---------- :前回のあらすじ 七瀬留美が1週間前から目撃していたという謎の飛行物体。 川名みさきが図書室で拾った謎の図面。 長森瑞佳と椎名繭が裏山付近で目撃した謎のロボット。 謎の人物たちによる密かな企み。 そして、里村茜と上月澪を含めた彼女ら6人を追跡する不審な男たち。 彼女らが辿り着いた場所に待っていた、折原浩平と氷上シュン。 彼らは、何を知っているというのか? 全てが謎に包まれたまま進行してゆく時間を断ち切るように、 中崎町に謎の巨大物体が出現した。 果たして、中崎町で何が起ころうとしているのか……? ---------- :15時57分 中崎町内住宅地(謎の巨大物体出現地点) 周囲の建物を瓦礫と化し、人々を睥睨(へいげい)するように巨大な物体が聳え立っている。 この付近は高層アパートやマンションが建ち並ぶ地域であるというのに、その巨体はそれらのどれよりも大きいのである。 たまたま付近を歩いていた人々や、近くに住む人々が窓から覗くその外観。 ほとんど球状ともいえる、全身。 どこからが首なのかわからない、胴体と一体となったような、顔。 ひょろひょろと細長い、手。 瓦礫に埋まってよくは見えないが、まんまるの胴体から出っ張っているような、足。 ずんぐりとした外観とは似ても似つかないような、ちっちゃく、くりくりとした、目。 (見上げた位置からは口はよく見えなかった) そして、お腹に当たる部分には、先ほどから回転を続けているキャタピラのようなものが見えている。 人によっては、その異様な外観から“怪獣”を連想したかもしれない。 が、その表面は磨かれたようにつるつるになっており、生物を想定させるものではなかった。 その全身が全て同じ色で覆われており、与える印象がどことなく無機質である事から、それが生き物などではない、違った原理で動いているものであると考えられたからだ。 ヒュイーン、ヒュイーン、という奇妙な音が微かに聞こえてくる。 それは、どうやらその巨大物体の内部から響いてくるものらしい。 その(あまりにも巨体に不釣り合いな)眼差しは、どこを見ているのか、あさっての方向に向けられている。 「……!(驚)」 近くをたまたま警ら中であった警官がそれを見て、慌てふためきながらも拳銃を取り出そうとする。 手間取りながらもようやく銃を両手で構えると、巨大物体に向かって、発砲する。 パン パン パン パン 乾いた音が、この状況ではあまりにも頼りなさげに響く。 当然の事ながら、その物体には傷ひとつ付いてはいない。 その時、それまであさっての方に向けられていた巨大物体の目が、ギロ、と警官の方に向けられた。 キィンッ! その目が一瞬、閃光を放出したかに見えた直後。 シュボッ! 巨大物体の周辺が爆風に包まれた。 :第二話 :侵略的行動 :16時03分 軽音部部室内 「何か、外が騒がしいな」 浩平が、学校の外から響いてくる騒音の事を気にしていた。 だが、部室から外を見てもその原因らしきものは見当たらない。 :同時刻 学校前 その頃、学校の校門前をキャタピラ音を響かせながら戦車が通行しようとしていたのだが、当然その事を(部室の窓は学校の裏手にあるので)浩平たちが知る術はなかった。 :軽音部部室内 「ま、いいか……あ、そこはちゃんと間違わずに記入しろよ。後で訂正するのが面倒だからな」 「……ねえ、何でこんなもの書かなくちゃならないの?」 「決まってるだろ。何をするにしてもまず学校側に届けを出さないと後でうるさいからな、ここは」 「そういう問題じゃなくて……」 「それに、ちゃんと活動してる事を報告しないと、部費を出してもらえなくなって困るんだぞ」 「そういう問題でもないって……(溜息)」 七瀬が浩平に訊ねているのは、現在自分が記入させられている紙切れの事についてである。 瑞佳・七瀬・茜・みさき・繭・澪ら6人がここに来てから、浩平がまずやってもらう、と言って彼女らに提示したのは、1枚の紙片を取り出し、ここに名前と学年・組その他を記入しろ、という事であった。 そして、何だかわからぬまま七瀬が(全員を代表して)言われた通りの事を書き記している、というのがこれまでの経緯、である。 「ねえ……ここ、本当に大丈夫だと思う?」七瀬が横に立つ茜に、小声で問いかける。 「……ここまで来たら、毒食わば皿まで、です」茜は平然とした顔で、答えた。 ……それからしばらくして。 「……これでいいの?」 七瀬が、全ての事柄を記入し終った届けの用紙を浩平に差し出す。 「ああ。じゃあ、学校に許可をもらってくるから、ちょっと待っててくれ……」 :16時03分 中崎町内住宅地(謎の巨大物体出現地点) 浩平が届け用紙をもって許可を貰いに行っていたのと時を同じくして、巨大物体の前ではその進行を食い止めるべく、集結した戦車の軍勢が、今まさに攻撃を開始しようとしていた。 1台の戦車の上部ハッチから、ひとりの男が顔を出し、号令を下す。 それを合図に、戦車隊が一斉に巨大物体に向かって砲撃を加える。 ドウッ!ドッパウゥゥン!ドン!ドウゥン! 苛烈なまでの砲撃が巨大物体に命中していく。 だが。 「車長! HESH弾も通用しません!」 「くそっ!」ハッチから顔を出していた人物――車長と呼ばれた男が苦々しく吐きすてる。 「もっと接近しろ!」 そう命じると、男の戦車は巨大物体へ接近すべく突撃を開始する。 キャタピラが唸りを上げて地面を砕きながら、鋼鉄の車体を前進させる。 前方に民家があるのも構わず、それは突進していく。 キィンッ! 再度、巨大物体の目から光が放たれた。 ボンッ!! 直後、近くの地面が抉られ、周囲が爆風に包まれる。 近くにいた砲兵の男が、慌ててそこから避難する。 「奴の武器は、どうやらあの怪光線だけのようだ!」 爆風で飛ばされてきた破片に顔を直撃されながら、車長の男が叫ぶ。 「おまけに奴は動きが鈍い!!」 確かに、巨大物体は最初に出現した場所から未だ、数メートルも移動してはいなかった。 「後ろさえ取れば、こっちのものだ!!!」 号令と共に、男の乗った戦車が再び唸りをあげて疾走する。 巨大物体の後方に回り込んだところで戦車が停止。巨大物体はまだ先の方向を向いたままだった。砲頭がそちらへ向けられる。 「今だ!」車長の男が命じる。「APDS弾発射用意!」 その時。 前方を向いたまま目だけを戦車の方に向けていた巨大物体の頭部がいきなり、ガクン、と上方に向け動き出す。 「何!?」 信じられないことに、そのまま180度回転した顔が、逆さまの状態で後ろ向きに停止する。 それは丁度、背中を正面にして、顔を逆さまにしてくっ付けたような状態であった。 「そんなんありかぁーーーーっ!(遠ざかっていく声)」 光線によって戦車を破壊された車長の男が、吹っ飛ばされながら、そんな叫びだけを残していった。 :16時13分 某所 「……周囲の敵対物の反応はほぼ消滅しました……」 抑揚を欠いた声が、先ほどまでの戦闘の報告を淡々と告げる。 「……他愛ないものね」 その後方から、スクリーンを仁王立ちに眺めていた人物が、ややきつめの口調でそう洩らす声が聞こえた。 「ま、しょせんあのていどの戦力じゃ相手にならないよ」 どことなく軽い調子の声で、先の人物の横で腕組みをして立っている人物がその言葉に答える。 「…………」 その会話を聞いているのか、いないのか、先のふたりよりひとつ高い位置(そこからはこの場所全体を見渡すことが出来る)に立つ人物が、こころ持ち畏まった、だが落ち着きのある口調で、手前で手を組んで座っている人物に話し掛ける。 「これなら即、フェイズ・ツーに入っても問題なさそうですね」 「……そうね」 そして、話し掛けられた方の人物は、振り返る事も無く、静かな口調で、後ろの人物の言葉に短く答えたのだった。 「“アルジー”を帰還させて」 その下では、先と同じようにきつめの口調の声が、前方に向かってそう命じていた。 :同時刻 中崎町内住宅地 命令が発せられたのと時を同じくして、巨大物体――アルジーと呼ばれたそれが、地中への潜行を開始しようとしていた。 その時。 ヴォオォォォォォォム! 突如、その背後に、多数の銃弾が浴びせられた。 「!?」 突然の奇襲を受けて、アルジーの動きが、一瞬停止する。 :某所 「何?」 「……アルジーの後方、300メートルの地点に形式不明のロボットを確認……」 先と同様の、抑揚のない声が報告する。 「……銃撃が行われたのはその場所からのようです……」 「何ですって?」 :中崎町内住宅地 オオオォォォォン…… 銃撃の余韻が響く中、右手にガトリング砲を構えた大人の人間の背よりもやや大きいぐらいのロボット――のように見える武骨な外観をした物体――が立っていた。 その場所は、アルジーを操っていた者たちが確認したのと同じ位置であった。 残響が止んだその場所で、腕からガトリング砲を外し、ロボットが声を発する。 「そこの巨大ロボットならびに陰で操っている奴! 俺は防衛部の折原浩平というものだ」 ロボットの頭部に当たる部分が後ろに倒れ、中から人の顔が現れる。 その顔は、紛れもなく折原浩平、その人であった。 「おまえ達は、学校の許可なくその地下に基地を建設し、あまつさえそこで建造したと思われる巨大兵器を用いての破壊活動に及んだ。これは明らかに校則に規定された範囲から逸脱した行為であると認められる!」 「……あのロボットって、浩平が乗ってたんだね」 浩平がアルジーに向かって長口上を述べている最中、そう言ったのは、浩平らと共に同行していた瑞佳であった。 (ちなみに他の連中も同行している) 今、浩平が乗っている――というよりは、着ている、といった感じのそのロボットこそ、瑞佳と繭が裏山の近くで目撃したものだったのである。 「部の備品のひとつで、装甲倍力服というものさ。ま、作業服みたいなものだね」 シュンが肩に武器を担ぎながら(こちらは制服のままである)瑞佳たちに説明を行っていた。 「……よって、ここに生徒会規約第17条第5項付記第3節、および防衛部特例処置A−9に基づき」浩平が一旦言葉を切る。「即時の全面降伏と武装解除を命ずる!!」 :16時16分 某所 「なんなんだ、あれは?」 「こんな反応は予想外だぞ!」 「お前、防衛部なんて知ってたか?」 「いや、聞いたこともない」 「じゃあ、何であんなものがあるんだ?」 「そんなこと、知るか!!」 突然に現れた正体不明のロボットの出現と、防衛部と名乗る連中に、メインスクリーンを見ていた下層フロアの作業員たちの間に少なからず動揺が走っていた。 それまで黙々と作業をしていた彼らが、口々にああでもない、こうでもない、と騒ぎはじめる。 ……その一方で、彼らを見下ろすことの出来る場所から、スクリーンに映った装甲服を着ている浩平を見ている数名の人間は、そんな事にも全く動じることなく、正面に映し出されている光景を見つめていた。 「やはり、現れたようですね」 先と変わることなく、畏まった口調の人物がその場を動く事無く、斜め前に座る人物に話し掛ける。 「……ええ」 話し掛けられた方も先と変わることなく、同様に短く答えを返す。 「とりあえず、他の人たちの混乱を鎮めます」 「……任せるわ」 そう答えると、座っている人物は、組んでいた手の中に顔を伏せる。まるで、表情を隠すかのように。 「……防衛部……噂では聞いたことがあったけど、本当に存在してたなんてね……しかも、折原君が御登場とは……面白いことになりそうだわ……」 周囲に聞こえない声で、“彼女”は独り呟いた。その口に、微かな笑みを浮かべて。 :同時刻 中崎町内住宅地 「……もし即時投降がなされない場合は、こちらから攻撃に移らせてもらう!」 浩平の口上は大詰めを迎えていた。 「なお、この決定に不満がある場合は、2日以内に文書で学校当局に申し立てをするように。以上」 そう締めくくり、浩平は回れ右をして、アルジーの前から立ち去っていく。 「ご苦労様」シュンが労いの言葉を掛ける。 「まあな」浩平はそれに軽く答える。 「何だかよくわからないけど、面白そうだね」 『すごいの』 「みゅーっ(おんぷ)」 みさき、澪、繭は(状況がちゃんと分かっているのかどうかは怪しいが)浩平の言葉に素直に感動?しているようである。 「…………」 「…………」 一方の瑞佳、七瀬は呆れをも通り越してしまったのか、唖然とした表情のまま、何も告げることが出来ずにいた。 そして茜はといえば、こちらも無言ではあったが、表情はいつもと同じに平然としたままであった。 「とりあえず、第1ラウンドのゴングは鳴った」装甲服を着たまま、浩平が停止しているアルジーを振り返る。「あとは相手の出方を待つだけだな」 :EYE‐CATCH :EPISODE・2−A :ARUJII ATTACK ---------- (後編に続く)