川名みさき最後の日 投稿者: KOH
 今日は軒先で騒ぐ小鳥達の声で目が覚めた。
 私の場合、目が覚めても真っ暗なんだけどね。
 夢の中では目が見えるのに、おかしいよね。
 えーと、今何時なんだろう?
 私は枕元に置いた時計の頭を軽く押した。
『ろくじ・じゅう・いっぷん・です』
 可愛い女の子の声でそう告げる。
 今日は七時まで寝てて良いんだけど…それに、早起きしてお母さん達と顔を合わせるのもちょっと。ね。
 うーん親不孝だね。私って。

 …駄目だ、もう眠れないよ。
 暫く、お布団の中でコロコロ転がってみたけど、全然眠くない。
 おかしいよね。昨日だって眠れなくって二時の時報まで聞いたのに。

 うーん。どうしようかなぁ。
 再び手を伸ばし、枕もとの時計を取る。
 雪だるまの形で、頭のバケツを押すと時間を教えてくれる時計。
 浩平君からのプレゼントなんだ。
 もう一つの機能が凄いんだよ。
 手探りで雪だるまの鼻を押す。
『おはよう、みさきさん』
 ちょっと照れた感じの浩平君の声。
「おはよ、こーへーくん」
 続いてお腹のボタン。
『ちょっと、みさき、いつまで寝てる気?』
「おはよう、ゆきちゃん」
 この二つの声と、電子音で毎朝私は起こされているんだ。
 うん、みさきは今日も元気だよ。

  ***

 十分くらい、お布団の中で無駄な抵抗をしてたんだけど、駄目。
 結局私は、六時半にはお布団から出て着替え始めた。
 そっと部屋を出る。
 家の中は静まり返っている。
 うん。まだ誰も起きていないみたい。
 そっと、玄関に行き、サンダルを履いて外に出る。
 ちょっと迷ったんだけど、杖は持たない。
 だって、必要ないもの。

  ***

 高校の正門はまだ閉ざされている。でも、横の通用門はいつも開いているんだ。
 私はそっと通用門をくぐる。
 久しぶりの学校の朝の空気。
 まだ、誰も来ていないみたいだね。
 今日は日曜日だし、ひょっとしたら誰も来ないままかもしれないけどね。
 校内からは小鳥達の声しか聞こえないよ。
 この時間だと昇降口は鍵が閉っているから、裏庭に回り体育館の連絡通路から校内に入る。
 ここの鍵、いつまで壊れたままにしておくのかな?

 階段をゆっくり上る。
 ここは十五段。
 次も十五段。
 屋上のところだけなぜか十六段。
 きしむ扉を押し開け、屋上に出る。
 うん、久しぶりに来たけど、良い風だね。
 今日は特別に百点をあげようかな。

 全身で風を感じる。
 揺れる髪の先まで神経があるような感覚。
 はためくスカートは、そこで風が遊んでいるんだよ。
 そう言えば、まだ浩平君には風の見方を教えてなかったっけ。
 今度、教えてあげなくっちゃ。

 両手は垂らしたまま、手の平を軽く開いて風上に向ける。
 そして大きく深呼吸。
 最初は息をはくんだからね。
 で、全身で風を感じるの。
 浩平君は目を閉じた方が良いね。きっと。
 街の音。指の間で風が遊ぶ感覚。
 耳元で囁く風の声。
 それから、お天気だと全身でお日様の暖かさを感じるの。
 …それからね、浩平君が一緒だと、浩平君の暖かさも感じるんだよ。

 ガチャ。
 キィーー。
 あれ?
「よう」
 浩平君の声。
「おはよう、浩平君」
 でもなんでこんなところにいるんだろう?
 そっと、腕時計の文字盤に触れる。
 あ、もうこんな時間…迎えに来てくれたんだね。
「また会ったな」
 あれ?
 あ、分かったよ。
「ほんとだね」
 空を眺めるようにしていた視線を浩平君の声のするほうに向け、頷く。
「今日も夕焼けを見に来たの?」
 懐かしい、二人だけの暗号。
「いや、そういうわけじゃないけど」
「ふーん、そうなんだ」
「それに今日は夕焼けじゃないしな」
「…そっか」
 がっかりと肩を落として見せる。
 うん、覚えているよ。あのときの事も。
「…ちょっと残念だね」
 ゆっくりと顔を上げて、空を見上げる。
「それで、先輩は?」
 懐かしい呼び方だね。
「元気だよ」
「そうじゃなくて、今日はどうしてここに来たんだ?」
 もう、浩平君声が笑っているよ。
「…重要なわけがあるんだよ」
 声を落として呟く。
 でも、浩平君、いるの?

「みさきーーーーーーーーーっ!」
 下のほうから雪ちゃんの声が聞こえる。
「…」
 ほんとに来てたんだ。
 ちょっとびっくりだよ。
「みさきっ! どこよっ!!」
「…先輩の事、呼んでるみたいだけど」
「気のせいだよっ」
「みさきーーーーーーーーーっ!!」
「…間違いなく呼び声が聞こえるけど?」
「目の錯覚だよ」
「…目は関係ないと思うけど…」
「川名みさきっ! いるのは分かっているんだからねっ!」
「…やっぱり先輩のことじゃなかったね?」
「他人のそら似だよ……あれ?」
 やっぱり先輩の事じゃないか?って言うんじゃなかったっけ?
「…そういうのは同姓同名っていうんじゃないか?」
「うん。それだよ…でもどうして?」
 浩平君の手が私の肩にかかる。
 そのまま優しく抱きしめてくれる。
「だって、ほら。今日からは…」
 あ、そうか。
 …そうだね。
「…うん。これからもよろしくね」
 後何時間かしたら私は折原みさきになるんだね。
 これからはずっと一緒なんだよね。
 そうだよね、浩平君。

〜〜〜〜〜〜〜〜
KOHです。
川名みさき最後の日でした。
犬、桜、雨、と一文字のタイトルで来ましたが、最後なのでタイトルでおちゃらけて見ましたが…やらない方が良かったかもしれない…。

さて、感想です。

@ここにあるよ?さん
第一回早食い大会!!5
 逃げ切りか、それとも追いつくのか?
 いい所で終わりますねぇ。
 …所で寒いって…ギャグなんかあったっけ…あ、みさき。か。確かに寒いや(^_^;

浩平犯科帳 第一部 第十二話
偽善者Z
 澪登場ですね。しかし、浩平仕事してないなぁ。
 戦闘シーン。最後の最後にありましたね(笑)バキッ!ぐあっ!。って。
 でも、まさかあそこにみさきさんがいるとは思いませんでした。
大いなる一言
 澪が壊れて行く…(笑)。
 マニュアルについてはケーキ作成の際にでも使用するのかな?