真夏のONE Phase#6 投稿者: Matsurugi
 部屋の真ん中に引き出され。
 兵士にまわりを取り囲まれ。
 住井は。
 座り込むような姿勢のままで。
 銃を突きつけられている。

「出歩かないように」

 その彼の前に。

「言っておいたはずですが……」

 華穂が立つ。

(落ち着け)

 自分に言い聞かせて。

(落ち着け)
(このままじゃ)
(皆殺しだ)

 考えて。
 考えて。

「待てよ」

 考えて。

「取引しようじゃないか」
「華穂さんよぉ」

 住井が告げる。

「取引?」

 住井の言葉を。
 華穂が繰り返す。

「あんたらが欲しいのは、澪なんだろ?」

「何を言ってやがるんだ、このガキ」

「君が、澪を見つけられるというんですか?」

 華穂の問いかけに。

「俺じゃないさ」
「折原だ」

 住井は答える。

「あいつの澪への思いは半端じゃない」
「どんな小さな手掛かりだろうと」
「どこにいようと」
「絶対、見つけようとするだろうさ」

 その言葉に。

「絶対な」

 確信を持つかのように。

「いやいやじゃなく」
「嬉々としてな」

 自身ありげな態度で。

「好きな娘を」

 華穂の言葉は。

「渡さなければならないのに」
「捜すというのですか?」

 その台詞に。
 疑念を含んでいる。

「折原には、秘密でだ」

 住井の方は。
 心配ないと言った風で。
 何気なく。
 言い放つ。

「捜し当てた時」
「俺が澪を華穂さんに引き渡せばいいだろ」

「…………」

 その真意を探るように。

「友人を、騙すと言うのですか?」

 そう。
 問いかける。

「……!」

 それを聞いても。

「……あんなやつ」
「別に友人でもなんでもねえよ」

 素っ気無い口調を。
 装う。

「小さな弱みを握られてたんで」
「手伝わされただけだ」

 その言葉に。
 興味を惹かれたのか。

「面白い事を言いますね」

 華穂が。
 薄い笑みを浮かべる。

「華穂少佐……」

 他方の兵士は。
 懸念するような口調で。

「こんなガキの言う事に……」

 華穂に。
 そう。
 進言する。

「俺達に出資して」

 住井は。
 その言葉にも。
 動じず。

「澪を捜させろよ」
「その方が、ぜったいお得だと思うけどね」
「こんな」

 傍らにいる。
 将校らを見ながら。

「腰の重い連中よりか、さ」

「なんだと!」

 不躾なその態度に。
 兵士等が。
 いきり立つ。

「俺だけで心配っていうんなら」

 そんな連中の態度にも。
 怯む事無く。

「スパイでもつけたらいいさ」

 言葉を続ける。

「我が軍は」

 兵士が。
 呆れるように。

「子供のお守りに人手をかけられるほど」
「余ってなんかいないぞ」

 そう吐き捨てるのを。
 住井は。

「そうかな?」

 待っていたかのように。

「いるんじゃない?」
「盲目的に華穂さんを尊敬している」
「処分予定のコ、とかさ」

 提案する。

(これはこれは……)

 その手腕を。
 感心するように。
 眺めて。
 華穂は。

「わかりました」

 椅子に座りながら。

「君の言うとおりですね」

「華穂少佐!?」

 兵士の。
 叫ぶ声。

「処分するよりも」
「ずっと得のようですから」

「……じゃあ」

「商談成立、ですね」

 華穂の言葉を聞きながら。
 住井は。

(……仕方ないだろ)

 身体の内側から。
 何かが刺すような。

(俺達はまだ子供で)

 棘の刺さるような。

(力が無いんだから)

 痛みが。
 その時。
 生じたような。
 感覚を。
 受けた。
 そんな気が。
 していた。


(でも)


「よう」

 扉の開く音。

「お帰り」

 住井が。
 浩平のいる部屋に。
 戻って来る。

「どこ行ってたんだ?」

「……ちょっとな」

 浩平の問いを。
 曖昧に。
 返して。

「あのな」
「俺も行くよ」

 住井は。
 立ったまま。
 そう告げる。

「は?」

「澪捜し」

 暫し。
 きょとんとした表情で。
 固まっている浩平。

「お……」

 住井が。

「俺の家族さ」

 何かを聞かれる前に。

「行方不明なの、知ってるだろ?」

 次の言葉を紡ぎ出す。

「もしかしたら」
「会う機会とかあるかもしれないし」
「だから……」

 それ以上は。
 言い淀んでしまって。
 言葉が。
 途切れる。

「俺は」

 浩平は。
 それを聞いて。

「心強いから、嬉しいけど」
「珍しいな」
「おまえから、そんなこと言ってくるなんて」

 額面通りに。
 住井の言葉を。
 受け取っている。

「…………」

 そんな様子を。
 住井は。
 横目に。
 見ている。
 少し前まで。
 交わされていた。
 やりとりを。
 思い出しながら。


(でも)


「この絵」

 浩平が。

「ずっとここにおいておく気かな」

 少女の絵の前に立ちながら。

「仕方ないだろ」

 その後ろで。

「ガキが軍にはむかうわけには」

 住井が。

「いかないんだから」

 答える。
 だから。
 あの時。
 助かる為に。

「……ガキじゃないさ」

「え?」

「……気に入らないな」

 そう呟いて。
 浩平は。
 近くにあった。
 ペンキの缶を掴み。

「お、おい!?」

 その中身を。

「折原!?」

 ぶちまける。
 絵の上に。

「俺」
「自分の女の絵、他の野郎の所に飾っとくほど」
「心広くないんでな」

 少女の姿が。
 ペンキによって。
 見えなくなる。

「へぇー、かっこいー」

 同じ部屋にいた詩子が。
 感心した様にそう言い。

「…………」

 華穂は。
 表情には。
 出さなかったが。
 さすがに。
 唖然としたようになって。

「こ、こんのォー!」

 まわりにいた兵士は。

「貴様っ」

 当然の様に。
 怒り狂い。
 直後。
 床の上に。
 小さな衝撃音。

「うわっ?」

 たちどころに。
 煙が。
 立ち込める。

「住井、いくぞっ」

 混乱する。
 部屋の中で。

「え」

 浩平は。
 兵士に体当たりし。
 住井の手を掴み。
 駆け出す。

「あーっ!」

 煙の立ち込める中を。

「逃げるぞっ」

 兵士が。
 右往左往する。

「追えっ!」

 その中で。

「追えーっ!」

 華穂は。

「…………」

 その場を動かずに。
 逃亡した者達を。
 観察する。

「……せっかく」

 住井が。

「せっかく、簡単に抜け出せるはずだったってのに!」

 煙の中で。
 叫んでいる。

「おまえって奴は」
「バカじゃないのか!?」
「折原っ!」

 錯綜する。
 人ごみの中を。

「あー?」

 走りながら。

「何か言ったか!?」

 振り返りながら。
 そして。
 楽しそうにしながら。

「……何にも」
「何にも言ってねーよっ!」


(でも)


「……くそっ!」

 詩子の手を。

「おまえも来いっ」

「え?」

 住井が引っ張り。
 3人は。
 建物を。
 駆けて行く。


(でも)
(こういう方が)
(いいかもなって言ったんだよ)



「えーーー―っ」
「そんな事があったのかーー?」

 街に戻って来て。
 3人は。
 いつもの溜まり場で。
 連中と会う。
 その中の何人かと。
 住井が話す声が。
 通りに。
 こだまする。

「……まあな」
「折原には言うなよ」

 そこで。
 住井は。
 建物内に潜入してからの。
 いきさつを。
 話している。

「ここにはいられなくなったわけだし」
「一応、澪捜しの旅には出るんだ」

「でも」

 連中のひとりが。

「澪ちゃんを引き渡すなんて」
「かわいそうじゃないか」

 そう言い募る。

「大丈夫だよ」

 その言葉に。
 住井は。

「澪は、声が出ないんだ」
「命令なんて出来るわけがない」
「そうなれば、軍もあきらめるしかないだろ」

 そう答える。

「護ー」

 通りの向こうから。
 詩子が姿を現す。

「用意できた?」

「え"」

 詩子のその言葉に。

「……おまえも行くのか?」

 そう答えた住井に対し。

「もちろん」

 嬉しそうな顔で。
 詩子が答える。

「あたし、華穂様のスパイだもの」
「華穂様から全部聞いてるよ」
「まかせといてっ」

 そういって。
 住井の腕に。
 自分の腕を。
 絡ませてくる。

「ちょっと、待て!」

 その腕を。
 振りほどこうとしながら。
 住井は。

「華穂様、華穂様って、おまえ……」

 そう言いかけるのを。

「いいじゃない」
「一緒にいられるんなら」
「何だって」

 詩子にそう言われてしまい。
 住井は。
 言葉が継げない。

「あれ」

 浩平が。

「その子も行くのか」

 同じ方から。
 姿を見せる。

「護の彼女でーす」

 本気なのか。
 冗談なのか。
 わからぬ素振りで。

「護の行くところだったら、どこへだってついて行くよ」

 何故だか。
 顔を赤らめて。
 そう。
 言う。

「お・ま・え・なー」

「詩子って呼んでね」

 住井の怒りにも。
 詩子は動じていない。

「…………」

 詩子から離れながら。
 住井は。
 すでに怒る気力さえ。
 失せていた。

「……どっちにしろ」
「置いとけないんだろ、この町には」

 連中の一人が。
 なだめるようにして。
 そう言う。

「…………」
「そうだな」

 軍が処分しようとしていた。
 詩子を。
 そのままにはしておけない。
 それは。
 確かな事でもある。

「やったあ」

 そんな事は。
 知る由も無く。
 詩子は単純に。
 喜んでいる。

「……おい」
「折原」

 住井が。
 浩平の髪の毛に。
 手をやり。

「ペンキ、ついてるぞ」

「あ」

「何だ? ペンキって」

「あれから折原の奴」
「頭からペンキかぶったんだってよ」

「え」


 …………

 俺たちは

 …………


「例え絵とはいえ」
「澪にペンキかぶせた罰、だとさ」
「……つくづくバカだよな」

「…………」

 そんな言葉にも。
 浩平は笑っている。


 …………

 確かに
 俺たちは子供だ
 でも
 子供だからって
 甘えてばかりはいられない

 …………


「じゃあ」

 浩平が。


 …………

 同じ日常は
 いつまでも
 いつまでも
 続いているわけじゃない
 その事に
 早く気がつかなきゃ

 …………


「……そろそろ」

 住井と詩子を。
 振り返りながら。
 出発を告げる。


 …………

 だから
 自分の手で
 違う日常を
 見つけに行くんだ
 それまでは
 その時までは
 どんどん
 バカな事してたって
 いいからさ

 …………


「行くか!」


 − Story2 End −


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〜〜〜〜〜

あとがき番外編 ななせなパラレル World 4

 ばん
 ずしゃーーーー

「ったーーーー!」
「……全く、毎回毎回、何でこう落っこちてばっかし……」

「気にするな。なれればどうってことない」

「こんな事、慣れたくないわよ……って、ちょっと」

「何だ?」

「いきなり、人のセリフの中に入って来るなっ!」

「まあ、そう言うな。俺とおまえの中だろうが」

「そんな仲になった覚えなんかないっ!」
「だいたい、いま会ったばっかりだろうがっ!!」

「……そう言えば、そんな気もするな」

「……それに、何でいきなり目の前にいたりするのよっ!」

「文句を言うな。面倒な手間を省いた結果だ」

「どう言う手間よ……」

「とにかく、前置きで時間を食っている場合じゃない。とっとと先に進むぞ」
「みゅ」


「……一応、決まりだからSS管理局への問い合わせはしておいた」
「ちなみに名前はRF4E折原だ」
「みゅ」

「……で?」

「?」

「あたしのもとの世界はわかったの?」

「残念ながら、まだのようだな」

「はあっ……、ほんとにもとの世界に帰る事なんて出来るのかしら……」

「そう悲観するな。人生、一寸先は何が起こるかわからないものだぞ」

「あんたに言われても、説得力無いわね……」

「……ものすごく、失礼な事を言われているように思えるが……」
「みゅ」


「……とにかく」

「何よ?」

「今回は、ちゃんと解説とかをやらなければならないそうだ」

「今まで、全然それらしい事なんかやってないのに?」

「それを言ったら、身もふたも無いぞ」

「でも、本当でしょ?」

「過去の事は過去だ。今は、前だけを見て走ればいい」

「……言ってる事が、意味不明だと思うけど」

「……そんな事より、上のSSの解説だ」

「(話しをごまかしてるような気もするけど……)解説なんてあるの?」

「あるといえば、あるかもしれない、らしい」

「ずいぶん、いい加減なもんね……」

「それほど深く考えているわけでもないそうだからな」
「まあともかく、今回で『真夏のONE』の2話目が終了した事になる」

「一体、どのくらいまで続ける気でいるわけなの?」

「うーん、何しろもとの話し自体がまだ続いているわけだからな」
「ちゃんと終わらせれるかどうか自体、はっきりしてないらしいからな……」

「そんなずさんな事で許されるの?」

「そうはいっても、始めてしまったものは今更どうしようもないからな」
「とりあえず、書ける所までは書いていくつもりではいるそうだ」

「ほんとに大丈夫なの?」

「……俺も知らん」
「みゅ」


「……まあとにかく、他には?」

「えーと……、次の3話についてだそうだ」
「まず、今回絵しか出番のなかった澪が登場する」
「例の絵描きのおじさんとの関係についても、説明されるそうだ」
「それから、話しの時間が少し遡って、1話よりも前という事になるらしい」


「……これで、終わり?」

「まあな」
「後、次の予定としては『真夏のONE』をひとまずおいとくそうだ」
「その代わりに別のSSを書くつもりらしい」

「別のSS?」

「夏休みという事で、『おねめ〜わく』の話を予定しているだそうだ」
「夏休みとどう関係しているのかはお楽しみという事だそうだが」
「みゅ」


「今回は、どうやらちゃんと解説らしきものが出来たようだな」
「ようやく、という感じだけどね」
「そうだな。ということで、そろそろこのあとがきも終わりのようだ」
「え? という事は……」

 ばん
 ぱらぱら

「……やっぱり、こうなったか」
「ま、考えてもしょうがないからな。とりあえず報告はしておくか」
「みゅ」


づづく?

手抜きな補足:
このあとがき番外編は…以下前回と同じ(おい)


それでは、失礼致します…

16回目のSS投稿に寄せて。 Matsurugi(まつるぎ)