聖夜の舞台 投稿者: Mr.C-Man
「はぁっはぁっ」
「ふぅ〜〜疲れた」
「はぁっはぁっ」
「もう、立たん……」(←?)
あたしは浩平と背中合わせにへたり込んでいた。
二人とも息が荒い。
「こ、腰が……ひぃん」
あたしは立ち上がろうとしたけど腰が痛くて立ち上がれなかった。
「満足か、七瀬」
浩平が聞いてくる。そして、大きく息を吐いて誤解を招くような言い方で続けた。
「ま、腰が痛くて立ち上がれなくなるほどやったんなら満足だよな」

数日前、折原は言った。
「なぁ、七瀬はどうするんだ、クリスマス」
「えっ?」
「例年通り、一晩中ストリートファイトに明け暮れるのか」
「んなわけないでしょっ」
「そうか、そりゃ残念」
本当に残念そうに折原は言った。
「……」
「ねぇ、折原」
「ん?なんだ」
「暇なの?明後日の夜」
「このまんまだとな」
「彼女もいないしね」
「ほっとけ」
「あたしと一緒だね」
「え…?おまえも、空いてるの」
「うん」
「そうか。ならいいところに連れていってやるよ」
「うんっ」

でも、そう言って折原が連れていってくれたところは、ラーメン屋だった。
あたしの前にどんっと置かれる大盛りのラーメン。
折原がキムチを入れた。
「どんどん食えよ。おかわりをしてもいいぞぅ」
そう言ってさらにキムチを山盛りに入れた。
おとなしくラーメンを啜るあたし。
でも、とてもじゃないけど心中穏やかじゃない。
…今日はクリスマスなのよっ
…期待してたのにっ…
…ものすごく期待してたのにっ…
…それがぁ…
折原は目の前でおいしそうにラーメンを食べていた。
…はぐぅっ
情けないやら悔しいやらで涙が出てくる。
…誘われたとき、嬉しかったのにっ
…なんだかんだ言っても、あたしのこと
気に掛けてくれてるって…
…他の誘い断ってまでしたのにっ…
…あたし、キムチラーメン食べるために、
みんなの誘い断ったんだぁっ…
そこまで思ってあたしは遂に耐え切れなくなった。
だんっ。
勢いよく席を立つあたし。
そのままのれんをくぐって外へと走り出た。
あたしが一人で勘違いしてただけなんだ…。
折原は別にあたしのことなんとも思ってないのかも。
…でも折原は今日、あたしを誘ってくれた。
瑞佳ではなくあたしを…。
なんか、わかんなくなってきちゃった。
もし…。
もし折原が…。
あたしの王子様ならっ。
追いかけてくるはずよっ。
うん。
そう思ったあたしは店から少し離れたところで立ち止まった。
そのまま店の様子を窺う。
しばらくして走り出てくる人影。
あたしのよく知っている男の子。
あたしを誘ってくれた男の子。
あたしが大好きな男の子。
折原だ。折原が追いかけてきてくれたっ。
あたしは折原がついてこれるようにスピードを合わせて走り出した。

公園で追いついてきた折原にあたしは言った。
今日のこの日を、どれだけ期待していたか。
涙を浮かべていたあたしに折原はやさしく言った。
「よしっ、踊ろう七瀬」
「え?」
「ほら、手出して」
「………」
「ほらっ」
折原は半ば強引にあたしの手をとる。
「で、どうすんだ…?」
「………」
「どうすんだ、七瀬っ」
「………」
折原はあたしの夢を叶えようと必死なのかもしれない。
やっぱりあたしの王子様なんだ…。
「…こ、こうかなっ」
あたしもしぶしぶと折原の背に手をまわし、そしてステップを踏み出す。
「ばかっ、そっちじゃないっ、こっちっ」
「こうか…?」
「そ、そうっ…」
「七瀬」
折原があたしを呼んだ。
「うん…?」
返事をするあたしのくちびるに暖かいものがふれる…。
「あ…」
初めてのキス。
あまりに嬉しかったそれは、でもあまりに突然で、どんな味だったのかよく分からなかった。
ただ手を取り合って踊り続けるふたり。
少し不器用な王子様。
あたしだけの王子様。
ふたりだけの時間がゆっくりと過ぎて……。
ごちんッ!
「さすが七瀬、いい頭突きだ…」
浩平が言った。
「わざとじゃないわよっ!そっちのステップが間違ってるのよっ!」
「ん、こうか…?」
ごちんッ!
「いたぁっ!やり返すことないじゃないっ…!」
すっごく痛い。
「いや、そんなつもりじゃっ…」
ごちんッ!
「ぐっ…やはり本物は違うな」
「なにやってんのよ、あたしたちっ!」
「そりゃ、ストリートファイトだろ」
「ち、ちがうわよ…ダンスよっ…」
「うん、ダンスだ」
でもいっこうにダンスの形にならない…。
ごちんッ!ごちんッ!ごちんッ!
「な、なんでうまくいかないのよっ」
「七瀬、ダンスしたことあるか?」
「…な、ないわよ」
「俺もない」
「………」
「………」
「七瀬、心配するな。ちゃんと踊れるようになるまで付き合うから」
あたしと浩平は踊り続けた。

小鳥の囀りが聞こえてくる。夜明け前の冷え込みが肌に気持ちよかった。
「頭がたんこぶだらけだな」
浩平が頭をなでながら言った。
「うん…」
結局うまく踊りにならなかった。
でもふたりきりで過ごした夜。
「結局、一晩中ストリートファイトに明け暮れたな」
「ちがうでしょ」
ロマンチックじゃないかもしれないけれど。
王子様は不器用だけど。
最高の夜だった。


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皆様はじめましてMr.C−Manと申します。
初めてSSと言うものを書いてみましたが、難しいですね。
人の作ったキャラを自分の物にするって言うのは大変です(しかもできてない・・・)
なるべくゲームのシーンを七瀬の視点から書こうとしていたんですが、なんかよくわかんないものになっちゃいました(笑)
取り敢えず他の方のSSを読んで勉強しなくちゃいけませんね。(また書くかはわかんないけど・・・)
感想なんか聞かせてくれると嬉しいです。では。