猫 −2− 投稿者: KOH

 椎名にはああ言ったものの、猫の逃げた方向は教室からちょっと外れていた。
 オレは椎名が教室に向かうのを確認した後、再び猫を探し始めた。
 さっき、見ていた限りでは、校内に入らずに校舎沿いに中庭の更に奥のほうへと向かったようだけど。

「…嫌です」
 あれ?
 この声、この台詞…。
「これは私のです。あなたにはあげません」
「みゃー」
 茜…だよな。
 猫、茜のところにいたのか。
「…かわりに詩子のお弁当から好きなものをあげます」
「え、私?私?」
 …柚木だ…また入り込んでいたのか、こいつは。
「…冗談です」
「あはは、いいわよ。えーと、しゃけの皮んところと骨のところあげるね」
 声はすれども姿は見えず。
 どうやら、猫はここで茜達に餌をねだっているらしい。
 しかし柚木よ。魚は皮がうまいんだぞ。
「へぇ、可愛いわね」
「…そうですね」
 オレは声を頼りに庭石の向こうを覗き込んだ。
 そこには、柚木に貰った餌を一心不乱に食べる猫と、その様子を覗き込む柚木。その後ろから柚木と猫の様子を眺める茜がいた。
「よう茜。その猫、回収に来たぞ」
「…この猫、浩平の猫ですか?」
「いや、長森のだ…ところで」オレは茜が持っている見慣れないジュースのパックに気付いた。「そのパック、なんだ?」
「…練乳です。この子はこの匂いに惹かれて来たんだと思います」
 …世の中にはそんな物もあったのか。
 常温のシェーキみたいな感じなのかな…と、味を想像しかけてやめた。とても美味そうだとは思えない。
「茜に、少し分けてあげなよって言ったんだけどね」
 と、柚木。
 茜の答えを聞いて動じてないところを見ると、こいつはパックの正体を知っていたのか。
 意外と柚木も侮れない奴かもしれない。
「嫌です。それに猫に練乳は毒です」
「そうなのか?」
 猫はミルクとか好きじゃなかったっけ?
 練乳なんて、ミルクの加工品じゃないか。
「…動物に味の濃いものはいけないと聞いたことがあります」
「え、うそ!」
 オレと茜が話している横で、猫に餌をやっていた柚木が慌てて餌を取り上げる。
「ちょっと、お弁当のおかずなんて大概濃い味よ!」
「毒かもしれませんね」
 さらっと恐ろしいことを言う。
 茜の冗談は分かりにくいから、たまに怖いぞ。
 あれ?
 ふと見ると猫がいない。
「柚木、猫はどこだ?」
「あ、餌を取り上げた時、驚いたらしくて逃げちゃったわ」
「なにぃー!どっちだ、どっちに行った?」
「えーと、あっちかな」
 くぅ〜、話し込んでないでとっとと捕まえとけば良かったぜ。

  ***

 まずいな。そろそろ午後の授業が始まっちまうぞ。
 たったった。 
 オレの走る足音だけが空しく響く。
「…浩平君?」
 おわっ!
 唐突に呼びとめられ急ブレーキ。
「先輩…どうしてオレだって?」
「うん、浩平君の走るときの足音覚えたんだよ。ちょっと癖があるからね」
 学食の方から現れるみさき先輩。
 その腕には猫を抱えている。
「あ、その猫。…なんで先輩が?」
「うん、私が学食でオバサンとお話ししてたら飛び込んできたんだよ。浩平君の猫?」
「いや、オレの知り合いのだけど…」
 そう言いながら、みさき先輩が差し出した猫を受け取る。
「そう、良かったよ。この後、この子、どうしようか困ってたんだ」
「あ、オレも助かったよ。ありがとな、先輩」
「どういたしまして。でも猫って柔らかくて美味しそうだね」
 みさき先輩。それ怖いって…。
「……あの……」
「そう思わない?」
 いや、同意を求められても…。
「……………冗談だよ」
 そ、そうだよな。…でも、今、結構間があったような…いや、気のせいだよな。

  ***

「あ、浩平。その子、捕まえてきてくれたんだ」
 教室に戻ると、長森がオレと猫を出迎えた。
 猫も可愛がってくれる奴の事が分かるのだろう。オレの腕の中で暴れ始める。
「散々走らされたぞ」暴れる猫を長森に押し付ける。「ところで、椎名が来なかったか?」
「あ、来た来た。猫、どこ?って聞きに来たよ」
「で?」
「七瀬さんが相手してくれてたけど、もう帰っちゃったよ。残念だったね」
 七瀬が相手してくれた?
 あ、机に突っ伏してるよ。
 髪、ボサボサだし。また椎名におもちゃにされたか。いつもの事とは言え、哀れなやつ。
「とにかく、もう逃がすんじゃないぞ。オレはもう捕まえてやらないからな」
「うん…でも浩平、ありがとね」長森は猫をオレの方へ差し出した。「ほら、お前もお礼しなさい」
 と、そのとき。
 ガラッ!
 唐突に教室の前扉が開いた。
「んあ?」そして、丁度、オレの真後ろに髭が現れた。「授業を始めるぞ」
「ふぎゃ〜!」
 オレの方に差し出されていた猫は、間近に髭のアップを見てしまい、悲鳴を上げた。
「あ、こらっ!」
 後ろ足をフルに使って長森の手から逃れる猫。そのまま猫は教室の後ろのドアから走り出していった…って、開けっぱなしだったのか。
「んあ〜?長森、あれは?」
「あ、その、いえ、何でもないです」
 と、言いつつも、猫の出ていったドアを気にする長森。
「そ〜か、じゃあ、席に戻れ、授業を始めるぞ」
 相変わらずアバウトな教師だ…。
 …しかし、この昼休みのオレの苦労って……。

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次回予告

 放課後、猫を探して校内を探索するオレと長森、そして七瀬。
 オレ達の前に現れた自称仮面の乙女。果たして彼女の正体は!
 …いや、後出てない女性と言ったら…なぁ

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KOHです。

う〜ん、続くお話しはやっぱり難しいです。温泉シリーズのように一話完結じゃないとつらいですね。
まあ、何はともあれ後1話。よろしければお付き合いください。

以下、感想です。

@もうちゃん@さん
ミズエモン『お買い物での出来事』
 起こし方がエスカレートしてる…は良いとして、七瀬がまた人間離れしてますね。
 次回、自転車の行方がとても気になりますね。

@GOMIMUSIさん
心ください
 なんか、人間模様がかなり入り組みそうですね。澪をみさおのかわりとしてみていた…確かに保護対象って感じでしたし…。
心ください 2回目
 おお!みさみ先輩登場ですね。でも、描写、うまいですね。長森と、ひょっとしたら茜の想いがどうなるのか、気になります。

@T.Kameさん
中崎、男になれ(アンケートにより変更可)
 こういう視点で見ると、浩平って許せない男ですね。
 七瀬にちょっかい出しつつ、長森と楽しく(?)昼食。刺されなきゃいいけど…
 「中崎君の異常な愛情」なんていかがです?異常かどうかはまだ分からないけど。

@いけだものさん
本日開店!川名心霊研究所
 100匹の猫…いや、8匹の猫でもちょっと尋常ではないような気がしますが(笑)
 次回は誰が何に取り付かれるのか楽しみにしてます。

@ここにあるよ?さん
第一回早食い大会!!3
 早食い、大食いはどちらでも。でも早食いの方が展開に波が出て楽しいかも?
 でも、やっぱり七瀬は参加しないんですね。

@akanebonさん
茜のお馬鹿さん
 偽悪的茜ちゃんですね。彼女の場合は忘れないように必死になって記憶をつなぎとめていたわけだから、「忘れる」と嘯いて、でも忘れないんでしょうね。

@スライムさん
気になるお年頃っ!
 ドガッ! ザクッ!!って…そのザクッって何?(^_^;
 重いと見せつつ軽いか?と思わせ実は重いテーマでした(よね?)

@雫さん
髭の憂鬱(番外編)
 …これを見て思ったこと。茜ちゃん軍団に任せるよりも、茜。お前が直接対決したほうが確実に足止めになったのでは?まあ、どっちにせよ、買えなかっただろうけど。
 とか、書いたら、GOMIMUSIさんも同じ事を書かれてましたね(^_^;

@WILYOUさん
チェンジ2(前)
 住井、気持は良く分かるけど騙しは良くないぞ。
 しかし、浩平の体、元に戻るまでもつのかな?

@いちごうさん
沢口様のお通りだいっ!
 実在したんですね(^_^;
 えーと、マフラーが黄色いとか、ちょっと色が薄いとか、髪の色が違うとか、見分け方はないんでしょうか(^_^)

@11番目の猫さん
エピローグ 「Another」
 3人の関係がとても良いですね。個人的には頑張れ詩子さん。で目指せみんなでハッピーエンド。なんですが。

@だよだよ星人さん
好き好き郁未先生!
 南君がさりげなく哀れ(^_^;
 なんか住井と浩平の友情も壊れてるし、恐るべし郁美先生!次回、期待してます。

@よもすえさん
なぜだ!謎の多重配役/裏面
 詩子80!80って事はもう18年も昔のお話しなんですねぇ
 そう言えばいましたね北斗と南…怪獣図鑑に南が載っているというのは有名なお話しなんでしょうか?

@ひろやんさん
彼女のいた風景 (前)
 最後でもあるわけですか?一体どうなるのかとても気になります。
 …そうか、七瀬以外はみんな真っ当な髪の色だった…気付かなかった(^_^;

@偽善者Zさん
浩平犯科帳 第一部 第十話
 う〜んここで引きますか。次回、どんな展開になるのかとても気になります。
 ところで、浩平達、同じ部屋で?詩子はともかくよく茜が納得したなぁ…あ、こうなるって分かってたんですね。

@火消しの風さん
黒い心の炎 NO.4
 あれ?えーと、すいません、過去ログ当たってみたんですが今までのお話しが行方不明でした。
 でも、七瀬の部活凄いことになってますね。
 乙女を目指すのは100%諦めたのかな?