---------- :前回までのあらすじ 夏のある日、瑞佳と茜は七瀬から奇妙な話を聞かされる。それは中庭に正体不明の飛行物体が幾つも降りてくるというのだった。半信半疑な二人に対し七瀬は今にとんでもない事が起ると一人考えていた。 その日の放課後、帰宅しようとしていた茜を七瀬が呼び止める。七瀬がいた図書室で茜はおかしな図面を見せられる。みさきと澪が見つけたというそれに書かれていたのは、学校の地下に極秘裏に作られた秘密基地の図面であった。 不信がる彼女たちの前に、グラサンにヘルメットの男が現れる。茜はそれが沢口(南)であると看破する。 一方で瑞佳は繭と共に裏山の辺りを歩く謎のロボットを目撃していた。 合流した6人は一連の事態の対処を求め職員室へと向かう。そこで彼女らは髭の口から防衛部なる存在の事を聞く。 言われた場所に向かおうとした時、彼女らは再度グラサンヘルメットの男たちと遭遇。追跡を振り切って、目的の場所へと辿り着いた6人を待っていたのは、浩平とシュンの二人であった。 それと時を同じくして、中崎町に突如として地中から巨大な物体が出現した。町を攻撃するその物体に戦車隊が出動するも、まるで歯が立たない。だがその時、1体のロボットが颯爽と登場する。それこそが、折原浩平率いる正体不明の組織(実体は中崎高校に所属する部のひとつ)防衛部であった。 住宅地で対峙する防衛部擁する巨大兵器・みゅーつーと謎の敵の巨大物体・アルジー。激闘の末に防衛部が勝利を収めた。 だが、敵はすでに秘密基地を爆破し、隣接する東梅田の援軍の前に現れていた。そして新たなる有人機動兵器・アルジーノンで援軍はことごとく蹂躪する。 しかし、対する防衛部はといえば、そんなことをよそにあっさりと撤退。それを知った七瀬は激怒し、単身敵に立ち向かっていく。 その間に中崎町は敵の手によって光のバリアーで包囲されてしまう。 明らかになる敵の正体。それは浩平たちの学校の先輩でありみさきの友人でもある深山雪見と彼女に率いられた、彼らと親しい面々だった。驚く間もなく、窮地に立たされる七瀬。その時、防衛部が再度登場。意表を突いた攻撃によって敵を翻弄する。 迎え撃つアルジーノンを駆る住井と南がこれに立ち向かうも、戦車隊の残存勢力の攻撃により、南が脱落。防衛部によって南は囚われの身となる。 南の口から明かされる彼らの目的。その利己的な内容は尋問する彼女らを呆れさせた。だが、雪見の胸の内にはまったく異なる目的が秘められているようであった……。 孤軍奮闘する住井は防衛部のみゅーつー1体を葬るも、防衛部の秘密兵器『永遠丸』によって新たな苦戦を強いられる。その一方で、町を包囲するバリアーを解除すべく、七瀬たちは敵の要塞へ向け出立したのだった…… ---------- :17時48分 町内中心部(ドーム方面進行ルート) 地上すれすれを浮上走行してゆく九八式装甲服に振り落とされないようしがみつきながら、七瀬・茜・瑞佳そして浩平は町中で向かい合う2体の巨大な物体を見つめいていた。 その彼らが見ている場所からは、先の奇襲攻撃のため防衛部側の光線兵器・みゅーつーの出方を警戒してか、住井操る有人機動兵器・アルジーノンはみゅーつーから広く間合いを取ったまま、一定距離にてその様子を窺っているように見えた。 その両者が静止したまま立ち並んでいる所を、ちょうど彼女らは目にしていた。 「なんだ、あれだったらまだ当分いけそうじゃない」 七瀬がそれを見て、安堵の言葉を述べる。 「とはいっても、しょせん奇襲だからな。そう何度も通用するものじゃないさ」 それに対し、浩平はあくまでも気を緩めることのない態度をとる。 「でも浩平、そのわりには何度もやってたと思うけど……」 瑞佳が、そんな浩平に突っ込みを入れる。 「……確かに、そうですね」 茜もそれに頷く。 :同時刻 町内中心部(アルジーノン・みゅーつー戦闘地点) 間を空け、みゅーつーの攻撃が届かない位置に立つ住井と彼の乗る機体は、じっと何かを窺うかのように微動だにしないまま、その場に止まっていた。 『…………』 彼らの周囲に、不気味なほどに静まり返った時間が漂う。その長い、しかし実際はほんの数瞬でしかなかった静寂を破り、不意に住井のアルジーノンがみゅーつーに向かって突進する。 ブン! 特に何か策があるようにも見えないその突進を、みゅーつーは軽く横に飛んでかわす。 そのままアルジーノンが横を通り過ぎていく。 が。 『!?』 気付いた時は、既に遅かった。 みゅーつーの全ての脚部はいつのまにか、根元付近から無くなっていた。 すれ違い様にアルジーノンによって切断されたのだと気付いたのは、その右手にいつのまにかハチェットが握られていると知った後だった。 バラバラバラ…… 切り落とされた脚部が地面に転がり落ちる。 :17時50分 町内中心部(ドーム方面進行ルート) 「……やられましたね」 「あっさりね……」 一連の光景を目撃した茜と七瀬がポツリと口にする。 「そうだな」 浩平までも、あっさりと言っていた。 「って、そんな悠長なこといってる場合じゃ〜」 そんな三人を瑞佳は呆れたような口調で批難する。 「心配するな」 だが、浩平はそんな瑞佳に余裕の笑みで(といってもハッチを閉じていたので瑞佳に表情は見えない)答える。 :同時刻 アルジーノン内コックピット 「ふっ……はっはっはっはっはっ」 コックピットの中で、住井は不敵に笑っていた。 「はっはっはっはっはっはっはっは……」 背後に、こちらを向かって浮かぶ物体が迫っていた事にも気付かずに笑い続けていた。 「は?」 :町内中心部(ドーム方面進行ルート) ドッコーン!! 巨大な爆発の音は、浩平らの位置からも聞こえた。 七瀬・茜・瑞佳はその光景を実際に目にしていたが、その表情には困惑がありありと伺えた。 「みゅーつーはサポートAIに七瀬の人格を使用しているって前にいっただろ。あの程度でくたばるような、やわな闘志じゃないさ。それに、ダミュソスがあるから、足をなくしても浮いてることは可能だ」 「……そうですか」 浩平の言葉に茜が同意する。 「って、納得すなっ!」 (自分の人格云々について)七瀬が抗議を唱えるが、無視された。 :17時53分 町内中心部(アルジーノン・みゅーつー戦闘地点) 「お゛ーーーーっ!!」 後ろからみゅーつーの光線をまともに食らった住井のアルジーノンは、背部から煙を噴きつつ、辺りを走り回っていた。 その様はまさにお尻に火が点く、の例えがごとくの状態である。 (光線兵器だったってことを忘れてた……) 走り回りながら、心の中で呟いた住井であった。 :同時刻 町内中心部(ドーム方面進行ルート) 「とにかく、これでしばらくは注意がそらせるだろ」 浩平はよしよし、と満足したように頷く。 「……もうすぐドームに着くようです」 ホバーの進行方向側を見ながら、茜が3人に告げた。 「よし、いよいよだな……」 浩平が装甲服の頭部ハッチを開く。 「あ……」 と、急に茜が何かを言いかけた。 「どうした、茜?」 「浩平……」 「?」 ガコ!! 「……その状態だと危ないです」 「もう遅いって……」 七瀬がそう言った時、浩平はすでに九八式から落っこちた後だった。 ホバーが高さ制限(2.5メートル)のある立体交差路をくぐった際、開いた装甲服のハッチが引っ掛かったためである。 (つまりは茜はそのことを言わんとしていた) 「あーあ……しーらないっと」 「……放っておきましょう。時間もありませんから」 瑞佳は慌てていたが、茜は現実的に対応したのだった。 「そろそろ、中に入るわよっ!」 そう言った七瀬の見上げる方向、彼女らの行く先のすぐ目前にドームの外壁が迫っていた。 :17時55分 町内商業地付近・喫茶店内 「……なるほど、いろいろと苦労があったんだね」 「そう……思えば1年の時同じクラスになったのがすべての始まりだった。里村さんのことを知ったときから、いつの日か告白を決心し……(中略)……そして、時は過ぎさり1年。再び同じクラスとなってから、忘れもしない席替えの日。里村さんがすぐ後ろの席になった時は、会う人全てにお礼を言ってまわりたいぐらい最高の気分だった。そんなずっとずっと里村さんのことを思い続けて来たこの艱難辛苦の日々が、ついにひとつ報われるとあっちゃ、それは無駄ではなかったと声を大にして言いたい……(後略)」 外で繰り広げられている緊迫した事態とはまるで無縁であるかのように、シュンと南は茶飲みがてら過去の南の苦労話(一部抜粋)を聞いていたのだった。 その横に再び戻って来たみさき、繭、澪も同席しており、みさきは再びその喫茶店の注文量の新記録更新に挑戦(本人には別にそんなつもりは更々ないのだろうが)し続けていたのだった。 「わかるよ。僕も、そうだったしね……」 「そうか。お互い苦労しているんだな……」 「うんうん。いい話だね」 何やら意味不明な連帯感が生まれたり、それに感激してたりするみさきなど、まるっきり現在置かれている状況にそぐわない連中のやり取りが行われていたその時。 ガーーーーーッ…… 「?」 何かを転がすような音が、彼らの場所に向かって聞こえて来た。 それが徐々に大きく、近付いてくる。 ドォン!! 大きな音と共に、いきなり喫茶店の扉が外から吹っ飛ばされた。 :同時刻 町内中心部(ドーム方面進行ルート) 「で、どこ?」 「……北側の上の方に通気口があるそうです」 茜が南から聞き出した情報を七瀬に伝える。ドームの外壁の至近距離まで近付いていた九八式は、そのまま外壁を這うように、壁際に沿って上昇する。 行く手に、通気口と呼ぶのにふさわしい、正方形に切り取られた一角が見えてくる。底部は暗くて、ここからでは黒い淵しか見る事が出来ない。 大きさは丁度九八式が通れるぐらいであり、そのまま内部へと入っていけるようであった。 先の見えないその淵へと七瀬らは九八式をゆっくりと降ろして行き、彼女らはドームの内部へと侵入した。 数メートルばかり下降した後、僅かな光を頼りにして平らな場所が視界に入り、九八式はそこにゆっくりと着地を果たす。 3人が降りて辺りを見回す。 中に入った時に利用した通気口から漏れ出る外の光が、かなり上の方から僅かに彼女らの近辺に投げ掛けられている。 それ以外の周囲は、ほとんどが闇に閉ざされており、ここがかなりの広さであることが推測できた。 「あの……」 わずかに生じた沈黙を破って、瑞佳が話し掛ける。 「思ったんだけど……なんで私たち、ここにいるのかな……?」 一瞬、その言葉の意図する所が分からず、七瀬と茜が首を傾げる。 「何だかなりゆきでこんなところまで来ちゃったけどっ……考えてみたら、私たち、なんだかいつのまにか浩平の手伝いしちゃっているみたいなんだけど……」 「……それもそうですね」 瑞佳に言われ、茜が考え込むような仕草をする。 「そもそも、私たちがわざわざ浩平たちについていく必要はなかったわけですし、そうすれば今ごろは家に帰っていられたわけですから」 「って、今更そんなこといったって……!」 これまでの経緯を分析する茜に、七瀬がおいおい、と割ってはいる。 「……そもそもおかしなものを見たと言ったのは七瀬さんでした」 「……それって、暗にあたしを責めてるの?」 「……別にそんなことはありません」 表情を変えずに茜はそう言ったが、七瀬は疑わしげであった。 「……とにかく、ここまで来てしまった以上、ただ帰ると言うわけにもいかないでしょう。先に進むしかありません」 「はあっ……やっぱりそれしかないんだね……」 瑞佳が諦めたように、ため息をひとつつく。 「毒食わば皿うどんまで、です」 「やれやれ……っ!?」 一瞬、七瀬が茜の方を振り返ったが、茜は反対の方を向いていて、その表情は分からなかった。 「……?」 何か聞き慣れないことを耳にした気がした七瀬であったが、何であったか分からないまま、その事はそれっきり忘れてしまったのであった。 :町内商業地付近・喫茶店内 扉をぶち破って現われたのは、ごつい外見をした人間大の大きさの装甲服――防衛部の九五式であった。 「やあ、意外と早く帰ってきたね」 「いや、そうじゃなくて途中で落っこちただけなんだが……」 言うまでもなくそれは引き返して来た浩平であった。 「じゃあ、他のみんなも帰ってきたのかい?」 「いや、そのままドームに向かったはずだ」 「ということは……」 「あの中にいるのは長森、七瀬、茜の3人だけだ」 「なるほど。それは面白いことになりそうだね」 「……ただ、問題がひとつある」 「なんだい?」 「あとで報告書を提出するときに困る」 「……なるほど、それは困るかもね」 「だから、後で適当にごまかしておいてくれ」 「そんなことして大丈夫なのかい?」 「理由なんぞ存在していれば、それで十分さ」 :17時56分 移動要塞内部 「これを着てくのーっ?」 「この先何があるのかわからないんだから当然でしょ」 「でも、こんなのどうやって動かせばいいのーっ?」 九八式で搬送して来た九五式装甲服の前で、瑞佳が困ったような声を上げていた。 安全のためという七瀬の言う事は理解はしていたが、そうは言ってもこんな触った事も無いような代物、いきなり扱えというのも、無茶というものである。 「……先に行かなければならない以上、そうもいってられないでしょう」 そう言っている茜はもうひとつの九五式をすでに「着て」いる。 彼女にしたところでそんなものを触る事など生まれてこのかた初めてであろうが、別段躊躇も見せずに着込んでいた。 それ自体に問題はなかったのだが、難があるとすれば七瀬のように体操服を用意して無かったので制服のまま着ざるをえず、多少動きづらい所が多少の難点と言えた。 「ふえ〜ん……」 情けない声を上げつつも、瑞佳も七瀬の助力を得て何とか装甲服を着終える。 「じゃ、いくわよ」 準備が整ったのを確認して、七瀬が歩き出そうとする。が。 「わっ、わわわ〜っ!」 うまく歩き出せずに前のめりになった瑞佳が、そのまま倒れまいとして前に足を踏み出したため、そのまま勢いよく駆け出してしまっていた。 「瑞佳っ!!」 「わ〜っ!?」 七瀬が指示しようとするが、パニックに陥っていた瑞佳にはそんな余裕はなかった。 「わーーーっ、とまんないよーーっ!!」 「!!」 と、その時瑞佳の前方、三叉路となった通路の曲がり口から、人影が姿を現わした。 「あぶないっ!!」 :同時刻 町内商業地付近・喫茶店内 「なんだとおっ!! じゃあ、あのドームの中に里村さんがいるってのか!!!」 急に大声を掛けられて浩平とシュンが振り向くと、南が興奮気味の表情で立ち上がっていた。 (ずっと隣にいたけど……) 「まあ、そういうことになるな……」 「どういうことだっ!」 「さっきから説明してたと思うが……」 「ぐぬぬぬぬ……」 南が、拳を握り締め、顔を俯かせる。 ………… 暫くして、急に顔を上げる。 「こうしてはいられない!! こうなれば……ドームをぶち抜いてでも、里村さんを助けねば!! そして、念願のデートを果たすのだ!!!!」 ひとりで散々吠えまくった南は、そのまま壊れた喫茶店の入口からひとり飛び出していった。 「…………」 後に残った浩平とシュンが、お互いに顔を見合わせる。 「あいつ、なんか悪いものでも食ったのか?」 「さあね」 :移動要塞内・ブリッジ ビィーッ……ビィーッ……ビィーッ…… ブリッジ中に警報が鳴り響き始めた。同時にスクリーンのあちこちに『ALERT』の文字が明滅を繰り返しつつ次々と表示される。 「どうしたの!?」 「要塞内部に侵入者を発見!」 広瀬の問い掛けに、下層フロアのオペレーターが答える。 「侵入者? どこに!?」 「現在、調査中!」 「ちっ、こんなときに……いったい誰?」 :第五話 :終局的決戦 ---------- (次回に続く)