おねめ〜わく ふたたび… 続き 投稿者: Matsurugi
 しいこの話は次のようなものであった。
 ここ数日、街で遊んでいたこねこたちが忽然と消え失せる、と言う事件が頻発している、というので
ある。
「警察もひととおり捜査したんだけど全然わからないんだって」
「消えたって……、誘拐事件って事?」
「手がかりが何もないらしくて、警察もお手上げってわけ」
「…………」
 ななせがしばし黙り込む。
「……それが、どうしたわけ?」
「調査、手伝ってほしいんだけど」
 即座にななせが、その場を立ち去ろうとする。
「あっ、ちょっと、どこ行くの!?」
「なんで、あたしがそんなことしなきゃならないのっ」
「うー」
 しいこが拗ねたような顔をする。
「喫茶店の扉、壊したくせに……」
 前に聞いた話を、しっかりと覚えていたらしい。
「ぐっ……、あ、あれは、だから……」
「みんなに、言っちゃおうかなー」
「くうっ……」
 ななせは言葉に詰まった。
 しいこなんかに言いふらされた日には、ある事ない事付け足されて、もっと酷い事にされかねない。
「協力してくれるよね?」
 しいこが、ニコニコとしながら、聞き返す。
「はあっ……、わかったわようっっ……」
 その笑みが、ななせには小悪魔のように見えたのだった。

 公園に着いてからしいこが取り出した地図は、この街の近辺を簡易に記したものであった。
 そこに記されている街路の幾つかに印がつけられており、その場所の地名や失踪したこねこの名前と
思われる文字が書きこまれていた。
 それぞれの印は、特定の場所に集まっているように見えた。
「何なの? これ」
「こねこたちが消えちゃったと思われるだいたいの場所よ」
 しいこが、印の付けられている辺りを指して言う。
「結構、同じ地区に集中してるでしょ」
「この真ん中の区画はなに?」
 ななせが指しているその場所には、周囲よりもひときわ大きな建物があるらしい空間が示されてい
た。
 印がつけられている場所も、全てその周囲であった。
「私たちもよく知ってる場所よ」
 しいこが、何故か、にこやかに答える。
 ななせはしばし考えた後、その場所にある建物に思い当たり、とてつもなく不機嫌な顔になる。
「……折原の住んでいる場所じゃない」
「そう。大人のねこだったら近づかないけど、こねこだったら入っていっちゃうかもしれないよ」



「……こねこだと?」
 しいことななせが浩平に会いにその建物へと向かって、入口に現れた浩平の第一声が、それであっ
た。
「そーか、おまえらは俺がここの猫を好きじゃないって知っているにも関わらず、そんな事でわざわざ
昼寝中の俺をたたき起こしたってわけだ。え?」
「きらくてひたんららいはひょっ」(来たくて来たんじゃないわよっ)
 ちなみにななせは、浩平に顔を引っ張られている。
「とっとと、出ていけっ」
 そう言うと、浩平はしいことななせを早々に追い返し、建物の中に引っ込んでしまったのだった。
「だから、来たくなかったのよっ!」
「…………」
 ななせがなおも浩平の悪口を言っている中で、しいこは何やら、考えている様子であった。
「もうっ、さっさと、帰るわよ」
 ななせが引き返そうとしたとき、
「変だと思わない?」
 しいこが呼びとめた。
「折原君って、ネクタイつけたままで昼寝してるの?」
「べつに、あいつだったら服来たままでだって、昼寝してるかもしれないでしょっ」
「ネクタイも緩めずに?」
「…………」
 ななせが、黙り込む。
 そのとき、ふと道に何かが落ちているのを見つけた。
 それを拾い上げて、近くで見てみる。
「……こねこの靴?」
「…………」
 束の間、沈黙する二人。
「やっぱり、こねこたち、ここに入って来たんじゃないかな?」
「なんで、靴が片方だけ落ちてたりするのよっ」
 ……何となく、嫌な考えが、二人の頭をよぎる。
 そして、再び建物の方に向き直る。
 近づいて、窓のひとつから、中の様子を窺う。
「……?」
 その向こう側にふたりは見た。
 ぬぼーっ、とした浩平の顔が、正面にあるのを。
 一目散に、二人はその場を逃げ去ったのだった。



「……浩平の様子が、おかしい?」
「こねこの、失踪事件?」
 図書館から戻ってきた二人は、あかねとみさきのいるいつもの場所(瑞佳を呼び出すのに使われてい
る建物)へと足を運び、それまでの顛末を話した。
「こねこたち、あの建物の敷地内に入ったきり出てきてないのだと思うよ、きっと」
 と、しいこ。
「……しかし、浩平と、こねこの事件が関係あるとはまだ決まったわけでは……」
「あるわ」
 しいこが、断言する。
「その根拠は?」
「勘よ」
 根拠とするには、何とも薄弱である。
「折原君は、絶対何か隠してるわ」
 それでいながら、何故か説得力があるように聞こえたりする。
「……しかし、隠しているといっても……」
「浩平君が私たちに何にも話してくれないのは、いつものことのように思えるけどね」
「まあ、それはそうなんだけど……」
 他の三人は、しいこの勘については否定的であるようだった。
「でも……」
 ななせが、不安そうに話し出す。
「もし、あいつが機嫌の悪いときに迷い込んできたこねこを捕まえたりしたら……」
 ななせが想像を廻らす。
「こねこだからって、容赦しないと思うわよ、多分」
「いじめまくったり、魔神のいけにえにしたり、しゃみせんやに売りつけたり……」
「…………」
「…………」
「…………」
「風呂に入れるとか、おなかに触るとか、みかんの皮の匂いをかがせるとか、たまねぎやイカを食べさ
せるとか……」
(註:全てねこの嫌がる事です)
「……嫌です」
 あかねは、聞いただけで心底嫌そうな顔になった。
「……確かに、最近変なところがあります」
「瑞佳ちゃんが来てるのに、顔も出さなかったりするしね」
 勝手に瑞佳をちゃん付けで呼んでいるみさきであったが、その事には三人とも特に触れず、話を続け
る。
「確かめにいこうよ」
 と、しいこが言い出す。
「どこに?」
「折原君のところに決まってるでしょ。建物の中を調べればはっきりするよ」
「…………」
「…………」
 そのしいこの提案に、あかねとななせの二人は黙ったままであった。明らかにその顔は、乗り気では
なさそうである。みさきの方は特に変わって見えなかったが。
「き、きっとこねこが消えたのは、別の理由よ、うん」
「……神隠しとか」
「宇宙人にさらわれたとかね」
「そ、そうよ、蒸発って言ったら、普通そう言うものよね」
「……折原くんが誘拐犯だって言ったのななぴーじゃない」
「ななぴーじゃないっ! それに、わたしはあるかもしれないっていっただけよっ!!」
 怒りの表情で、ななせが反論する。
「……そう言えば、今日、鯛焼き屋に新メニューがでてました」
 と言うが早いか、あかねはそそくさと退散しようとしている。
「あ、ちょっと、待ちなさいよっ!」
 見まわすと、いつのまにかみさきの姿もどこかに消えていたのだった。(誰も気がつかないうちに)
 ひとり、ななせが取り残されていた。
「あ、あたしも今日は、ちょっと……」
しかし、一足早くしいこはななせを捕まえていた。
「さっ、いくよ、ななぴー」
「ななぴーじゃないいいいっっっ!!」
 半ば引きずられるように、ななせは連れて行かれたのであった。

〜〜〜〜〜

あとがき

どうも、Matsurugi(まつるぎ)です。
6回目のSS投稿になります。

というわけで、『おねめ〜わく ふたたび…』の続きです。
途中で別のSSを書いたりなんかしてましたが、こちらも忘れずに書いています。
あと少しで終わりまで出来ると言った所でしょうか。

今回の話の中では、七瀬と詩子のコンビのような形になっていますが、
こういう組み合わせって前にもありましたでしょうか?

あ、それとずいぶん前のものになってしまいましたが、

> 幸せのおとしごさん
> このSSの元になったコミックって「耳をすませば」ですか?

残念ながら、違うんです。
まあ、出たのがもう大分前ですから、ほとんど知らないでしょうね…

それでは、失礼致します…