長く、遠い森 投稿者: Matsurugi
「ふみゃあ」

「――――?」
「どうした、何かいたのか?」

「浩平――っ!」

「瑞佳――?」

「何しに来たんだ、おまえ――」

「何しにじゃないもんっ」
「人が3日もかけて1年ぶりに訪ねて来たのに、そんな風に言わなくてもっ」
「家にいないから、ここだと思ってきてみたら」

「――よく、わかったな」

「……1年前まで、住んでたんだもの。それに……」
「幼なじみだもん。当たり前だよ」



「ふみゃあ」

「どうしたの、この猫」

「ケガしてたのを拾ったんだ」
「手当てしてやったら、なついちまった」

「はあっ……」

「……何だよ、そのため息は」

「浩平、全然変わってないね……」

「おまえだって、そうだろ」
「で、何しに来たんだ?」

「……用が無いと、来ちゃだめ?」

「んなことないけど」
「用もないのに3日もかけて来たわけじゃないだろ」

「…………」

「ま、茶でもいれるから座ってろよ」



「おじさん、おばさんは元気か?」

「うん」

「あっちではうまくいってるか?」

「ここにいた時より、いい生活してるよ」
「朝早く起きたり、1日中働くこともないし」

「そりゃ、よかったじゃないか」
「ここでは、みんな苦労していたからな」

「だから、みんな出ていったんだよ」

「――そう、だったな……」

 …………

「あーっ、またこんなに洗濯物ためこんでっ」
「こーゆーのガマンできないだよっ、洗ってくる!」

「……何なんだ、いきなり」

「もーっ、何日分あるのっ」
「どうせ浩平の事だから、汚れた食器とかもためこんでるんでしょっ」

「べつに、不便はしてないぞ」
「ひとり暮らしだし」

「……そうだね」
「いつも、なんでもひとりで平気なんだね、浩平は」
「お父さんも、妹もなくして、それでひとりきりになって」
「それから、何もかも自分ひとりでやってきたんだもんね」
「いつだって、自分のペースでいて」
「それでいて、どうしようもなく、寂しがりやで」
「かまわずにはいられなくて……」

「――同じセリフは、1年前に……」
「いや、昔から、何度も聞いてたけど――」
「最後に聞いたのは、別れた時だったか……」
「わざわざ、そんなこと、もう一度聞かせに来たのか?」

「……怒ってる?」

「何を?」

「……ううんっ、何でもない」



「ふみゃあ」

「……ほんとに慣れているんだ」
「いつ拾ったの」

「……1年くらい前だったかな」
「足をケガしていたんで、ほとんどつきっきりで世話してた」
「そしたら、治ったあとも、こうしてくっついている」

「――今でも、ここを離れる気はないんだ」

「俺が、ずっといたところだし」
「また、ケガした猫拾わんとも限らんし――」



「――瑞佳」
「やっぱり、あっちがいいか?」

「――よくないよ」
「全然、よくない」
「浩平がいないもの」

「――すごく、クラい話、聞かせてやろうか」
「この猫の名前、“みずか”って言うんだ」
「でも、この猫バカでさ、呼んでも、返事しないんだ」
「だから――」
「本当の瑞佳を迎えに行こうと思ってたのに」
「先、越されちまったな」

 …………

 どこか知らない遠い場所のはずれの森に
 一軒の家がある。

 …………

「瑞佳――っ!」

「なに――?」
「ふみゃあ」

「浩平―っ、この猫の名前変えてよーっ」

「……こいつ、バカだから、今更他の名前覚えないだろ」

「もーっ、猫にわたしの名前つけるヒマがあるんなら、さっさと迎えに来てくれればよかったんだよ」

「迎えに行かないうちに来たのは、どこのどいつだ」

「だ、だってそれは――」

「どうした、言ってみろ」

「はあっ、もういいもんっ……」



#長く、遠い森:おわり

〜〜〜〜〜

あとがき

どうも、Matsurugi(まつるぎ)です。
5回目のSS投稿になります。

唐突ではありますが、今回は、『おねめ〜わく』関連ではないSSだったりします。
急に思い立って書いたものなので、ちょっと話は簡素なのですが。
(でも、やっぱりオリジナルじゃないんですけどね…)

まあ、要するに、元の話がとても気に入っているので書いたようなものですけど。
それを、浩平と瑞佳に置き換えてみた、というようなわけです。

『おねめ〜わく ふたたび…』もちゃんと継続しております。
少なくとも、6月中には終わらせたいと考えています。

それでは、失礼致します…