中崎町防衛部 Vol.4 <Aパート>  投稿者:Matsurugi


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:前回までのあらすじ

防衛部の活躍により、敵の巨大兵器『アルジー』は倒された。
しかし、その時敵はすでに基地を自爆させ、学校を半壊に追いやり地下に潜行していた。
東梅田に待機していた戦車隊の援軍に、姿を現わした敵は奇襲を敢行。
新たな機動兵器『アルジーノン』によって援軍部隊を蹂躪する。
だが、そんな敵の動向と無関係に、折原浩平率いる防衛部は早々と撤退してしまう。
その無責任さに激怒した七瀬留美は単身装甲服を持ち出し、反撃に乗り出そうとする。
その最中、中崎町は巨大なバリアーに包囲されてしまう。
明らかとなる敵の正体。それは深山雪見率いる七瀬らもよく知る人々であった。
しかしその事実に驚く間も無く、七瀬は窮地に立たされる。
その時、防衛部が再度、その姿を現わしたのだった。
再び繰り広げられようとしている戦いは、新たな局面を迎えようとしている……!
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:17時14分 町内中心部(みゅーつー・アルジーノン対峙地点)

 町並みを睥睨するように2体の巨躯が立っている。
 中崎町のどの建物よりも大きく聳え立つそれらが、互いに睨み合っているように、見上げる人々の目には映った。
 ……しかし実際の所は、一方はどこを見ているのかわからないほどの緊迫感が皆無な表情と眼で、もう一方はそれが顔であるとするならばそうには違いないのであろうが、とてもそうは見えないパラボラアンテナ状の顔に見えるものが、無機質に向かい合っていたのであった。
 もし人々がその事を知ったのなら、果たしてこの2体が今まさに壮絶な戦いを繰り広げようとしている事を想像できるものか、甚だ疑問に思ったかもしれない。
 しかし、間違いなくそのふたつの巨大な物体は、見た目からは想像もつかないほどの破壊力を有する事を、この町のほとんどの人々が目撃している。
 ……だが、今現在、緊迫した空気をそれ以上に漂わせているのは、もしかしたら、その2体からではなく、その足元の付近にいたある数人の間であったかもしれない。
「覚悟は出来てるんでしょうね、折原……!」
「待てっ! 結果的にちゃんと戻ってきたんだから問題ないだろ」
 淡々と七瀬は話していたが、却ってそれが彼女の怒りのボルテージの高さを示しているようでもあった。
 もし普段の浩平であれば、それでも冗談で流してしまえたかもしれないが、今、七瀬は(損傷していたが)装甲服を着ている。
 その威力でもし攻撃を食らおうものなら、下手をすると冗談では済まされない事に、或いはなるかもしれない。
 そんなわけで、今回ばかりは浩平も真剣に今の状況を回避する方法を、模索せねばならないようであった。
『ようやくお出ましのようね、折原君……いや、防衛部と呼ぶべきかしら?』
 と、その矢先、アルジーノンの外部スピーカーを介して、雪見の声が響き渡る。
 しかし、当の浩平はといえば……
「大丈夫よ、一回殴れば、気が済むから。おとなしくしてなさい……!」
「その一回だけで、じゅうぶん致命傷を負わせられると思うぞ、俺は……」
 言ってしまってから、火に油を注ぐ言葉だと浩平は思ったが、既に遅い。
 今や、殺気すら帯びかねない雰囲気で、七瀬が目の前に迫っていた。
「と、とにかく、今はそれどころじゃないだろっ!」
「あんたからそんな言葉聞いても説得力ないわよ……」
『……あのー』
 ……というように、全く耳に入ってないようである。
「とにかく、話は後で聞くから、今は待ってくれ……」
「残念だけど、あまり悠長に待っていられるほど、今のあたしは慈悲深くないのよ……」
『……もしもしー』
「頼む、お前を殺人者にするのは忍びないんだ……」
「何、わけのわからないこと言ってるのよ……!」
『…………』
「いーから、覚悟を決めなさい……」
『……こっちの話も聞いて欲しいんだけ……』
「やかましいっ、今こっちは人生の崖っぷちに立たされているんだ。後にしてくれっ」
「そうよ。今大事な話の最中なんだから後回しにしてっ」


:17時16分 移動要塞内ブリッジ

「…………」

 そのとき、雪見から何かが切れるような音がしたのを、佐織は聞いたような気がした。

「D−1、オーバーライド。オート攻撃、ファイア」


:同時刻 町内中心部


 ドゴオォオオンッ!

 盛大な爆発音と共に、近くの建築物が住井のアルジーノンのハズーカによって吹き飛ばされた。
『……聞く気になった?』
 普段と同じ口調であったが、どこか凄みを帯びた声が響き渡る。
(ついでに、いきなり動いた事に住井も驚いた)
「今の……雪ちゃん……だよね?」
『びっくり、なの』
「みゅー……こわい……」
 さすがのみさきも、少し驚いたらしい。
 しかし、間違いなく、厳然たる事実として、今のセリフを発した人物は雪見であった。
『お、落ち着いてください……当たったらシャレになりません……!』
『大丈夫よ……ちゃんと的は外しておいたから……』
 何やら話し込んでいる声が聞こえたが、すぐに、いつものように雪見の冷静な声が聞こえてきた。
「ごほん! ……とにかく、やっとまともに戦う気になったようね、防衛部?』
「……まあな」
 ようやっと、浩平が雪見の問い掛けに答える。
(少し引きつった表情ではあったが)
『今度は、さっきまでのようにふざけたまねはさせないわよ』
「いや、俺にとっては大問題だったぞ」
『何のこと……って、誰があんたたちの痴話ゲンカのことをいっているの!』
「痴話ゲンカとは心外だな。男同士の重大な話し合いと言ってくれ」
「いーから、あんたはちょっと黙ってなさいっ!」
「浩平、これ以上話をややこしくしないでよ〜っ」
 七瀬と瑞佳に言われ、浩平が七瀬に引きずられるようにして連れて行かれた。
 なお、この後、浩平が五体無事であったかどうかは定かではない。

 それはさておき。
「……お話を続けてください」
 連れて行かれた浩平に代わり、茜が応対する。
『……その声は、里村茜さん、だったかしら。噂はいろいろ窺っているわ』
「そちらこそ、先の演説は堂にいったものでしたね。さすが演劇部の部長だけのことはあります」
『それはどうも。でも、お世辞を言っても、容赦はしないわよ』
「……お世辞のつもりはありません。 ……それに、結果は見えてると思いますから」
『たいした自信ね。でも、果たしてそうそう、うまくいくかしら?』
「……そんなことを言ってると、まるで悪役みたいですね」
『あら、悪役だったら、もっとそれらしく行動しているわよ』
「……悪役のつもりはないと言うのなら、何のつもりなんですか?」
『そうね。さしずめ、主役の座を狙う脇役、とでも今は言っておくかしら?』
「……なるほど。今のあなた方にはぴったり、と言うわけですね」
『なかなか言ってくれるじゃない』
「……そちらこそ」
 ……二人の会話を聞いていたみさき、澪、繭が耳を押さえる。
「……何だか、耳がピリピリしてきたよー」
『ふたりともおっかないの……』
「みゅーっ、さっきよりこわあい……」
 ある意味、七瀬の物理的な恐ろしさとは別次元での言い知れぬ恐ろしさが、この二人の会話からは滲み出ていた。
 さしずめ、空気が帯電して、目に見えない火花が散っているような緊迫感が周囲を包んでいる、と言ったところか。
『でも』
 やや間を置いて、雪見が切り出す。
『この戦力差を見ても、果たしてどれだけ強気でいられるかしら?』



:第四話
:主役的反撃



 とりあえず、現在までに判明しているそれぞれの陣営の兵力を挙げてみると……


:深山雪見率いる侵攻側兵力

・長距離支援兵器 DA-06C アルジーキャノン        15輌(無人)
・有人機動兵器  DA-07  アルジーMkII『アルジーノン』 2輌(有人)
・移動式戦闘要塞 1基
・その他 バリアーアルジー・作業用アルジー・水中仕様アルジー各多数

:折原浩平率いる防衛部側兵力

・九五式装甲倍力服         2輌(うち1輌は半壊)
・四足歩行型光線兵器『みゅーつー』 1輌


 ……の様になる。

 確かに、雪見の指摘した通り、現段階での双方の戦力差を比較した場合、どう見ても防衛部が不利である事は明らかであった。
「いいの? あんなこと言って?」
 七瀬も、その事を鑑みると、茜に問い掛けずにはいられなかった。
「……たとえハッタリだとしても、こちらの弱みを見せないのが駆け引きと言うものです。それに……」
「それに?」
「……あんな言い方をされて、こちらが簡単に負けると思われるのは、心外です」
「…………」
 いつものように、感情を表に出さないままそう言った茜を、七瀬は背筋が薄ら寒くなる思いで見つめた。
 それは、表面的な恐怖ではなく、例えて言うなら、身動きの取れないまま、心臓をゆっくりと締め上げられるような、そんな恐ろしさであった。
「で……でも現に……」
「心配するな」
 七瀬が更に言い募ろうとするのを遮って、(いつのまにか復活した)浩平が横に立っていた。
「言っただろ? 負けないからこそ、防衛部なんだと」
「そんなこといったって、現に向こうの方が数で圧倒してるじゃないの」
「そんなことはたいした問題じゃないさ」
「たいしたって……」
 七瀬が言葉に詰まった時。

 ズシャアン……!

 みゅーつーの前に立ちはだかっていた赤い巨大ロボット――住井のアルジーノンが、低く身構えていた。
『よけいなお喋りはそろそろお終いだ、折原』
「その声は、住井か。お前も、因果なものだな」
『それは、どうかな。おまえが何故にそこまで余裕なのかは知らんが、今の状況では圧倒的にオレたちの方が有利だと思うがな』
「見た目の差だけじゃどうなるかはわからんさ」
『それは果たしてどうかな』
 身構えるアルジーノンは、今にもこちらに向かわんばかりの態勢である。
 そして、背後には白のアルジーノンや支援用のアルジーキャノンが立ち並んでおり、その更に背後には遠くにおぼろげに見える地下から現れた巨大なドームが聳え立っているのだった。
 互いに双方の出方を窺って睨み合い続けていたが、防衛部のみゅーつーが先に動いた。
『どぉりゃああぁ!』
 みゅーつーが七瀬の声で雄叫びを上げる。
(モデルにされた本人は否定しているが)
『!!』

 ドン!!

 気合いの声と共に、みゅーつーが光線をぶっ放す。
 その一筋の光条は正面のアルジーノンの方に向け一直線に伸びて行き……

 ズゴォオォォン!!

 膨大な爆煙を巻き起こして、爆発の火の手があがった。アルジーノンの背後で。
 みゅーつーの光線はアルジーノンの横を通り抜けて、何にも無い町の一角を火の海に変えたのである。
『……どこを狙っている』
 住井の声が問い質す。
 しかし、みゅーつーはそんな声にも耳を貸さず(聞く耳があったかどうかは知らないが)続けざまに光線を、その周囲一帯に向けてなめるように放ち続けた。
 もちろん、それらはアルジーノンとは無関係な方向に、である。

 シュドドドドド……!

 周囲を灼き尽くして舞い上がった煙と共に、心なしか人々の悲鳴も聞こえてきたような気がした。
『だから、どこを狙っていると言うんだ……』
 再度、住井の誰何の声。その声に、攻撃を止めてみゅーつーが顔?をあげる。
『わーっはっはっはっは!』
 浩平がみゅーつーのスピーカーを通して高笑いする声が聞こえてきた。
 理由が分からず、住井は黙している。
『これ以上町を破壊されたくなかったら、すみやかにバリアーを解き、武装解除して投降するんだな』
 きっぱりとした口調で、浩平が言い放つ。
『さもなくば、住民もろとも、町内全域を焼き払うぞ』


:17時20分 移動要塞内・ブリッジ

「な…………」
 浩平のとんでもない行動に、雪見は呆然となっていた。まさに、怒りも通り越して、呆れかえっていると言った所であろうか。
「な……何てことを……」
 そんな雪見の様子を見ていた佐織は、雪見が何となく危なげになってきたのを感じ取っていた。
 さっきから浩平たちのペースに乗せられているばかりのためか、普段ならば冷静に対処しているはずの場面で普通の判断が危うくなっている。
 このまま放っておけば、先のように激昂して何を仕出かすか分らない。
「正気!? そんなことをしてただで済むと思ってるの!?」
 佐織の危惧した通り、雪見は今や完全に浩平に乗せられ、冷静さを失い始めていた。
(無理らしからぬ事かもしれないが)
『……それは、そちらも同じことでしょう』
 その雪見の問い掛けに、別の声が答えた。


:同時刻 町内中心部

「……これまでの戦闘経緯といい、今現在、中崎町をわざわざバリアーで包囲していることから考えて、あなたがたは戦闘による被害を最小限に留めようとしている。……違いますか?」
 冷静な口調で淡々と言葉を告げるのは、茜であった。
『うっ……』
 意外な方向からの指摘を受けて、雪見が押し黙る。
「……図星のようですね」
 更に茜が問い詰める。


:移動要塞内ブリッジ

「……それは、どうかしら?」
 茜の追求に、雪見は(表面上は)平然とした口調で返す。
 確かに指摘された事実は正鵠を射ていたのだが、その事を相手に気取らせる程には、雪見はまだ理性を失ってはいなかった。
 何より、今のやり取りによって雪見はどうやら沈着さを取り戻す事が出来た事に、佐織は安堵した。
「D−1、D−2に伝達。防衛部のパラボラ型ロボットを足止めするよう、伝えて」
「……はい……」
 幾らかいつもの調子を取り戻した声で、雪見がみあに指示を出す。


:町内中心部

『……了解。南!!』
 ブリッジからの指示を受け、住井が南に通信を送る。
『左翼に展開しろ! 奴を挟撃する!』
『わかった!!』

 ドン!

 住井の言葉を受け、南のアルジーノンがバックパックのジェットを全開にして飛び上がる。
 だが。

 ズドドドドドドド……!!

『だあああーーーっ』
 予期せぬ位置からの砲撃を受け、南のアルジーノンはまっ逆さまに地上に落下していった。

 ドゴオッ!!

 地上に激突したアルジーノンが周囲を震わせる音が辺りに響く。
「やはり、陸上兵器は陸上兵器。空中でバランスをうしなえば、こんなものよ」
 そう言って不敵に笑うのは、戦車隊の残存兵力を集結させて一斉砲撃を行なった、戦車乗りの車長の男であった。
『くっ……なめるなぁ!』
 不意打ちをくらって思わぬ不覚を取った南は、すぐに体勢を立て直し、砲撃を行なった戦車隊に向かって殴り掛かろうとする。

 バキ! グシャ! ズン!

『やめろ、南! 深追いするな!』
 住井が制止の声をあげたが、それを聞く事無く、南は執拗に後退する戦車隊になおも攻めかかろうとした。

 ズブ……!

『!?』
 足元が沈み込んだ、と気付いた時には既に遅かった。
 真下へ一直線に、南のアルジーノンが地面の中へとめり込んでいったのである。

 ズブ……ズブ……ズブ……ズシーン!

 戦車隊の隊員たちが予め用意しておいた落とし穴。
 彼らのブービートラップに、南はまんまと引っ掛かってしまったのである。
 それを見た隊員たちから、うまく罠に引っ掛ける事に成功したとの歓喜の声が上がる。


:17時23分 移動要塞内ブリッジ

「……D−2、活動を停止……パイロットは、脱出したようです……」
 ブリッジに、淡々としたみあの報告の声が伝わってゆく。
「あーあ」
「ブザマなもんね」
 メインスクリーンでその一部始終を見ていた詩子と広瀬の呆れるような声が、口から洩れた。


:同時刻 町内中心部

 一方、別の場所から、その様子を七瀬、茜らも目撃していた。
「……七瀬さん」
「ええ」
 茜の声に答えて、七瀬が頷く。
「行きましょう!」
 そう言うと、七瀬は装甲服を機動させる。
「あっ、七瀬さん、どこ行くの〜」
「みゅーっ」
『待ってなのー』
「あ〜、おいてかないでよ〜」
 何故か、他の四人もそれについていったのだった。
「!! おい、おまえら、ちょっと待て!」
 浩平が止めようとするも、時既に遅く、七瀬たちは浩平たちのいる場所から既に遠ざかっていた。
「……浩平が何か言ってますが」
 七瀬の装甲服に(どうやってかは知らないが)しがみつくようにして捕まっている茜ら5人を乗せて進んでゆく最中、茜が声を掛ける。
「気にしないのっ。……理由はだいたいわかってるけど」
「……そう、ですね」
 そう言って茜が見た場所、装甲服の背中に当たる部分には、“DANGER”・“危険”等の表記がなされた(勝手に持ち出したのであろう)武器が搭載されていたのであった。


:17時26分 町内商業地付近(白アルジーノン活動停止地点)

 物陰に息を潜め、南は乱れた息を整える。
 そのまま見つからないように、慎重に辺りの様子を窺う。
「探せ! パイロットがいるはずだ!」
「ロボットに2・3人残して、後は散開しろ!」
 活動停止した彼のアルジーノンが埋没している周りを、揃いの制服に身を包んだ連中がうろついていた。
「くそっ……俺としたことが」
 用心のために銃を携えながら、南は脱出の方法を模索する。
「救援は……」
 そう言って、目をやった先。
『…………』『…………』
 それは、互いに間合いを計りながら、睨み合いを続ける住井のアルジーノンとみゅーつーが対峙する光景であった。
 両者とも、相手の出方を待つように、小刻みに位置を変えながら、打ち込みの機会を狙っているようである。
「アテにはならないか……」
 その事を確認し、南はひとつ、大きく溜息をつく。


:同時刻 町内中心部(みゅーつー・アルジーノン対峙地点)

 その住井は、アルジーノンの右手に小振りのハチェットを構え、敵への攻撃のタイミングを窺っていた。
 相手は光線を装備しているが、一度それを使用した後は、反動で暫く身動きが取れなくなる事を、先の戦闘で確認している。
『住井くーん、キャノンで援護しようかー?』
 住井の耳に、およそ緊張感とは程遠い詩子の声が飛び込んでくる。
 別にそれが不快と言うわけではないが、今それに答えているだけの余裕は、住井には無かった。
「必要ない。下がってろ!」
 簡潔に、それだけを返す。
『あっそう』
 詩子が返事をしたが、目の前のみゅーつーとの間合いを計るのに集中していた為、住井の耳にはその声は既に届いていなかった。
“さあ来い……パラボラ野郎……1対1の勝負だ”
 相手がこちらの攻撃の間合いに入るのを、住井はじっと待った。
“あと半歩……それが貴様の最後になる……”
 相手の足が、様子を窺うように、半歩分、住井の方に、ゆっくりと、踏み出される。

 ズ……!

「今だ!!」
 すかさず、住井は、アルジーノンのハチェットを振りかぶろうとする。

 ガッキ!

「え?」
 と、その振り上げられたはずの手が、途中で止まった。
 なんと、背後から“何か”に掴まれた事によって、アルジーノンは地面から持ち上げられていたのである。

 ゴン!

 そのまま、アルジーノンは頭部に一撃を食らわされ、地面に叩き付けられた。
『はっはっはっはっ』
 笑う浩平の声が聞こえてきた方向、アルジーノンの背後に立つそれは、正面にいる相手と同じ物体――みゅーつーであった。
『1輌だけだと思ったら大間違いだ』
 胴体に当たる部分に『補欠』と書かれたそれが、背後からアルジーノンを取り押さえていたのである。
『ひ……卑怯だぞ……』
『何を言ってる。勝てばいいのさ』
 住井の批難の声もお構い無しに、2輌のみゅーつーは住井の乗るアルジーノンをぐしぐし、と足げにしていた。


:17時29分 町内商業地付近

「あちゃー」
 住井が窮地に立たされる様を見た南は、悲嘆にも似た声をあげる。
「動かないで」
 その時、背後から声を掛けられ、南の顔に緊張が走る。
 慎重に動作を気取られないように、視線をそちらに巡らせようとする。
 が。

 ドガドガドガドガドガ!!

「どわーーーーっ!!」
 いきなりの集中砲火を雨あられと浴びせられ、哀れ南は吹っ飛ばされたのだった。
(ちなみに彼は全く動いていなかった)
「今のは威嚇よ! 今度動いたら、本気で当てるわよ」
 と、息巻いているのは、装甲服に装備された多数の火器を南に突き付けた七瀬であった。
「……聞こえてないように見えます」
「あら?」
 茜に指摘され、七瀬が南の様子を窺う。
 そこには、血を流し、白目をむいて仰向けに倒れた瀕死の南の姿が転がっていた。



:アイキャッチ
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(Bパートに続く)