『宝物』 投稿者: Seal

 わたしの膝にあったぬくもりが消えていって……
 わたしの一番大切だったものが消えていって……
 それでもたった一つだけ残ったわたしの宝物……


 いつも泣きそうになる
 言いようのない悲しみがわたしを覆う
 けどいつもわたしの宝物が慰めてくれる
 いつも笑っていろって言ってくれる
 大切な人が居ない時も笑っているって言ってくれる
 大切な人が戻ってきた時も笑っていろって言ってくれる
 だからわたしは生きていけるんだ……
 大切な宝物と思い出に支えられて……
 いつまでも待っていられる……
 ・
 ・
 ・
 そして………日常が…帰ってきた……
 ・
 ・
 ・
 明るい光が部屋中を包み込む
 わたしはいつも通り、あの人を起こしにいく
「うう……あと5分……」
「だめだよっ。もう時間がないよっ!!」
 あわただしい日々……今まで通りのかけがえのない日々……


「なんだ?お前。まだそのぬいぐるみ持ち歩いているのか?」
 あわただしく学校へと向かう途中、あの人がわたしに話し掛けてくる
「そうだよ。だってわたしの宝物なんだもん」
「だからっていまどきの高校生がぬいぐるみを持ち歩くか?」
「だって……1年間ずっとわたしの事を支えてくれたんだもん……」


 1年間
 わたしにはとても長いものだった
 けど、わたしは待ち続ける事ができた
 一番大切な宝物が完全に消えてしまったわけではなかったから……


 もうすぐ学校が見えてくる
 わたしはあの人のあとを追いかける
「けど……わたしの一番の宝物はね……」
「えっ!?なんだって?」
 わたしの前を走っていたあの人が振り返る
「……ううん……なんでもない……」


 わたしの一番の宝物……
 それはわたしの側で笑ってくれるあなたなんだよ……


 学校のチャイムが聞こえてくる
 わたし達は急いで学校へと向かおうとする
 あの人が振り返りわたしを見て、急に歩みを止める
「……どうしたんだ?……瑞佳……?」


 今の季節があまりにも眩しすぎて
 わたしの瞳から涙が流れだす
 けどわたしはすぐに泣き止むんだ……
 わたしは笑っていないといけないんだ……
 そうしないと大切な人が悲しい顔をしちゃうから……


「ううん。なんでもないよっ」
 わたしは精一杯の笑顔であの人に微笑みかける
「……そうか……ってチャイムがもう鳴ってないっ!!急げっ!!」
 慌ててあの人が校舎へと駆け出す
 わたしもあの人に付いていく


 輝く季節が本当に眩しいから…わたしはいつまでも笑っているんだ……