「もう、春なんだね」
「こんな年になるまで、こうして桜の香りを感じることが出来るなんて、思わなかったよ」
「…………」
「私の眼が、見えないばっかりに、浩平君のお嫁さんらしい事も満足にできなくて、迷惑ばっかり…
…」
「……それ以上言うと、怒るぞ、先輩」
「……うん。そうだね」
「でも、浩平君も、ずっと私の事、先輩って呼んでるんだから、おあいこだよ」
「……そうだな」
「先輩。ちょっと休もうか?」
「うん」
「こっちにベンチがあるから」
「ありがとう。浩平君」
「ほら、イヌ夫、遊んで来い」
「あぅん」
「……もう、どのくらい前のことになるのかな」
「え?」
「俺が、みさき先輩をおいて、この世界から消えたのは」
「…………」
「……あれからも、時々考える事があった」
「あの時、俺は本当に帰ってきてよかったのか、って」
「浩平君……」
「俺が一緒にいたら、またあの時のような辛い思いを、いつか先輩にさせてしまうかもしれない」
「それなら、ずっと、ここにいた方がいいんじゃないか……って」
「…………」
「……でも」
「それでも、俺は、そばにいたかった」
「俺のわがままかもしれないけど」
「どんな事があっても、先輩と一緒にいたかったんだ」
「……だから」
「帰って来た」
「……今でも、時々考えることがある」
「今日まで、いろんな事があるたびに」
「あの時の、選択は、正しかったのか」
「俺は、本当に、先輩のそばにいてよかったのか……」
「ちっとも辛くなんかなかったよ」
「浩平君や、他の人と同じようには、走ったりは出来ないけど」
「ずっと一緒に歩いてこられて、私は嬉しかったよ」
「今日も、いい風が、吹いてるね」
「そうだな……」
「今年の桜も、きれい?」
「……俺には、よく見えないよ」
「……にじんで、よく見えない……」
#ONE BRIGHT WAY:おわり
〜〜〜〜〜
あとがき
どうも、Matsurugi(まつるぎ)です。
9回目のSS投稿になります。
例によって、合間に書いた短編ものです。
こういうのは、思いついたときに書いてしまわないと、
連続もののほうに支障をきたすもので、
(それに忘れっぽいので忘れないうちに)
先に書き上げてたりします。
まあ、特に今回の内容についての解説は無いです。
(一応、『長く、遠い森』と同じところからの出典です)
次回は多分、『真夏のONE』の続きを載せられると思います。
それでは、失礼致します…