その出会いは運命と呼ばれるものだったのだろうか。
あるいは偶然だったのだろうか。
しかし、詩子と椎子。ふたりのしいこは出会ってしまった。
しかし二人は知らない。
この出会いが二人の運命を狂わそうとしている事を…。
いや、だってほら、作者だって知らないし(笑)
二人のしいこ −3−
「ねえ、どうしても駄目?」
柚木が北川に何事かを頼み込んでいる。
最近、この二人は妙に仲が良い。
まあ、気持ちは分からないでもない。自分そっくりの人間に対する反応なんて二種類しかないだろう。
即ち、仲良くなるか関わらないか。
二人は仲良くなる方を選んだらしい。
しかし、見た目、名前もそっくりな二人だが、性格は綺麗に分かれている。
柚木はあーゆー性格だが、北川の方は比較的まともな性格をしている。
「駄目よ、そんな事」
今も、柚木が無理を言って北川を困らせているようだ。
「面白いと思うんだけどなァ」
何を企んでいるのかは知らないが、どうせロクな事じゃないんだろうな。
最近、容姿が同じであると言う事を『柚木が』悪用し、おかしな悪戯を仕掛けまくっているし…主な被害者はオレだが…。
しかし、最近三日に一度は校内で柚木を見かける。
他人事ながら、進級できるのか、心配になってくるぞ。
放課後。
オレが昇降口に向かって歩いていると、誰かがくいくい、と制服の袖を引っ張ってきた。
この角度。引きの強さ。
澪か。
振り返ると案の定、澪が満面の笑顔でオレを見上げていた。
『あのね』
スケッチブックを掲げる。
「なんだ?」
オレの問いにページをめくる澪
『こんにちわ』
この辺りの挨拶は予め用意されているらしい。
「よお。これから部活か?」
「…」
うんっ。元気良く頷く澪。
「そうか、オレはこれから帰るんだ」
はうーっと、俯く澪。と、その澪の表情が明るくなる。
『こんにちわ』
スケッチブックを掲げる。
どうやら、誰かが現れたらしい。
「あら、折原君…と可愛い子ね。妹さん?」
柚木…いや、北川か。
最近は制服を着てても油断できないからなぁ。
パタパタと北川に駆け寄ったものの、いつもの柚木とは違う反応(当たり前だ)に戸惑い、澪は不思議そうに北川を見詰めている。
「…澪だ。オレ達の後輩にあたる。喋れないんでこうやってスケッチブックで話しをするんだ」オレは少し考えてから付け足した。「頭を撫でてやると喜ぶぞ」
「へー、可愛いわねぇ」
北川は優しい表情で微笑み(柚木と同じ顔だが)、澪の頭を撫でてやった。
澪はいつもの様にちょっと照れた表情でそれでも嬉しそうに撫でられている。
と、唐突に北川が腕時計を見た。
「…あ、いけない…ごめんね、私、今日はちょっと急いでたんだ。…澪ちゃんまたね」
「…」
…うん。と少し寂しそうに頷く澪。
「じゃ、ごめんね」
そう言って北川は小走りに帰っていった。
「…なあ、澪」
今のが柚木ではないと教えたら澪は信じるだろうか?
「?」
小さく首を傾げる澪。
「さっきの人だけどな…」
ビクッ!
何かに驚いたように身をすくめる澪。
慌てて後ろを振り返り小走りに校門に向かう北川を確認する。
「やっほー、みーおちゃん!」
この声は…柚木か。
ビクビクッ!
澪はオレに隠れるようにしてオレの背後をうかがう。
あ、なるほど。
「おい、柚木。澪が怖いから近づかないでくれってさ」
振り返りざまにそう言ってやる。
「え?何言ってるのよ…ねえ」
最後の「ねえ」は、オレではなくオレの背後に隠れた澪に対してのものだ。しかし、澪はオレの後ろに隠れたまま出てこない。
「…怖がっています」
ナイスだ、茜。
「えー、どうしてよぉ!あ、さては折原君が私の悪口を吹きこんだのね?」
「…」
ふるふる。
相変わらずオレの後ろに隠れたまま首を振る澪。
「…違うって言ってます」
茜、通訳ご苦労。
「えー!一体どう言う事よ!」
澪と直接話そうというのだろう。
柚木はオレの背後に回りこもうとした。
ギュ!
えぐっ…ひっく…。
澪はオレの背中にしっかりとしがみつき、べそをかきながらも離れようとしない。
「おい、本気で怖がってるぞ」
「…詩子、澪ちゃんに何かしましたか?」
「…何もしてないわよぉ」
疑いのまなざしで柚木を見詰める茜…結構、怖いかもしれない。
柚木も困り果てた表情だ。
「…最近、詩子は北川さんと浩平を騙していると聞いていますが…」
いや、北川は騙しているという自覚はない。柚木に言われた通りに動いただけだからな。
「北川も被害者だぞ」
最近では柚木と一括りで扱われるようになっているし。
北川はまともな奴なのに、可哀相に…。
「ちょっと、私一人が悪いみたいに聞こえるんだけど」
「おまえ一人が悪いんだ」
まさか自覚がなかったのか?
「茜〜、あんな事言っているよ」
「…でも、私も詩子が悪いと思います」
お、珍しく茜が切り返している。
まさか、最近、北川とべったりな柚木にやきもちでも妬いているのか?
等と考えていると、茜はオレの事を冷たい目で見つめ。
「…違います」
…ごめんなさい。ってちょっと待て。
なんで、考えてる事が分かったんだろう……………いや、考えると恐いから、考えないでおこう。
「…賢明です」
さて、一方、茜の反撃を食らった柚木はと言うと。
「……え〜〜〜ん、茜〜」
泣いていた。
そんなにショックだったのか?
そんな柚木の様子に、澪も心配そうに顔を出す。
「…上月さん、何があったのか知りませんが、詩子も反省しているようですし許してやってくれませんか」
顔を出した澪に、優しい表情で話しかける茜。
えとえと。
スケッチブックを広げる澪。
『噛まない?』
「…しません」
柚木は犬か?
『引っ掻かない?』
「…しません」
今度は猫扱いか。
『食べない?』
「…しません」
うーん、完全に化け物扱い。
仕方ない、そろそろ誤解を解いてやるか。
「なあ、澪。さっきの人な、北川さんって言ってだな…」
「…見た目は詩子そっくりですが、『良いしいこ』です」
…って、おい。
そりゃまずいだろう…。
『こっちは悪い詩子さんなの?』
再び澪はオレの背中に隠れようとする。
…ほら、こうなった。
「…今まではそうです。でも、これで容姿が同じ事を悪用する『悪い詩子』はいなくなったと思います…そうですね?」
「…ひっく…う、うん、ゴメンね。折原君…澪ちゃんも驚かせちゃってゴメンね…」
べそをかきながらも謝る柚木。
澪もさすがに怖がりつづけるのは悪いと思ったのか、オレの背中から離れてゆっくりと柚木に近付く。
そして。
ちょっと背伸びをして柚木の頭を優しく撫で始めた。
「…これで仲直りですね」
オレの隣で茜が呟いた。
しかし。
ガキィッ!
「ありがとー!澪ちゃん!」
ジタバタ、ジタバタ。
感極まった柚木は、勢い良く澪を抱きしめ、頬擦りしている。
そして澪は必死にその抱擁から抜け出そうとして暴れまくり…。
「あ、澪ちゃん!」
泣きながら走って逃げて行った。
それから完全に誤解が溶けるまでの一週間。澪が柚木に近付く事はなかったそうだ。
二人のしいこ VS 澪
両者、戦意喪失によりドロー。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
KOHです。
えーと、多分、もう一本、二人のしいこネタで書かせて頂く事になると思います。
あ、それと「詩子 1,2,3」で感想を下さった皆さん、本当にありがとうございました。
えーと、感想ですが、一頁分しか書けませんでした。
ごめんなさい。
@WTTSさん
二次創作応援歌(投稿 4th)
2曲目は元歌を知りませんが、でも面白いです。
3曲目は…良く知らない世界…冬コミですか…人ごみは苦手なので行けそうにないです。
@藤井勇気さん
嘘と真実 1
なんか本文中に私の名前が(笑) えーと、こちらが北川の登場するSSになります。
しかし、もうみんな知っている?という事は、アプローチが開始されていると言う事でしょうか?
…でも、本当に南は救済されるんですか?(深読み?)
これもまた一つの日常5
良いですねぇ。繭の周りは暖かい人が沢山いますね。
こういう優しさに包まれて、繭は浩平の帰りを待ちつづける事が出来たんでしょうね。
ほのぼのしててとっても暖かいお話しでした。
でも、照八さん。今まで虐げられてきた分、藤井勇気さんに復讐しまくってますねぇ
本編も後書きも、続き、期待してます。
@天王寺澪さん
NEURO−ONE 1
サイバーパンクと言われていたジャンルですね。
実は結構苦手なジャンルだったんですが、面白いと思って読めました。
あ、でも大人って、最初おとな。と読んで、誤字かと思ってしまいました。中国語だったんですね。
続き、期待してます。