俺は、再び『奴』と対峙していた。 『奴』は、目の前に微動だにせず佇んでいる。 俺は、唾をゴクッと飲み込んだ。 前に一度、『奴』と出会った時の事を思い出す。 あれは、そう、いつの事になるのだろうか……。 なるべくなら、あまり思い出したくはない出来事だ。 しかし、俺は再び『奴』を葬らなければならない。 今度は、逃げる事は許されないのだ。 近くで、俺たちを見張っている視線を感じる。 ここで逃げ出せば、どんな予測不可能の災いが齎されるだろうか。 今は『奴』を葬るしか、俺のとるべき手段は無い。 決心を固めて、ゆっくりと、近づいていく。 『奴』は、全く動く気配を見せない。 そのまま、少しずつ距離が詰まっていく。 もう少し、あと少し……。 『奴』から注意を逸らさぬまま、ちら、と視線を別の場所に向ける。 『奴』を葬って、すぐに『あれ』に手を伸ばせば、少しでも助かる見込みは、ある。 目算で距離を測って、位置を確認する。 ……よし、大丈夫だ。 決心を固めると、俺は再度『奴』に意識を集中させる。 もう、『奴』は眼と鼻の先の距離だ。 心臓が鼓動を早める。 冷や汗がひとすじ、落ちる。 直前まで来て、一瞬躊躇し、手が止まりそうになる。 しかし、もはや後戻りは、許されない。 意を決して、俺はそのまま一気に挑みかかる! はぐっ 「ぐあ……」 ごくごくごくごくごく 「茜ぇ、やっぱこれ、無茶苦茶甘すぎるぞ」 「……そんな事言わないで、全部食べてください」 「うう……」 俺の戦いは、どうやらまだ終りそうに無い…… おしまい。