---------- :CM 女の子にも大人気の商品取り揃えてます! さらに今ならお買い上げの方にもれなく リアルうんこチョコプレゼント! 今すぐファンシーショップ・みるくへ! “ウサぴょんも、まってるぴょん!” ※このCMはフィクションです。 ---------- :アイキャッチ :17時32分 町内商業地付近 ドドーン! 商店街の近くに爆発音が響いた。 みゅーつーとアルジーノンによって繰り広げられている戦闘による余波が及ぶ地域は、今やかなり広範囲に広がっている。 普段であれば多くの行き交う人々で賑わうであろう中崎町の商店街とその通りも、今はうらぶれた町さながらに、人の気配がしない。 普通に考えるなら、それはそれで非日常的な光景ともいえるし、もしくはこういった非常事態の場合、あるいは当然の光景であるといえるかもしれない。 しかし、この非日常的な状況で、更に非日常的な行動をとっている者たちも、中にはいる。 最も、本来であればその連中の行動はごく日常にありふれたものであり、一概に連中が常日頃から非常識であると決め付けてしまえるわけではない。 つまりは単に、現状が日常に即してないと言うだけであり、認識するものの捉え方のひとつでしか無いと考える事だって出来るわけである。 より多くの人々から見た常識か。 それとも、特定の人間から見た常識か。 それだけの事なのだ。 ……最も、連中が本当に、普段から非常識な行動ばかりである可能性もあるわけだが……。 :同時刻 町内商業地付近・喫茶店内 「ごめんねー、痛かったー?」 「……痛いだけですんでるのが奇跡だと思ってる」 「……悪運が強いだけです」 「…………」 その現在における全体から見た状況の場合での非常識の集団である、七瀬、茜、瑞佳、みさき、澪、繭、そして(あれだけの攻撃を食らっても生きていた)南は、互いに向かい合わせになって、喫茶店の一角に寄り集まっていた。 もっとも南は、七瀬に取り上げられた銃を突き付けられていたりするのだが。 「ところで……」 気を取り直し、南があらためて端緒を切り出す。 「何故里村さんたちは戦っているのですか? 互いの戦力差を考えれば、勝ち目はないと思んですが……」 『チョコパフェ食べたいの』 「みゅーっ、てりやきー」 「繭、喫茶店にはハンバーガーは置いてないよ」 「みゅーっ……」 「えっと、とりあえずメニューに書かれている分、全部にしとくよ」 「……あの……話、聞いて欲しいんだけど……」 南が主張するも、彼女らは好き勝手に話していたり、あるいは注文を頼んでいたりして(この状況下においても喫茶店は営業を続けていた)、まともに南の話に耳を傾けるものは皆無であった。 とりあえず、食べる事の方に夢中である面々(主にみさき)の扱いを瑞佳に任せ(席を別の場所に移した)、改めて七瀬と茜が南と向き合う。 「で、何の話だっけ?」 「……今の戦力差では、どう考えても防衛部に勝ち目は無い、というところまでは話したと思うが……」 「……その割には一方的に遊ばれてたように見えましたが」 「…………。と、とにかく、何故里村さんたちが防衛部と共に戦っているんでしょうか?」 「えーっ、そんなこといわれてもーっ、よくわかんないしーっ」 「……深い意味はありません」 七瀬が乙女ぶって(わざとらしく)わかんないふりをし、茜は歯牙にもかけぬ答えであった。 後の連中は…… 『チョコパフェ、おいしいの(おんぷ)』 「えーと、もういっかいメニュー分全部、頼もうかな」 「ま、まだ、食べるんですか……」 「みゅーっ、てりやき食べたい……」 ……聞くだけ時間の無駄なように思えた。 「そんなこと言うそっちは、何でこんなことしてるの?」 「それは……」 『もう食べられないのー』 「みゅーっ(おんぷ)」 「ぎゃーっ、イタイイタイ、イタイーーーっ!!!」 「わーっ、繭、やめなよーっ!」 「ううっ……頼むから、少しおとなしくさせておいて……」 「もうちょっとだけ、食べてもいいかな?」 「ど、どうぞ……」 「じゃあ、メニュー全部をもう一回分」 「…………(絶句)」 「……誰か、話聞いて……」 ……南はすっかり忘れられていた。 というわけで、再び仕切り直して。 「実は……」 南が重々しく、切り出す。 「俺たちは、常々疑問に思っていた。脇役の立場である俺たちの扱いが、最近ぞんざいにされているのではないのかと」 「……はぁ?」 「ある一部の主役の立場にあるものたちの横暴さが目立ってきているのではないかと。そして、そいつらが、脇役の一部を蔑ろにしているのではないか、と」 「……そんなこと思ってるの、あんただけじゃないの?」 「……被害妄想が強いだけです」 「そ、そんなことはないぞっ! ……たぶん。 ……とにかく、我々は脇役の本来持つべき権威を彼らに知らしめるため、脇役の、脇役による、脇役のためのあるべき筋書きを打ち立るべく、立ち上がることを決心するに至った。その一環として……」 「……中崎町を制圧した、というわけですか?」 茜の言葉に、南が頷く。 七瀬はしばらく、南が何を言わんとしているのか、いや突然何を言い出したのか、掴みかねていた。 何だか、常識的に考え出されてくるような事とは思えなかったのである。 束の間、今の言葉が意味するものを七瀬が考えあぐねている……と。 「……ちょっと待ってください」 茜が再度、話し出す。 「……さっきから、こちらが聞いてないことまでやけにしゃべってますね」 その言葉に、南の手が動きを停めた。 「……なにを、たくらんでいるんですか?」 茜が、南をじっと見つめる。 「たくらんでいるなんて、そんな人聞きの悪い……」 南はさりげなくゴマかそうとしたが、茜の隙の無い追求の眼差しと、七瀬がこちらに向けている銃を構え直したのを見て、観念したように話し出す。 「……いや……確かに……下心が無いわけじゃない。……その……こちらの真の目的と、バリアーの弱点を教えるということで……っ」 「何?」 「さっ……里村さんと……でっ……デートを……」 「…………」「…………」 周囲が、しばし沈黙に包まれる。 「……こう言ってますが」 茜が七瀬に訊ねる。 「……一応OKするだけしとけば? 聞くだけ聞いてからひねり殺したっていいわけだし。この際非常時だから、手段は選んでいられないわよ」 「……そうですね」 そんなやり取りを交わしている七瀬と茜であったが、別にそれは小声で密談しているというわけではなかったので、南にもしっかりとその内容は聞こえていたのであった。 もっとも、それを聞いていた南はといえば、冷や汗を浮かべて乾いた笑いをすることしか出来なかったのだが。 「……と言うわけで、OKしておきます」 一応了承の返事は貰ったものの、先の会話もあり、あまり素直に喜ぶことは出来ない南であった。 「実は……」 声を低くし、改まって南が話し出す。 「脇役の権威だの、正しき筋書きを打ち立てるだの、と言うのは実際の所どうだっていいんだ。俺が求めているのは……」 「求めているのは?」 「自分が主役たる立場になって、好きな相手と(検閲削除)な関係になる……」 ドガアァッ! 言い終わる前に、即座に飛び出した七瀬の拳が南の頭部を直撃した。 (ちなみにこの時七瀬は装甲服を脱いでいた) 「ぬごぐおをををぉぉぉぉっ!!!」 同時に、南の口から悲鳴が飛び出す。 「なんなのよ、それはぁっ!!」 「……言葉どおりのつもりなんですが……」 「アホかあっ!!」 七瀬が怒るのも無理らしからぬ南の目的であったが、それでもなお怯まないと言う見上げた根性で、南が反論を試みる。 「べ、別に(検閲削除)というだけで、何も(検閲削除・ちなみにさっきとは別の言葉である)なことまで考えてるわけじゃないぞ。ただ、もしかしたら(検閲削除)で(検閲削除)なことになったらちょっとはいいなとか……い、いや! そんなことは決して……少しは……考えてなくも……あるような……ないような……」 「……ほとんど言ってるようなもんじゃない……!」 ほとんど呆れてしまっているような、七瀬の言葉であった。 そして、茜のほうはと言えば、ほんの少しではあるが、嫌悪の表情が浮かんでいた。普段はほとんど表情が変わらない彼女の事だから、おそらく相当に嫌なのであろうと思われた。 「……絶対に嫌です」 というより、実際、言葉にしていた。 「……それはともかく」 半ば南のことを無視するようにして、茜が話題を変える。 「……たかだかその程度のことに、(検閲削除)はともかく、他の人がこんな大掛かりなことに協力しているとは考えにくいです。それに……」 :17時39分 移動要塞内・ブリッジ 「……ほんとにみんな、そんなことを信じてしまっているんでしょうか?」 佐織が、ずっと抱いていた疑問を雪見に投げ掛ける。 「……男子連中はあっさり信じたみたいだけど」 「……はあ……」 「ま、理由はあまり深くは考えたくないけどね……。もっとも、他にも別のことを企んでいる人もいるようだけど」 そういって雪見が何気に視線を送る。詩子と広瀬が立っている場所に。 もっとも、ふたりはその視線には気付いていない。 「でも、彼らや彼女らを協力させるためには、確かに効果的な方法だった。誰も今までそれを疑ってはいないものね。まさしく……」 「“あの人”の言った通りになった、というわけですね……」 雪見の言葉を継いで、佐織が続ける。 それは、どこか、憐憫を含んだような、苦々しい思いを口に乗せて放ったような言い方だった。 「……そうね」 雪見も、同じような口調で短く告げる。 普通の状況であればとても信じられ得ない事象であっても、それが普通で無くなってしまえば、あるいは非常識な事象であっても容易く受け入れてしまう。 人が抱いている、常に現実とはなり得ない望みを、あるいは現実とは思えない状況を作り出すことで、あたかもそれが叶うように思いこませてしまう。 ただ単純に今の状態をそう結論付ける事が出来るなら、もっと簡単に、今目の前にある状況を受け入れることが出来たかもしれない。 彼女にしても、佐織にしても。 でも……。 「でも……本当にそれだけが目的なんでしょうか? この町を、みんなを巻き込んでまで……“その人”は、何をしようとしているのですか? 何をさせようとしているのですか?」 さっきまでの口調から一転して、佐織は雪見に詰問するような、しかしどこか訴えかけるような勢いで、問い掛ける。 みんなが、わからないこと。 みんなに、かくしていること。 みんなと、しようとしていること。 何もかもが、不可解で、不条理で、不明瞭だった。 この戦いに、どんな目的があるというのか。 そもそも、何の為の戦いなのか。 あるいは、戦いそのものにすら、意味が無いというのか。 「……それは……わたしも知りたいことよ」 ここに来てから佐織が何度も耳にした、感情を押し殺すような声で雪見が答える。 「…………」 しかし佐織は、その言葉が真実の全てを語っていないであろうことが、わかっていた。いや……わかってしまった。 ……沈黙が、流れる。 「あなたは……」 唐突に、雪見が佐織に問い掛ける。 「あなたは、なぜ信じてしまわずにいられたのかしら?」 「それは……」 佐織が、答えを探すかのようにしばし俯く。 「わたしが、ほかの人ほどに強く望んでいるような願い……いや、気持ちが無かったから、なのかも……しれません……」 確証を得てはいないような、彼女の返答だった。 「そう……」 納得の意か。ただの相槌なのか。 ごく短い言葉を、雪見は発する。 (でもそれは、今、一番つらいことかも、しれないわね……) そう思いながら、雪見が再び先と同じ位置へと、視線を送る。 視線の先には、みあの後ろ姿があった。 彼女を見る雪見の心境が、どんなものであったか。 知るものは、いない。 誰も。 :17時40分 町内商業地付近・喫茶店内 「……とにかく、それ以上のことは俺は知らない。わかるのは、それだけだ」 「……それで、あんたはわざわざこんな馬鹿らしいことに参加しているっていうの?」 「馬鹿らしいことなんかじゃない! たとえ人にどう言われようと、叶わぬかもしれない夢に命を賭ける。それが男のロマンと言うものだ!!」 聞いていてだんだんアホらしく思うようなことを堂々と言い張る南を見て、七瀬はわざわざ質問したことすら後悔したくなってきていた。 だいたい、そんな御大層なことをのたまっているくせに、デートの約束ひとつで他の協力者たちを裏切ろうとしているのだから、説得力も何もあったものではない、と七瀬は思った。 「ということで、さっそくバリアーをやぶりに行くことにしましょう」 何が、ということなのか、と言うツッコミはさておき、確かにいつまでもここでのたくっているわけにもいかない。 「……そうね。でも、その前に」 急に七瀬が真剣な口調に切り替わる。 「ここの支払い、任せたからね」 「……?」 南は七瀬が何故そうまで真剣な口調でそんな事を言った理由を、その時は量りかねたが、後でその支払い金額のとんでもなさ(主にみさきが頼んだ分がその大半であったわけだが)に、その理由を知る事となる。 :17時42分 町内・中心部(アルジーノン、みゅーつー戦闘地点) ゴッ!! 住井のアルジーノンのハチェットが、予備のみゅーつーの胴体部に打撃を与えた。 ド……ズズーン…… 機関の中枢箇所に損傷を受け、みゅーつーが地に倒れ伏す。 今まで2体のみゅーつーによって、いいようにあしらわれていた住井のアルジーノンであったが、さすがにいつまでも一方的に遊ばれているほどにはやわではなかった。 2体1という状況でありながらも奮闘を続け、ついに1体に致命的な一撃を加えたのである。 その機能停止した予備のみゅーつーの横で、住井のアルジーノンは仁王立ちに、残る1体のみゅーつーを睨み付けた。 『次は、おまえだ』 住井がアルジーノンと同様に、コックピット内でみゅーつーを睨みながら、マジな口調で重々しく告げた。 :同時刻 町内・中心部 「ちょっと、負けてるわよ!」 喫茶店から装甲服を着て戻って来た七瀬が、浩平とシュンのいる場所へと駆け付け頭に、ふたりに畳み掛ける。 「ま、気力だけではこのへんが限界だろうな。もともと光線兵器なわけだから機動兵器相手では、はなから分が悪いだろうし」 その光線兵器でいきなり光線も使わずに近接戦闘をやったのはどこの誰よ、と七瀬はツッコミを入れたかったが、状況が状況なので、とりあえずそのことは脇に置いといた。 「何とか、しばらく持ちこたえて欲しいんだけど」 「?」 「……もしかしたら、バリアーを解除できるかもしれません」 七瀬と茜の言葉に、浩平は首だけをそちらに巡らせる。 「どういうことだ?」 「敵がひとり、寝返ったのよ」 「……外で時間を稼いでいる間に、あのドームに潜り込んで、バリアーを切る。そうすれば、あるいは……」 「なるほどな……」 ふたりの提案に、浩平はしばし、考え込む。 「……それなら“あれ”で何とかなるかもしれない、な」 にっ、と笑って、浩平はシュンの方を見る。 シュンもまた、浩平の言わんとすることを理解し、微かに笑みを浮かべた。 「“永遠丸”だね」 :17時45分 学校裏山付近 巨大な細長い矢尻状の物体。 例えるならばそんな所であろうか。 学校の裏山を背に、それが鎮座していた。 物体の下の部分から突出している前後あわせて3本の細い着陸用の車輪だけが、その巨体をしっかりと大地に根付かせている。 そんな威容を誇る物体を、七瀬たちは目の前にしていた。 空中戦艦『永遠丸』。 150ミリ砲をも受け付けぬ重装甲・多砲身200ミり砲1門を装備した重武装を誇るそれは、まさに空飛ぶ要塞ともいえる代物であった。 「……どこにこんなもん隠してあったの?」 永遠丸を目の当たりにしての、七瀬の口から最初に出た言葉は、圧倒された事への感慨でなく、逆に呆れ返ってしまっての、素朴な疑問のようであった。 「最初からずっと裏山の前に置いてあったが」 「いつから?」 「だから、ずっとだ」 「……ホントに?」 「気付かないようにカモフラージュしてあったんだ」 「……全然そんな風には見えません」 茜が冷厳にツッコミを入れる。 「だいたい、どんな経緯を経たらこんなもの入手できるっていうのよ……!」 「掘り出せばタダで手に入るぞ」 「そんなもの埋まってるわけ無いでしょっ!」 「それはわからんぞ。裏山には過去の兵器が埋蔵されているって、歴史で習わなかったか?」 「そんなもん習うかっ!!」 ……裏山に兵器が埋まっているかどうかの真偽はともかくとして、ともかく長々と議論している程余裕が無い事を指摘されたふたりは、この永遠丸をどう動かすのかという事の方に話題を切り換る事にした。 だが、そこで浩平が突然、真面目な口調で語り出す。 「実は、これには致命的な欠点があってな」 「欠点?」 「重量がありすぎて飛ばないんだ」 ゲシッ! 言葉よりも早く七瀬が装甲服の拳を繰り出していた。 だが今回は浩平もそれを予想していたのか、予め装甲服の頭部ハッチを閉じていたので、事無きを得た。 「だったら、どうやって使うのよっ!!」 「まあ、心配するな」 浩平が(ハッチを開けて)いたずらっ子のような笑みを見せる。 「?」 「氷上。今使える装備は?」 七瀬の疑問に答えず、浩平はシュンに向き直り問い掛ける。 「95式が2輌と、あとは98式ぐらいかな。他は整備中で使えないだろうね」 防衛部の兵器運用管理を任されているだけあって、シュンが素早く答える。 「俺と七瀬のを合わせて1小隊分の編制か……よし、十分だ」 頷くと、浩平は行動を開始すべく、動き出す。 「……これはどうするのですか?」 永遠丸を見上げながら、茜が問い掛ける。 すると、浩平は、再びさっきの笑みを浮かべ、答えた。 「こうするのさ」 :17時46分 町内・中心部(アルジーノン、みゅーつー戦闘地点) 『!!』 赤アルジーノンの中で、住井が一瞬、声を詰まらせる。 その正面。 対峙するみゅーつーが、足二本を使って何やら巨大なものを持ち上げていた。 ガバアッ!! みゅーつーが真上に振り上げているもの。それは、『永遠丸』であった。 先端部を掴み、あたかも丸太棒の如く、みゅーつーが永遠丸を振りかざそうとしているのであった。 『うらああああぁぁぁっ!!!』 『なにいっ!!』 ゴン (七瀬の声による)気合の叫びと共に振り下ろされた永遠丸は、除夜の鐘が鳴るような感じで、辺りに音を響かせ、赤アルジーノンの頭部のてっぺんにめり込まんばかりの勢いで直撃したのだった。 :同時刻 移動要塞内・ブリッジ 「…………」 佐織がスクリーンから目を戻した時に見た雪見は、たった今繰り広げられた光景を見て、コンソールの上に突っ伏していた所であった。 「だ、大丈夫ですかっ!」 佐織が(大袈裟だとは思ったが)安否を訊ねる。 「なんでもないわ……ちょっと、頭痛がしただけよ……」 平然を装った声で雪見は顔を上げたが、その表情が明らかに引きつっているであろうことが、佐織には何となく予想できたのであった。 :町内商業地付近 キィィイィン!! 甲高いホバー音を響かせながら、98式装甲服(飛行ユニット付き)が地面から浮き上がっている。 「このホバーの航法装置には町内の地図が入力されているから、超低空を最短距離で突っ切る事が出来るよ」 そのけたたましい音の中で、シュンが98式についての説明を行なっていた。 「わかったわ!」 ホバー音に負けないくらいの大声で七瀬が返答し、同じくそれに乗っている浩平、茜、瑞佳もそれに応じる。 浩平は、みゅーつーで時間を稼いでいる間に、ドームへ侵入してバリアーを解除するという七瀬と茜の提案を受け、ドームへの侵入作戦を実行すべく、七瀬以下6人を呼び集めた。 用意できた95式の数を考慮して、ドームへの潜入メンバーは、現在装甲服を装備している浩平自身と七瀬、そして茜と瑞佳と決定した。 特に反対しなかった茜は(内面的にはどうだったかは不明だが)ともかく、瑞佳は始め反対したが、現状の人員から考えると、みさきではまず無理であったし、繭と澪ではとても不安大であったので、結果的ではあるが、これ以外に考えられないわけであった。 結局、瑞佳もその事を指摘されると(半ばは浩平に押し切られるような形であったが)渋々ながらも、了承するしかなかったのである。 そんなわけで、浩平以下4人は準備を終え、今まさに作戦行動を開始すべく、出立しようとしている……というわけである。 「いくわよっ!!」 ブォンッ!! 七瀬の掛け声で、98式はドームめがけて地面すれすれを一直線に飛行を開始した。 「がんばってねー」 『みんな、気をつけるの』 「みゅーっ」 みさき、澪、繭がそれを見送る。 「……そういえば」 と、シュンが、思い出したように話し出す。 「入力されている地図、確か3年前のものじゃなかったかな……」 ズゴーン……グシャーン…… 「言うのが遅かったみたいだね」 家屋が破壊される音を聞きながら、シュンは呟いたのだった。 :つづく ---------- :『予告なの』「みゅーっ」 (註:カッコ内は外部に聞こえてない音声だと思ってください) 「みゅーっ(おんぷ)」『なのなのーっ』<←何故か盛り上がっている> (おいっ、繭、澪、わかってるのか、次回の予告をするんだぞ) 『まかせるの』うんうん。 「みゅーっ」 (ホントに大丈夫だろうか……) 「みゅ……えーと……じかい……はいよいよ……みゅっ?」 (どうした、繭?) 「みゅー……わかんなあい……」 (ぐあ……しょうがない、澪、頼む) 『わかったの』にこにこ。 かきかき…… 『次回はいよいよ最終回なの!』 (澪……スケッチブックに書いてもみんなにはわからないぞ) 『そんなこと言われても困るの』……えぐえぐ。 (しょうがない……こうしよう。澪、台本をひらがなに直して繭が読めるようにしろ) 『わかったの』「みゅー」 かきかき…… 『できたの』 (よし、繭、それを読むんだっ) 「みゅっ……じかいは……いよいよ……さいしゅうかい……なの?」 (澪、“なの”は余計だ……) 『そうだったの』えとえと……。 かきかき…… 「みゅ? ……じかいは、いよいよ、さいしゅうかい……」 (浩平〜っ、もう時間が無いよ〜っ) (なにいっ! おい、澪、早く次のセリフを書くんだっ!) 『そんなこときゅうにいわれても困るの』あせあせ……。 (って、自分のセリフ書いている場合じゃないだろっ!) 「…………」はうーっ。 ……かきかき……かきかき…… 「……ついに、たたかいは……」 <ここで予告の時間終わる> (浩平〜っ、予告終わっちゃったよ〜っ) (ぐあ……。結局予告にならなかった……) <Na:上月澪&椎名繭> <スクリプト作成:(今回はほとんど意味をなしていないが)折原浩平> :予告おまけ これが勝利の決め手だ! “七瀬の制服(転校前の学校のもの)” ---------- (Vol.5に続く)