おねめ〜わく 続き 投稿者: Matsurugi
 建物の中から姿を見せた人物。
 その姿がはっきりと見えたとき、瑞佳はしばし驚きのあまり茫然となった。
「こ、浩平―?」
 そこに現れたのは、瑞佳がよく知っている、いや知らぬはずの無い人物、折原浩平で
あった。予想だにしなかった幼馴染みとの突然の再会に瑞佳は声もない。
 それは浩平の方も同じだったらしく、二人は数瞬、見つめあったままとなった。
 と見えたのも束の間、いきなり浩平は瑞佳の顔を左右に引っ張っていた。
「ひ、ひひはひはにふるほー、ほうへ〜?」(い、いきなり何するのー、浩平?)
 しかし浩平は瑞佳の抗議の声を無視して、更にスカートをまくしあげようとしていた。
「わ〜っ、浩平〜っ、何てことするの〜っ!」
 さすがに瑞佳もこれには抵抗を示した。
「いや、本物かどうか確かめようとしたんだが……」
「何をだよ〜っ!?」
 さっきまでの緊迫感はどこへやら、いっぺんにその場の緊張感は失われていた。
「おい」
 浩平があかねに向かって問いかけた。
「どうやって造った」
「……造ってません」
「誰の変装だ」
「ちがいます」
「じゃあ、あれはなんで動いているんだ」
「実物です」
「ウソつけ。なんで長森本人がここにいる」
「呼び出しました」
「どうやって」
「秘密です」
「…………」
 簡単にあしらわれて浩平はしばし黙り込んだ。
 しかし、しばらく瑞佳の顔をじっと見た後、
「どうせならもっと胸のある大人の美人を呼んでもらえれば……」
「わ〜っ、何てこというんだよーっ、浩平〜っ!」
 不埒な事をいう浩平に対して、瑞佳が抗議する。
「大体、なんで浩平がここにいるのーっ?」
「それはこっちのせりふだ」
「浩平、確かあの時……」
「ええい、うるさい、ともかく、ここから出てけっ」
 そういうと浩平は瑞佳を他のねこ共々建物から追っ払ってしまった。
「ちょっとーっ、浩平―っ!?」
「やかましいっ」
 入り口が乱暴に音を立てて閉じられる。
「いったい、どうしたのよ〜っ、こうへ……」
ぽんっ。
「い……、あ、あれっ!?」
 瑞佳が辺りを見まわすと、そこはついさっきまで佐織と歩いていたもとの商店街の通
りであった。
 そして道の真ん中に座り込んでいる瑞佳を周りにいる人々が不思議そうに見ていた。

「いったい、どこに行ってたっていうの?」
 瑞佳が商店街に戻っているのを確かめてからしばらくして、瑞佳を見つけて戻ってき
た佐織がそう問いかける。
 一応それまでの顛末を話してみたのだが、どう見ても佐織は信じているようには見え
ない。
 まあ、無理もない事ではあるが……。
「ねこの世界?ねこに呼び出された?おとぎばなしじゃあるまいし、夢でも見てたんじ
ゃないの?」
「う、うん、でもっ……」
「瑞佳、しばらくどこか変だったし、幻覚でも見たのよ」
「でも、そんなこと……」
「世の中、何があってもおかしくないのよ」
 答えになっていないような気がする、と瑞佳は思ったが、確かに瑞佳にしてみても、
あれが夢ではないといえる自信は無かった。
 まあ、夢であるというならそれはそれで済む訳だし、それに「ねこの世界」というの
もちょっと引かれるものがあったし、何より浩平が出てきたし……。
 そんな事を考えながら、やがて瑞佳達はパタポ屋の近くまでやって来ていた。いつも
のようにクレープを頼もうと、佐織が駆け出していったとき。
 …………
「えいえんはあるよ」
「ここにあるよ」
 ……え?
 また、あの声が聞こえたような気がした。
 そう、あの夢の前に聞いた。
 そして。

 ぽんっ。

「わーっ!?」
 再び、瑞佳は呼び出されていたのだった。
 ねこの世界に。
「……いい忘れてましたが」
 何事も無かったかのようにあかねが話しを進めてようとしていた。
「1回の呼び出しにつき1時間しかいられません」
「呼び出すまでには2時間もかかるんだけどね」
「全く、たまったもんじゃないわっ」
 …………
「じゃあ、3時間ごとに呼び出すつもりなの〜〜っ!?」

「……とにかく、お願いします」
「……そんなこと、言われてもっ……」
 改めて、ねこの世界に現れた人間、つまり浩平に彼女たちを苛めないよう説得しても
らうよう頼まれた瑞佳は、少し躊躇しながら言った。
 説得とはいっても、浩平のことをよく知っている瑞佳からすれば、あの浩平がそう簡
単に言っただけでねこたちを苛めるのをやめるわけがないのが容易に想像出来た。「と
にかく何とかしてよっ!」
 特に浩平に散々なめに遭わされてきたななせが、そう言い募る。
「そんな事言ってもっ……、別の人に頼むとかっ……」
「……他の人は呼び出せないんだよ」
 と、みさき。
 他にも、浩平に酷い目に遭わされたねこたちが口々に訴えてくる。
 そう言われると、瑞佳としても無視したままなのは忍びなかった。(何より、世話好き
な彼女の性格では、このような状況を見過ごせるはずが無いのであった)
「はあっ、わかったもんっ……」
「でも、せめて、呼び出すのは、2、3日に1回ぐらいにしてほしいよっ……」
 こうして、瑞佳はとりあえず浩平の説得を承知した。

 海辺の砂浜に浩平はいた。
「……長森か」
 さっき会った時の様子とは違い、浩平は多少落ち着いている、ように瑞佳には見えた。
「ここに来て、初めて知っている人間に会ったもんで、少し興奮してたんだ」
 瑞佳にしてみれば、さっきの浩平の行動もあんまり普段と違っている様には見えなか
ったのだが、その事は触れずにおいた。
「う、ううん、私のほうこそっ……」
 落ち着いて顔を合わせてみてから、瑞佳はいまさらながら、ようやく浩平と再会した
という実感が湧いてきていた。
 何せ、さっきのやりとりでは、まるっきりいつもと同じだったからだ。
 こうして改めて対面して、何を話せばいいのやら、瑞佳が困っていると、
「……念のために聞くが、本当に本人か?」
「……ほんとだもんっ」
「確かに、その言葉の操り具合、本物のだよもん星人以外には無理だな」
「そんなことないもんっ」
 浩平の方といえば、やっぱりいつもどおりなのであった。
 ……二人のそんなやり取りを、あかね、ななせ、みさきらねこたちは、遠くの方から
眺めていた。
 それを、浩平が目ざとく見つける。
「……なんで、そんな遠い所にいる?」
「べ、別にいいじゃない」
 ななせが、少し動揺した様子で答える。
 ふと、浩平はその理由に思い至った。
 そして、ねこたちのほうに近づいていく。
 だが、その以下にも怪しげな様子にねこたちはあとじさっていた。
「こっちに来ないでよっ」
「……嫌です」
「どうした? 別に怪しげな事をしようとしている訳ではないぞ」
 そう言っている事自体が、怪しいと思うのだが……。
「……おまえ達、水が怖いんだろ?」
「な、何の事かしら?」
「だから、そんな遠くにいたんだな? 調べはついているんだ」
「やめなよ〜っ、浩平―っ」
 さすがに、瑞佳が止めにはいる。
 ちなみに、ねこは(基本的に)泳げないので、水を怖がるのである。
「なんで、そんなに苛めようとするのよ〜っ」
「……苛めたいからだ」
「そんな理由で、済ますなっ」
「……迷惑です」
「ちょっと、嫌だよ」
 ねこたちが口々に抗議する。
「何か、不満があるのか?」
「そんなこといったってっ……」
 瑞佳が反論に窮する。
「ならば、問題はない」
「あるわよっ!」
「やかましいっ」
「って、ギャーーーーっ!!」
 と、浩平が、ななせの髪を引っ張っていた。
「だから、やめなよっ〜〜!?」
 瑞佳が、今日何度目になるのかわからない制止の声をあげていた。

 そんなこんなで、

 ぽんっ。

「こらあっ、人の髪を勝手に切るんじゃないっっ!」
「いや、枝毛が多かったんで……」
「っていってるそばから、切るんじゃないっ!!」
「わーっ、やめなよ、浩平―っ!?」

 ぽんっ。

「わーっ!、お風呂のときにまで呼び出さないでーっ!!」
「知らなかったよ」

「だからーっ、ねこの世界をいったりきたり、いったりきたり」
「…………」
 佐織は、無言でアイスクリームをなめていた……。

 瑞佳はねこの世界と、もとの世界をいったりきたりするはめになった。

〜〜〜〜〜

あとがき
どうも、Matsurugi(まつるぎ)です。
2度目のSS投稿になります。

まずは、前回の作品に感想をくれた方々に、感謝を述べたいと思います。ありがとうご
ざいました。

ようやく、『おねめ〜わく』の続きが出来上がりました。
(とはいっても、まだ終わっていないのですが・・・)
最初のよりは早く書きあがったので、とりあえずはひと安心というところです。

ほんとはかなり前から書き始めてはいたのですが、途中いろいろとやっているうちに
(某6月4日発売の……あ、いえ、何でもありません(笑))時間がかかってしまいま
した。

一応終わりまでは書きあがっているので、続きは早めに載せられると思います。

それでは、失礼致します…