おねめ〜わく すごくすこし…か? 〜ねこたちの進化論〜
投稿者: Matsurugi  投稿日: 2月27日(日)02時32分
◆このおはなしは

 ごく平凡な日常生活を送っていた長森瑞佳は、ある日突然『ねこの世界』へと召び出されてしまった。
 『ねこの世界』〜それは進化した人間同様の知恵を持つねこたち(頭にねこ耳がついているような容姿以外は人間とさほど変わらない)が暮らす星であった。
 その星には何千年か前まで人間が住んでいたのだが、ねこたちによれば、突然どこかにいなくなってしまったのだという。
 後に残されたねこたちは、人間の文明を忠実に引き継ぎこの星に生息するようになった、のである。
 そんなねこたちがアドバイザーとして別の世界から召び出したのが瑞佳だった、というわけである。
 かくして瑞佳は、何故かその世界で生活していた、消えたはずの幼なじみ折原浩平の面倒をみつつ、あかね、ななせ、みさきらねこたちの相談にものってあげるという、全く普通でなくなった日々を過ごすはめになってしまった、のであった。
 果たして、瑞佳にこの先平穏な学生生活を送れる日は訪れるのであろうか……?

〜〜〜〜〜

「こんなのがあったんだよ」
 そう言って瑞佳が、数枚の小さなカード状のものを取り出した。
「何、これ?」
 テーブルの上に広げられたそれを、ななせが手に取る。
「みゅー?」
 ななせの髪にじゃれついていたまゆも興味を持ったのか、ななせが手に持ったのを覗きこむ。
 手のひらよりもいくぶんか大きめであるそれは、数匹の猫(瑞佳たちの世界のの方の猫)が写っている写真であった。
 ただ、その猫は人間のように二本足だけで立っており、あるものは黒い学生服を、またあるものはセーラー服を着たりしており、頭にはち巻きをしているものもいた。
 そして他のどの写真も、そうした姿の猫たちばかりが写っていた、のである。
 所々に文字らしきものが記されており、そこには『なめんなよ』などというような言葉が書いてあった。
「こっちは何?」
「…………」ほえ?
 それとは別のかーどを手に取ったしいこと一緒にそれを見ているみおが目にしているのは、ななせのとはまた別のものであった。
 こちらの方は七瀬たちが持っているものよりもやや小さめで、手のひらに全て乗っかりそうなくらいの大きさであった。材質も丈夫そうなもので出来ているようである。
 その一方の側に細かい文字で何やらいろんなことが書かれており、片隅には猫の顔だけの写真が印刷されていた。
 書いてある内容はしいこたちにはよく理解できないものであったが、真ん中の辺りだけ周りよりも幾分大きめの字で短く『死ぬまで有効』という短い文が書いてあった。
「家の中を片付けていたら出てきたんで、面白そうだから持ってきたんだけどっ」
「……おまえは、こんなものまで集めていたのか」
「え、わあっ! 浩平、いつからいたのっ?」
 声の方に振り向いた瑞佳の顔のすぐ横から覗きこむようにして、浩平が顔を出していた。
「いくら猫をたくさん拾うからって、そこまではまりこんでいるとは知らなかったな」
「別にわたしが集めていたわけじゃないもんっ」
 いつも通りとも言えるやり取りを交わしながら、浩平がテーブルに置かれていた内の一枚を手にする。
「しかしなんだな……」
「……ここに写っているのは、長森さんの世界の猫ですか?」
「うおっ!?」
 今度は浩平のちょうど反対側から聞こえてきた声に瑞佳が浩平の方から向き直ると、そこにはあかねが立っていた。
「どこから湧いてでたんだ。全然気配もしなかったぞ」
「……さっき来たところです」
 (人のことはいえない気もする)浩平の問い掛けに対し、あかねは別段何事もなかった風に返答する。
 元来彼女らは“猫”であるわけだから気配を感じさせることなく歩けるのだろうか、などど瑞佳が考えたりしていた時、思考を遮ってあかねが再度問い掛けた。
「この写真は、長森さんの世界のものなんですね?」
「う、うんっ、そうだけど……」
「そうですか……では、ここに写っているのは、長森さんの世界の“始祖ねこ”なんですね」
「しそねこ?」
 聞きなれぬ言葉を耳にして、瑞佳が首を傾げる。
「鳥の一番古い先祖が始祖鳥なんだよね。だから、私たちねこの一番古いご先祖様は、始祖ねこになるんだよ」
(ずっと一緒にいたが会話に参加できなかった)みさきが疑問に答えた。
「つまり、最初に二本足で歩くようになったねこ、というわけです」
 あかねがそれに付け加える。
「ふーん……」
 よくわからないが、妙に感心したように、瑞佳が呟く。
「……いずれにしろ、これで私たちの世界以外にも同じように進化したねこがいるという、画期的事実が明らかとなりました」
「……そんなにたいそうなことなの?」
「歴史に残る大発見です」
 別段大げさなわけでもなく、大真面目なあかねの言葉であった。
「……んなわけないだろう」
 が、そこに浩平があっさりと水を差した。
「どうしてよっ!?」
 ななせが詰め寄る。
「え、だってっ……それは別にしそねことかそんなんじゃない、ただの猫なんだよ」
 言いにくそうにしながら、瑞佳が代わりに答えた。
「?」
「普通の猫に無理やり服を着せて、わからないように二本足で立っているように見せて撮った写真だもん。だから、どこにでもいる、四本足で歩くただの猫だよ」
「……そうなんですか」

 でもって。
 結局、瑞佳の持ってきたものの猫たちが始祖猫などでないことを知って、(一部の)ねこたちは非常に残念がったのであった。
(最もどの程度その意味を理解していたかは掴みかねるが)
 その後、ねこたちの間でこれらの格好が流行るようになってしまった……かどうかは、今のところ定かではない。



おしまい