生きてく強さ 投稿者: Seal
 春の公園はとても優しく、包み込むような暖かさがあった。
 オレは一人、芝生の上に寝っ転がっていた。
 新芽の匂いが清々しい春の風に乗って流れてくる。
 オレは帰ってきた。
 変わる事のない永遠の中から……いつまでも待ち続ける人がいるこの世界へと……
 オレが永遠よりも必要とした絆のために……

 オレは芝生に寝っ転がったまま、無限に広がる青空にと手を伸ばす。
 届くはずが無い。
 オレがそれを求めていないから……この地上にオレの求めるものがあるからだ……

 ……なんかシリアスだな、オレ……

 そうこう考えているうちに、だんだんと足音が近づいてくる
 この歩き方は椎名だな……ここで待ち合わせしていたからわかって当然だが……

「みゅーっ……」
「お……来たか、椎名」

 パタパタと椎名がオレに駆け寄ってくる。
 こんな所は昔と全く変わっていない。
 けど椎名はちゃんと変わっていた。
 オレが思ってた以上に強くなっていた。
 オレがいなくてもちゃんとやっていけてたんだな。
 いや……オレはもう必要ないのかもな……

「みゅー……」
「ん……どうした……?」
 椎名は一冊のノートをオレに差し出した。
「……これを読めって言うのか……?」
「うんっ!!」

 椎名がオレに差し出したものは日記であった。
 オレは一番最初のページを開く……

 ……いろんな事が書いてある
 ……いろんな思いが綴ってある
 ……クラスメートに意地悪されたり
 ……瑞佳の奴に励まされたり
 ……学校に行きたくなくなったり
 ……新しい友達が出来たり
 ……色々な経験をしたり

 悲しかったり、へこたれても……逃げずに頑張って……

 ……それは椎名が一人で頑張って生きてきた証……
 ……椎名が大人への道を歩み始めているという事……

 そうだよな椎名。
 お前はいつもこの何気ない日常を一生懸命生きてきたんだよな……
 今までも……そしてこれからも…… 
 辛くてもホントに悲しい時以外は頑張って泣かないで……
 椎名はオレなんかより十分強かったんだ……

 そして日記の最後にはこう書いてあった……
 それは大人になるために頑張った椎名への一番の贈り物……

『今日たいせつな人がかえってきてくれた。これからはずっとそばにいるんだ』

 オレは日記を閉じる。椎名はオレの横でじっとオレを見つめていた。
 その瞳はあの日から変わっていない。
 オレはあのとき椎名に直接終わりを告げていなかった……
 だから椎名はずっとオレの彼女だったんだな……

「椎名……オレが帰ってきて嬉しいか?」
「うんっ!!」
「オレとずっと一緒にいたいか?」
「うんっ!!」
「オレがいなくて寂しかったか?」
「うー………」
 とたんに椎名の顔が曇っていく。
 この一年間オレがいなかった事を思い出しているみたいだ。

 やば……泣くかな?

 けど椎名はじっと我慢していた。
 本当に強くなった椎名……けどオレの前では弱さを見せてもいいんだぞ……
 オレは椎名を腕の中に引き寄せ抱きしめる。

 やっぱり……こうしてやるべきだよな……
 一番辛かったのは椎名なんだから……
 オレも言葉でうまく言えないから気持ちを行為で示す……
 たまには甘やかしてやってもいい……よな……

 椎名がオレの腕の中で泣いている。
 オレとの間の一年間の空白を埋めるように。
 椎名のぬくもりと涙の冷たさが伝わってくる。 

 椎名が泣き止んで笑ってくれるまでオレはずっとこうしてる。
 そのかわり椎名が泣き止んだらハンバーガー食べに行こうな。
 そしたら椎名、これ以上無いような顔で笑ってくれるよな。


 出会った時の様にオレの服の胸の部分が椎名の涙でびしょ濡れになっている。
 あの時は嫌だったけど……今ならこれも悪くないと思えた。