悔恨への帰還 2  投稿者:Percomboy


<2日目> Remenber my love.

「ほらぁっ! 起きなさいよぉっ!!」

 長森のその声と同時に、カーテンがカシャァッ!という音を立て
て開く。それと同時に、朝の日射しが、部屋の中に入ってくる。
 オレは、元々オレの部屋だったところに、布団を敷いて寝てい
た。この部屋には、家財道具など一切無い。確かに今ここに住んで
いないオレには不要だが、それらが処分されたのは、オレがこの家
を出ていくずっと前の話だ。

「うぅ…あと3グラム寝かせてくれ…」
「何よそれ。単位が無茶苦茶だよ。休みだからって、だらだら寝て
 いるんじゃないの!」

 苦心の言い訳も役に立たず、布団をはぎ取られて、結局たたき起
こされてしまった。
 半分寝ぼけた状態で、長森を見ているオレ。

「な…なによぉ」
「いや、お前って、本当に昔から変わらないなと思ってな」

 ふと思ったことを、そのまま口に出したオレ。

「良いじゃない、別に。浩平がもう少ししっかりしてくれたら、こ
 んな風にしなくても良いんだよ!」

 何か理不尽なものを感じながらも、はいはいと生返事をしてオレ
は起き出した。
 そして、長森が布団を片づけて、オレに続いてダイニングへと降
りてきた。

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 長森が用意してくれた朝食の後、オレは、街の散策に出ることに
した。
 長森が一緒に来ると言ったが、オレは一人で行くことを選んだ。

 久しぶりの街並み。商店街は、店の新旧交代は一部であったもの
の、概ね昔のままであった。
 懐かしさと満足感を感じながら、足を進めていくと、やがて、以
前、通っていた高校が見えてきた。オレは、そっちへ向かっていっ
た。

 いつも通っていた時とは反対側にあたる門から、オレは入って
いった。その門が開いていたからだ。
 久々の校内に懐かしさを感じながら、歩き回っていた。

 そして、オレは、屋上へ出る扉の前にやってきた。立入禁止の札
を無視して、屋上へと出ていく。
 そこに、一人の女性が立っているのを見た。きれいな長い黒髪の
後ろ姿。制服姿ではない、ラフな普段着という感じ。その様子は風
を感じているようで、その場に立っている。
 どこかで見たことのあるような光景。浮かんでくる記憶。気が付
くと、オレは、その女性に声をかけていた。

「よぉっ、先輩。今日の風は何点だ?」
「95点あげても良いかな」

 オレの呼びかけに、その女性はそう応えた。

「でも、『先輩』はないんじゃないかな、浩平君」
「そうだな。みさき。ただいま」

 オレがそう応えた時、その女性はふりかえって、オレに向かって
駆け出してきた。

「おかえりなさい、浩平君。ずーっと会いたかったんだよぉ!」

 最後の方は、半分涙声になっていた。

「ごめんな、みさき。オレも寂しかったんだ」

 オレは、みさきを抱きしめながら、そう言った。
 彼女の名は、川名みさき。オレの一つ先輩にあたる。初めて出
会ったのはオレが高校2年、彼女が3年の時。ここがその思い出の場
所。そして、オレが今この世界にいることができるのも、彼女のお
かげであった。
 オレの中から欠けていたもの、それが彼女の存在であった。その
事をようやく認識できた。何故彼女のことを思い出さなかったのか
については疑問があったが、とりあえず大事な恋人をこうして抱き
しめることができる、その至福の瞬間を持つことができたのは何よ
りもうれしかった。

 しばらく屋上で、二人きりの時間を過ごした。

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 やがて夕方になって、家に帰ることにした。明日、二人で商店街
を散策しようと、いわゆるデートの約束をして。
 帰り際、おれは、声をかけた。

「みさき、家まで送っていくよ。どうせすぐそこだし」
「ありがと、浩平君。でも、もうすこしここにいるね。まだ明るい
し、夕焼けを眺めていたいんだ。今日もきれいな夕焼けだからね」

 それならばと、オレは、みさきを一人屋上に残して、学校を後に
した。
 帰り道、夕焼けを見ながら、ふと思ったこと。それは、何か重大
な何かを見落としているような気がしたのだ。