おねめ〜わく ふたたび… 続きの続き 投稿者: Matsurugi
 二人は、再び浩平のいる建物へとやってきた。
「……で、どうすんのよ」
「決まってるじゃない、忍び込むのよ、ななせさんが」
「なんであたしなのっ」
「あら、わたしは、か弱い少女なんだもの。そんな危ない事出来ないでしょ」
「あたしだってそうよっ」
 ななせが反論するが、この場合は説得力に欠けている気もする。
「とにかくっ、帰る」
「あら。か弱い女の子を見捨てるの?」
「あたしは、どうなってもいいんかいっ」
 ななせが食って掛かるが、しいこは気にした風もない。
「やっぱり、喫茶店の扉の事……」
「だーっ、やるわよっ、やればいいんでしょっ」
 半ばやけになりながら、ななせは建物への潜入を開始する。
 入り口の扉を静かに押し開け、中に入る。
 見つからないように物陰に隠れながら、正面にある両開きのドアを開く。
 そこで、ばったりと、浩平に出くわした。
「何か用か?」
「え? えっと、その……」
 …………
「でてけ、ばかもの」
 外に放り出されるななせ。
「惜しかったね。じゃあ今度は窓からトライだね」
「…………」
 しいこは、何故だか楽しそうである。
 再度、ななせは今度は窓から中に入ろうと試みる。
「全く、なんでわたしがっ・・・…」
 ぶつぶつ言いながら、ななせが窓によじ登ると。
 またもや、浩平が立っていた。
「うせろ」
 放り投げるように、浩平はななせを追い出す。
 そして、その後も。

 ぽいっ。

「ばかたれ」

 ぽいっ。

「まぬけ」

 ぽいっ。

「しつこいぞ」
 その度に、ななせは追い返されるのであった。
「…………」
「だらしないよ、ななぴー」
 何もしていないのに、しいこはといえば平然とした顔でそんな事を言ってたりする。
「だーっ、やめたっ! こんな事したって一銭の得にもならないわよっ」
 ついに、ななせの怒りが爆発していた。
 そして、そのまま立ち去ろうとする。
「あ、ちょっと、ななせさん」
 しいこが引き止める。
「こんなか弱い女の子をひとり、ここにおいていく気なの?」
「そんな事、知らないわよっ!!」
 そのまま、背を向けて、ななせは歩き出す。
「ちょっと〜、ななぴ〜」
 …………。
「うー……」
 しばらく、しいこはななせの立ち去った方を見ていたが、しばらくして、建物の方へと、向かって
いった。

 街の通りを歩きながら、ななせは、落ちつかなげであった。
 ひとり残ったしいこの事が気になっていたからであるが、どうにも悪い想像ばかりが浮かんでくるの
である。
 しいこが、浩平によって、酷い目に遭わされている光景が。
 頭を振って、その考えを振り払おうとする。
「…………」
 しかし、またすぐに悪い事ばかりが浮かんできてしまう。

「こらーっ、開けなさいよーっ」
 引き返してきたななせが、入り口の扉を激しくたたく音が響く。
「だーっ、うるさいぞ、何だいったい」
 浩平が険しい顔で姿を表した。
「しいこはどうなったのよ、しいこは」
「しいこ? 知らんぞ」
 その答えに、ななせはますます不信感を募らせる。
「本当に?」
「本当だ。つべこべ言ってないで、さっさと……」
「みゅー」
 そのとき、奥の方から、鳴き声らしき物音が聞こえてきた。
「みゅー?」
 それを耳にしたななせは、浩平が掴んでいた手を振りほどき、すばやく奥のほうへと駆け出していっ
た。
 そして、突き当たりにあった両開きのドアを勢いよく開く。
 そこで見たのは……。



「にゃあー、にゃあー」
「みゃあ、みいー」
「みゅー♪」
「きゃっ♪ きゃっ♪」
「…………」わーいっ。
 そのあまりののどかな光景に、ななせは一瞬、脱力しそうになった。
 部屋の中で、こねこたちが思い思いの場所で遊びまわっていたのだった。
 カーテンによじ登っては落ちるのを繰り返しているもの、コップのジュースをストローを使って仲良
く二人で飲んでいるもの、ソファーの上で丸くなっているもの、おっきなぬいぐるみと戯れているもの
……などなど。
 それはまるで、保育園にでも来たような光景であった。
「やっぱり、あんたが誘拐犯だったのねっ!」
「人聞きの悪いことを言うなっ!」
 七瀬の強い口調に対し、浩平がそう反論する。
「……迷い込んできた連中を、少しかわいがってやったら、帰りたがらなくなったんで、置いといただ
けだ」
 浩平が、周りをこねこたちにまとわりつかれながらそういうのを聞いて、ななせは信じられないよう
な顔で浩平を見ていた。
 と、辺りを見て、あることに気付く。
「それじゃ、詩子は?」
「詩子? 誰だ、それは」
 そう言った刹那、
「やっほー、ななぴー」
「しいこ?」
 入って来た扉から、詩子が顔を出していた。
 さらに。
 ばんっ。
「浩平―っ!! こねこを誘拐して、生きたまま釜茹でにしてるって、本当―っ!?」
 いつになく激しい勢いで、瑞佳が姿をあらわした。(ちなみに、あかねが呼び出したのである)
「ちょっとまてっ、誰が言ったんだ、そんな事っ」
 浩平はそう反論していたが、いつもより興奮気味の瑞佳の勢いに、少しひるんでいるようにも見え
た。
「違うの?」
 口調も、心なしかきつめである。
「あ、当たり前だっ、ばかっ」
 そのせいか、浩平もいつものような軽口が出てこないでいた。
 その一方では。
「やっぱり、私の事が心配になったの?」
 しいこが、少しからかうような調子で、七瀬に問いかける。
「だ、大丈夫……なの?」
 七瀬は、平然としているしいこを見て不思議そうである。
「うん。全然平気だよ」
 詩子の口調はあくまでも軽い。
「だって、中に入ろうかどうしようか迷っていたら、目の前をななせさんが飛び込んでいったから、そ
の後をついて来たんだもの」
「…………」
 しいこのその説明に、ななせはがっくりと、肩を落としたのであった。

 ……こうして、こねこ失踪事件は無事?解決した・・・…。



 浩平のまわりには、相変わらずなついたこねこたちがまとわりついていた。「みゅーっ」
「…………」にこにこ。
 こねこのまゆとみおは、すっかり浩平になついている様である。
 その姿が、瑞佳はちょっぴり可笑しかった。
「まあ、何だ、こうしてなつかれれば、こねこってのも、案外かわいいと思えないこともなくもない、
かもしれないな」
 浩平がいつものまわりくどい言い方でそういっていた。
「だからといって、おおねこは好きじゃないからなっ」

 で。
「やっほー、ななぴー、元気?」
「だから、ななぴーって呼ぶんじゃないっ!」
「あはは。別にいいじゃない」
「私は、よくないわよっ!!」
「まあまあ。それよりも、知ってる? 今度……」
「だから、私を巻き込まないでーーーーっっっ!!」

 おしまい

〜〜〜〜〜

あとがき

どうも、Matsurugi(まつるぎ)です。
7回目のSS投稿になります。

かくして、『おねめ〜わく ふたたび…』、何とか終了した次第です。
6月中には、どうにか間に合わせられました…
それから、感想を下さった方々、ありがとうございます。

『おねめ〜わく』も一応二話分の話まで書いてみたわけですが、いろいろと苦労もあったりして、何と
言うか、ようもまあちゃんと書いてられたもんだと思ってます。

とりあえず、元ネタのお話はまだまだあるので、思いつけば書けない事もありませんが、どれだけ続け
られるのものかは、本人のやる気次第、という所でしょうか。

で、次から7月と言う事で、違うシリーズの話(オリジナルでないのは相変わらずですけど)なんかを
考えていたりします。短編ものもたまにあるかもしれませんけど。

もしお暇があるなら、読んでもらえれば、幸いです。

それでは、失礼致します…