【24】 中崎町防衛部 Vol.5 <Dパート>【終】
 投稿者: Matsurugi <tnkd@lily.yyy.or.jp> ( 男 ) 2000/3/13(月)02:52
----------
:CM

大手ファストフード店との提携による新メニュー誕生!
その名も『ガーリックうまくさラーメン』!!
さらには現在サービス期間中につきスペシャルキムチ特盛サービス!
ぜひ小吉ラーメンにご来店下さい!!

※このCMはフィクションです。
----------



:EYE-CATCH

:EPISODE:5-D
:The End and The Beginning,The Beginning and The End



:18時25分 移動要塞内部・ブリッジ

「メインの出力はもうまわせん! これ以上はドームを浮かせる分が維持できない!!」
「だったらひとまず降ろせばいいだろ!」
「そんなことしたら狙い撃ちにあうだろ、バカ!」
 オペレータたちの間で慌ただしく取り交わされる言葉が、次第に緊迫の色を帯びつつあるようだった。
「とにかく、3%でもいいからこっちにまわしてくれ! これじゃ予定に間にあわん!」
「ムリなものはムリだ!! 緊急用の動力は残さないとまともに突っ込む!」
「未完成なんだからそんなのしかたないだろうが!」
「バカいうな!! 全員殺す気か!」
「やめろ! 今は作業に集中するんだ!!」
 ほとんど殺気立った諸相を見せるやり取りの中で、オペレーターたちの作業が続く。
「侵入者、T−5に移動! セクタD−12を進行中!」
「チャージ出力、予定の98.4%で上昇中!」
「……アクト2、作業終了まで、あと428秒……」


:18時27分 町内商業地付近

「連絡は?」
「さっきから繋げようとしてるけど……無理のようだね」
「そうか……」
 七瀬たちとの連絡がつけられそうにないことを聞いて、浩平がしばし黙考する。が、
「仕方ない。あんまり時間もないし……このままいく」
 決断するように、そう宣言した。
「やるのかい?」
「ああ」
「最悪、巻きこむ可能性もないとはいえないけど?」
「……あいつらなら、なんとかするさ……きっとな」


:18時28分 移動要塞内部・通路

「あと3ブロック行けば目的地のはずです」
「そこまで無事でいればねっっ!!」
 話しながら、七瀬は通路に設置されたセキュリティーの攻撃を回避する。すかさず反撃、対象を撃砕する。
「あーっ、キリないわよっ、もうっっ!」
 悪態をつきながらも、彼女らは立ち止まらずに通路を走り続けた。
「とにかく、急いだ方がいいわ。ヤバイことにならないうちに」


:18時29分 町内商業地付近

『そんな奇跡みたいなこと、できる訳ないだろうが!』
 南が絶叫していた。浩平が伝えた作戦内容を聞いた直後の事である。
「奇跡ってのは、自分自身で起こすもんだっていうぞ」
『無茶いうなっ!』
「滅多にない機会なんだから、奇跡の10や20ぐらい、たまには起こしてみろ」
『アホかっ! 起きないから奇跡なんだぞ!』
「起きる可能性があるから奇跡なんだって、むかし誰かが言っただろう」
『知るか! ……って、ええいっ、おまえと奇跡について議論なんぞしてる場合じゃないっ!』
「いや、とても重要だと思うぞ」
『思うかっ! だいたい、こんなこと言いあってるヒマなんか無いんじゃなかったのか!!』
「おっと、そうだった。くだらないことしてる場合じゃなかったな」
『おまえな……』
「というわけで氷上、やれ」
「了解」
『っておいっ! な……何を……っっ!!』
 南の悲鳴響く中、みゅーつーたちが南のアルジーノンを取り囲み始めた。


:同時刻 移動要塞内部・ブリッジ

「……! 防衛部に新たな動きが見られます!」
 雪見らの方でも、浩平たちの行動を捉えていた。
「まだ何かしようっての?」
「それが……残存する三脚ロボットたちがD−2を担ぎ上げているようです」
「? いったい何を?」
「なんだろうと知ったこっちゃないわ。いずれにしろ次で連中はアウトよ」
「ですが、まだチャージが終わっては……それに侵入者も……」
「外を片付けてしまえばどうとでもできるわ。位置だけ知らせておけば十分よ」
「けど、相手の狙いを確かめたほうが……」
「今さら何をしたって遅いわ。すぐに片がつけてしまえば……!!」
「…………」
 楽観視する気にはなれない佐織とは対照的に、雪見は断定的に告げたのだった。
「……FL率、現在86%……アクト2まで残り184秒……」


:同時刻 移動要塞内部・通路

「次はっ?」
「……?」
「どうしたの?」
 茜が急に立ち止まっていた。
「……現在位置を見失いました」
「えーっ!?」
「データがプロテクトされているようです。この先のルートマップが呼び出せません」
「そんな……どうするのよ?」
「制御室の位置は判明しているのですが、行き方が不明です。ほとんど近くだと思うのですが……」
「そんなこと言っても、このままじゃ方向もわからないよ〜」
「おい、ここで何してる!!」
 立ち往生する3人に、誰何の声が掛けられた。
「しまった!!」


:18時31分 町内商業地付近

『おろせーーーっ!!』
 みゅーつーに抱え上げられた南のアルジーノンがもがく。だがどうする事も出来ない。
『はなせ! はなせというにっ!!』
「最終位置確認、仰角再度調整……完了」
「XYの誤差修正は?」
「すでに終わってるよ」
 南の抗議を聞き流して、淡々と浩平とシュンの作戦準備は進められていた。
「準備完了、いつでもどうぞ」
「カウントダウン開始」
「了解。10秒前、9……」
『こらまてえええぇぇぇっ!!!』
 叫び声を上げても、非情のカウントは減ってゆく。
「8,7,6,5……」
『おいいいぃっ!!!!』
「4,3,2,1……」
『ぐぁごげがるぉ!!!!!』
「ゼロ!!」
「投擲!」

 ブォンッ!!

『どああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁっ!』
 みゅーつーに思いっきり放り投げられたアルジーノンが、遠ざかって行く南の声と共に、ドームめがけて宙へ放たれた。


:同時刻 移動要塞内部・通路

「……つきました」
「おっしゃあぁぁっっ!!」
 目的の制御室へと3人は辿り着いた。七瀬が雄叫びを上げる。
「……七瀬さんの制服が思わぬところで役に立ちました」
 茜が目を向けた方向、そこに一人の男が倒れていた。
 七瀬の(転校前の)制服を渡すことを条件に、彼女たち(考案したのは茜)は発見者であった警備の男――南森に道案内をさせたのだった。
 そんな経緯もあって、3人はようやくここに来る事が出来たのである。
 その南森も、役目の終わった直後あえなくはり倒されてしまっていた。
 ある意味、哀れといえば哀れである。
 ところで七瀬はといえば、ここに辿りつくまでに幾度となく戦闘及びその他を繰り返したせいか、平常時の挙動がまるっきり本能だけで行動しているような、半ば獣じみた態と化していた。
 そのまま放っておいたら破壊衝動のままに突進してどこへ行ってしまうかわからなくなるのを、茜と瑞佳が誘導することで、どうにかここまで辿りつけたのであった。
(まあその分二人が余計な火力を割かずに済んだともいえるのだが……)
「……と、とりあえずどうしたらいいかな?」
「んなもんカンタンよっ!」
 七瀬がいまだ興奮覚めやらぬ声で応じる。
「ここにあるもの全部ぶっ壊せばいいのよっ!!」
「……やっぱり」
 ボソッと茜が呟いたが、小さな声だったので、七瀬には聞こえてはいなかった。
「……ともかく、急いだ方がいいようです」
 聞こえるように茜が口にしたのは、別のそのセリフであった。


:18時32分 移動要塞内部・ブリッジ

「あいつら、D−2をこっちに投げやがった!?」
「そんなの見ればわかるっ!!」
「アクティブ・レーザーは?」
「……チャージ、完了しました……」
「直ちに迎撃! 目標設定、こっちにくるやつ!」
「了解……TFサイト、移動オブジェクトをトレース、D−2にロック……誤差修正、セイフティ解除……アクト2・レディ……」
 モニターに南のアルジーノンが投影され、照準が合わせられる。
「てーっ!!」
 雪見の号令一閃、Aレーザーが発射されようとした。
 ……が。
「……!! アクト2、実行されません!!」
「なんですって!!」


:同時刻 町内商業地付近

『どああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 凄まじい勢いで宙を飛んでゆくアルジーノンと、凄まじい叫び声をあげ続ける南の声が、ドームへと向かっていた。
 予測されたドームからの反撃を何故かくらうことなく、ドームの直上へと達したアルジーノンが、今度は落下を始める。

 ブオオオォォォッ!

『のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!』
 南の声が今度は真下へと落ちてゆく。ドームがもう間近に迫っていた。


:移動要塞内部・通路

「でりゃあああぁぁっ!」

 ズドドドドドドドドドドドンッ!!!

 ほぼ時を同じくして、制御室に七瀬たちのありったけの火器がぶち込まれた。


:町内商業地付近

 グワキャッッッッッッッッ!!

 アルジーノンが持つ、真下に向かって突き出していた永遠丸の先端がドームの天井付近に突き刺さり、表面をぶち破った。

 グゴゴゴゴゴゴオッ!!

 そのまま落下の位置エネルギーで破壊力を増した永遠丸が、内部へとめり込んでゆく。

 バキャアッッッッッッッッ!!!

「主砲発射!!」
 浩平が号令を下す。

 ズドォン! ズドン!! ドォン! ドゴォン!!! ドドォン!!!!

 残存するありったけの砲弾がぶち込まれる。

 ドカ! ドカドカドカ! ドカ!!

 ドームを内部から打ち砕く音が辺りに響き渡った。


:18時33分 移動要塞内部・通路

 ズズゥン……! ズズゥン……!!

「何の音?」
 永遠丸の砲撃による衝撃音は、制御室にいる七瀬たちの所にも伝わっていた。
 衝動による揺れに耐えながら、それぞれが辺りを見まわす。
「……ともかく、バリアーの制御装置は破壊しました。長居は無用のようです」
「そうね……急いで脱出よっ!」
 七瀬の掛け声とともに、3人は即座に跡形もなくぶっ壊された制御室を後にした。


:同時刻 移動要塞内部・ブリッジ

「L−2からL−4までのブロック大破!」
「312のセクタ、リンクアウト!」
「システム87%以上が稼動不能!」
「要塞の浮上システム、コントロール維持できません!」
 悲鳴にも近いオペレーターたちの報告が飛び交う。
「……動作システム全モード、全機能作動不能……ホワイト・ノア制御出来ません……」
「…………」
「……システムコントロールメイン、サブ、リザーブ全てダウン……要塞、落下します……」
 冷静な報告が、みあの声で告げられる。
「……結局、私たちはただの手段でしかなかったというわけね……」
 雪見がコンソールの“SYSTEM ERROR”の文字を見ながら呟いた。
「…………」
「目的も知らされぬまま、ただ利用されていた……いや、目的そのものでさえ、“連中”にとってはどうでもよかった」
「…………」
「手段さえ存在していれば、目的はなんでも構わなかった。いや、その目的すら手段を使用するために利用したにすぎない……!」
「…………」
「目的そのものを見つけるためにやっていたことなのに、結局目的がずっとわからないまま、こうして敗北する……」
 雪見が疲れた様子で、シートに座り直す。
「……これから、どうします?」
「……とりあえず、全員を退避させるよう速やかに指示して。後は……」
「後は?」
「その時にでも、考えるわ」
「……そうですか」
 佐織は、しばらく留まっていたが、やがて一礼すると踵を返し、立ち去ろうとした。
「……でも、全て終わったわけじゃない。“連中”の本当の計画の始まりは、まだこれからのはず……」
 去り際に、雪見がそう呟いたのを、佐織は聞いたような気がした。


:18時36分 町内商業地付近

 ゴゴゴゴ……ゴゴゴゴ……

『落ちてくの』
「みゅー」
 澪や繭らが見つめる中、巨大なドームはゆっくりと地上に落下していた。
「……瑞佳ちゃん、留美ちゃん、茜ちゃん、無事かな……」
 みさきもまた彼女らと同じ方を向きながら、心配そうに呟いた。
「…………」
 浩平は無言で、その場に立ったいた。

 フィーン……

 と、低く空気の唸るような音が聞こえてきた。
「みゅっ!」
 繭が声を発した方向に各人が顔を向ける。
「来たな」
 地上に落下し続けているドームを背に、こちらに近付くシルエットが見えてくる。
 防衛部の空中飛行ユニット搭載装甲服・九八式であった。
「やれやれ……間一髪、巻き込まれるとこだったわ」
 戻ってきて開口一番、七瀬が疲れきった声で言う。
「おう、ご苦労だったな」
「全く、急にそこら中が崩れ出したりして……何だったのよ」
「まあ、あのざまじゃ無理もないだろ」
「あのざま? ……って何よっ! アレは!!」
 浩平に促され、ドームを振り返った七瀬が、ようやく気付いたようにその様相を見て仰天した。
 七瀬が見たドームは、てっぺんのあたりに永遠丸(と南のアルジーノン)が突き刺さっていのだった。
「沢口の、一生に一度の奇跡の賜物だな」
「あんなんするんだったら、私たちはなんのためにあんな危険なことしたのよっ!」
「まあ、そこは機に臨んで、応に変ずるというやつだ」
「……それはただの思いつきというやつです」
「そうともいうな」
「ほんとに思い付きだったのかいっ……!」
 恐ろしい形相で七瀬が睨みつける。
 だが、彼らには知るべくもなかったのだが、南がドームに到達するまさに直前に、七瀬たちの手でバリアーは解除されたのである。
 もしそれが1秒でも遅れていたら、結果は違っていた可能性もあったのだ。例えそれが偶然であるにせよ。
「ヘタをしたら、私たちまで巻きぞい食ってたかもしれないよおっ」
「無事だったんだから、いいじゃないか」
「それで済むかっっ!!!」
「まあ、なんにせよ尊い犠牲を払ったことで中崎町は救われた。その功績を忘れないためにも、俺たちは勇敢なる男を称え、勝利を掴んだこの技を“サワグチ・アタック”と名づけ、後世に伝えるとしよう」
『俺は南だ……』
 落下した要塞の上で、(当然死んでなどいない)南が呟いた。……誰も聞いてはいなかったが。





 ……こうして、中崎町の一番長い日は終わりを告げた……





:19時21分 町内住宅地近辺

「……そう……わかったわ……ええ……とりあえずは予想通りといった所でしょう……ええ……ええ……じゃあ、あとの処理はよろしく……」
 通話を終え携帯電話が切られる。タクシーの中は静まり返った。
「ま、あの集団にしてはよくやったほうね……予定のデータ収集も出来たわけだし……しばらくは“M”が使えるようになるまで静観といったところかしらね……」
 再びタクシーの中が沈黙する。そうしてしばらくの時が過ぎてから、後部座席の人物が運転手に停止を告げた。
 タクシーが走り去ってから、少しの距離を歩いた所で、ある家の門の前にその人物は立った。
「さて、あの中に使える者がいれば……」
『小坂』と表札のついた門をくぐって、彼女――小坂由起子は、家の中へと入っていった。



:後日談

「ところでさあ、町をこんなにしちゃったままでいいの?」
「さあ……」
「そういうのは俺たちの管轄外だから、しかるべき手続きの後に、学校当局の方にでも届けてもらわないと……」
「最後までそれかいっ!!」



:終