、そんな感じで応えた。

「川名みさき…まさかねぇ…」

 何か、ぶつぶつとつぶやく長森。その様子に引っかかるものが
あったが、とりあえず気にしないことにした。

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 商店街の入り口。みさきがオレを見つけ、手を振ってくれてい
る。

「浩平く〜ん、ここだよぉ〜!」

 オレは、そっちへ向かって駆け出す。

「みさき、待ったか?」
「ううん、全然。ほとんど時間どおりだからね」

 二人、笑顔で言葉を交わす。

「それじゃ、まずはどこに行こうか?」
「え〜とね、ちょっとお腹すいたかな」

 ちょっと考えて、みさきは、そんな提案をした。

「わははは、みさきらしいや。それじゃ、どこかに食べに行こう」
「あ、浩平君、さりげなくひどいこと言ってない?」

 表情だけむくれた感じのみさき。

「ま、気にしない気にしない。とりあえずボスバーガーで良い
 か?」
「うん、浩平君とだったら、どこだって良いよぉ」

 というわけで、二人で、近くのハンバーガー屋に入っていった。
 オレはボスバーガーセット、みさきはボスバーガーセット2つに
ハンバーガー4つ。

「オレは久しぶりに帰ってきてこのあたりのことがよくわからない
 から、今日はみさきに街を案内してもらおうかな」
「うん、私にまかせて!」

 そういうことで、二人がほぼ同時に食べ終わると、あちこち歩き
回った。
 商店街のファンシーショップの前に来た時。

「浩平君、何か、お揃いのアクセサリーでも欲しいね」

 みさきがそういうので、オレたちは、そこに入っていった。
 店の中は、いろいろな、ピンク色のモノや丸いモノがその辺に
散らばっている。やはり、こういう店には入り慣れない。
 そんな風にオレが混乱している中、みさきが、何かを持ってき
た。きれいなうすいピンク色の羽根飾り。

「ね、この色、きれいでしょ。それにこれ、ペアになっているんだ
 よ。良いんじゃないかな」

 確かに、二つペアにパッケージされている。どうやら、名前を入
れたタグを付けてくれるらしい。
 それぞれに、お互いの名前を入れてもらって、オレがMisakiのタ
グが付いた飾りを、みさきがKoheiのタグが付いた飾りを持つこと
にした。

 それから、二人で、商店街を食べ歩いたり、公園に行って芝生に
寝ころんだりした。
 やがて着いたのは、オレたちの高校である。
 二人で、また、屋上にやってきた。

「わあ、夕焼けがきれい」

 確かに、きれいな夕焼けだった。そして、その夕陽に照らされて
真っ赤になっている二人。
 みさきの姿が、何か幻想的でもあった。

「浩平君、今日はありがとう。とても楽しかったよ」

 みさきがこちらを振り向いて、オレに言った。

「ああ、みさき、オレも楽しかったよ。明日も、また二人の時間を
 すごそうな」
「うん、そうしようね」

 そして、明日の約束を交わし、帰路に就くオレ。みさきを家まで
送っていこうと提案したが、この屋上にもうしばらくいたいという
事で、俺は一人で帰った。

 みさきと一緒に出かけて、とても楽しい一日だった。夜、寝床で
その事を思い出すオレ。
 しかし、何かが、頭の中で引っかかっていた。何かおかしなこと
でもあるのだろうか?