真夏のONE Phase#5 投稿者: Matsurugi
「あなた達は、何者です?」

 銃を構える兵士。
 その後ろから。
 同じ軍服の女性が。
 姿を見せる。
 そこから発せられた。
 問い掛け。

「そっちこそ」

 浩平が振り返り。

「澪の絵を盗んでどうする気なん……」

 言葉を続けようとして。

「え?」

 途中で途切れる。
 その顔を見て。

「君は……」

 華穂の方も。
 その顔を見て。
 立ち止まる。

「あの時の」

「知り合いか?」

 住井の問いに。

「……美術店の前で」
「会ったことがあるだけだ」

 浩平が答える。

「しかし」
「どうして、この絵を知って……いや」
「何故この絵がここにある事を?」

「華穂様―」

 また別の声が。

「何事ですかーー」

 扉から現れた少女から。
 発せられる。

「!」

 その姿を見て。
 住井の顔が。
 こわばる。

「あー」
「住井君だったっけ」
「どうしたの? こんなところで」

 部屋に入ってきた。
 詩子が。
 住井のそばに来る。

「知り合いですか?」

 華穂が訊ねる。

「はいっ」
「絵を盗む時、助けてくれたんです」

 臆面も無く。
 そう答える。

「なんて、バカな娘だ!?」

 それを聞いた。
 兵士のひとりの。
 呆れたような声。

「まあ、いいじゃないですか」
「私は、バカな子は好きですよ」

 華穂は。
 気にした風も無く言う。

「しかし」

 再度兵士の問い。

「それでは変じゃないか」
「手助けしておいて今頃……」

「助けてくれたのは」

 その問いに。
 詩子が答える。

「こっちの住井君のほうだよ」
「もうひとりの方は、知らないけど」

「……君の名前は?」

 華穂にそう問われ。

「折原浩平だ」

 浩平は答える。

「…………」
「この絵の少女とは」

 興味深げな表情で。

「どういう関係なのです?」

 華穂が問う。

「え?」

 予想してなかった事を聞かれ。。

「単なる知り合い? 友人?」
「それとも、恋人?」

 浩平が。
 戸惑ったままでいると。

「ふーん……」

 表情が戻り。

「絵を追いかけてないで」
「本人の方を追いかけていればいいものを」

 その言葉に。

「…………」

 何を感じ取ったのか。

「あんたは」

 浩平が。

「どうして、この絵を手に入れたかったんだ?」

 逆に問う。

「…………」

 しばし無言。
 やがて。

「私の使えている方が、あの作者が好きで」
「いろいろと集めているのです」
「非売品と聞いたので、強硬手段に出てしまいましたが」
「それ相当の金額は、支払うつもりです」
「だから……」

「そいつ、男?」

 不意に問われ。

「……そうですけど?」

 その意味を。
 掴みかねた表情になる。

「……とにかく」

 がすぐに。
 表情が戻る。

「君はこの絵の少女の事を知っているようですし」
「話を聞きたいですね」
「それに」
「詩子を助けてくれた事もありますし」
「今晩は泊まっていくといいでしょう」


 扉の閉まる音。

「どうだったんだ?」

 あてがわれた部屋に。
 浩平が。
 戻って来る。

「澪の事と」

 住井の問いに。

「あの絵描きのおっちゃんの事話しただけだけど」

 そう答える。

「というより、澪の事を」
「それで」
「朝まで、部屋から出るなってさ」

 それを聞いて。
 住井の動きが。
 止まる。

「何……」

「澪の事ばかり聞いて来るんだよ」

 浩平は気付かずに。

「どうも」
「澪に関して何か隠してるような気がしてならないんだ」

「いや、そっちじゃなくて……」

 住井が考えていた方を。
 聞こうとして。

「俺」

 浩平が。

「澪を探しにいく」

 それよりも早く。
 そう告げる。

「こんな所で、こんな事してる場合じゃない」
「俺が、澪を守らなきゃならない」

「けどな」

 当然のように。

「探しにったって」
「どこにいるかもわからないんだろうが」

 住井の口からの。
 反論。

「今まではな」
「手掛かりも何もなかったから」
「動くに動けなかった」
「でも」
「あの絵を、見つけたから」

 ショーウィンドーの向こうで。

「……あの絵って」
「ポートレートの事か?」

 夏の花を背にして。

「ああ」
「よく見ると、南のほうの花だったろ?」

 うずくまっている。

「じゃあ」
「今は、南にいるとでも言うのか?」

 絵の中の少女。

「いや、逆だ」
「あの絵の日付は」
「澪と俺が会った時より前だった」

「……じゃあ」

「澪は」
「南から北へと移動している」

「…………」

「多分、行った先々に」
「絵は売っているんだろうし」
「澪が通ったのかどうか」
「わかるはずだ」

 嬉しそうな。
 表情で。
 浩平が語る。

「ふうん」

 一方の住井は。

「まあ」
「俺には関係ないだろうけどな……」

 背を向けたまま。
 立ちあがる。

(……それよりも)

「おい、部屋から出るなって言われてるんだぞー」

「トイレだよ」

 扉を開けて。
 部屋を出る。

(それよりも)
(ここから無事出られるのかどうか……)


 通路を歩きながら。
 住井は。
 浩平の言葉を反芻し。
 この先の事を。
 考えている。

(絶対このまま返すわけがない……)
(それに……)

 歩きながら。
 ふと通りかかった。
 とある部屋の。
 窓の前。
 カーテンの向こう側から。
 誰かの話し声。

「あのような事なさらなくても」
「10億出して買った方が楽だったのでは?」

(え?)

 開かれた窓。
 その隙間から。
 部屋の中を。
 覗き見る。
 そこに。
 先の兵士と。
 華穂の姿を見つける。

「あの店の主人は」
「あの絵は売らないと言ってたでしょう」

 華穂の声。

「無理強いすれば出来ない事もありませんが」
「目立っては困るのです」

 窓から遠いその位置から。
 表情は。
 窺い知れない。

「私達が」
「あの少女を探している事を」
「知られては困るのです」
「そう」
「手に入れるまで、誰にも」

「……!」

 その言葉の。
 意味するものに。
 住井は。
 ただならぬ様子を。
 感じ取る。

「どこかのこそ泥が盗っていった事にしてしまえば」
「我々があの絵に興味を持っている事も」
「誰にもわかりません」

「……では、あの娘は」

 兵士が。

「処分するのですね」

 口調を変えぬまま。
 そう。
 告げる。

「!!」

 処分する。
 あの少女を。
 何も知らないまま。
 華穂を尊敬していた。
 彼に笑いかけていた。
 詩子を。

「華穂少佐」

 複数の足音。
 誰かが入る音。

「例の少女の絵が見つかったとか」
「……はい」

 将校らしき数人の。
 軍服の男達が。
 部屋へと入って来る。

「よく見ておいてください」

 絵を指し示しながら。
 華穂が。

「この少女を捜す手掛かりは」
「この絵だけなのです」

 彼らに告げる。

「あの"ガラクタ"を動かす事の出来る」
「唯一の人物なのです」

「え?」

 その言葉の意味を。
 住井は掴みかねる。

「……まだ子供じゃないか」

 絵を眺めながら。

「こんな少女が?」

 男達が。
 言葉を交わす。

「……作った博士も困った事を」
「でも捜さねばなるまい」
「そうでもないと置き場にも困るからな」
「あのままでは単なるガラクタに過ぎない」

 男達の。
 嘆息するような会話と。

「世界最強の兵器が」

 華穂が呟くように。

「たったひとりの少女の『命令』しか聞かないとは……」

(そうか)
(だからあの絵を軍が)

 彼らの言葉から。
 住井は一連の出来事の。
 顛末を思い返す。

(あれ?)

 ふと。
 湧いた疑問。

(だとしたら)
(あいつら"あのこと"知らないのか?)

 それは。
 彼らの知っている。
 少女が。

「手掛かりがこの絵だけとは」

 苦労を慮(おもんぱか)っての。
 兵士の声。

「気の長い話だな……」
「あ」

 華穂の横にいた。
 兵士が問う。

「あの二人の少年は」
「どうしましょうか?」

「…………」

 沈黙。

「言ったはずです」
「極秘で進めなければならないと」

 華穂の口が。

「処分しなさい」

 それだけを。
 告げる。

(! こいつら……)

 その言葉に。
 素早く行動を。
 開始する。

(折原に知らせないと……)

 その場を立ち去ろうとして。
 足元で。
 靴の当る。
 大きな音が。
 響く。

「! 誰です」

 その音は。
 彼らの部屋の中にも。
 届いていた。

(しまっ……)

「これはこれは」

 カーテン越しから。
 華穂が。

「何か、用ですか?」

 住井の姿を。
 見つける。


(……よく考えたら)

 部屋の中。
 浩平が。
 住井が戻るのを。
 待っている。

(この部屋トイレ付いてるぞ)

「どこ行ったんだ、あいつは……」


< Next Phase >

〜〜〜〜〜

あとがき番外編 ななせなパラレル World 3

 ばん

「きゃーーーーーっ」

 ずどん がらがら どかっ

「あたたたた……って、あれ」

「……重いぞ」

「わーーっ、なんであんたがそんなところにいるのよっ」

「それは、こっちが言うセリフだと思うぞ……」
「それより、早くどいてくれ」
「いつまでも、おまえをのせておく趣味はない」

「わかってるわよっ・・ってわたしはおもくなんかないわよっ」

「自覚してないだけだ」

「やかましいわっ!」

「事実だろ」

「うるさいわねっ! って、いつまでもこんな所で言い合ってたら、またスペースが足りなくなるでしょっ」

「それは、俺が言うことだと思うぞ……」
「みゅ」


「……とりあえず、SS管理局に問い合わせた」
「例の、やたらがさつな平行SS世界放浪少女というのは、おまえの事と言うわけだな」

「がさつは余計よっ」

「別にそんな事はどうでもいい。とにかく、俺はドロッセルマイエル折原だ」
「みゅ」

「全く、あんたらはどこにいてもおんなじ性格なのね……」

「気にするな」

「……で?」

「何だ?」

「あたしのもとの世界は、見つかったの?」

「……それがな」

「何よ?」

「SS管理局での討議の結果」
「おまえを、しばらくほっておく事にした」
「みゅ」

 どこっ

「……痛いぞ」

「どういうことよ、それはーっ!」

「俺に言うなっ、おまえのもともといたSS世界がわからないんだから、しょうがないだろっ」

「無責任な事言わないでよっ」

「安心しろ。わかったらすぐに送り返してやる」

「何時になるかわからないのに、安心なんか出来るかっ」

「……こいつを野放しにしておく方が、他のSS世界にとって危険な気もするな……」

「……なんか言った?」

「いや、別に」

「……それで、あたしはどうしたらいいわけ?」

「それだ。もともと、このあとがきSSは別の目的があって始められたものなんだ」

「……目的?」

「そうだ。要するに、この作者は俺たちに本来のあとがきの解説やなんかを変わりにさせる為にわざわざこうしてややこしい設定まで用意
したらしい」
「みゅ」

「……その割には、今までそれらしい事なんて全然やってなかったみたいだけど?」

「それがどうやら、話の説明をするだけで、手一杯になってしまっていたようだな」

「それじゃ、行き当たりばったりもいいところみたいだけど……」

「今更言っても始まらない事だ。とにかく、ようやく本来の目的にたちかえってこれただけでも、ましなものだ」

「はあっ……、まったく、その為だけに私がこんな目に合わされてるなんて……」

「それで?」

「何だ?」

「するんでしょ? 解説とやらを」

「ああ。だが今回はない」

「は?」

「話しがひと区切りつかないと、語るような事が無い、と言う事らしい」
「みゅ」

「何なのよ、それはっーー!!」


「それで、あたしはいつになったら元のところに戻れるの?」

「……多分、このあとがきが続いている限りは戻れないんじゃないのか?」

「……へ?」

「と言う事は、SSが続いている以上は、ずっとこのまま、ってことになるわけだな」

「…………」

「どうした?」

「どう言う事よーっ! それはーーっ!! あたしは一生SS世界とやらをさまよえって言うのーー!?」

「いや、俺に言われても困るが……」

「だいたい……」

 ばん
 ぱらぱら

「…………」
「何か、都合悪くなると飛ばされてないか? あいつは」
「……まあ、気にしても始まらないしな。一応報告はしておくか」
「みゅ」


つづく?

まだまだ補足:

このあとがき番外編は、
実際のSS作家さんやその他企業・団体などは、……多分あんまり関係してないと思います。
ひょっとしたら、別の所で出てくるかもしれませんが……


それでは、失礼致します…

15回目のSS投稿に寄せて。 Matsurugi(まつるぎ)